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召喚士されし者 19・冒険の始まり

「幼いから何もわかんない作戦」を町長にかました翌日。

 心地よい日射しで目を覚ました俺は、泥のように眠るシェイリアの横顔を見た。

 目の下にうっすら隈が出来ており、髪は所々はねボサボサっと言った感じだ。


 昨夜、町長の前で可哀想な姉妹を演じ更に同情を買った俺達は、町長や宿の店主、それ以外の町人達からも「養子にならないか」とか「家で働かないか」とか「嫁に来ないか」とか、沢山の話を持ちかけられた。

 保護欲全開の大人達が、所狭しと迫って来た姿は軽くホラーであった。シェイリアなんかショックで目眩を起こすくらいだ。


 その尽くを切っては捨てー、切っては捨てーをくり返し、部屋に帰ったのはつい三時間ほど前だ。まぁ三時間と言ったが、この世界、と言うよりはこの町には時間を計る物が日時計くらいしか無いし、元の世界と比べてどれだけ差があるか分からないので、俺の感覚的な三時間である。


 もう少し寝かしてあげたい所だが、早々に町から抜け出なければならないのでそうもいかない。

 何でも、今日の昼には戦士ギルドが草原竜討伐の為に精鋭部隊を組織してやってくるらしいのだ。

 精鋭部隊が草原竜の無惨な遺体を発見すれば、当然私に目がいくだろう。何せ草原竜に遭遇し、憐れにも両親を殺された、可哀想な、唯一逃げおおせた幼女なのだから。

 痛くない腹を探られるーなどと言う言葉があるが、その逆を突っ走る俺の腹は痛いとこだらけなので探られる訳にはいかない。


 困っている人がいれば、多少目立とうが、めんどうくさかろうが、助ける良心は持ち合わせている。

 だからといって好きで目立とうとは思わない、目立つと言うのはそれだけでめんどうこの上ない状態なのだから。

 まして草原竜を、召喚獣ありきだとしても、単身で討伐してしまったのだ。

 どうなるかは見当がつく。


 英雄になるのも、危険人物として手配されるのも、ごめんである。


「シェイリアー起きろートンズラするぞー。」


 俺はシェイリアの肩を揺らす。


「ふぁい」と間抜けた声を出し、シェイリアが起き上がる。

 目をパシパシさせ緩みきった表現で「おひゃひょうごしゃいます」と俺に挨拶をしてきた。

 何これ可愛いですけど。


 ムラムラした気持ちを抑える為、寝起きのシェイリアの頭を撫で心を落ち着かせる。

 目を細め気持ち良さそうに頬を更に緩めるシェイリア。

 可愛いのでちょっと長めに撫でてやる。




 手紙と二人分の料金を置いて宿を後にした俺達は、町の出入口を避け塀を飛び越え逃げる事にした。

 出入口には「養子にならないか」とほざいた守衛がいるはずなので、通るわけには行かないからだ。



 人通りのない塀の前についた俺はガイゼルを召喚しようと魔方陣を展開する。


 ーが、ガイゼルを喚びだす前に、塀の上から縄梯子が垂らされた。


 見上げると、見覚えのある冴えない不精髭が手を振っている。


「よぉ!おちび。今なら誰も見てないぜ。」

「サリハン!何してんだお前?」

「それより上がってこいよ。見つかると都合悪いんだろ?」


 確かに今町人達に見つかるのはアレだ。

 それに脱出の為とは言え、朝からガイゼルに舐めまわされるのは不本意だ。

 俺はサリハンの用意した縄梯子を昇り町を抜け出す事にした。





「なぜここにいるんですか?」


 何とか誰にも悟られずに町を抜け出し、お姉ちゃんの肩書きを投げ捨てたシェイリアがサリハンに詰め寄る。

 声には怒りが込もっている。


「そんな恐い顔すんなよ嬢ちゃん。おちびに借りがあるからな、それを返しただけだよ。」

「ならもう用は済みましたね。さっさと消え失せて下さい。」


 飄々と返すサリハンにシェイリアは声を荒らげる。


「まぁな。それともう一つ、おちびに別の用があってな。」

「貴様!まだ懲りてないのか!」

「ひぃっ」


 シェイリアの容赦のない右がサリハンの顔を掠める。

 恐らくサリハンがかわさなければ顔面にめり込んでいただろう。

 シェイリアは手を弛めず、左右を連打する。

