召喚士されし者 35・ 拾い者
「巨人殲滅ってお前。」
俺から事の顛末を聞いた、ロイドが呆れたようにいった。
「殲滅する気は無かったんだよ。逃げてくれれば良かったのに。」
「ああ、言うな言うな。頭が痛くなる。お前といると常識って何だっけ?ってなるから、とんでも話は勘弁してくれ。」
ロイドは深い溜息をついた。
「・・・・それにしてもお前、巨人殲滅って聞いて反応があれだな。殲滅だよ、皆殺し。そこは怒らないのか?まぁ、怒られても困るけど。」
「?何でだ?怒る理由がねぇんだが。まぁ国的には色々あるんだろうがな。」
あれ、結構ドライ。
「結局の所、戦争仕掛けてきた連中が死んだだけだろ。こっちとしたら願ったり叶ったりだ。」
「そう言うものか?」
「そりゃ誰だって自分の命は惜しいからな。巨人の侵攻を許してたら、ナダだってただじゃ済まなかっただろうし。おちびが隠さなきゃ、今頃おちびは国を救った英雄だぞ。」
うーん。そう言われてもなぁ。
巨人殲滅とか、禁忌に足突っ込んでる気がしてならない。
「それにしても巨人と真正面からやり合って、五体満足で生きて帰ってくるとか、もう神話の領域だな。そういや、巨人が初めてこの地に現れたのも神暦からだって聞くな。」
「神暦って作り話だろ?」
「さぁな。歴史家にでも聞いてくれ。個人的には信じてねーけどな。・・・・でだ、おちび俺便所入りたいんだけどいい加減出てくんねーか?」
「ちょっと無理。」
ロイドはトイレのドアをノックし始めた。
「無理じゃねーんだよ!こら!出てこい、漏れちゃうだよ俺が。お前、シェイリアの譲ちゃんと顔会わせずらいからって、トイレに篭るんじゃねーよ。つか、トイレでカミングアウトすんな。トイレは懺悔室じゃねーんだぞコラ!」
懺悔なんてしていないが、ただの報告だが?
「シェイリア怒ってない?」
「怒ってない怒ってない。寧ろ昨日はやり過ぎたかな?ってションボリしてたよ!今日はお前の好きなもん作るんじゃねーの?」
「巨人殲滅だぜ?怒らない?」
「怒らない怒らない!最初に襲ってきたのは奴等なんだろ?売られた喧嘩を買っただけだ。悪くない、全然悪くないから出てこい!!」
「ごめんなさい、改めてした方がいいかな?」
「好きにしろぉぉぉぉ!!何したって許してくれるって。頼むから出ろぉぉ!」
そうか。昨日の夕飯の後もピリピリしてたから、てっきり怒ってるのかと思っていたが・・・・。うん。ロイドの言う事だが、まぁ信じてみるか。
「俺頑張るよ。」
「出てからにしろ!!!」
それからトイレから脱出した俺は、シェイリアを探しに出た。家の中を探したが、家の中には変態しかいなかったので、早々に外へ出掛けた。
夕飯の買い出しに行っているのかもしれない。
俺はシェイリアの居そうな市場へ向かった。
歩きながら聞き耳を立てていると前日の巨人の話が街を賑わせているようだ。当然と言えば当然か。
圧倒的な戦力を有している巨人達が、武装しこちらに向かってると知れば、誰だって普通ではいられない。
「む?」
人混みの中で俺の目は何かを捉えた。
近寄って見てみると、それが人である事が分かった。
行き倒れか?何度か指でつついてみたが動く気配が無い。
「おい、あんた。こんな所で横になってると死ぬぞ?」
体を揺すりながら声を掛けてみた。
行き倒れは「ううん」と小さく唸り、重々しくその体を起こした。
「・・・・・やぁご機嫌よう。」
「おう。ご機嫌よう。大丈夫か、あんた?」
「大丈夫です。ほんの10日ほど食事をとってないだけなので。」
それは大丈夫じゃねーな。極限だ。
行き倒れはフラフラと立ち上がり歩きだした。
目が虚ろだ、死相が出てる。
「なぁなぁ、腹減ってんならウチ来るか?もうすぐ昼飯だし、まぁ大したもんはねぇけどな。」
行き倒れは物凄い勢いで振り返った。
首が折れたんじゃないかと思うくらいの角度まで首を回して。
「いいんですか!ぜひ御相伴あずからせ下さい!・・・・・いえ、いえ!お気持ちだけで結構です。アスラの民を守るのも私の勤め。慎ましく生きる貴女方の私的財産を私が食い潰すなどあってはいけません。」
飯くらいで大袈裟な。つか私的財産を食い潰すとか、どんだけ喰うきだこの行き倒れ。
「お気持ちだけで、結構っごぶ。ひっぐ、ひっぐ。お気持ちだけでひっぐ。おぇ。」
行き倒れは泣きながら、嗚咽を吐きながら、断ってきた。
何だその意地。
泣くくらいなら素直に御相伴にあずかってくれ。
「えぇーと。ああーー誰か一緒にご飯食べてくれないかなー?」
「グスン?」
「天涯孤独な私が独りでご飯は寂しいなぁ。誰か一緒に食べてくれないかなぁ。優しい誰かいないかなぁ。」
「・・・・・・・・・・。」
チラリと行き倒れの顔色を伺う。
・・・むぅ、食いついてこない。失敗したか。
せっかく体を用意してやったのに、プライド高すぎるぞ。
俺が諦めて去ろうとした時、行き倒れがフラフラと近寄ってきた。
その目に涙を溜めて。
「大丈夫ですよ。私がいます、もう独りじゃないですよ。」
・・・・・・コイツ、大丈夫か?
何がって、もう色々だよ、色々。
チョロすぎる。
行き倒れは優しく俺の頭を撫で、そっと抱き締めた。
「大丈夫です。泣かないで。」
泣いてるのはお前だろ。
抱き締められて分かったがコイツ女だ。
ちっさい膨らみが2つある。
俺が抱き締められていると、どこからともなく怒声が放たれた。
「貴様!!ユーキ様に何をしている!」
この声、シェイリアか。
俺は声の方に顔を向けた。
シェイリアが買い物籠を放り投げ、高速のステップでこちらに向かってきた。
あ、ヤバイ。止めないと。
シェイリアの拳に急速に魔力が凝縮される。
「はぇ?」
「神速拳ハープーン・ジ・オルバァ!!!」
かっこいい技名と共に深々と行き倒れの脇腹に拳がめり込む。
その瞬間放たれた拳から魔力が放出され、行き倒れの体を吹き飛ばした。
寸前の所で逃げた俺はその光景に息を飲む。
やだこの子。えらく強くなっていらっしゃる。
「お怪我はありませんか?!何か変な事はされませんでしたか?!」
「ん。俺は大丈夫だ。けど・・・・・。」
行き倒れを本格的に倒してしまった。
まぁいいか。
「取り合えず、シェイリアごめんなさい。」
「え?ユーキ様どうしたんですか?」
こうしてシェイリアと合流を果たした俺は、行き倒れを回収して家に帰ったのだった。
帰宅中、ロイドに話した事をシェイリアにも伝えておいた。
少し驚いたみたいだったが、それ以上の反応は無かった。
シェイリアは豪胆過ぎる。
因みに楽しみにしていた夕飯はアレクスープらしい。




