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機甲兵団と真紅の歯車 68・報告と新たなお仕事

「ユーキ様。今更ですけど、依頼達成報告ってやりました?」


 会合を無事に終えてから数日。

 アスラに旅立つ予定だった筈の俺は、まだゲヒルト邸を塒にゴロゴロしていた。

 新たに持ち上がった諸問題『黒龍』だの『魔人』だのと物騒な話がある中、渦中に飛び込むであろう友達アルシェを放っとく訳にもいかず、問題が解決する目処が立つまで滞在を延期する事にしたのだ。


 アスラも不穏な話が出ているので早く行きたい所だったのだが、目に見えてる方が心配だったので仕方なかったのである。

 流石にこれ以上放置しておくのはアレだったので、一応手は打っておいたが・・・それが上手くいくかはまだ先の事なので心配は募るばかりだ。


 そんな俺はゲヒルト邸にて基本的に日向ぼっこしながらゴロゴロし、リビューネと遊び、ゲロ子をからかい、編み物し、スア達と遊んだりして過ごしていた。勿論その最中にも魔力操作をあげる鍛練は行い、今ではかなり細かな操作も可能になった。他にも魔力の可視化や気配として正確に把握出来るようになったり、他人の魔力制御を乱したりとか出来るようになった。対魔術師なら即殺出来るであろう。わっはははっ。

 ・・・段々と人間を辞めてきている気がするのは、気のせいだと思いたい。


 そんな日々を過ごしていた俺に、ゲロ子がそんな事を尋ねてきた訳なのだが・・・・。


「依頼、達成、報告ぅ?」

「あんた様って人は・・・・。」


 見に覚えのない言葉に目を丸くして尋ね返すと、滅茶苦茶呆れられた顔で見られた。

 な、なんだよぅ!


「いや、今更と言えば今更なんですけども・・・ユーキ様はあのエルフ女から依頼引き受けましたよね?」

「はっ!!」


 そう言えば、そうだった。

 屋敷の使用人として働くカザジャ族が自然過ぎて、なんであいつらをここに連れてくれる羽目になったのか、その大本の出来事をすっかり忘れていた。ごめん、ごりら!


 俺は少し埃の被った旅用のカバンを開けて依頼書を探す。

 埃の被ってる様に「ユーキ様、ここに永住する気ですか?」と呆れたような声が掛かってきたが無視する。

 ゴソゴソと漁っているとカバンの底にクシャクシャになった依頼書が顔を出した。


「━━━━大丈夫。文字は読める!!」

「あーーあーーあーーあーーーー。ユーキ様、今度からあたしが預かりますからね。」

「はい。」


 何でも一人でやってはいけない事を知っている、身の程を知り尽くす俺は素直に同意の返事を返しておいた。

 俺は言われたら分かる良い子だからな。








 ゲロ子を連れて半月ぶりのギルド連合へと赴く。

 街は相変わらずな様子で、少し前国家滅亡の危機があった様子は欠片も見られない。て言うか、あの事件直後も割とこんな感じではあったけども。もしかして情報操作とかされてる?今度アルシェに・・・は聞かない方が良いな。絶対に薮蛇案件だもんな。うん。


 そうして訪れたギルド連合。

 扉を開けて中に入る所までは何事も無かったのだが、受付を始めてから問題が起きてしまった。


「てめぇ、ふざけてんのか!!なんでこれで依頼失敗なんだよ!あぁん!?」


 依頼達成報告を受付にしていると、直ぐ隣の受付二番窓口から怒声が響いて来たのだ。視線を向ければいつものエルフさんの姿はなく、アワアワと涙目で羊皮紙を抱き締めるように持つ新米そうな女の子と、見るからに一流の戦士風の男がカウンターを乗り越えんばかりに身を乗り出している光景があった。


「ユーキ様。止めて下さいよ。」


 なんかゲロ子が呟いてきた。

 そんな事言われなくても分かってるってーのぅー!なんだと思ってんだ俺を!


「あ、手が止まってますよ?手続き宜しくお願いします。」

「あ、申し訳御座いません。」


 隣の様子に呆けていたギルド職員へ、こちらの手続きを促すゲロ子。チラチラとこちらを見ている所から、俺を早くこの場から引き剥がしたいのだろうと分かる。

 こいつ、俺を、本当に、何だと思ってるの?殴るよ?


