召喚士されし者 31・炎の洗礼
「やっぱ高いなこの山。」
アトヌウス山脈を飛び越える為、かなりの高度をラ・ディーンには飛んでもらっている。息苦しさはあるが仕方ない。
俺は山脈を見ながら疑問が浮かんだ。
アトヌウス山脈の山々に火柱があがっているが、溶岩が今だ溢れていない。
「━━━━ん、そうだ、煙、煙が無い。」
あるのか?そんな事。
記憶の中にある火山は焼けただれた溶岩が噴出し、真っ黒な煙が空を覆うそんな姿だ。
現象としては変だ。火があれば煙りは立つ。勿論例外はあるんだろうが。
それともこれがリアルと言うものなのか?
まぁ、考えても分からないな。
今更ながら日本で勉学に励まなかった自分が悔やまれる。化学の教科書に落書きしていた自分を叩いてやりたい。
(主殿)
「は?」
突然頭の中に声が響いてきた。周りを見渡しても何もいない。当然だ、ここは空の上だ。
(主殿)
再び声が響く。
・・・・・・・むぅ。まさか。
「ラ・ディーン、お前か?」
(はい、主殿)
コイツ話せたのか。早く教えてくれよ。
そこまで驚きはない。そのうち現れるとは思っていたのだ、話せる召喚獣は。
「で、どうかしたのか?」
(主殿の疑問に答える事が出来ますので、お話をと)
「・・・?煙?」
(はい、主殿。煙の上がらぬ理由は、あの火柱が魔力による炎だからです)
「魔術って事か?」
(いえ、もっと原始的な物です。)
「?ーーーん?」
(魔術とは異なる方法で産み出された、魔力の火柱だと言う事です)
「なるほど。」
(あれを産み出す事が出来る物は限られます。精霊、神獣、古竜、いずれにしろ古代を生きた者であるかと)
「凄い奴がいるって事か。」
見に行きたい気持ちはあるが、流石に火柱に近づくのは遠慮したい所だ。あれが自然に起きた物でなくとも、火柱は火柱だ。俺に炎を防ぐ手段が無い以上、いけば消し炭だ。
(主殿、危険区域に入ります)
ラ・ディーンのその声が俺の目を前を向けさせる。
見れば火山が目と鼻の先にあった。火口から煌々と炎が吹き上がっている。
(主殿、何かが此方に向かってきています。)
「!どっちだ!?」
(火口付近からです。多数の気配があります)
火口付近に目をやる。
赤い山肌しか見えないが、目を凝らすと何かが見えてきた。
赤い炎を体に灯したグロテスクな魔物だ。
「何だあれ?」
(薪の魔獣ヴァリアントです。主殿)
「知ってんのか。」
(はい主殿。かつての主がかの魔獣を使役しておりました。ヴァリアントは火を操る下位魔獣です。自然には発生しません。召喚者がいるかと思われます)
召喚者?誰かがけしかけてきたってのか?
まぁいいか。
来ると言うなら、やる事は1つだ。
「邪魔になる奴だけ叩き落とす!いいな!」
(はい主殿)
甲高い声をあげラ・ディーンはさらに加速する。
ヨロヨロと飛ぶヴァリアントを置き去りにしてラ・ディーンは火山地帯上空を舞う。
どこからともなく現れた数体のヴァリアントがラ・ディーンの前に立ち塞がる。
ラ・ディーンは口から光線を放出する。
光を収束させたレーザー光線だ。
ヴァリアントの尽くが消し炭になり地に落ちていく。
しかし再び現れた数多くのヴァリアントが、行く手に飛び交っている。数からすればもう群れだ。
「もっと派手にいけラ・ディーン。魔力を貸してやる!」
俺の魔力をラ・ディーンに譲渡する。
魔力が流れ込むにつれ、ラ・ディーンがその身の輝きを強めていく。
ラ・ディーンがヴァリアントの射程に入ったのか、一斉に炎弾を放ってきた。俺は出来るだけ身を低くし、魔力を注ぎ続ける。
「ん?溜まったか。よし、いけ!」
「キュォォォォォ!!」
ラ・ディーンの翼が一際輝き幾百の光の線が放たれる。踊るように飛び交う光の線は、ヴァリアントの群れを焼き切っていく。光の線の威力は絶大で、熱に耐性のあるはずのヴァリアントも、バターのように容易く切断していく。
光線の放出が終わる頃、山肌はヴァリアントの死体が埋めていた。
「こんなもんだな。ラ・ディーン、先を急ぐぞ。何だか嫌な感じがする、巨人見たら即行で帰るぞ。」
「ゴオァァァァァァァァ!!!!」
突然の唸り声と衝撃が俺を襲った。
ラ・ディーンの肩翼に深々と槍が刺さっている。
地表を見ると念願だった巨人の姿が目に映る。
やられた!クソ!
まさか警告も無しとは、あのクソ共!
巨人が何かを掴みあげ、此方に向け投擲してきた。
瓦礫だ。他にも、剣、槍、鎧、食器、家具。何でもかんでも、適当に混ぜたそれを砲弾のように飛ばしてくる。
再びラ・ディーンの体にソレが命中する。
ラ・ディーンが苦しげに鳴き地表へと落ちていく。
「くそったれ!ラ・ディーン踏ん張れ!地表まででいい。耐えろ!」
地面に叩きつけらる寸前、渾身の力で羽ばたいたラ・ディーンは地面との衝突を免れた。しかし、体の傷が深くこれ以上飛ぶ事は出来そうにない。
俺はラ・ディーンを帰還させると、先程投擲巨人のいた方向を見る。
まさか巨人がここまで来てるとは、進行の速さは考えていた以上かもしれない。このままトンズラするつもりだったが、そうもいかなくなった。
放っておけば、ナダに向かっているはずのシェイリア達が、ケツを突かれるかもしれない。それに━━。
俺は右手に魔力を集中する。特大の魔方陣を描く為だ。
━━━それに、だ。売られたケンカは買わなくちゃ女が廃る。
俺が右手を地面につけると、巨大な魔方陣が地面に描かれる。
煌々と紅く輝く魔方陣。
その光の中でゆっくりと巨大な影が動き始める。
4つの眼光を揺らしながら。




