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機甲兵団と真紅の歯車 64・混沌だよ下界層

「凶悪で幼児愛好な変態と、間抜けな痴女の二人組が、少女の誘拐未遂を犯した!現在目撃者を探している!!見たものはいないか!」


 ユーキを探しながらシーリスと街を駆けていると、青い外套を纏った警備兵らしい者達がそう声をあげていた。

 あたしはそれを通り過ぎ様に聞き、外見の情報が含まれてない事を心底ホッとする。ツインテールが広まってなくて良かった。


「酷い!私は馬鹿でアホで間抜けなだけなのに!なんでゲロ子さんのが混じってるの!?」

「うるっさいんですよぉ、馬鹿でアホで間抜けなシーリスさん。エロとお人好しも忘れてますよ。━━━てか、あんたはまだマシでしょうが。あたしなんて、何にもしてないのに凶悪犯の人拐いにされんすからね。」

「それはだって、ゲロ子さんが目付き悪いから。」

「何でも正直に言えば良いってもんじゃ無いですからね?鋼の心なんて持ち合わせてませんからね?傷つかないとでも思ってんですか?ええ?」


 耳障りな言葉を紡ぐ民衆を掻き分けユーキを探すこと暫く。探せど探せどユーキの足取りは掴めず、あたしとシーリスは似ような場所を行ったり来たりしていた。


 当初はどよめく人混みを追いかけるだけて良かったのだが、それも既に無くなっており何処に行ったか完全に見失ってしまっていたのだ。こんな事になるなら機甲体のリミッター外してでも捕まえるべきだったと思うが、それも後の祭りでしかない。


「それにしてもいないねぇ、ユーキ親びん。何処行っちゃったのかな?」

「あたしが聞きたいですよ。と言うか、ユーキ様と妙に馬の合ってた間抜けなシーリスさんは何か心当たり無いんですか?似た者どうしてましょう、あんたら。」

「え?うそっ!あたしって、あんなに可愛いの?」

「外見はあんたが百億万点負けてますから安心して下さい。中身の話ですよ、中身の。」

「がーん!」


 項垂れながら「百億万点も・・・」と呟くシーリスの尻を蹴りあげ話を促す。


「━━━ったいなぁ!もう!・・・うーん、それにしても行き先かぁ。私なら行ったことない所とか、楽しそうな所とか行くと思うけど。でもユーキ親びんは拗ねてたでしょ?それなら頼れる人の所に泣きつくか、もしくは一人になりたくって━━━」

「あー、はいはい。すとっぷ。止まって止まって。答え出ました。もう出ましたよ。てか、最も早く言って下さいよ。」

「え?」


 ユーキの行動理念。それは酷く分かりずらそうに見えるが、実の所そう難しくはない。基本的にユーキという人物は甘く短気で、何処までも自分本意で何処までも勝手な人なのだ。


「ユーキ様は興味を優先させる人なんです。興味があれば多少危険がありそうな程度なら迷いもなく、それこそ戦場だろうと、秘境だろうと、魔窟だろうと入っていってしまう人なんです。」

「わぁお、でんじゃらす!」


 少し考えれば分かる事だった。

 心のまま動くあの人が、次に何処にいくかなんて。


「人目に付きたくない気持ちと、物珍しさからくる興味。それと、ユーキ様のくそ甘さを考えれば、いく場所なんて決まってるんですよ。」

「えっと、何処?」


 あの人は馬鹿だけど、ただの馬鹿じゃない。

 天界層の様子を知って、それが全てだと思う、そんなぬるい人ではない。当然、天界層という栄光の影にある存在に勘づいている。それでも何もしなかったのは、目立ちたくないという気持ちと面倒臭いという二つの気持ちが勝っていて、尚且つ関係ないと傍観してようとしていたからだ。そう徹しようとしていたからだ。


