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召喚士されし者 16・血溜まりからの帰還者

 日も沈みかけた頃、俺はようやくエバーグリーンへと帰ってくる事が出来た。


 全身血塗れの状態で町に入れるか怪しい所だったが、入口付近にシェイリアが待機していてくれた事が幸いし、俺はすんなり町に帰る事が出来た。



 町を歩くと誰もが振り向き、宿に着くと店主は絶叫をあげた。


 なので、俺はやらなければならない事を、先に済ます事にする。


 風呂である。


「ユーキ様、お風呂準備出来たましたよ。」

「おう、サンキューな。」



 この世界に来てから驚いた事は幾つもあるのだが、これもその一つになる。

 それはこの世界の住人は、風呂にはほぼ入らないと言う事だ。

 大抵は濡れた布で身体を拭く程度。特権階級を持つ者でさえ、毎日は風呂には浸からないそうだ。


 一部の地域では風呂代わりに水浴びなど日常的に行う所はあるそうなのだが。


 今回は特別に湯を沸かしてもらい体を洗う事にした。

 というか宿の主人に洗うよう言われた。


 俺は物置に急遽用意された風呂へと向かう。

 まぁ、風呂と言ってもタライにお湯を張っただけの簡易なものだ。


「ん?」


 風呂場に行くとシェイリアが腕捲りして待ち構えていた。


「・・・・シェイリア風呂くらい一人で入れるぞ。」

「ユーキ様、お背中お流しします。」

「いや、だから。」


 シェイリアはニコっと軽く笑うと、有無を言わせぬオーラを放ちながら俺の肩を掴む。


「ユーキ様、お背中お流しします。」

「お、おう。」


 逃げられないようだ。





「ユーキ様?痒い所はありませんか?」

「んーー?別に無いなぁ。」


 ワシャワシャと髪を泡立たせるシェイリアは、どことなく楽しげに見える。

 背中流すと言った時のシェイリアの形相は不機嫌そのものだったから、機嫌が良くなったのならいいんだけど。


「そういやサリハンの奴を見なかったか?見失ってよー。生きてりゃいいけど。」

「生きてると思いますよ?ユーキ様を見捨てて一目散に逃げてきましたので、ボコボコにして埋めてやりましたけど。」

「・・・埋めたのか。生きてんだろうなソレ。」


 シェイリアは目を逸らす。

 小さい声で「まだ生きてました、・・・・・あの時は」と呟く。


「そ、それはいいんです!もう済んだ事ですから!それよりですねー」

「済んでないだろ、おい。」

「ユーキ様が凄い召喚士である事は分かりますが、油断が過ぎますよ。今回は何とかなりましたけど、何時も上手くいくと思ったら大違い何ですから!」


 シェイリアは口調を強くする。

 髪を洗うシェイリアの手に少しだけ力が込められる。


「ーああ。ーーうん。そだな、今回は反省するよ。心配かけてごめんな?」

「はい。お願いします。」


 それにしても、冒険者ってのは大変だな。

 ゲームとか冒険譚とかなら、あれくらいの魔物が出ても何とも無かろうが、リアルを前にして分かったが命懸けだあれは。


 聞くのとやるのとじゃえらい違いだ。

 サリハンの馬鹿もこれに懲りて、事前準備の大切さを学んでくれればいいのだが・・・・。

 まぁ、頑張ってほしいものだ。



「そう言えば、エバーグリーンの町長がユーキ様に話があると。」

「話ぃー?草原竜?」

「おそらくは。ユーキ様は草原竜を討伐されたんですよね?」

「まぁな。・・・・・むぅ。」


 正直気が進まない。

 町長が話か。十中八九草原竜の事だよなぁ。

 素直に「討伐しました」と言っていいものか?


 草原竜は強過ぎだ。

 あれは人が勝ってはいけない部類の強さだったと思う。

 幸い、俺には優秀な召喚獣達が3体もいたおかげで、難なく討伐する事が出来たのだが、あれは例外中の例外だろう。

 元来、「過ぎたるは及ばざるが如し」とも言うし、あれに勝てる人間がいるとなると、余計な騒ぎを起こしかねない。



 それにだ、草原竜と闘っている間のハイテンションだった自分を思い返すと、恥ずかしくてしょうがないのだ。



 さて、どう話したもんか?



「ユーキ様、流しますから目を瞑って下さい。」

「ん。」


 ザバーっとお湯が泡を流していく。

 そう言えば、この泡って何?石鹸じゃないよな?


「はい、終わりです。目を開けて大丈夫ですよ。」

「シェイリア、頭って何で洗ったの?石鹸じゃないよな。」

「石鹸ですよ。少し特別ですけど。」

「特別?」

「父が成人の記念に買ってくれた、髪を洗う用の石鹸なんです。髪は女の宝だから大切にしなさいって。まぁ、勿体なくて使ったことなかったんですけど・・・。いい物ですねこれは、ユーキ様の綺麗な髪がより綺麗になった気がします。艶々です。」


 それを聞いた俺はシェイリアに振り向く。

 きょとんとした顔をしたシェイリアが「何ですか?」って感じで俺を見る。

 形見じゃねーかよ。


「それ、大切なもんじゃないのか?」

「ユーキ様のお役に立てるなら惜しくはありません。さぁ、次は体を洗いましょう!」


 体・・・だと?


「ままままて、待て。体はいい。自分でやる。」


 狼狽える俺の洗い終えた髪を軽く結い上げる。

 早っ!?


「お背中をお流しします。そう言ったじゃないですか~!」

「いや、そうだけど、心の準備があると言うか。」


 ああ、駄目だ。

 俺、心はまだ男の子だから、女子に洗ってもらうとか、刺激が強すぎるんですよ。

 髪を洗ってもらうのですら刺激的だったのに。

 あかん、これはあかんやつや。


 シェイリアは楽しそうにタオルを泡立てる。


「さぁ、ユーキ様!」


 ああ、ちょっと待って、シェイリア様!

 心が!心の準備がぁーー。




 その夜、少しくすぐったく、とても気持ち良かった思いをした俺は、何か大切なものを無くした気がした。


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