機甲兵団と真紅の歯車 65・ふぁんとむ仮面と嵐を呼ぶ金と青
「ふはははっ!!ドラゴンのヌブ、ハウンドウルフのピグ、グリフォンのオードロック、ソードラットのゲトー、四支柱を倒したらしいがいい気になるよ。奴等は所詮雑魚。前座を湧かす程度の働きすら出来ぬ圧倒的弱者!!案山子程度の役立たずよ!!聞け!そして瞠目せよ!我こそが最強の一支柱『漆黒の牙ブラックファング』の大幹部!!剣王獣ガオラ・マジェス━━━━」
あまりにも長い口上を無視し、蹴りを剣王獣様の腹部へと放つ。すると剣王獣様が色んな物を垂らしながらお星様へとジョブチェンジなさった。━━━まぁ、本当の所は天井に突き刺さっているので、空に消えていった訳ではないけど。
「ガオラ様がやられたぁーーー!!」
「あの人最強じゃねぇのかよ!?嘘だろ!?」
「本部からの精鋭って話はなんだったんだよ!!」
「あぁ、罰なんだ、これが罰なんだ。ごめん、ごめんよ、かぁちゃん。」
剣王獣様の無惨な姿に手下チンピラ達は口々に吠えたが、直ぐに今の状況を思いだし身を震わせながら恐る恐ると言った様子で俺に振り替える。どいつもこいつも、目に恐怖を浮かべながら股下をホカホカにしていく。
俺は顔に張り付けたソレが取れないか確認してから、いつか使おうと温めていたそのポーズをとり腹の底から声を出した。
「お天道様が見逃そうと、お月様が見過ごそうとも、星の煌めき味方につけて暴きたてよう悪逆非道!」
「・・・・」
「救いを求める声あらば幾千里も飛び越えて、東へ西へ北へ南へ神出鬼没に疾風迅雷!!」
チラリと皇国人に視線を向けると、予定通りの「神出鬼没に疾風迅雷」という復唱が返ってくる。悪逆非道の所で復唱がなかったから、この件が終わったらどうしてやろうかと思っていたが、二回目はやってくれたので勘弁してやろう。
俺は胸の前で交差している腕を腰まで持ってきて、シュピッと右腕だけ空に掲げた。
「素敵に勝手に人助け!気分で殴るぜ無法の悪党!ここに見参、ここに爆誕、美少女戦士ファントム仮面!!」
ブラストを使い背後に爆発のエフェクトを発生させ、俺の登場シーンは完璧過ぎるくらいに決まった。爆発の光で銀の兎仮面が輝いたのも良い感じだ。立ち並ぶチンピラ達の様子を見れば登場シーンがばっちりなのは一目瞭然である。存分に恐れおののくがいいぞ。むはは。
「いくぞ、スネーク仮面!!ついてこーい!」
「━━━━ん、まぁ、長いものにはなんとやらと言うしなぁ。了解しましたファントム仮面。」
時は少し遡る。
それはチンピラーズを全員叩きのめし、敵アジトに向けチンピラの一人を引きずり回している時だった。
俺はふと気づいたのだ。現状行っている自らの行動は、死ぬほど目立つんじゃ無いだろうかという事を。
それは今更と言えば今更なのだが、それでも出来るだけ目立たない方向でいきたかった。アルシェにも言われたし、何より俺自身、必要以上に知られるつもりはないのだから。
なら止めるか?いやいや、それはヤダ。やると決めた以上、止めるのは癪だ。やるったらやる。でもやったら、目立つ。不本意に目立ってしまう。ならどうすれば良いか。
俺は悩んだ。凄く、とても、悩んだ。
止めるのはヤダ。でも、やってしまうと目立ってしまう。
どうすれば。
そうして悩み事数分。
俺はふと眺めた先に答えを見た。
酷くボロボロになったお面を被る、一人の孤児の姿を見て。
瞬間脳裏にあの日、リビューネと行ったあの夜会の光景が浮かんだ。
踊るリビューネ、美味しい料理、笑顔が怖いアルシェ、ツンデレ、大型の小動物系令嬢エヴァンモーリオン。
そしてお面を被った、可笑しな闖入者の姿が。
俺は皇国人に見えないようにムゥを召喚し、コッソリと糸でお面を作って貰った。糸と聞くと柔らかそうに聞こえるが、言わずもがなムゥの糸は強度も硬度も性質も自在に変えられるので、そんな心配はナッシング。きっちりムゥが編み込めば、完成品は鋼鉄より堅くかつ軽い一級品のお面が出来上がる。