 けれど一度関わってしまえば、それは変わる。

 その目で見てしまえば、その耳で聞いてしまえば、死ぬほど甘いユーキが何をするのかなんて火を見るより明らかだ。


「ユーキ様は間違いなく、下界層にいますよ。」


 あたしの言葉にシーリスは目を丸くする。


「下界層?そこってユーキ親びん一人で大丈夫な所なの?トーくんから入らないように言われてる場所なんだけど・・・。」

「トーくん?ああ、相棒さんでしたっけ?そうですね、まぁ、大丈夫じゃないんですかねぇ?ああ見えて下手な魔獣より断然強いですから。」

「そう、なんだ。ただ者じゃないとは思ってたけど、魔獣と比らべるくらいに強いんだぁ。はへぇ、あんなちっちゃいのに。世界は広いなぁ。私もまだまだだねぇ。」


 シーリスは関心するように頷く。

 そんなシーリスを呆れながら眺めていると、不意に相棒とやらが何故目の前の珍獣に下界層への立ち入りを禁止したのかピンときた。

 強さ云々の以前に、目の前の珍獣こいつは適応出来ないのではないかと。


「少し質問しても良いですかね?」

「ん?いきなり何?別に良いけど・・・・。」

「大した事じゃないんですけど、仮にですよ、仮に目の前でお腹を空かせている子がいるとするじゃないですか━━━」

「ご飯をあげるよ!あ、でも、持ってないかも知れないから・・・買ってくる!」


 あー、嫌な予感しかしない。

 一人助けた所で、必ず次が出てくる。そうして出てくる奴等全部に恵んでいく事なんて出来る訳がない。ユーキのように目の前の奴に気紛れで恵むならまだしも、シーリスはきっとそうしない。


「仮にですよ?目の前に奴隷を殴り付ける男がいるとするじゃないですか━━━━」

「勿論助けるよ!!」

「もしかしたら、奴隷が何かしたのかも知れませんよ?」

「そっか。そういう事もあるかもね。でも、それは助けた後で聞くよ!」


 満足げに頷いているけれど、全然解決になってない。

 赤の他人の奴隷を殴っているなら大問題だけど、奴隷の所有者がそうすることはなんの問題もない。寧ろ下手に邪魔をすれば、悪化する事だってあるし、その時々の法によって罰せられる事だってある。なんにせよそのわりを食らうのはその奴隷だ。


「あーこれ以上聞くのも、無駄な気がして仕方ないんですけども、まぁ、一応。」

「うん?どうぞ。」

「犯罪組織の構成員がいます━━━」

「捕まえる!!」

「まだ、何もしてなくても、ですか?」

「これからするんでしょ?」


 お人好しとか以前に、この余りある正義感が問題か。自分のそれを疑いもしない、その心根が。

 正しい事は美徳なのでしょうが、いきすぎれば毒でしかない。それは下手な悪党よりよっとぽど厄介で、下手な悪党よりよっとぽど人を傷つける。助けられる人も多いのだろうが、何もしない方が良かったという時も多かった事だろう。


 よくこんな奴が生きて旅なんて出来るもんだと思っていたが、珍獣の事を相棒とやらは痛いほど理解していて、そうならないように手を回し続けていたに違いない。


 なんだろう、仲良くなれる気がする。


 まぁ、何がともあれだ、目の前の珍獣を連れていくのはあまりにリスキーだろう。ユーキが先に乗り込んでいるなら、余計に止めておいた方が良い。錬金術師がいう所の、混ぜたら危険ってやつの典型だろうし。

 シーリスをお留守番させようと決め、説得しようと視線を向けるとそこには何もいなかった。嫌な汗が、ぶわっと噴きあがる。


「ゲロ子さーん!下界層にいくなら、こっちだよー!置いてっちゃうよー!」


 声の方へと視線を向ければ、手を大きく降りながら人混みに紛れていくシーリスの姿がある。追い付こうと駆け出すが、人混みが多過ぎて足止めを食らってしまう。


 道なんて無視して屋根つだいでも何でも走ったらいいと思いついた時には、ユーキ同様すっかり見失ってしまっていた。


「━━━━うわぁぁぁ、頭が痛い!やべぇっ!厄介なの送り出してしまったぁ!!あたしは馬鹿か!!慌てた時こそよく考えろって、師匠もいってたのにぃ!身を持って考える事の大切さを教えてくれたじゃない!まぁ実際、師匠がやった事なんて考えないで突っ込んで犬死にしただけで━━━って、そんな事言ってる場合じゃないぃぃぃ!!」


