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召喚士されし者 21・ヴァニラの秘密

「この店の店主を勤めさせてもらってます。ヴァニラ・ヴァーニッシュです。ロイドの奴とは仕事を一緒にやってた事があってね。俗に言う腐れ縁って奴かな?まぁ友達でもいいかもね。」


 そう言って気絶したロイドに肩を貸している眼鏡な彼女を俺は見た。

 クセのありそうな茶色の髪をポニーテールで纏め、白いシャツに茶色のチョッキを羽織り、薄紅色のスカートをはいている。


 見た所、変わった所は見当たらない。

 服装だけで言えば普通の町娘と言った感じだ。

 ロイドの言う通り普通の知り合いなのだろう。


 ロイドをソファーに寝かせる。

 手の空いたヴァニラは手招きし俺達に椅子を進めてくれた。


「いやーごめんね。さっきは大声出しちゃって。あんまりにも気持ちいいボケをされたから思わずね!」

「いいえ。ヴァニラさんこそキレのあるツッコミありがとうございます。」

「ボケだったんですか。」


 真顔でそんな事を言うシェイリアにヴァニラさんは苦笑いをする。

 シェイリアのそういうとこ、俺は好きだよ、うん。


「まさかロイドの奴が仲間を連れてくるとは思わなかったよ。昔はもっとアンポンタンだったからさ。」

「俺達、あんまり付き合いは長く無いですけど、相変わらずアンポンタンみたいですよ?この間もこすい事やってました。」

「あっはっは変わんないなぁ。」


 その後、手短に俺達の事情を話すと宿泊の了承をあっさりと出してくれた。ある程度、時間の出来た俺達はロイドのアンポンタンな過去話を聞いたり、雑貨店を見学したりした。

 雑貨店と言うだけあって、品物のラインナップは多種多様だった。武器はあるわ、魔導書はあるわ。中でも被った者に髪が抜け落ちる呪い王冠や聖剣をつくった余りの鉄で打ったミニ聖剣は異彩を放っていた(胡散臭さで)。

 この探せば何でもありそうな品揃えに関心すべきか、それとも何でも無頓着に集めたこの品揃えに呆れたほうがいいのか・・・・。




 いい感じに日も暮れた頃。


「ユーキ様、ヴァニラさんに頼んで台所をお借りする事が出来ました。夕飯の材料を買いに行きますけど、何か食べたい物ありますか?」


 主婦みたいな手提げのバスケットを持ったシェイリアが玄関口に聞いてきた。


「肉。」と速答すると、「わかりました」と出掛けていった。

 ・・・・わかったのか?

 何のかんのとまた芋買ってきそうな気がしてならないんだが。

 シェイリアは芋が好きだ。特にアレク芋と言うじゃがいもみたいなやつが好きだ。

 グローリの町の時も、旅先の夜営の時も、飲食店に入った時でさえ、芋だった。別に美味しく無いとかでは無いが、やたらおしてくるのだ。

 まぁ確かに、コスパがいいのは認める。日保ちするし、味はそこそこだし、安いし、どこでも手に入るし。

 でもたまにはタンパク質が欲しい、デンプンじゃなくてタンパクが。


「ユーキちゃん、ソワソワしてどうしたの?」

「おわっ!?」


 いつの間にかヴァニラが近くにいた。

 忍者か!?


「夕飯の買い出し、俺も行けば良かったと思ってさ・・・思いまして。」

「いいよかしこまらなくて。何か食べたい物でもあったの?何だったら家にある物も使っちゃっていいから。シェイリアちゃんにも言ったんだけどねー。悪いからって断られちゃって。」

「そう?んじゃそうするよ。ーあぁ、でもヴァニラん家の材料使うのは無しな。もう十分良くしてもらってるし、夕飯は俺らがごちそうするよ。」


 金が無いとは言え、無料で宿を提供してくれた相手に、何もかもおんぶに抱っこする訳にはいかないからな。

 余剰金もほとんど無いから、明日からでも何らかの金策を講じなければいけないな。


「そう言えばロイドの奴はいつまで寝てんだよ。何て言ったっけ、防犯のアレ。」

「防犯用魔導式自動識別制圧術式装置、通称イズメラルダの事?んーーー。簡易の制圧魔術で気絶してるだけだからその内起きるよ。魔術的な防御力が無い人ほど効果高くなるからね。」


 ん。そうか。まぁ、奴もこれに懲りて、勝手に人ん家入ったらいけないと学べばいいのだが。



「ゆ、ユーキちゃんって、ご両親はい、いないの?」


 そう言ってヴァニラは俺の髪を撫でる。

 何だか触りかたがくすぐったい。


「んんー。・・・・いないね、多分。」

「そっ、そうか、へー。そうなんだー?」


 ・・・・何だ?妙な感じだ。

 ヴァニラからなんか変な雰囲気を感じる。

 俺は隣に来たヴァニラの顔を伺う。

 と言うか、何か近くね?