 隣が気になって仕方がない職員の手は遅く、中々手続きが進んで行かない。そして手続きが遅くなれば遅くなる程、隣がヒートアップしていき気が気でなくなっいく。


 何となく聞いた感じだとギルド側と言うよりは戦士風の男に問題があった様で、男はその対応に納得がいかないと駄々を捏ねてる様であった。


「━━━ちっ!話になんねぇな!!ギルド長を呼べ!!戦士ランク7のアーサー・グリッドが呼んでるってな!!!」


 最終奥義『責任者を出せ』が決まった所で「喚くんじゃないよ餓鬼」と言うハスキーな声が二人の中に割り込んできた。

 声の方へと顔を向ければ、いつぞやの黒ワンコがそこにいた。


「黒ワンコ姐さん!」

「誰が犬だい!?ええ!?」


 思わず呼んだらぎろりと睨まれてしまった。

 これは俺が失敬だったな。狼だって言ってたもんな。

 黒狼姐さんと言わねばな。


「━━━って、あんた・・・まぁ良いか。こいつを絞めたらちょと話がある。待っててくれるかい?」

「ん?よく分かんないけど、良いぞ。アルシェからも俺に会いたいらしいんだって聞いてるし。黒狼姐さん。」

「黒狼姐さん?まぁワンコよりは幾らかマシか。好きにしとくれ。」


 黒狼姐さんはそれだけ言うと戦士風の男の元へと向かっていった。歩くだけで威圧感がある姐さんに、戦士風の男は若干腰が引けてる。


「な、なんだよ、あんた!」

「吠えるじゃないよ。喧しい。ここは話し合いが出来る人間様が来る所で、躾のなってない猿が来る所じゃぁないよ。」

「んだと!?てめぇこそイ━━━」


 ボキ、ボキィ、と鈍い音がなった。

 瞬間、戦士風の男は声を詰まらせ、そこへと視線を向ける。

 視線の先には心の芯にくるような鈍い音を奏でる、人殺しのような目で男を睨み付けたまま指を鳴らす黒狼姐さん。


「あたしに躾られたいってんなら、話は別だけどねぇ。」


 まるで魔王のような底冷えする声を発する黒狼姐さんに、戦士風の男はごくりと喉を鳴らした。

 そして冷や汗で額をぐっしょりと濡らしたその男は、絞り出すように声を出す。


「あ、あ、あんた。その、もし、もしかして、かして━━。」


 ガタガタと震え始めてしまった戦士風の男に、サラーニャは眉間の皺を更に深くして言った。


「何を言いたいか知らないけどね。━━━もしそれが、元戦士ランク8のサラーニャ・ハウスキーかってんなら、そりゃあたしの事だよ。文句でもあんのかぃ、ひよっこ?」


 バキィン、と指が鳴らす音とは思えない壮絶過ぎるその音を耳にして、戦士風の男は脇目も振らず出口へと走っていった。

 ━━━が、直ぐに黒狼姐さんに襟首を掴まれ、窓口のカウンターへと顔面を叩きつけられる。ついでに何か砕けた音を聞いた気がした。んーーー鼻かな?


「一言、言い忘れはないかぃ?」

「すみばぜんでしだ!!!調子に乗っでまじだ!!」

「分かりゃぁ良いんだよ。あたしゃ、物分かりの餓鬼は好きだよ。━━━ほら、いきな。」


 そう言いながら微塵の優しさも見せずまるでゴミでも放るように窓から外へと男を投げ飛ばす黒狼姐さんに、味方である筈のギルド職員まで「ひぃ」と悲鳴をあげる。

 もうどっちが悪者か分からないな。


 面倒事は済んだみたいなので視線を自分の受付へと戻す。

 するとやはり手が止まっている職員。

 いつになったら終わるのか。


 ユーキさんはオコですよ!プンプン!


「ひぃ!」


 何故か怯える職員を横目にゲロ子がジト目で見てきた。


「ユーキ様。可愛いフリして頬膨らましてますけど、殺気が漏れてて洒落になってませんよ。笑ってる分怖いです。」


 なにおぅ!?


「殺気なんて出せるか!俺を何だと思ってるんだ、可愛い女の子だぞ!これは魔力ですぅ!!」

「一般人からしたら、どっちも同じですから。上達したからって、試しで使わないで下さいよ。」


 ふむ、気をこちらに向ける為にちょっと使ってみたけど、意図して使うと難しいなコレ。

 要練習だな。うん。











 報告を無事に済ませお小遣いを貰った俺とゲロ子は、少し話がしたいと言うサラーニャと共に大通りにある焼き肉屋さんを訪れていた。

 お昼時という事もあって、人が凄くゴミゴミしている。

 全然注文したやつが届かない。

 おねぇーさん!!俺のお肉まだぁーーーー!!