編みでお面が出来るとか、言ってて違和感が半端ないが、まぁ、出来てしまうのだから仕方ない。仕方がないのだ。
出来上がったのは兎仮面と蛇仮面。
男に兎仮面をつけさせるのは敵とはいえ流石に可哀想だと思い蛇仮面は奴に、兎仮面は俺がつける事になった。
これで身バレしない。天才か、俺。
因みにお面の形はムゥに完全にお任せした結果だ。
つまり俺の趣味ではないと言うこと。これだけは覚えていて欲しい。可愛い兎より、虎とかのが良かった・・・ちゃんと頼めば良かったナリ。
そんなこんなでお面を被り正体を隠し俺は、美少女戦士ファントムという偽名を名乗りチンピラのアジトに乗り込んだのである。
通路を塞ぐように並ぶチンピラ達をブラストやスパイルの練習台にしながら、千切っては投げまた千切っては投げを繰り返し、施設の奥へと突き進んでいく。
重苦しい頑丈な扉はどーん。
立ちはだかるチンピラもどーん。
怪しげな装置もどーん。
怪しげな荷物もどーん。
隠し扉もどーん━━━━お、おお!お金が、お金がいっぱいある。うわぁ、億万長者になってしまう!アイスがいっぱい買えてしまう!全種類大人買いの夢が━━━━あ、いや、まぁ、取らないけど?泥棒じゃないから、取らないけどね!?懐から戦利品を拝借するのとは━━━いや、預かっておくのとは訳が違う訳で・・・でも、少しだけなら?━━━━いや、いやいや、いや!どーん!
あいつもこいつも、そっちもこっちもどーんして行くと、見るからにボス部屋らしき所へ辿り着いた。
折角だから扉を華麗にぶち壊して入ろうとしたが、スネーク仮面が普通に扉を開けてしまったので、仕方無しに普通に入った。
許すまじ、スネーク仮面。
部屋の中には入ると隅っこで震える首輪のついた女の子と、椅子にふんぞり返るチンピラが目についた。ふむ、どうやらボスは逃げた後だったらしい。
「て、めめぇら!なんだ!オレを誰だかっ、わかってやがるのか!」
チンピラが吠えてきた。なんぞ。
視線を向ければチンピラの肩がびくりと跳ねる。
「やめろっ!お前らっ、お、おれ!オレ、オレに手を出すと、後悔する事になるぞ!!」
後悔?まじか。え、もっと後悔するの、俺?
ぶっちゃけて言うと、最初のオッサンを殴り倒した時からずっと後悔してるから、そんな事言われても今更なんだけどもさ。
でもそれを教えてやるのも癪なので、「そっか」とだけ返しておく。
「オレ達のバックに誰がいるか、知らねぇんだろ!!ええ?!北方の闇の支配者『ディボンズファミリア』の最高幹部、サーチェス・リキネ・ルドワール様だ!!どうだ、おい!!」
何かほざいているが、そんな事はどうでも良いので聞き流しておく。
そんな事より部屋の隅っこで震えてる首輪の女の子達が気になって仕方がない。殆ど裸のような格好の彼女達をよく見れば、乱暴されたのか青アザがあったり擦り傷があったりと、大切に扱われていないのが嫌でも分かる。胸くそ悪い。
喚きたてるチンピラを無視して眺めていると、仮面越しに一人の女の子と目があった。二人の女の子に守られるよう、影に隠れる女の子。生気のない瞳に、僅かばかりの恐怖の色を浮かべた、そんな女の子だ。
「━━━━はぁ。」
俺はチンピラへと視線をやった。
すると調子良く喚き立てていたチンピラの肩がまた跳ねる。
「ここで一番偉い人って誰?」
「はっ━━━━はぁ?な、何言って━━━」
ブラストをチンピラの顔面、腹、股間にぶちかます。
威力を殺してあるので死ぬことはないが、悶絶級の一撃である事にかわりなくチンピラはのたうち回る。
苦しむチンピラの胸ぐらを掴みあげ、今度はちゃんと聞こえるように耳元で訊ねた。
「ここで、一番、偉い人って、だぁれ?」
今度はちゃんと聞こえたのかブンブンと頷いてくれた。
聞こえてるアピールは良いのだが答えになってない。
なのでブラストを腹に叩き込み、落ち着いてくれた所でもう一度訊ねる。
「ここでぇ、一番ん、偉い人ってぇ、だぁぁれ?」
「お、おれです!!おれが、一番偉いですぅ!!だから、もう、勘弁してくれよ!!」