 ただでさえ問題児なユーキの所に、更に問題児なシーリスを野放しにしてしまった。

 傍若無人な化け物と、絶対正義の狂奉者を、なんの手綱もなしに、餌場へと送り出してしまったのだ。


 ユーキは言わずもがなだが、シーリスも大概に強い。

 手合わせした訳でもなく見た目の雰囲気から察した感じではあるが、自分より少し弱いくらいで、全然、普通に、強いのだ。

 恐らく、現在アレッサ内に存在する戦士の中でも指折りの強者、有象無象など歯牙にもかけない狂犬だろう。


「━━━━━っく、このまま何もかも放って帰りたい所だけど、そうしたらまずとばっちりが来る。物理的なとばっちりが。・・・っもう!もう!何処で間違えたんですかねぇぇぇぇえ!?」


 知り得る中で最も早く最下層に辿り着くルートを思い出しながら、あたしも夜の街を駆け出した。

 何事もなく、無事に、今夜を越えられますように、とそう願いながら。






 ◇━◇







 アレッサ下界層。

 橋の下に吊るされるように存在するそこは、後ろ暗い者や貧困者が住まう太陽の光届かぬ無法の階層である。

 享楽の街と呼ばれるアレッサにとって天界層と呼ばれる橋の上が光であるなら、影を司っているのが下界層と呼ばれるそこだ。


 下界層で行われているそれは、おおよそ人目につくべきではない事柄ばかり。盗み殺しは日常的に発生し、非合法な薬や人身の売買など当然の如く行われている。裏取引の要所として大陸各地から悪人のゴールドメダリストが集まる事もあり、天界層の悦に満ちた楽しげな空気とは違い、狂気すら孕んだ淀みきった重く暗い空気に常に支配されていた。


 至るところから不穏な音が鳴り響くそこを、カツカツと杖をつきながら威風堂々と闊歩する者がいた。誰もが背を曲げ人目につかないように小さくなって歩くそこで、その人物はいやに目立った。

 そしてやはりそう言った者へ敏感に反応する俗にいう不貞の輩は一定数おり、気持ちを逆なでされた彼等の視線は自然とそこへ集まる事になった。

 そうなると当然、次に起こる事は決まっている。


「おい、にいちゃん!随分と粋がってるみてぇだが、場所を間違えちゃいねぇか?ここはパーティー会場じゃぁねぇぜ!」


 通路の壁にもたれ掛かっていた大男が怒鳴り声をあげる。

 恫喝以外の何物でもないそれを受け、その人物は鼻を鳴らした。


「己が力量すら知らぬ愚か者が、この我に声を掛けるな。」


 罵倒を交えた拒絶の言葉に、大男は顔を真っ赤にさせる。


「んっだと、てめぇ!!もっぺん言ってみろこらぁ!!」

「声を掛けるな、そう言ったのだ。愚か者。」

「━━━ぐっ、てめぇ!ぶっ殺してやる!!」


 大男は拳を高く振りかざす。

 身長二メートルを越える巨体から繰り出されるそれは、普通の人間相手であれば一撃でその生命活動を静止させるだけの破壊力がある事だろう。だが、大男が絡んだそれは、普通とはかけ離れた存在だった。


