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召喚士されし者 34・自由の代償

「解せぬ。」


 俺はポツリと呟いた。

 目の前には、この世界に来てから見たこともないような豪勢な料理達が並べられている。マンガのような骨付き肉、色とりどりの魚介類、瑞々しい野菜、蠱惑的な匂いを醸すお菓子の山。

 そのどれも目と鼻の先にあると言うのに、食べていけないなんて。

 俺は台所に立つ1人の修羅を見た。


「━━━どうかしましたか、ユーキ様?」


 修羅は静かに笑った。





 遡る事数時間前。


 俺はナダの南門をくぐって凱旋した。


 門をくぐると中はえらい騒ぎだった。軍の関係者は勿論、話を聞きつけた街の住人も、火山が━巨人が━と口々に叫び、大混乱に陥っていた。


 俺は混乱に乗じて、上手いこと隙間をぬって行くつもりだったが、1人の騎士に呼び止められてしまった。


「ユーキ殿!ご無事であったか!」


 振り反ると見知った顔がそこにあった。

 俺に仕事を依頼したバンクード分隊長、その人だった。


「ユーキ殿のお仲間より、貴女が単身火山地帯に向かったと聞き心配しておりました。お怪我は御座いませんか?救護の者を直ぐに呼びます。」

「いや、大丈夫。それより話は伝わってる?」

「ご安心を。既に各所の重要機関に緊急の通達がいっております。それでユーキ殿、火山地帯に何を見たのですか?」

「伝わってる事、そのまま。巨人がいたよ。」


 まぁ、もういないんだが。


「そうですか。やはり火山の異変と関わりが?」

「さぁ?そこまでは。俺、専門家じゃないからね。」

「それもそうですな。・・・・おお、忘れる所でした。ユーキ殿のお仲間なのですが、現在ギルド連合にて、今回の件を聴取をされているはずです。お早く顔を見せて上げてはいかがか。」


 バンクードがそう締め括る。

 ギルド連合か。


「そうする、ありがとうバンクードさん。」


 俺は頭を下げるバンクードに別れを告げ、ギルド連合へ向かった。


 それにしても、あのバンクードと言うオッサン、本当に何者何だろうか。俺みたいな子供にあの態度、可笑しすぎる。対等以上に俺を見ている節があるのは明らかだが、何があのオッサンにそうさせるのか理由が分からない。


 少し警戒した方がいいだろうか?



 バンクードに対する対処を思案している内に、ギルド連合へとたどり着いた。


 ギルド連合の館の前も人だかりが凄い事になっていた。

 恐らく今回の件について集まっているのだろう。巨人が攻めてきて、火山が燃え上がっている、なんて聞かされれば誰だってその話を疑う。あり得ない事の2段重ねだ、当然だ。真偽の確認の為、情報の集まりそうなここにそれを求めるのは仕方ないだろう。

 まぁ、中にはそれを碌に確かめもせず、護衛を雇って逃げ出す奴等もいるだろうが。と言うそれっぽい奴はいた。この目で見たもの。やけに金きらした商人風のオッサンが護衛を連れてイソイソ逃げるのを。