・・・・おおぅ。まじか。こいつがそうだったのか。あんまりのチンピラ臭で分からなかったぜぃ。━━━ん?という事はさっき頷いてたのは、別に答えてなかった訳ではなくて、俺ですアピールしてただけなのか。なんだ、紛らわしい。
「まぁいいや。それじゃ、お話しようか。」
「は、はいぃぃぃ!!しますぅ!なんでもします!!」
何でもはしなくて良いんだけども。
「まずはちょっと聞きたい事があるんだけどさ、良いか?」
「はいぃ!はいぃぃぃ!何でも答えますぅ!」
「あそこの子達って何?」
その問いにチンピラは固まった。
俺の言葉をどういう風に受け取ったか知らないが、顔を真っ青にさせガクガクと震え出し、「あ」とか「う」とかしか言わない所から録な答えが返ってこない事が分かる。
「すいません!すいません!!知らなかったんです!!下の者が勝手にした事で!!直ぐに調べさせますんでっ、時間を下さい!!必ず、必ずお探しの方は!!だから、命だけはっ!!」
話が見えない。何言ってんだろうか。
「はぁ?」
「すいません!すいません!本当にすいませんでした!!必ずお探しの方を、連れっ、連れて、だから!」
━━━━ぬ?もしかしてコイツ、俺が誰かを助けにきたとか思ってる?そういう事じゃないんだけど━━━てかコイツ、さっきの本気で言ってんのか?
「なぁ、あのさ。」
「は、はいぃぃぃ!!」
「連れ戻してくれば良いって、それで全部終わるって、本気で思ってるの?」
チンピラがこれ以上ないほど蒼白する。
呼吸することすら忘れ、口を開いたまま冷や汗を流すだけのマシーンと化してしまう。
そんなチンピラに俺は続けて訊ねる。
「柄じゃないから、あんまりこんな事は言いたくないんだけどさ、それでもさ言わないと気が済まなそうだから言っとくぞ。━━━━ふざけんなよ、馬鹿野郎がっ。」
「あ、は、はいひぃ━━」
「これからあの子達が、何を思って生きていくか、考えた事あんのか?ないだろ、だからそんな事言えるんだ。」
この世界にはこの世界のルールがある。価値観がある。それを他所からきた俺が否定するのは、きっと間違っている。
この世界の文化はこの世界で生きてきた連中が一つ一つ積み上げてきた結晶で、この世界での答えなのだから。
でも、それでも、譲りたくない物だってあるのだ。
世界がどうだとか、世間がどうだとか。そんな者を気にしすぎたお陰で、俺は、トウジは後悔しか残らない人生を過ごしてしまったのだから。
だから━━━━━
「ボケナス野郎がぁ、お星様になって反省してこいや!!」
「ひぃっ━━━━━━っぎゃぁ!?」
━━━━思いっきり殴ってやろうと思うのです。
強化した俺の拳をまともに受けたチンピラは、一瞬で天井にぶら下がるオブジェへと変わる。
俺的には何度も見ている光景なので気にならないが、女の子達には衝撃的だったのかすっかり怯えられてしまった。突き刺さる怯えた視線が辛い。
どうしようか迷っていると、スネーク仮面が女の子達へと歩出た。びくびくと震える女の子に、スネーク仮面は中腰になりそっと手を差し出した。
「安心していい。助けにきた。」
そっと囁くような優しい声に、少女達の中で一番年上そうな子が怪訝そうに見つめ返す。スネーク仮面はゆっくりとした動作で仮面をとり、曝した顔に優しげな笑顔を浮かべる。
「大丈夫。」
一言だけ告げると延ばした腕で怪訝そうに見つめていた少女の頬を撫でた。一瞬身を固めたようだったが、その触り方やスネーク仮面から発せられる優しげな雰囲気に気を緩ませていった。
それから彼女達が安堵からその頬を濡らすまで、そう時間は掛からなかった。
他にも拐われたらしき人達がいるとの事で、施設探索を続行する事にした。見つけ次第スネーク仮面が無駄に高い包容力で落としていく方向である。スネーク仮面は嫌がっていたが、ここまでやってきて拒否など認めぬ。
因みに助けた少女達は連れていこうか迷ったが占領したボス部屋で僕らのアイドルムゥたんとヤヨイとでお留守番である。何があるかも分からないし、何を見せてしまうか分からなかったので仕方なし。
