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召喚士されし者 20・城塞都市ナダ

「高いなぁ!」


 俺は空にそびえた白い壁を見上げた。



 城塞都市ナダ。それは、アスラ国でも有数の大都市である。


 そして開国以来、唯の一度も破られた事の無い、難攻不落の白壁を有する、アスラ国南部において最大最硬の防衛拠点でもある。


「おちび、あんまり上で暴れんなよ。あぶねーぞ。」


 俺を肩車したロイドは、俺が落ちないようバランスをとる。


「おーわりぃ!わりぃ!てかデカいな!白いな!ははは!」

「これが噂に聞く白壁ですか?」

「嬢ちゃんも初めてかよ・・・。そんなに遠くないのに来たことないのか?」


 そう言われ、シェイリアは「ウーン」と唸る。理由を考えているんだろうか?

 そして思いついたように言った。


「箱入り娘だったもので。」

「・・・・・・よっぽど頑丈な箱だったんだな。」

「?」


 そんな他愛無いやり取りをする二人を横目に、俺は再び城壁を見る。

 白光石と言うこの世界独特の鉱物を使っている壁は、日光を反射し光を放っている。なんと言うか神秘的だ。

 何でも、この白光石は魔物を寄せ付けない性質を持っている不思議石なんだとか。その上白光石の硬度は鋼に匹敵するらしい。


「なぁロイド。あれちょっと削れないかな?バレないようにやるから。」

「やめろおちび。マジで捕まるぞ。」


 むぅ、やっぱり駄目か。

 事前にロイドに忠告はされていたのだが、白壁はこの国の文化財でもある為、故意に傷をつければ厳しく罰せられるそうだ。


「でも、白光石はもう無いんだろ?レアなんだろ?ちょっとも駄目かな?」

「おちび、お前の方が俺よりよっぽど冒険者だよ。頼むから止めてくれ。アイス買ってやるから。」

「ユーキ様を子供扱いするな、ぶっ飛ばすぞ。」

「ひぃ。」


 そんな話をしながら城門へとやって来ると、漆黒の門が俺達を出迎えてくれた。


 漆黒の門は開け放ってあり、沢山の人々が行き交っていく。門は大きく、道は広い、幌馬車が同時に三台くらい通れそうだ。


「なぁロイド、本当に検問とかしてないんだなー。難攻不落なのに。」

「普段は商業都市としての色が強いからな。非常事態でもなけりゃこんなもんだ。下手に検問なんかしたら大変な事になるだろうしな。毎日、何千人もの人が出入りすんだぞ?」

「安全面どがいしで大丈夫なのか?」

「んーーー。一応、国の騎士団も常駐してるし、ギルド連合もあるしな、馬鹿やる奴はいないんだろ。」


 そんなもんなのか・・・。

 まあ、俺が心配する義理はないし、別にいいか。



 城門を抜け最初に俺達の視線に入ったのは、大きな広場だった。

 城門前広場と呼ばれるそこには、何十台もの駅馬車が待機しており、広場の端には馬用の用具点や馬宿が乱立している。



 更に進んで行くとライン通りと呼ばれる大通りについた。

 ロイドが言うには、この道に来て揃わない物は無い、と言われるほどのマーケットストリートなのだとか。


 俺はロイドに頼み引続き肩車をしてもらう。


 そして大通りの光景に目を奪われた。

 建ち並ぶ商店の数々、武器店、防具店、魔道具店、魔方薬店、洋服店、装飾店など沢山の店が軒を連ねている。

 道にある屋台も数え切れないほどあった。


 つい先日、商港街道にある町の賑かな光景に胸を踊らせたが、それの比にならないほど、俺は興奮した。思わずロイドの髪を毟るほど。


「シェイリア!見ろよ!なんか変なの売ってるぞ!食いもんかな?なぁロイド、あれ旨いの?ん、おーーー!剣が路上販売してる。装飾格好いいなぁ、俺もあーいうの欲しいなー!」


 俺は体を右へ左へ揺らし辺りを見渡した。


「あたたたたたたたたた!痛いっつの!おちび落ち着けよ。後でちゃんと案内してやるから!」


 ロイドの悲痛な声に俺は我を取り戻す。


「・・・おう。わりぃ。・・・・うん、落ち着いた。」

「そうか、頼むからもう毟らないでくれ。」


 またやっちまった。草原竜の時もそうだった。興奮した時の俺はどうにも暴走気味だ。理性ってもんがてんで役に立たなくなる。・・・・体が子供だからか?