「不遜である。弁えろ、筋肉ダルマ。」


 吐き捨てるように発せられた言葉と共に、軽く振り上げられた杖は空気を切り裂き天へと昇る。

 振り下ろされるより早く駆け上がった杖それは男の頭を顎から潰し、そして弾き飛ばした。


 天井に、壁に、床に、赤い鮮血と共に肉片が転がる。

 周囲で様子を伺っていた大男と同類の者達は、その光景に恐れを抱いたのか一目散に逃げていく。

 残るのは床を杖で叩くその人物と、その人物に連れられ歩く者達だけだった。


「━━━はぁ、たく。やり過ぎだってんだよ、ロワ。」


 そう声を掛けたのは杖を持つ人物の後ろをついて歩いていた集団の一人、狼の獣人女性サラーニャである。

 サラーニャは溜息をつきながらロワの脇腹に軽くボディブローを叩き込んだ。


「っふぐっ!?貴様っ、何をするか!」

「あたしもさ、自分の事は大概なアホだとは思ってたんだけど、あんたと比べると大人し過ぎるくらいなんじゃないかって、最近思うようになってきたわ。」

「むぅ?何の話だ?」

「ちったなぁ考えなってことさね。」


 眉をしかめるロワを放り、サラーニャは後ろに控えていた護衛対象であるミミへ視線を向ける。


「それにしてもギルマスさんよ。こんな所になんの用があんだよ?あたしが言うのも何だけど、ここは録でもない連中しか集まりゃしないよ。」


 ミミはその問い笑顔で返す。


「その録でもない人達から、幾つかお話を聞かせて貰いたいのですよ。」

「録でもない奴から聞ける事なんざ、録でもない事って相場が決まってるけど?」

「そうですわね。ですが、今回はそう言った事を聞く必要がありますので。」

「こんな事言うのはあれだけどさ、あんた本当に国の味方だよな?今にも国家転覆狙いそうな、そんな邪悪さを感じんだけど。」

「誤解ですわよ、おほほほほ。」

「ぜってぇ、誤解じゃねぇ。」


 少なくともサラーニャの見立てでは旅が始まってから会合が終わり今に至るまで、ミミの機嫌は最悪から一ミリ足りとも変わっていないと考えている。表情にこそ殆ど出さないが、『不本意である』と全身から嫌な気配を垂れ流しているのだから疑いようもない。


 何をどうしたらこうも機嫌が悪くなるのか。正直に言えば理由について気にはなったが、サラーニャは余計な事は言うつもりは無かった。なにせその興味の先は藪から蛇どこじゃない、竜や虎が踊り出そうな魔窟の底なのだから。


「━━━━━まぁ、良いか。それよか行先はこっちであってんのかよ?」

「ええ、勿論ですわ。」


 何気ない短い返し。

 サラーニャはそこにどれだけの苛立ちが募ってるのかを察し、何も見なかった事にして前を向いた。藪から竜虎なんて、目の前の女の影にある感情を現すには可愛い過ぎる表現だったのかも知れないと、そう思って。


「━━━ミミさん。なんか、怒ってる?」

「余計な事言うんじゃないよ、ハナタレ。」

「あだっ!」


 こういう時ばかり勘の良さを発揮するキーラの頭をスパンと叩き、サラーニャは再び深い溜息を溢した。










 暫く薄汚れた不衛生極まりない悪党の巣窟を進んでいくと、やけに身なりのよい門番に守られた扉がロワ達の前に現れた。勿論見せ掛けだけのただの門番ではない、極めて優秀な門番達だ。もし一度戦士ギルドに席をおいたならば、その名は瞬く間に世間に知れ渡るであろう程の逸材達だ。

 とは言え、そんな優秀な門番達を歯牙にも掛けない存在がロワだったりサラーニャだったりするので、門番が威圧的な視線を向けてきても護衛対象であるミミは勿論のこと、ロワもサラーニャも何処吹く風と言った感じで見つめ返すだけに終わる。

 結局その事に関して警戒の反応を見せたのは、場違い感が否めない一般人代表のキーラだけであった。


 門番としての矜持か、実力差に気づいても尚、剣呑な雰囲気を纏い続ける門番に、これまで大人しく着いてくるだけだったキーラはいよいよ冷や汗を流し始める。それは別段門番を怖れたからではなく、身内であるロワやサラーニャが喧嘩っぱやい所があり、その剣呑な雰囲気に乗っかり友好的に接しなければならない相手をボコボコにしないだろうか、という不安が首をもたげたのが原因だったりする。


 そんなキーラの心配を他所に、雇い主のジンクム支部のギルドマスターであるミミが門番達へ微笑み掛けた。


「通して頂けませんか?」


 笑顔に関わらず有無を言わせぬ圧力を発するミミを前に、門番達は嫌な汗を流しながら拒絶するように首を振った。


「も、申し訳ありませんレディス。この先はルガーテ様の住居区間となっておりますので、ご許可の無い方はお通し出来ません。」

「あら?許可なら頂いているわよ。━━あっ、そうね、私ったら先触れを出していなかったわね。迷惑掛けてごめんなさい。では、ミミ・ザガン・ルール・バチスタが来た、とそうミスター・ルガーテにお伝え下さいませんか?」