部屋のドアをどーんしながら歩いていると、スネーク仮面が小さく溜息をついた。何故に溜息なんかついてるのかと不思議に思い視線を送ると、スネーク仮面の視線がこっちに向けられていた。
おおう。おまっ、誰の事見て溜息ついとるんじゃい。
「・・・なんだよ。」
「いや、難儀な生き方をするものだと、そう思ってな。」
「む?」
何処か難儀じゃい。結構好き勝手にやってるぞ。
「君は優しすぎるな。」
「はっ?」
そっと呟かれたそれに、背中がぞっとする。
手に変な汗かいてきた。
「なんだよ、いきなり・・・。気持ち悪い。」
「いや、ただの一人言だ。気にしなくていいさ。」
「むぅ、なんなんだよ、本当に。」
スネーク仮面の発言が気にはなったものの、何か余計な詮索までされる気がしたのでその話はそこで終わりにした。
そんな事よりもやることがまだまだ残っているので、そちらの話をするのである。
「あ、調べ終わったら、のしたチンピラ全員橋に吊るすから手伝い宜しくな。」
「前言を撤回して良いかな。君は恐ろしく残酷だな━━━ぐっ!?」
失礼な事をいってきたので脛を蹴ってやった。
吊るすだけなのだから何が残酷か。奴隷に落とされたり、殺されるよりよっぽどマシだろう。慈悲だよこれは、慈悲。
まぁ、真っ裸に剥いて晒すつもりだから、面子が大事な裏社会では生きにくくなるだろうけどさ。ぷんぷん。
◇━◇
ユーキの後を追いかけてやってきた下界層は、目も背けたくなるような、そんな場所だった。
生気のない人々。崩れた家々。得体の知れないナニカが散らばった石畳。うっすらと漂う鉄臭さ。
そして充満する悪意の影。
天界層の華やかさや裕福さは、そこには欠片だって見られないのだ。
私は歯噛みしながらそこへと迷い込んだ少女を思う。
強い事は知っている。だが、そう言う問題では決してない。強くてもまだ幼い子供なのだ。
不安でない訳がない、怖くない訳がない。何れだけ心細い思いをしているか、考えるだけで己の愚かさで頭が可笑しくなりそうになる。
「待っててね、ユーキ親びん。」
腰に納めた剣の柄を握り、私は下界層への深みに身を沈ませた。
ゴミの掃き溜めのような其処でユーキ親びんを探すこと暫く。
孤児らしき子供に暴力を不届き者達を倒すと、ユーキ親びんらしき人物の情報を得ることが出来た。何でも少し前、赤髪の少女が『漆黒の牙』と呼ばれる犯罪集団の一味に絡まれていたらしい。そして長身の黒髪の男に連れていかれたのだと。
どうしてそうなったか訊ねてみたが、その理由までは分からなかった。ただ、最近、漆黒の牙と思われる連中が天界層・下界層で頻発に人拐いを行っているという噂があるらしく、それではないかと言っていた。
確かにもしそれが本当の事であれば、ユーキ親びんが容姿から狙われた可能性は高い。何せユーキ親びんは大人しくしてさえいれば、それこそどこぞのお姫様かくもやといった美貌を持っているのだ。初めて見たときはそのあまりに整った容姿から人形かと思ったくらいだ。
結局その不届き者から聞けたのはそこまで。
私は不届き者達を適当に痛め付けてから、二度と子供達に暴力を振るわない約束を取り付け、その場を後にした。
それからも見かける悪党を成敗しながら情報を集めていく。
そして少しずつ集まっていった情報を元に、とうとう漆黒の牙のアジトを見つける事に成功した。
下界層より更に下。船着き場に近い所にあるそこには、見てわかるくらいにた悪意が犇めいていた。施設を取り囲む男達はどれも血生臭さが染み付いて、暴力に長けた者達である事が嫌でも分かる。
私は手荷物を確認してから腰から剣を抜き出す。
とーくんが用意してくれたファルシオンは星の僅かな光を反射して、その鋭さを私に見せてくれた。新調仕立てどれだけ使いこなせるか分からなかったが、この様子ならとーくんの言葉を信じて振っても良さそうだ。
「今夜は宜しくね。」