「あのさヴァニラ。」

「何、ユーキちゃん?」


 俺は自分の左手に視線をやる。

 ヴァニラの右手が絡んでいる。何かいやらしい絡ませ方だ。


「手がさ。」


 俺がヴァニラに左手の状況を問いただそうとした時、それは起きた。


 絡ませた手をそのままにもう片方の手で俺を抱き寄せてきた。


 俺が視線を手からヴァニラの顔に戻すと、頬を赤らめ、涎をたらす、変態オーラ全開の顔がそこにあった。


「ああん!もう!もう我慢できないぃぃ!可愛い、可愛い、可愛い、かぁうわぁいぃいーーーーい!白い柔肌!ちっちゃいプニプニおてて!華奢な幼児ぼでぇ!クリクリした青銀のおめめ!腰まで伸ばした真紅の髪はキラキラのツヤツヤのサラサラでいい臭い!ああん!ああん!あああああん!家の子にしたいぃぃぃ!」


 前言撤回だ。ロイドのあっち系の知り合いだ。


 俺は抵抗する暇もなくヴァニラにぬいぐるみの如く抱き締められた。見かけによらず胸が大きいのか顔がおっぱいの谷間ににすっぽり挟まり軽い天国を見るが、直ぐ様現実に引き戻される。


 この女、抱き締めながらあらぬ所をまさぐり出したのだ。


「まぁっ、このどこさわってんだ、この、ふぁっ!?」


 するすると蛇のようなしなやかさでヴァニラの手が服の中に滑り込む。そして息をするように服を脱がせ始めた。

 ヤバいこの女!!


「ユーキ様に何をするかぁ!!!」


 いつの間にか帰って来ていた、シェイリアの幻の右がヴァニラの顔面へ突き刺さる。

「ふぎゃ」と叫び声をあげヴァニラは仰向けに倒れた。

 シェイリアはヴァニラが身動きを取れないのを確認すると踵を返し俺に駆け寄ってきた。


「ユーキ様お怪我はありませんか?」

「はぁはぁ、大丈夫だ。危うく持っていかれるとこだった・・・・。俺の貞操ありがとう。」

「ユーキ様取り合えず深呼吸しましょう。言葉が変です。」


 シェイリアに優しく懐抱され、なんだか涙が出てきた。

 この世界に来てから恐怖を感じた事の無かった俺は、心が壊れている欠陥人間なのかもしれない等と考えた事もあったが、取り越し苦労だったらしい。何故ならば、今俺は全力で恐怖しているからだ、獣のようなヴァニラの目を思い出す度、背筋が寒くなる。



 俺達の騒ぎで目を覚ましたのか、ロイドが唸りながら起き上がった。


「・・・んあ?何だ、騒がしい。何かあったのか?」

「らぁぁ!!」

「おりんぽぉすっ!?」


 俺は魔力を宿した渾身の手刀を、ロイドの頭を擦るように放った。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!?ジョリっつった!ジョリっつった!?おおい、これここだけ禿げてない?!ねぇ禿げてない?髪無いんだけど、ここだけ禿げてんですけど?!」

「黙れラインハゲ!貴様の不手際でユーキ様のアレがこの変態に持っていかれる所だったんですよ!この程度で済んで感謝しなさい!!」


 シェイリアに怒鳴られたロイドは視線を延びているヴァニラに向ける。


「・・・・なんかスマン。つーか何があったんだよ。俺が気を失ってる間に。おちび・・・え、何だ、どうしたんだよ。何だその目、貞操でも奪われた囚われの姫みたいな顔して。」

「お前聞いてたな!!!」

「ぐはぁっ!?違っ、途中からだから、途中から!気まずくて行けなかっただけだから!」


 俺は溢れる涙をそのままに、今一度渾身の力を込めた手刀をロイドに向ける。


「見てたなら助けろぉぉぉぉ!!!」

「おりんぴあぁぁぁ!?」


 ロイドの髪が宙を舞う。


 俺はその日、理屈でない恐怖が世の中にある事を知ったのだった。

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