 まぁいい。


 俺は人混みを掻き分け、連合の扉を開いた。


 結論から言おう。外の比じゃないくらい騒ぎになってた。



 職員がところ狭しと駆けずり回り、怒声が飛び交っていた。

 職員達の怒声のような話の内容はさっぱりだが、全体の流れを見ると戦争の為に動いているようだった。

 物資の搬入や、住民の避難計画、軍への技術提供、聞き取れたのはこれぐらいだが、想像するには十分な情報だった。


「ユーキさんっ!!」


 このお祭り騒ぎの連合会館内で俺に反応した奴がいた。


「タロ。」

「はい!覚えて頂き光栄の極みです。ユーキさん。」


 コイツはタロ・ジロウ。このギルド連合会館の職員だ。

 ギルドカードを造る時、コイツと色々あったのだが、それはまた別の機会で話そう。


「シェイリアって子と、ロイドって言う冴えない顎髭がここに来てると思うんだけど、なんか知らないか?」

「はい!シェイリアさんとロイドさんですね。確認しますので、少々お時間下さい。」

「悪りぃな、忙しそうなのに。」

「いえ!超暇でしたからお気になさらず。ではいってまいります。」

「お、おう。」


 暇でしたからって。そうは見えねんだけど、全然。


「タロ!サボってると殺すぞ!!物資のリストさっさとあげろ!」

「急用が出来ました!後でやります!」

「ふざけてんのかぁ!!!こらっ、どこ行く。タロぉぉぉぉ!!!!」


 暇じゃねーじゃねーか。

 何上司とやりあってんだ、あの馬鹿。俺を巻き込むなよな。


 1分もしない内、タロが息を切らして戻ってきた。


「ユーキさん!分かりましたよ!もうすぐ何かの聴取が終わるみたいなので、特別待ち合い室にてお待ち下さい!案内します!」

「タロぉぉぉぉぉ!!!!」


 上司がタロを羽交い締めにした。・・・・おお。


「何処にも行かさんぞタロぉぉぉ!!仕事に戻れ馬鹿野郎!!」

「今回だけは、今回だけは見逃して下さい!僕にはユーキさんをエスコートする義務がぁ!」

「そこの赤髪の!特別待ち合い室は、突き当たりを右にいった部屋だ。生憎忙しくてな、案内はしてる時間はないんだ。」


 そう上司は言うと軽く会釈してタロを引きずっていった。

 タロは相変わらず元気な奴だった。


 特別待ち合い室に行くと、他に数名の人がいた。

 恐らくあの砦にいた者の関係者だろう。俺以外は街に避難したと同時にギルド連合に駆け込んでいるはずだからな。


 数十分たって、待ち合い室の扉が開いた。

 そこには少し疲れ気味のシェイリアと顎髭のロイドがいた。


「よぅ。」と軽く手を挙げると、シェイリアとロイドが俺に気づいたようで、俺に駆けよってきた。


「ユーキ様、お怪我は!?」

「おちび、大丈夫だったか?」

「おう。大丈夫だ。てか取り調べは終わり?」

「取り調べじゃねぇよ。まぁ聴取は終わりだ。話す事は話したしな。」

「そっか。・・・・。」


 俺とロイドが話しているのを完全にスルーしたシェイリアが、ぺたぺた俺の体をまさぐる。怪我を確認しているのだろうがくすぐったい。


「シェイリア、大丈夫だって。」

「はい。大丈夫そうです。・・・・・良かった。」


 シェイリアが溜息をつく。深い安堵の溜息だ。

 ・・・・うむ。また心配をかけてしまったようだ。


「ユーキ様。御無事だったのは何よりです。が、何故お一人で行ってしまわれたのですか?」

「え、いや、すぐ帰るつもりだったし、危ないと思ったから・・・・。」

「危ない事は自覚していたんですね?」

「・・・・うん。まぁな。」


 シェイリアの真っ直ぐな目が俺の目を見つめる。


「ユーキ様、聞きたい事も言いたい事も沢山ありますが、これだけは言わせて下さい。」

「お、おう・・・・。」

「ご飯抜きですからね。」

「・・・・・・え。」


 俺は視界が暗くなる錯覚に陥った。

 なんて言った?


「ユーキ様、火山に異変が起きたら帰るお約束でしたよね?破った罰です。」

「いや、でも、俺結構頑張って・・・・。あんまり大きい声じゃ言えないけど、結果的にナダ救ったんだけど。」

「おちび、何して来たんだよ。」

「それはそれです。兎に角ご飯抜きです。」


 それだけ言うと「さぁ、帰りましょう」と俺の手を引いたシェイリア。

 楽しそうに夕食のメニューの話をしながら会館を後にした。

 シェイリアよ随分美味しそうな話をするが、マジで俺飯抜きなのか?冗談だよな?


「何ですかユーキ様?」


 そこには、般若のような顔した修羅が笑っていた。

 駄目だ、めっちゃ怒ってますわ。


 その日、皆が楽しそうに食卓を囲む中、一人正座する俺の姿があった。 

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