相棒のとーくんには都市内では決して抜かないように言われているし、何より魔物の討伐用の剣を人に使うのは些か気が咎める物がある。出来れば使わなくて済めばいいのだけど。
抜き放った剣を鞘に納め見張り達の前に立つ。
後ろめたい事がない以上、堂々と訪ねるべきだからだ。
「夜分遅くに失礼するよ。私はシーリス・アルブ。しがない旅の剣士だ。」
「はぁ?」
怪訝そうな視線を送ってくる見張り達に続ける。
「一つだけ訪ねたい事があるの。私は人を探している。赤髪の女の子。貴方達、何か知らないかな?」
「女・・・━━━━っ!!てめぇまさかっ!!」
見張り達は何か見に覚えがあったのか顔色を変えた。
身構えた見張り達の様子から話し合いでは済まなさそうな雰囲気を感じる。
「ちっ!急いでボスに伝えろ!!何処誰だか知れねぇが、嗅ぎつかれた!!」
その声を皮切りに、重々しい扉が開かれ武器を持った男達がワラワラと現れた。
どう楽観的に受け取っても暴力で対話するしかない状況に、心の中でとーくんに謝ってからそっと剣を抜いた。
そんな私に見張りは怒号を発する。
「てめぇら、生きて返すな!!」
獣のような咆哮で返事を返す男達に、息を吐きながら剣を構える。
「ごめんね。この人数相手じゃ、手加減はしてあげられない。」
トン。
そんな間の抜けた音と共に踏み込み降り下ろした剣は、何の抵抗も受けずに迫っていた先頭の男を、真っ二つに切り裂いた。構えていた剣もまとめて。
一瞬の事に反応出来なかった周囲の男達の視線が二つ分かれ倒れた男に集まるのを見ながら、私はもう一度ソレを口にした。
心からの言葉を。
「ごめんね。だからせめて、苦しまないように一刀で必ず切り落とすから━━━許してね?」
◇━◇
「正門に襲撃!!予備部隊は直ぐに加勢に出てこい!!」
そんな怒号が目の前で飛び交う中、通路の警備を担当するその男は他人事のように呆れていた。
正門に向けて走り去る兵隊達を眺めながら「弛んでるねぇ」と口にする。
「おい、声がでけぇぞ。ありゃ、ボスのお抱えだぞ。幹部連中に聞かれたらどやされるだけじゃ済まねぇぞ。止めとけ。」
自分と同じく警備を担当する男の叱責をを受けてもその顔は締まる事はなく、逆に憐れむかのような表情を浮かべる。
その様子にカチンとくるものはあったが、暫く共に仕事をしてきた相棒の身を気遣えばこそ理解して貰いたく、小言とは思いながら続きを口にする。
「おまえな・・・・たく。知らねぇ訳じゃねぇだろ?この間ゲトー様の陰口叩いてた奴がどうなったのか。」
「そりゃな。あー分かったからそんなこぇ顔すんなよ。しっかし何処の馬鹿が来たんかね?」
「他所者だろ?ウチのバックについてる人達を知ってたらこんな真似する訳がねぇよ。大方あの件で関わった奴じゃねぇのか。」
その言葉に軽口を叩いてた男が片眉をあげる。
「あの話ってマジなのかよ。他所のシマだぜ?」
「らしいぞ。だから、ファミリアには目つけられてるらしい。最近は動きずらいらしくて、天界層は手が出ねぇとなんとかってピグさんが言ってたの聞いたぜ。」
「うわぁ、本当なのかよ。それでも何も起きてねぇってのは、やっぱりあの人達か?」
「だろうな。ファミリアもでけぇけど、ウチのバックの方がずっとでけぇからな。」
改めて自らの所属している組織の大きさを知って男達は身震いする。一度その矛先が此方に向くような事があれば、それこそ骨も残らないだろうと、そう思って。
「━━━はぁ、この話は止めだ、止め。うっかり誰かに聞かれでもしたら、首跳ねられちまうよ。」
「だな。ここは大人しく警備に勤しむとするか。━━━━あ?」
男が気を引き締めたその時、視界の中に見慣れぬ物が入ってきた。それは窓の外、空にぽかんと浮いた黒い影。
突然現れたそれに男は首を捻る。
「んだ、ありゃ?」
ぼうっと眺めていると、少しずつその影が大きくなっていくのが分かった。 そしてそのまま眺めていると、それが単体の何かが作る影ではなく、密集する何かの群体が作り出す歪な影である事が分かってしまった。
