おまけ・とある少女の旅記録
19~20話の間のお話です。
町を発ってからナダに着くまで、5日ほど経っています。その間に起きたとある夜の出来事でした。
本当は本編でやりたい話だったのですが、断念しました。
だってね、話が進まないんだもの。
ただでさえ遅いのに、あかんってなりました。
他にも、補足したい話があるので、気が向いて時間を作ってやっていきたいと思います。
まったく、何を考えているのでしょう。
さすがの私もユーキ様の甘さにはほとほと呆れてしまいます。
あの顎髭を仲間にするなんて絶対にありえません。
あの顎髭は、嘘を吐き、裏切り、一度はユーキ様の命を危機に追いやったカス野郎だと言うのに・・・。
それにです!あの顎髭は偉大で優美なユーキ様を、よりにもよって「おちび」呼ばわりする無礼者です。
だと言うのに、ユーキ様はそれも許している。
本当に気に入りません。
先日から一緒に旅をするようになりましたが、汚らわしいあの顎髭には我慢なりません。
汚い髭は剃らない。
身なりをちゃんとしない。
食べ方が汚い。
チャラついた話し方をする。
足が臭い。
体を拭かない。
ユーキ様をおちび呼ばわりする。
注意しても全然直そうとしない。
それどころか口答えする始末。
なので、そういうときは拳で語ります。
グローリの町、元殴り王ゴールの教えを受けたこの幻の右で。
「そう言う訳で、ぶっ飛ばします。」
「どう言う訳だ!?」
そう言って顎髭が私から距離をとります。
往生際が悪い。
「ユーキ様に害なんです。毒なんです。貴方の存在が!だから散りなさい、私の拳で散りやがりなさい!!」
「無茶苦茶言うな!嬢ちゃんが俺の事嫌いなのはよーーーく分かったから、落ち着こう。取り合えず落ち着いて話をしよう!」
この後に及んでまだこんな事を、まったくこの顎髭は!
私は構え、左手拳を振り抜きます。
ちっ器用にかわす!
すかさず距離を詰め、右のフックを繰り出します。
これもかわすか!汚らわしい!
転がるように距離をとる顎髭。
私はリズムをとり、構え直し隙を伺います。
タンタンタン。ゼェゼェゼェ。
私のステップする音と顎髭の荒い呼吸だけが辺りに響きます。
緊張感が最高に高まり、いざっと言う時にそれは起きました。
「へくちゅっ。」
私は声の方へと振り向きます。
そこには先にお休みされたはずのユーキ様が、寒そうにマントくるまりながら立っていました。
「・・・ユーキ様?あの。」
「おちび・・・。」
ユーキ様は何も言いません。ただ黙って私達二人を見ています。
目を見ると、うっすら涙ぐんでいました。
「喧嘩はやめよーよ。」
うつむき気味のユーキ様は上目遣いで小さく仰りました。
ユーキ様を再び寝かしつけた私は、火の番をする顎髭の元へ向いました。
「おっ!?・・・・じょ、嬢ちゃん、どうした、おちび寝かせにいったんじゃないのか?」
「ユーキ様は子供じゃありません。寝かせつけるなんて言い方は止めなさい殴りますよ。」
「ひぃ!?・・・・・・・あぁ、悪かったよ。」
「分かればいいです。」
何を話したらよいのか、取り合えずユーキ様を悲しませてしまいました事、反省し改善しなければいけません。
その話からした方がいいのでしょうが・・・・・。
「あのさ、嬢ちゃん。嬢ちゃんが俺を許せないってのはさ、当然だから気にしなくていい。むしろ甘ちゃんなアイツの代わりにそう思っててくれよ。」
「え・・・・。」
「だってよ普通許さねーだろ。俺がへましたおかげで、下手したら死ぬとこだったんだぜ?しかも俺はトンズラこいちまった。助ける気持ちなんてこれっぽっちも無くよ。なのによ、アイツはそれを簡単に許してくれた。本当の意味で俺に夢を思い出させてくれた。仲間にしてくれた。・・・・・俺はアイツに甘えてばっかだ。」
顎髭は立ち上がります。
「嬢ちゃん。俺はさ、アイツには返せねぇほど色んな物受けとっちまったんだよ。人からみたら大した物じゃないのかも知れないけど━━━」
「そこまで。」
「・・・・・・・・・嬢ちゃん?」
私は中途半端な所で話を切りました。
そんな事、今から言う事ではないからです。
分かっています、彼が何を思ってここにいるのか。分からないはずないんです。境遇は違っても、私も彼も同じなんですから。
私は命を。彼は夢を。
些細な違いはあっても、根本は変わらない。
私達は。
「ロイド、私は貴方が嫌いです。顎髭で、汚ならしくて、チャラついてて、頭悪そうで、言い出したらキリが無いくらい何もかも嫌いです。━━でも一番嫌いなのは、私と同じだと言う事です。癪です。気に入りません。何ですか、いきなり横から現れて、仲間面しないでください。」
「おお・・・う。」
「本当に癪です。あんなに酷い事をしたくせに、なんで私と同じ何ですか?何でユーキ様を大切に思っているんですか。私と同じくらい━━」
私は涙が溢れてしまいました。
理由はわかりません。
ロイドはただ黙って側にいました。
気の効いた言葉の一つでもかけてくれれば、殴る口実になったと言うのに。
夜が明け私達は朝日を二人で見ました。
いつもと変わらない、普通の朝日です。
隣には汚い顎髭がいます。
相変わらず、ユーキ様に悪影響を与え兼ねない危険な輩です。
まったくもって気に入りません。
でも、そうですね。これだけはユーキ様の為にも言わなければならないでしょう。
「ロイド、喧嘩はほどほどにしましょう。」
ロイドが驚いたような顔をします。
何ですか、失礼な。
「・・・・・・シェイリア、あれは喧嘩じゃねぇ。一方的な暴力だ。」
レディの名前をいきなり呼んだデリカシーのないロイドに、私は右の拳を振り抜きます。
チッ、またかわした。