「そんなにギラついた目で見たって、早くきたりしないよ。ちったぁ落ち着きな。」

「そうですよ、ユーキ様。普段は死ぬほどのんびりしてる癖に、こういう時だけせっかち過ぎるんですよ。」


 大人二人に注意されてしまった。

 よりにもよって、肉体言語が得意そうな、お手本にしてはいけなさそうな大人二人に。うむむ、反省。


「凄い失礼な事考えてんだろ。」

「ユーキ様には言われたくありませんけど。」


 おっと、勘づかれてしまった。

 ━━━て言うかゲロ子さ、それってどういう意味かなぁ?俺の思慮読み切った上で言ってるなら、デコをペンするぞ?ん?


「━━━あ、やべ。」


 うっかり口に出してしまったとでも言うように、ゲロ子が口に手を当てる。

 どうやら、読み切った上での反抗らしい。ぎるてぃ。


「お待たせしましたー!!ご注文のオルクスス三種部位の盛り合わせです!」


 デコピンの射程圏内へ向けて手を伸ばそうとした矢先、タイミング良く目の前にお肉の皿が乱入してきた。

 俺は思わずお皿に目を奪われ手が止まる。


 山盛りのお肉達は芳醇な甘さを漂わせる、ピンクと白のコントラストが綺麗なお肉だった。聞いた話だと、オルクススは兎と熊を合わせたような魔物でそこそこに強い奴らしい。そして上手いのだと言う。食べ比べした奴の話だと、グラスプボアなんたとは比べ物にならない程だと。


 くぅ、これは食欲をそそるぜぇ。


 お高いお肉はゲヒルトのおっさんちで飽きるほど食べたが、庶民派な俺としてはこういう大衆的なお肉も大好きである。野菜なんていらないんや。お肉だけあれば良いんや。


 ん?ゲロ子はどうするのかって?食べる前に騒ぎになるのも宜しくないので、ゲロ子は食べ終わるまで執行猶予である。やむ無し、やむ無し。


「ま、あれもこれも一旦置いておこう!焼くぞ、ゲロ子!」

「そうですね、ついでにさっきの事もそのまま忘れてしまいましょう。あ、ユーキ様。先に内臓からやって下さいよ。」

「内臓?どれ?」

「そっちの端にある、あ、それですそれ。」


「店間違えたね、こりゃ。」


 それから久し振りの焼き肉に勤しむこと一時間。

 オルクススだけではなく、他にも珍しい物を中心に焼き肉していった。グラスプリザードのテール、牛系魔物タウロスのホルモン、鳥系魔物のバジリコのトサカ。不本意ながら野菜も詰め込まれた、ゲロ子に。

 そしてお腹が程好くいっぱいになった頃、一息つこうと果実水を飲んでいるとサラーニャが「そろそろ話いいかい?」と聞かれた。


「んーーーー、取り合えず食べ休めしてるから良いぞ?」

「まだ食う気があんのかい。」


 言われて見れば、確かに食べ過ぎな気がしないでもない。

 俺に付き合い腹をパンパンになるまで張らし、苦しそうにえづくゲロ子を見ればどれだけ食べたのか分かろうと言うもの。

 食べた量は殆ど変わらない上に、俺のが体が小さいのに何故なのか?成長期か?


「━━━はぁ。まぁ、取り合えず自己紹介からしとくかね。さっきも聞いてたかもしれないけど、改めて言っておくよ。サラーニャ・ハウスキー。元ランク戦士8なんて大層な肩書きも持っちゃいるが、今はしがない宿屋の店主さ。暇な時に戦士紛いの仕事もやっちゃいるがね。」


 サラーニャ・ハウスキー。

 ハスキー犬っぽい黒狼姐さんには似合う名前だな。

 あ、ハスキーは犬か。伝わるか分からないけど、言わないでおこ。


「俺はユーキ。今はゲヒルトのおっさんちで居候してる召喚士だ。こっちは下僕のゲロゲロ子。名前の通り、よくゲロするゲロ女だ。」


 サラーニャは「ゲロ女・・・ね」と呟きながら眉間に皺を寄せてゲロ子を見つめた。きっと、近くいるから警戒したのだろう。この距離だと余裕で射程範囲内だから。

 そんなゲロ子は俺を一瞥してからサラーニャへと視線を向けた。


「悪意しかない紹介ありがとう御座います。ユーキ様。ご紹介に預かりましたカノン・ゲロクォです。頭のネジが二三本ふっとんでる、この頭可笑しいユーキ様の下僕を務めてます。宜しくどうぞ━━━━は、しなくても良いですよ?あんたからは厄介ごとの匂いしかしないんで、寧ろ早く居なくなって下さい。」

