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召喚士されし者 1・混乱と把握

目を覚ました俺が最初に見た光景は古びた石碑だった。

辺りを見渡すが人の気配はない。どうやら洞窟内のようで全体的に薄暗い。


「何処だここ?」


人が産まれるような清潔感のない場所だ。分娩室とまで言わなくてももうちょっとなんかあるだろ。ん?


「転生されたら、記憶って無くなるんだよな。なんか変じゃね?」


現に起きている事だが、産まれたての赤ん坊が話したり考えを巡らせたりするだろうか。


俺は身体を起こして自分の身体を確認する。赤ん坊・・・ではないようだ、子どもか?ハッキリとわかる分けではないのだが、10歳前後くらいか?・・・ん?なんか違和感を感じるな、モヤモヤする。


服も初期装備されていた。白いローブか、他には特にないようだ・・・。


「記憶は消えて、赤ん坊からと思ったんだけどな・・・シャリオ、サービスしてくれたんかな。」


最早二度と会うことのない神様代行の少女を思い浮かべる。


「さてと、此処にいてもあれだし、行きますか。」


しばらく洞窟内を歩いていくと、ふとあることに気づく。そう言えば随分手入れのされた洞窟だな、と。


通路には等間隔に松明の火が灯してあり、人の痕跡を思わせる。にも関わらずだ、近くに人の気配が無いのは腑に落ちない。そして何よりさっきから嫌な匂いが鼻につく。


鉄だ。あの日、脱線事故の日。暗闇の中、泣き叫ぶ声が、嗚咽が、鳴り響く携帯の着信が、あの狭い一車輌の中の地獄、うっすらと携帯の光に照らされた自分のグチャグチャになった身体を見たあの日の記憶が甦る、くそっ。


「なんだよ、くそ。平和な世界じゃなさそうだな。」


ベリーハードの予感がする。シャリオちょっと怨むぞ。


洞窟を抜けるとその予感が間違っていない事を確信する。

町だと思われる眼前の集落は火に包まれ、おびただしい死体が道を埋め尽くしていた。穏やかでないな。


物陰に移動し周囲を見渡す。どうやらこの町を襲ったと思われる連中はいないように見えた。だが慎重をきして、念のために時間を置いてから行動する事にする。


暫く小さくなっていると町の中から悲鳴のような声が聞こえた。やっぱりまだ虐殺隊はまだいるようだ。


「・・・ちょっと見てくるかな?」


今後、この世界で生きていくため知識は必要だ。危険な物を確認しとくのも悪くないはずだ。などと理由をつけて好奇心に背を押され行動を開始する。


そう言えば、この身体は子どもであるが、この身体に蓄積された知識はどうなっているのだろう。心や記憶、もとからこの身体にあった其は・・・ぶるりと身体が震えた。最悪のパターンが頭によぎる。今は考えるのはよそう。



暫く隠れながら進んでいると人の声が聞こえてきた。


「にしても湿気た町だな。」

「女も金もたいした事ないしな、頭は何考えてんだか?」


貧相な服装に血の滴る剣、ボサボサの髪に下劣な顔。野盗か?


「そういやこの町の北の外れに、洞窟があったろ。なんか聞いてるか?」


「あぁ?あれか。中にはなんもねぇってよ。さっきダズが見に行ったらしいがよ、」


危ねぇ、俺は冷や汗をかいた。よく遭難したらその場を動かない方がいいと言うが、今回は助かったようだ。いや、遭難したわけではないのだが、まぁ似たようなものだろう。


しかしどうしたもんか。先の話しが本当なら、探索が続けてられている以上、此処にいるのは危険だ。しかし、逃げるにしても周辺地理の知識がない為、下手したら此処に止まるより危険かもしれない。


うーんと頭を抱えていると、自分の背後の方から悲鳴が聞こえる。


目の前の野盗達も声に気づき此方に駆けてくる。まずい!咄嗟に茂みに身を隠す。ガサガサと野盗達は俺の隣を通り過ぎていく。


ほっとしているとまた悲鳴が聞こえてきた、女性のようだ。

顔だけ茂みからだし様子を窺う。一人の女性に複数の野盗達が群がっている。あれだ絶対あれをやるな、性的なあれ。


一人の野盗が女性を組伏せる。あかん。あれはあかん。


安い正義感に火がつくが、子供の自分にあれを止められる手段はない。まぁ元の身体、黒須トウジであった頃でさえ貧弱なガキだったのだ、あれを止めるなど、どだい無理な話しなのだ。


・・・ん、そう言えば。貧弱しか取り柄がないと思っていた俺には1つ、特別な力があったな。シャリオが言うには魔力が無いため意味が無い、と言っていたがそれはかつての身体がゆえ。もしかしたらーー


俺は手のひらを地面につけ魔方陣から現れる召喚獣をイメージする。もちろん召喚など見たことも、やったことなどないが、才は在るはずなのだ。


この身体になってから感じていたモヤモヤが手に集まってくるのを感じる。まさか、このモヤモヤ魔力ってやつだったのか?まじか。


強く深く意識を集中する。身体ごと地面に呑まれるような感覚にとらわれる。途方もないほど深く深く沈みこんだ意識と身体は何かに導かれるように底へと底へと向かう。


目の前に小さな光が灯る。それに優しく触れる。


「・・・・・」


何かが語りかけてくるような感覚、声は届かないが、意志が伝わってくる。


「アルディオ」


そう呟やいた瞬間、意識が現実へと帰ってくる。

自分の手のひらを中心に魔方陣が表れ、光と共に体長三メートルを越える騎士が召喚される。


「・・・なるほど、これが今の俺か。」


小さい身体で頼りなく。


知識のない愚か者。


そして、神様代行お墨付きの召喚士。

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