召喚士されし者 32・山を喰らうモノ
後書きに今回の[大きさ]について明記してあります。
読んでモヤモヤしたら後書きを覗いて下さい。
ちょっとネタバレなので注意。
「ブオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
唸るようなその咆哮は、突然山の向こうから聞こえてきた。
それを耳にした巨人の戦士達は足を止める。
仲間達と顔を見合わせる。
「何の音だ。」
「斥候の者か?」
「火山ではないか?」
それぞれが思いつく限りの考えを披露するが、どれもがあの音の正体を確かな物に出来ない。
すると山間から斥候の1人が駆け降りてきた。
酷く焦っているようでよろめきながら山を下っている。
「どうした、何か問題があったのか?」
「王へ伝令を頼む。すぐさま魔狩り部隊を前線に寄越すよう、頼む。」
「ドラゴンか?それならば[小さき友]が対処しているはずだが。」
「違う!!もっとデカい!!もっと━━」
斥候が言い終わらぬ内、山の上に突如巨大な影が現れた。
影はみるみる内に大きくなり、空を覆う。
山の上に居座るように立ち止まり、影にある4つの揺らめく光が妖しく光る。
「なんだあれは?」
「ブオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
再びの咆哮。地面が揺れ、空気が震える。
心の底から恐怖が込み上げる。
巨人である自分達が震え上がっている。
その事に、巨人は恐怖する。
力で支配してきた暴力の体現者たる自分達が。
戦士として戦い続けてきた強靭な自分達が。
何者にも屈した事のない精鋭たる自分達が。
今、目の前の何かに恐怖を感じている。
影が此方を見ている。
あの光だ。4つ光。
妖しく光るあれは目だ。
我々を見ている。なぜ?決まっている。
見定めているのだ、餌たる自分達を。
巨大な影が動き始める。
その巨体に似つかわしくないほど機敏に足を動かし、自分達の同胞よりも速く山を駆け降りてくる。
6本の足が交互に大地を潰していく。
「武器を取れぇ!我々は誇り高き巨人族。万物の長たる力見せてくれようぞ!!」
前線に配備されていた巨人の戦士達は武器を構える。
恐怖を払拭するかのように、雄叫びをあげて走り出す。
そして、2つの影が衝突する。
言葉にしつくせないほどの音が鳴り響く。
大地を砕く音、骨が折れる音、肉が潰れる音。
巨人達の悲鳴に混じり分煙が立ち込める。
後に残るのは赤黒い血溜まりと、踏みしめられた大地だけ。
ガイア軍の第1陣はものの数分で壊滅した。
その光景を後方に位置する王座にて眺める巨人王。
一息つくと巨人王は静かに立ち上がる。
その手に戦斧を持って。
「小さき友よ。貴殿との約束はここまでになりそうだ。」
巨人王が踏み出そうとした時、息を切らした部下が王の前に躍り出る。
「王よ!第1陣、第2陣壊滅!!直ぐに第3陣も突破されます!お早く撤退なされて下さい!」
「ならん。母との盟約ぞ。務めを果たさず背を向ける事まかりならん。それに何処に逃げろと言うのだ?我等は進まねば生きられぬ。」
「しかし、王よ!」
「くどいぞ。全戦士に通達せよ、命の限り抵抗し、務めを果たせ。」
部下に怒鳴りつけ、王は敵を見据える。
大きい。巨人の王たる自分が見ても大きい。
万物の長である事、疑いもしなかった。そして今もそれは変わらない。
偉大なる母より授かりし我が命は、そうであり続けなければいけないのだ。
しかし、皮肉なものだ。
あの敵には見覚えがある。
古き記憶、忘れてしまうほど昔、母との記憶。
世界を巻き込んだあの大戦のおり、母と共に戦列を並べたかの魔獣。若き我はかの魔獣に並び戦列を率いた事もあった。
「我が同胞、母の子[ベヘモス]。互いの務めの為にいざ。我が戦斧の錆びとなれぃ!!!!!」
巨人の王は凶獣ベヘモスに駆け出す。
今だ距離はあるが問題は無い。直に最後の防衛線が崩れる。
巨人王は戦斧に魔力を流し込む。
本来巨人族は魔力の操作を不得手としているが、王だけは例外だった。
十分に魔力を籠めた戦斧が青く光る。
巨人王が魔力を籠め終わると同時に、最後の防衛線がベヘモスにより崩壊する。
巨人王は抜けてきたベヘモスの頭に、戦斧を叩きつける。魔力により強化された戦斧は、厚いベヘモスの皮を突き破る。
しかし、ベヘモスは止まらない。
巨人王をその巨体で撥ね飛ばし地面に転げさせる。
「流石にこれでは止まらんか!ならば!」
巨人王は落ちていた槍を手にし、渾身の力で投擲する。勿論魔力を籠めた魔力槍だ。
ベヘモスはその槍を前足で踏み潰す。
巨人王は落胆する事なく戦斧を投げつける。
そして戦斧の影に紛れベヘモスに接近する。
また簡単に戦斧を前足で踏み潰すベヘモス。
だが、巨人王の接近を許してしまう。
巨人王は魔力で身体能力を極限まで引き上げベヘモスに飛び乗る。ベヘモスが振り落とそうと体を揺らすが、巨人王はそれを意に介さずベヘモスの首まで駆ける。
そして首の付け根に渾身の連打を放つ。
固い皮膚に弾かれながらも、骨を砕き、肉を潰し、拳を壊しながら、必死の連打を続ける。王の拳が磨り潰された頃、ベヘモスが初めて痛みによる悲鳴をあげる。
血に滲むベヘモスの首に、骨のつきだした両腕を突き立てる。
再び悲鳴をあげるベヘモス。
ベヘモスは巨人王を振り払うため体をローリングする。
突然の回転に、身動きの取れなかった巨人王は、地面とベヘモスに挟まれ磨り落とされる。
地面に伏した巨人王にベヘモスは容赦なく前足を振るう。
1度、2度、3度。
踏み込む度に深く、深く、巨人王の体が地面に沈み込んでいく。
巨人王は薄れゆく意識の中ベヘモスを見上げる。
踏み込む足に彼の強い意思を感じる。
己が主の為に戦っているのを強く感じる。
羨ましい限りだ。
我はもう・・・、かの魔獣のようにはなれん。
沢山の物を背負い過ぎた。国、民、家族・・・。
1人の為に戦う事などもうできん。
母よ。
愛する母よ。
務めを果たせずそこに行く事、許して下さい。
叶うなら貴女の側に行く事を━━━━
「ズゥン」
死が溢れ反るその赤い大地に最後の槌が落とされた。
4つの眼光を持つ6足の凶獣ベヘモスを除き、ここには何1つ無い。
全てを終えた事を確認したベヘモスは、主の待つアトヌウス山脈へと歩き出す。
褒めてくれるだろうか。
喜んでくれるだろうか。
ベヘモスは主の姿を想像する。
大きな巨体を揺らしながらベヘモスは歩く、愛する主の元へ。
今回の召喚獣は
凶獣ベヘモス
体高30メートル、全長110メートル
体重8000トン
4つの目を持ち、6足の魔獣。
特殊な能力は一切無く、圧倒的な質量で押し潰していく、一番デカい召喚獣です。
因みに巨人は平均10メートル前後。
それに比べ巨人王は15メートルと少し大きい設定です。
今回、大きさがぱっとしない話だったので、これを参考に見てください。