「こらゲロ子!」


 あまりの言葉に叱りつけると、ゲロ子は舌打ちして視線を逸らした。子供みたいな事をしてっ!まったく!


「ちっ。なんですか?本当のことを━━」

「お前はカノン・ゲロクォなんてちょっとお洒落感漂う名前じゃない!ゲロ・ゲロ子だ!!何いい感じに変えんてんだ!!戒めの為のそれをお前っ━━━お前のアレを処理したメイドさん達に謝れっ!!」

「そっちこそ見逃して下さいよ!!」


 涙目で名前の訂正を求めてくるゲロ子。

 気持ちは分からんでもないが・・・認めてやらない!!

 何故ならこれは、戒めなのだから!!いつから戒めになったか知らないけど!!


「そもそもですよ!人間様につける名前じゃないじゃないですか!ゲロって!ゲロってあんた!あたしどんな気分で自己紹介するか分かりますか!?はぁい!あたし吐瀉物なの♪きゃぴ♪宜しくゲロゲロ♪━━━ってアホか!!ふざんじゃ無いってんですよ!!」

「世界で一つだけじゃん!!オリジナルティ溢れてる貴女だけのたった一つだけの名前じゃん!誇ったらいい!!」

「戒めっつっといて、何を誇れって言うんですか!?」


 くっ、こやつ揚げ足をとってきおったか。

 小癪なり、ゲロ子。


「あーちょっといいかい?」


 ゲロ子と言い争っているとサラーニャが間に入ってきた。

 物理的にも。


「ゲロ子でもゲロクォでも何で良いんだけどね。」

「「何でも良くない!!」」

「あたしからすりゃどっちでも良いんだよ。ちょっと黙ってな噛むよ。」


 噛まれたくないのでお口をチャックする。

 ゲロ子も俺と同じらしく口を閉じた。

 その様子を見たサラーニャは話を続ける。


「ユーキ。これは強制じゃぁない。あんたが答えたくなきゃ答えなくても良い。」

「む、それで良いのか?」

「構いやしないよ。あんたの様子見てりゃ大体察しはつくだろうしね。夜会の時、あんた魔力を爆発させて飛ぶように移動したね。あれは誰に教わったんだい?」

「む?」


 爆発させて、飛ぶように?ブラストの事か?

 教わった訳じゃ無いんだけど・・・他のって訳でもないよな?


「ブラストの事か?」

「ブラストって言うのかい、あれは?」

「うん?まぁ、な。他に呼び方があんのかは知んないな。だってあれは俺が考えた奴だからな。」


 そう言うとサラーニャの顔が曇った。


「どうした?」

「宛が外れて、拍子抜けしただけさ。まぁ、あんたの様子見てりゃ、違うんだろうなってのは予想はしてたけどね。聞くとがっかりするって言うか・・・はぁ、あたし勝手な話さね。気にしないどくれ。」