「お名前お伺い致しました。ミミ・ザガン・ルール・バチスタ様でいらっしゃいますね。今他の者に確認を取らせますので少々お待ち下さいませ。」

「ご丁寧にありがとう。」


 それから程なくして門番達が守っていた扉がけたたましく開かれた。肩を揺らし驚く門番をおいて扉の奥から姿を現したのは、顔を真っ青にさせ肩で息をする小太りの男だった。

 男はミミを視界に捉えると満面の笑みを浮かべ軽く会釈する。


「お久しゅう御座いますな、レディスバチスタ。いやぁ、以前より少しもお変わりなくお美しくいらっしゃる。高嶺の花とは正に貴女様の為にある言葉でしょうな。」

「お褒めに預かり光栄ですわ、ルガーテ様。━━ルガーテ様は少し豊かに成られましたね?ルッツェル桟橋でお会いした頃が懐かしゅう御座いますわ。」

「はは、これは手厳しい。あの頃はわたしもヤンチャしておりましたからなぁ。いや、しかしですな、レディスバチスタ。人族の男など三十も過ぎれば腹の一つや二つ出るものでして、特別わたしがだらしない訳では無いのですよ?いや、本当に。」

「ふふ、そうは仰っても、細見が好みの奥様もいらっしゃるでしょう?」


 ミミの言葉にルガーテが笑みを強めた。


「ほう、それは興味深い。あ・い・つ・の好みが変わったのは存じ上げておりませんでした。何分、最近は他の事に手をとられてましてな。━━━━━さて、立ち話はこの辺りにしましょう。いつまでも客人を外に立たせては、"ビヨン商会"の名が泣きますからな。バラド、客間にとびきり麦酒を用意してくれ。ツマミも忘れずにな。」


 バラドと呼ばれた使用人は深く頭を下げると、直ぐに踵を返し通路の奥へと消えていった。

 ルガーテはそれを見送ると再びミミ達に振り返り居住区への入り口を手で指し示した。


「さぁ、どうぞ。我が"ビヨン商会"はレディスバチスタとそのお連れ様をお客人とし、精一杯のおもてなしと共に歓迎致しますぞ。」














 ルガーテに案内されミミ達が辿り着いたのは王族も顔負けの豪華な家具に包まれた一室だった。壁に飾られた絵はどれも金縁の額に納められ、真っ赤なビロード張りの大きなソファが並び、高級感溢れる黒塗りのテーブルにサイドチェスト、何気なく飾られる花瓶は宝石の輝きが散りばめられている。


 キーラはあまりの光景に瞠目したが、それ以外のメンバーはやはりというかなんというか、興味の欠片も示さなかった。

 ミミはその部屋を軽く見渡すと用意された茶菓子入れを抱え込んで椅子に腰掛け、ロワは当然の如くソファに足を組みながら体を沈める。唯一まともに護衛らしくミミの隣へ立つサラーニャも呑気に欠伸をかく始末。