男は背筋に寒い物を感じ「ひいっ」と悲鳴をあげた。
もう一人もその声につられ窓の外を眺め、同じように悲鳴をあげる。
男は見てしまった。
直ぐ側まで迫るそれが、何かを。
「ひぃやぁ!ばっ、ばけもっ━━━!!」
悲鳴をかきけす様に、硝子の破砕する音が、夥しい数の羽音が、風を伴う嵐のような轟音が響く。
一瞬にして廊下を黒で満たしたそれの中に、一つの青の姿が見えた。ゆっくりと立ち上がる青は、金色に輝く前髪を軽く払い、赤に輝く二つの眼で周囲を見渡す。
「ふむ、まだ壊滅はしておらぬな。重畳である。」
廊下での騒ぎを聞き付けた者が集まる中、青は何処からか取り出した杖をつき眼前に立ちはだかる者達を面白くなさそうに睨みつけ口を開いた。
「命をとして足掻け。一秒でも長く生き延び、その力を振るえ。その身がある限り尽力せよ、人間。容易く死んでくれるなよ。我が有能である事を、王に証明する為にもな。」
怪しい光を灯した杖が、戦いの火蓋と共に降り下ろされた━━━━。
おまけーーー( *・ω・)ノ
ユーキさんとゲロ子が料理するってよ
の
コーナー
ユーキ「はい、と言う訳なので料理するよ」ジャジャーン
ゲロ子「どう言う訳なのか詳しく」
ユーキ「暇だったから!!」クワッ
ゲロ子 (ほんとしょうもない)
◇━◇
ユーキ「そう言う訳だから、ゲヒルト邸屈指の料理人、コック長のおっさんに来て貰いました!」ドウゾー
コック長「どうも」カチャカチャ
ゲロ子「呼ばれてから来ましたって体でしょうけど、ずっといましたよね?そこで調理器具の用意してましよね?てか、今も用意してるし!」
コック長「そんなまさか」ビックリ カチャカチャ
ユーキ「呼ばれてから出てきてるに決まってるじゃまいか」オバカサンダネー
コック長 ユーキ「あっははー」HAHAHA カチャカチャ
ゲロ子「どんだけノリが良いんですか。てか、この屋敷の人ユーキ様に甘過ぎじゃないですか?孫ですか?孫なんですか?」
コック長「━━━へへ。妹、かなぁ」アタタカイメー
ゲロ子「まてまて、無理があるだろジジィ。おい、こっち見ろジジィ。ロリコンジジィ、こら」
◇━◇
ユーキ「なに作ろう~、なに作ろう~♪」ワクワク
コック長「右手にナイフ、左手にアレク芋♪」ワクワク
ゲロ子「・・・」
コック長「ニューベル産ドラゴンロースの炙り、春風の香り仕立てソースとふかしたアレク芋を添えて」ドヤァ
ゲロ子「料理なめんな━━━てか、せめてアレク芋をメインにして下さいよ」
コック長「メインにアレク芋を使うとは言っていない」ドヤヤァ
ゲロ子「ユーキ様に大分侵されてますね」
ユーキ「うまし」パクパク
ゲロ子「はい、はいはい。こっちはこっちで自由ですね。もう。食べない、食べないで下さーい。料理したかったんでしょうあんた」
ユーキ「うまし」パクパク
ゲロ子「少しは聞く耳を持ちましょうか?あぁん?」
◇━◇
コック長「まずは簡単な料理から覚えていきましょうか」
ユーキ「了解!」ビシィ
ゲロ子「やっと始まりそうですね」
コック長「ではユーキ様、ユーキ様が自分で出来る事を教えて下さい。野菜を切った事があるとか、肉を焼いた事があるとか、何でも良いですよ」オシエテオクレヨー
ゲロ子「経験の有無は割りと大事ですからねぇ。ロリコンだけど意外とちゃんと教え━━━」
ユーキ「ないぞ」キッパリ
コック長 ゲロ子「!?」
ユーキ「あ、カップ麺なら作れる」ソウダッター
コック長「それは、どういった料理ですかな?」
ユーキ「ん?えっとな、具材が入ってるカップの蓋明けて、お湯を入れる料理。大体三分で出来るんだ。因みに、俺は二分くらいの硬麺が好きだ」ドヤァ
コック長 ゲロ子「・・・・」
ユーキ「・・・?」
コック長「今日の所は撤収という事で」アタタカイメー
ユーキ「うえ!?」ビックリー
コック長「玩具の包丁をあげる所から始めようと思います」
ゲロ子「そうして下さい」
ユーキ「??むむ?」イモパクパク