 大きく溜息をついたサラーニャは頭をワシャワシャと掻く。

 どうやらブラスト自体ではなく、それに関連する何かについて聞きたかったようだ。


「他にもこれを使ってる奴がいるのか?」


 俺のオリジナルとは言っても、特別難しい事をやってる訳ではないので魔力の扱いに長けた者であれば出来る芸当だ。前例が存在する事はそう珍しくもないだろう。

 これが元いた世界でなら常識外れの見技なのだろうが、何千年もの間、魔力をごく一般的な力だと認識してる世界なのだから無い方が不自然だ。


 俺の問にサラーニャは頷いた。


「見た感じはそっくりだったよ。原理がどうのってのは分からないけどね。それを見た当時は、原理云々なんか気にする余裕はなかったんだよ。」

「そっか。それで、誰が使ってたんだ?」

「魔人だよ。あの時、会合の最中、話にあがった例のね。」


 そう言われ頭に過ったのは、記憶にも新しいその者の名前だった。


「魔人・・・ヴィッシュドビーフ。」

「何ですか、その何処と無く食欲をそそる名前。」


 ・・・・・・ぬぅ。

 なんか、ゲロ子もサラーニャも違うって顔してくるな。

 ゲロ子に至ってはつっこんで来てるし。


「魔人・・・ヴィッシュドポーク。」

「ユーキ様。後ろの文字変えても意味ありませんから。根本的に間違ってるんですよ。ヴィしかあってませんからね。」


 ・・・・・・ふむぅ?何だっけか。


 首を捻って考えていると、ゲロ子が肩を叩いてきた。

 凄く呆れた顔してる。これは、答えを知ってる感じのやつだ。むかつく。


「━━━はぁ。魔人ヴィシャスブェルデスですよ。騎士王っていった方が分かりやすいですかね?」

「ああ、ヴィさんか。」

「ヴィさん?!天下の魔人様を、なんつー呼び方してんですか!?」


 会合の時に聞いた名前が長過ぎるから略して覚えていたせいで、ヴィしか知らなかったんだよね。うはは。

 てか、改めて聞いてもなげぇな。覚えられなそうだ。


「はははっ!!ヴィさん、ねぇ。あれもまさか、そんな呼び方されるなんて夢にも思わないだろうねぇ。」

「そうなのか?でも、割と愛されキャラ何だろ?」


 支持者も多いと聞いてたのだ。

 あだ名や愛称の一つのや二つありそうなもんだろ。


「まぁ、確かにね。━━━あたしも、面倒なしがらみさえなきゃ、一人の戦士として素直に尊敬も出来たんだろうけどね。」

「しがらみ?」

「家族をね、殺されたんだよ。あいつに。」


 何気なく吐かれた言葉に少し面食らったが、サラーニャの涼しい表情に下手な慰めの言葉を掛けなくて良いことを悟り、「そっか」とだけ返す。

 するとサラーニャはそんな俺に苦笑した。


「ありがとう。それと悪かったね、変な気使わせて。」

「ううん、別に。落ち込まれても何言って良いか分からないから、元気でいてくれて良かった。」


 現世でも前世でも、俺は身近な人に先立たれた事ないからな。

 前世の爺さん婆さんは俺が生まれる前にとっくに死んでたし、親父達が親戚付き合い殆どしてないから、親類縁者の葬式も出たことないしな。こっち来てから始めてリアル葬式したくらいだ。


 寧ろ先立った側だしな。俺は。

 掛ける言葉なんてちっとも思い付かんよ。


「やっぱり復讐系か?」

「そうやって軽く言われると馬鹿らしくなっちまうね。はは。まぁ、そんな所さね。でも別に殺してやりたいって訳でもないのさ。そうだねぇ・・・・ケジメって言うのかね。あたしはね、死んでった家族の為に、手向けをしてやりたいんだよ。あいつを力一杯ぶん殴ってやってさ。」


 ブンと振られた拳は空を切り裂いた。豪風が頬を撫でる。

 これで軽くなのだから、力一杯ぶん殴ったらさぞ大変な事になるのだろう。手向けになるかどうかは差し置いて、殴られる魔人さんは可哀想である。


「━━━まぁ、そう言う訳でさ、あいつの弟子とかだったら弱点とか隙とかを教わって、ケジメをつけにぶん殴りに行こうと思ってた訳なんだよ。悪かったね時間とらせて。」

「気にしなくて良いぞ。暇だったし。て言うか、そう言う事ならブラストの事教えようか?魔人の事は知らないけど、似たような技使うなら練習になるんじゃないか?」


 俺の提案にゲロ子とサラーニャは目を丸くした。

 ふむ?何故驚く。


「ちょっ、ユーキ様!あれ奥の手じゃ無いんですか!?そんな簡単に教えるなんて何考えてるんですか!?」

「そりゃ、あたしは嬉しい限りだけどね。本当に良いのかい?」


「別に良いぞ?」


「ユーキ様!!」

「ユーキ、あんたって奴は━━」


 別に奥の手ではないしな。どっちかと言えば、召喚術の方が隠しておきたい方だし。

 魔力を使える奴ならいずれ覚えるであろうブラストを教える事に思う事もないしな。早いか遅いかの違いしかないもん。

 それにしても、何この動揺っぷり。


「でも、流石にタダじゃないからな。」


 幾ら慈悲深き俺とは言え、タダなんて事は言わない。勿論有料だ。

 タダより高いものはないのだから、これは慈悲ですらある。ふふふ。


 俺の言葉に、サラーニャは頷いてくれた。


「ああ、あたしもそこまで厚かましくかぁないよ。払えるもんなら払う。だから頼むよ。」

「うん、うん。」


 良かった、断られなくて。

 ゲロ子はまだ何か言いたそうにしていたが、こんなチ・ャ・ン・ス・は逃せないので口に人差し指を当てて黙ってなさいと暗に告げておく。不満そうな顔だが分かってくれたようだ。