 俺は熱くなった顔をフードですっぽり覆った。

 恥ずかしいのもあるが、これ以上周りに目を奪われ、興奮しない為でもある。



「取り合えず都市の案内は明日してやる。今日はゆっくり休むとしよう。」

「なら宿ですね。お金に余裕はありませんから、安い宿を探さないと。」


 そう言い、シェイリアは財布を取り出し、中身を確認する。


「んん。一泊は大丈夫だと思いますが・・・・。」

「そうだな、グラスボア売った金も大したもんじゃ無かったからな。・・・・草原竜の報酬があればな。」


 俺はロイドの頭をペシペシ叩く。


「悪かったっての。しゃーねーだろ、あれは元々俺の仕事じゃ無かったんだからよ。それにおちびがやったのはデカい奴だろ?そっちを報告出来ない以上、4メートル級草原竜の討伐報酬しか狙えねぇけどおちびは倒してないって言うしよ。」


 そうである、この男ロイドはエバー平原の異変調査など請け負っていなかったのだ。とある戦士チームの話を盗み聞きし、依頼内容と調査の進み具合を把握したコイツは、ある悪巧みを考えた。

 元々草原竜には討伐賞金が懸かっているのを知っていたコイツは、草原竜の討伐と言うこの仕事の一番美味しい所だけ横からかっさらうつもりだったのだ。


 それを聞いた俺とシェイリアは取り合えず奴を埋めてやった。

 それから奴を叩きに叩いてやった。すると出るわ出るわ、しょうもない所業の数々。しかもこれがみみっちい不正紛いの事ばっかりだったのだ。

 しかし、ギリギリ犯罪は起こしてはいないようなので憲兵所に送るのは止めておいたのだが。



「まぁ安心しな。今日の寝床は俺に任せろ、ちょっとツテがあるからよ。」


 限りなくグレーゾーンな男ロイド。

 そんな彼のツテ。限りなく不安である。

 シェイリアが怪訝そうな顔でロイドを見るのは仕方ないだろう。


「大丈夫何ですか?」

「おう。嬢ちゃん安心しろよ!普通の知り合いだ!」

「普通じゃない知り合いもいるんですね?ユーキ様、今からでもこの男憲兵所に突き出しませんか?」

「わぁーーー!待て待て!そっちの系の奴はすっぱり忘れっからよ、憲兵所は勘弁してくれ。」


 そっち系って、どっち系だよ。

 本当、信用しがたいなコイツは。


 ロイドは知り合いの所に向かうと言い、どんどん裏路地を進んでいく。道は入り組み大通りから離れて行く。それにつれて周囲の雰囲気がだんだんに悪くなって行った。


「おい、ロイド。目に見えて治安が悪くなっていくけど、大丈夫何だろうな。言っとくけど、次に裏切ったら承知しないぞ。」


 俺はロイドの頭を指でなじる。

 さすがに二度目のチャンスをくれてやるつもりはない。

 俺の言葉に反応してシェイリアが少し殺気立つ。

 背中越しに殺気を感じたロイドは冷や汗を流した。


「だ、大丈夫だ。裏切る訳ねぇじゃねーか。言ったろ、俺は格好いい冒険者に成りたいってよ。もうそれの夢に背を向けたりしねぇよ。」


 少し慌てている物の、しっかりと返すロイドの姿に満足した俺は頭を撫でやる。


「ん、ならいい。頼むぞロイド。」

「おう。もうつくから・・・おっ、あったあった!」



 そう言ってロイドは一軒の店の前に立つ。

 三階建てのボロい建物で壁には蔓がはっており、幾つものヒビが入っている。陰裏にある建物の中でもさらに陰って見えるその建物の入り口には、「ヴァーニッシュ雑貨店]と言う看板が掲げられていた。


「雑貨店ですよ?」

「だな。」

「まぁまぁ、おちび悪いけど降りてくれっか?話つけてくるからよ。」

「ん。」


 俺を肩から降ろし、ロイドは雑貨店の戸に手をかけた。


「ヴァニラ!俺だロイドだ!入るぞー!」


 そう一声かけると返事を待たずづかづか中に入っていった。

 ヴァニラか、女だろうか。


「シェイリアあいつのコレかな?」


 俺は小指を立てシェイリアに訪ねてみた。


「そんな甲斐性があるようには思えませんけどーー」


 その時だった。

 突然店の奥から絹を裂くような男の悲鳴が。

 ・・・・・・・・・・・・・ん?男?


 俺達は店に駆け込んだ。状況を確認する為だ。

 店中はもので溢れかえっており、奥まで確認する事は出来ない。

 恐る恐る店内を進んで行くと店の奥、カウンターの近くで倒れている人影が見えた。


「!?ユーキ様あれは!?」


 シェイリアが人影に指を指し、その顔に驚愕を浮かべる。

 俺は人影に近づき顔を確認すると、首を横に振る。

 シェイリアは少しだけ悲しげに「そうですか」と一言呟いた。


「残念だがロイドだ、死んでる・・・!」



「生きてるよ!!!!!」


 カウンターの直ぐ側にあった扉が勢いよく開けられ、中から眼鏡をかけた女性が現れた。



 中々キレのあるツッコミを披露してくれた眼鏡の女性。何だか仲良く成れそうな気がする俺であった。

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