 キーラは仲間の姿に眉間へ皺を寄せたが、案内したルガーテが何も言わない様子を見て何も言えぬままサラーニャの隣へと立つ事にした。


 ルガーテはバラドが人数分のグラスに麦酒を注ぎ入れ終わる頃を見計らい、重く閉ざしていた口を開いた。


「さて、レディスバチスタ。ここからはおべっか無しで話させて貰うぜ。今更何しにきた。」


 入り口の時とはうって変わって高圧的な態度を見せたルガーテ。思わずキーラは剣に手を伸ばしたが、サラーニャに「やめな」と叱咤され大人しく手を戻す。

 その姿を横に捉えていたルガーテは満足したように鼻を鳴らし、ミミへと視線を向け直した。


「━━━その前に、礼を言わせて貰うわね。ありがとう、ルガーテ。随分と気を使わせたみたいで悪かったわね。」

「あん?そんなのはどうだって構いやしねぇさ。あんたの身に何かあった時の方がおっかねぇ。」


 ルガーテは表向きは商人となっているが、その実はアレッサという都市国内で指折りの発言力を持つ裏社会の人間である。

 その影響力は都市内部のみと限定的だが、抱える財力や兵力は上位貴族にも匹敵し、アレッサ下界層に置いては都市国の全権を握る都市長より上位者であるのだ。


 そんなルガーテは、ミミの来訪を聞き万全の体勢を整えていた。その理由は様々な要因があっての事であったが、一言で言えば利害関係にあるミミの身を危ぶんだからである。


 何がともあれ、ミミを含むジンクム一行の安全を確保する為にルガーテは動いていた。密かに護衛を配し、宿の安全を確保し、敵対勢力の動向に目を光らせ、いざというときの逃走経路を確保するなどして。━━結果として、トウゴクと皇国に不穏な動きはなく杞憂に終ったが、不測の事態が起きた場合は迅速に対応出来たであろう事は言うに固くない。


「・・・・それにしてもな、国のお偉いさんと一緒に来るなんざどういう風の吹き回しなんだよ。正直、幹部連中は戦々恐々してんだ。せめて理由を聞かせてくれや。」

「理由は伝えてあるでしょ?私、お国の為に絶賛奉仕中なのよ。」

「それが信じらんねぇってんだ。今まで陰日向に徹してきたあんたが、表舞台に出てくるなんざよ。」


 ルガーテは苦虫を潰したような顔で麦酒を煽り、酒精混じりの溜息と共に続ける。


「はぁ、まぁ良いか。これ以上は余計な詮索はしねぇよ。あんたの企み事に巻き込まれるのは勘弁願いたいからな。」

「ふふ、その方が利口よ。それで、聞きたい事があるのだけど良いかしら?」

「なんでもどうぞ、とは流石に言えねぇよ。内容にもよる。言える範囲なら幾らでも教えるさ。で?」

「そう大した事では無いのわ、ほんの些細な事よ。最近・・・そうねここ二・三年の間における取引の目録を見せて欲しいの。」


 ぶっ、とルガーテが口に含んでいた麦酒を噴き出した。

 変な気管に麦酒が入ったのか、ゴホゴホと激しく咳き込む。

 そんなルガーテにミミは微笑みを浮かべるばかりで心配する素振りすら見せない。


「あ、あんたなっ!いきなりトンでも無いこと抜かすなよなっ!!んなもん見せられる訳ねぇだろ!!」

「あら、何をそんなに焦っているの。ちょっと覗くだけよ、何もしないわ。真っ当な商人さんである貴方なら、見られて恥ずかしい所もないのだから大丈夫でしょ?」

「大丈夫な訳あるかよ!!イカれてんのか?!てかな、まともな商人だって見せねぇよ、信用問題になるだろうが!」


 断固とした拒絶を示すルガーテに、ミミは柔らかく細めていた目を開けた。


「ひぃっ!?」


 見開かれた先にある淀んだ瞳に見つめられ、ルガーテは思わず溢した悲鳴を切っ掛けに、なけなしの意地が血の気と共に引いていくのを感じた。

 それを知ってか知らずか、ミミはその弱気に漬け込むように高圧的な言葉を掛ける。


「随分な言い種ね。それなら、こう言った方が良いかしら?━━━5分あげるから、四の五の言わずに持ってきなさい。叩き潰されたいのならそのままで良いわよ。」


 脅し以外の何物でもない言葉を受け、諦めの溜息をついたルガーテだったが、そこは長らく悪意が渦巻く裏社会で生きてきた人間らしくある交換条件を口にした。


「━━━━いたち駆除を頼まれちゃくれねぇか?」


 ミミはルガーテの提案に首を傾げた。それは言葉の意味が分からなかった訳ではなく、アレッサの暗部の中で上位者であるルガーテが弱味を晒して事に違和感を感じたからだ。

 ルガーテは正確にミミに伝わった事を確認し話を続ける。


「最近街に入ってきた新参でよ、上も下もなく荒らしまくってる大間抜けがいやがるんだ。勝手に暴れて勝手に死ぬなら構いやしねぇが、筋通してる俺らにも火の粉が掛かかってきやがるってんで放って置く訳にいかなくてな。それをあんたに、正確に言えばそちらの腕の立ちそうな奴さんにやって貰いてぇ。」