 サリハンには一撃も入らないものの、キレのある綺麗なコンビネーションブローを繰り出す。


 ・・・・・シェイリア強いな。いつの間に。


「おっ、おちび!!頼むかっ、ら嬢ちゃんにやめるよう言ってくれ!!危なっ!?話が、話があるんだよ!!!」


 ・・・・・・ん。


「シェイリア!やめ!」

「はい!」


 シェイリアはピタッと動きを止める。

 多少息を乱しているものの、まだまだ余裕がありそうだ。

 対してサリハンは、肩で息をしながら額に大量の汗を流している。


「助かったおちび。死ぬかと思った。」

「だらしないぞ、男だろお前。」

「・・・嬢ちゃんは例外にしてくれ。じゃないと世界中だらしない男だらけになるぞ。」


 息を整えたサリハンは俺の元へ近づく。

 いつになく真剣な目で俺を見てきた。


「おちび、・・・・いや召喚士ユーキ。俺を仲間にしちゃくれねぇか?」


 おお。こいつ仲間キャラだったのか。

 などと思っているとシェイリアから本気の「はぁ?」を頂いた。


 取り合えず理由を聞きたいので、シェイリアにお口チャックのジェスチャーをしておく。

 出来るだけ真面目な顔でサリハンに向き合う。


「なんで?」


「ーー俺は冒険者になりたい。格好悪りぃ冒険者じゃなくて、最高に格好いい冒険者になりたいんだ。だから、お前と行きたい。お前と同じもん見て、同じもん聞いて、悩んで考えていきたい。お前となら成れる気がするんだよ、最高に格好いい冒険者って奴に。」


「・・・・・・・ぷぅほっ!!はははははは!ささ最高に格好いい冒険者ーーーーははは!」

「なっおい、笑うな!真剣なんだぞ俺は!」


 俺に笑われ恥ずかしくなったのか、サリハンは視線を反らした。


 それにしても、こいつマジか。プロポーズまがいな口ぶりで何を言うのかと思えば、最高に格好いい冒険者って。

 子供みたいな奴だな。本当に。


 ・・・・ああ、だからか。


「なぁサリハン?」


 耳を真っ赤にしたサリハンが俺に視線を戻す。


「なんだよ。」


「俺なお前のそういう所、好きだぞ?」


 俺がそう言うとサリハンは耳どころか顔まで真っ赤にした。


 そうだ、こいつは俺だ。

 自分がどうしようも無いのを知っていて、頑張る事をやめた、過去の俺だ。

 夢だけは一丁前で、何となく毎日を過ごしていた、どうしようも無い、かつての俺自身だ。


 嫌いになれるはずがない。


 こいつはまだ燻っているだけだ、誰かが機会を与えればきっと変わる。


 そう、誰かが。


「俺でいいのか?」


 俺はサリハンに問いかけた。


「ああ、ユーキ、お前と行きたい。」


 そう真っ直ぐ俺に向き合うサリハンに右手を差し出した。


「よろしくなサリハン。」

「ああユーキよろしくな!それと、俺の本名はサリハン・ピッツバーグじゃねぇ。ロイドだ、唯のロイド、よろしくな。」


 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 俺は差し出した右手を引っ込めた。


「・・・おちび?」

「ーーー仲間になる前に、お前には聞かなきゃならない事が山程ありそうだ。」


 シェイリアが無言で、サリハンもといロイドの後ろに構え逃げ道を塞ぐ。


「ユーキ様に言わなきゃならない事があるなら、今の内ですよ。」

「待てよ、待て待て。お前らなんか誤解してるぜ?俺は」


 ジリジリと包囲を狭める俺達にロイドは冷や汗をかき始める。


「待てよ、違うんだって。名前を偽ったのはやましい事があったとかじゃな」

「ユーキ様!やましい事があるそうです!!」

「違う!!今のは言葉のあやっつーか」

「言葉のあや?なら本当に隠してる事を吐け!今なら許す、多分。」

「多分なんて言われたら言えなくなるわ!」

「ユーキ様!言えなくなる何かがあるようです!」

「違うーーーー!!!」

 


「確保ーーーーーーーー!!!」



 俺達が仲間と呼べる間柄になったのは、これから小一時間ロイドを締め上げた後であった。

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