「それで、何が欲しいんだい?」

「尻尾。」











「━━━━は?」


 きょとんとするサラーニャに、俺は対価要求を続ける。


「耳、顎下、首筋、頭、鼻先、肉球。」

「え?ちょっ、え?あんた何を━━━」

「モフモフして、ワシャワシャして、ナデナデして、フニフニしたい。」

「はぁ?!なんだいそりゃ!」

「端的に言うと、まさぐらせて。」

「なんて要求してくるんだい、あんた!!」


 それまで辛うじて大人な雰囲気を出していたサラーニャが、酷く狼狽え出した。毛で覆われてるから分かりずらいけど、何処と無く頬が赤くなってる気がする。

 なんだろ、照れんのかな?


「お願い、ニ時間だけで良いから。」

「ニ時間も!?」


 もっと狼狽えてしまうサラーニャ。

 本当は一日中したい所を我慢してるのだから、これくらい頷いて貰いたい所だ。


「ユーキ様、然り気無く要求がエグいです。」

「ええーーーー。・・・んじゃ、一時間。もうまからん。」


「一時間も!?」


 全然頷かないな、この人。

 さっきの男より男らしい姿は何だったのか。

 ここは発破を掛けねば駄目かな?


「そんなものか!」

「はっ?な、なんだい、いきなり・・・。」

「家族の為に手向けをするっていう、サラーニャのその気持ちは。こんな事で諦めてしまうような、そんな安い物だったのかと聞いている!!」

「っ!!そ、それはそうなんだけどね。でも、これは━━」


 両手でテーブルを叩き、サラーニャの言い訳を止める。

 そして更に言葉を畳み掛けていく。


「嘆かわしいぞ!こんな事で、チャンスを棒に振るなんて!!少しの間、たった一時間我慢するだけだぞ!それも出来ないなんて、ケジメが聞いて呆れるぜ!お前の覚悟は!お前の決意は!そんなに安上がりなのか!!」

「その一時間が死ぬほどエグい訳ですが。」

「しゃらっぷ!ゲロ子!!」


 要らぬチャチャを入れてくるゲロ子にお口チャックを要求し畳み掛ける。


「そんなサラーニャの覚悟なんてな、お夕飯を食べる為におやつのアレク芋を我慢する俺の意思にも劣るぞ!!恥ずかしくないのか!!」

「流石にそれには勝てるでしょうよ。てか、その脆弱な意思は基本的に負けっぱなしじゃないですか。昨日も食べましたよね?」

「しゃらしゃらしゃらっぷ!!ゲロ子!!」


 しつこいゲロ子にお口チャックを強めに要求し更に畳み掛けていく。


「良いのか!そんなんで良いのか!?負けんなよ!サラーニャなら出来る!出来るって!諦めんな!」

「ユーキ様はやりたい事を前にすると、途端に畜生に変わりますよね。なけなしの思いやりは何処に行ったんですか?」

「しゃらっぷって言ったろ、ごらぁ!!!!」

「おふぅっ!?」


 黙らないゲロ子のおでこ目掛け、渾身の力を込めてデコピン。

 スパーキングしてやる。

 のたうち回るゲロ子を横目に、俺はサラーニャの手を握り熱い視線を送りながら熱く畳み掛けた。


「サラーニャ!チャンスはそうそうやってこないんだぞ!!やる時やんないと、手に入らない物だってあるんだ!これが、そのチャンスかも知れないんだぞ!!」

「でも、な。その、尻尾は━━━と言うかだな・・・」

「サラーニャ!!」

「~~~~~うぅ!!くっ、分かった!!あたしも一端の女だ、覚悟を決めるよ。好きなだけ触りな!!」

「やったー!」












 こうしてサラーニャのモフリ権を獲得し喜んだ俺だったが、後にこの行為を深く後悔する事になった。


 少し考えれば分かる事だったのだ。

 サラーニャが会合の時、誰と一緒にいたのかを考えれば。

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