「お抱えの駆除業者はどうしたの?」

「厄介な事にジジイ共のお気に入りなんだよ。迂闊に駆除しちまうと、こっちの首が跳ねられちまう。だから始末に終えねぇんだ。」

「貴方にしては随分な下手を打ちましたね?」

「ぼけるにゃ少し早い気もするが、まぁ、この様じゃ言い訳も出来ねぇな。」


 ミミは少し悩む素振りを見せながら、護衛の中でこの件に適しているであろう男を見た。ミミに見つめられたロワはつまらなそうに鼻息を漏らすと「構わん」と一言吐き捨てる。

 その言葉を受けミミはルガーテへと視線を戻し微笑み掛けた。


「お引き受けしますわ、ミスター・ルガーテ。その代わり約束の物は用意して頂けますね?」

「勿論だ、レディスバチスタ。」


 契約成立の証に握手を交わし合う二人。不適な笑みを浮かべ合うここ二人に、嫌な予感がして仕方がなかったキーラはそっとサラーニャに訊ねる。


「・・・・大丈夫かな?」

「駄目だろうね。」


 諦めの言葉を吐いたサラーニャに、キーラは遠い目をしたその時━━━━部屋の扉がけたたましく開かれた。


「ルガーテ様!!ご報告がっ!」


 小言の一つも言おうとしていたルガーテだったが、飛び込んできた部下の顔色の悪さに気がつき「ノックを忘れるな」と形だけの叱咤をした後、直ぐに事情を聞き始める。


 


「━━━━━はぁ?壊滅した?」




 あまりにも間抜けな声が、ルガーテの口から漏れた。

 怪訝そうに眉をしかめるミミを放って、ルガーテは部下へそれの続きを口にするよう促す。


「は、はい。とは言っても、壊滅したのは密売拠点と思われるアジトで、本拠点ではないようなのですが。そこにいた兵隊と思われる全員が、原形が変わるほど殴られており、かつ裸に剥かれた状態で橋に吊るされているとの報告も。」

「うちのボンクラ共がやった訳じゃぁねぇんだな?」

「それは間違いありません!傍観に努めておりました!」


 報告を聞いたルガーテは眉間の皺を更に深くさせる。


「勝手にシマを、荒らし回られるのは気に食わねぇが、よくやってくれたもんだ。その調子で暴れ回って本拠点も更地にしてくれりゃぁ言うことねぇな。」

「それで、最後にその不届き者の首を跳ねて、まぁるく納める。そういう事かしら?」

「ははっ、いやいや、おっかねぇ事言ってくれるなよ。レディスバチスタ。そんな事する訳ねぇだろ。感謝してんだぜ、俺たちゃぁよ。」


 悪い笑みを交換し合う二人を尻目に、キーラはサラーニャへと不安そうに視線を送った。「これ以上この件に関わって大丈夫なのか?」という意味が込められたその視線を寸分たがわず理解したサラーニャは軽く溜息を返すだけで「大丈夫」とは口にしない。その様子にキーラは何時でも逃げられるように心構えだけは用意する事にした。


 そんな混沌とした部屋の中でただ一人だけ、その報告を聞いて焦りを見せ始める者がいた。


「襲撃者について、何か情報はないか。」


 ぽつりと告げられたそれは、ロワの口から漏れた言葉だった。

 全員の視線が杖の柄をタ落ち着きなく指で叩くロワに集まる。

 タンタン、タンタン。急かすようなそれに煽られるよう報告にきた者は「あ、そう言えば」と続けた。


「襲撃者かどうかは分かりませんが、銀の仮面をつけた怪しげな赤髪の少女が目撃されていまして。」

「ん?なんだ、報告はちゃんとし━━━━」




 ガタッ。




 大きな音を立て、ロワがその顔に驚愕を浮かべて立ち上がった。


「またか!!またなのかっ、王よ!!!こうしてはおれん!!これ以上、この叡智の王たる我を!!役立たずの能無しにしてくれるなぁよぉぉぉぉぉ!!!」


 そう一言叫ぶとロワは歩きとは思えない速度で部屋から飛び出していった。

 後に残されたミミとルガーテ、その部下はそれを呆然と見送り、キーラとサラーニャは顔を合わせた。


「大丈夫かな?」

「駄目だろうね。」

「ちょっとは希望持たせてよ。」

「どうせ駄目だろうからね。」


 諦めた二人の耳に、遠くで扉を蹴破るような音と、それを嘆き恐れるような男の悲鳴が響いていた。





おまけーーー( *・ω・)ノ


ユーキちゃんがリベンジメイドをするってよ



コーナー




ユーキ「そう言うわけだ、御主人様ぁ!!」ドン

ゲロ子「うわぁ、どう言う訳だか分からないけど、嫌な予感しかしないですねぇ」


ユーキ「どういう事か分からないって、まじか?メイドが、お前に、仕えるって、言ってるんだよ?」

ゲロ子「はい。微塵も、欠片も、これっぽっちも分かりませんね。分かりたくもありません。て言うか、あたしユーキ様の下僕ですよ、下僕。殆ど奴隷ですからね?給料もありませんし。それに対して御主人様はないかと思うんですけど」

ユーキ「なんだよ、ノリが悪いなぁ」ンモゥー

ゲロ子(遊びだとしても、心臓が持たないくらい怖いんだよ。あんたに、御主人様とか呼ばれるの)




ルーナ「仕方ありませんね、わたしがっ!ユーキ様の御主人様になってあげっまっしょぉぉぉーう!!」ドドドン

ユーキ「おおー」パチパチ

ゲロ子「またやべぇのがきたな・・・」


◇━◇


ルーナ「ユーキ!ユーキ!」オクサマー

ユーキ「はい!ルーナ様!」タタター


ツイッ ユビニヨゴレー


ルーナ「窓の縁にこんなに塵が残ってるわよ。貴女どんな掃除したの?」フッ

ゲロ子「うわぁ、イビるの板についてますね。これは何度かやった事が━━━」

ユーキ「ルーナ様!そこは、ゲロ子が掃除した所でぇあります!」シュピッ


ゲロ子「!?」


ルーナ「この役立たず!!」バシィー

ゲロ子「はぐぅあっ!?」


◇━◇


ルーナ「ユーキ!ユーキ!これはどういう事なの!?」イカリシントー


ユーキ「はい、ルーナ様!!」オラァーコッチコイヤー

ゲロ子「やめっ、やめ、やめろぉぉぉ!分かってんですからね!この後どうなるか!分かってんですからね!!」


ルーナ「見なさいユーキ!この整理整頓の欠片もない物置部屋を!!探し物をするのは結構だけど、片付けないと駄目でしょ!!引っ張り出すだけ出して!!奥さまに顔向け出来ないわ!」カベヲバンバン


ゲロ子「うわぁ、確かにこれは・・・・いや、て言うか、これってあんたが片付けなくちゃいけない奴じゃ・・・」

ルーナ「━━━」プイッ

ゲロ子「こっちを向いて見ろ。おい、メイドこら。あたしの目を見て、もいっかい言ってみろ」

ルーナ「うるさーい」ベチン

ゲロ子「ったぁ!?」


ユーキ「よいしょ、よいしょ」コレハアッチー ソレハアッチー


◇━◇


ルーナ「ユーキ!ユーキ!早くここに来なさい!」ドハツテンヲツクー


ユーキ「はい、ルーナ様ー!!」ワシツカミー ズルズルー

ゲロ子「ああーもう。ああーもう。好きにしてくださいよーもう」


ルーナ「見なさいユーキ!この━━━━」ドヤヤァー


カルデラ「この、なんです?」ラスボスー


ルーナ「━━━━素敵なお部屋はーはぐぁっ!!」コメカミメリメリー

カルデラ「どこでサボっているのかと思えば、お客様に何をなさっているのかしらねぇ、貴女はっ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴ

ルーナ「ぎやぁぁぁぁぁ!!頭がっ、頭が割れるぅ!!」イタタタター


ユーキ「うわぁ」イタソー

ゲロ子「ざまぁみろってんですよぉ」


◇━◇


カルデラ「ユーキ様。申し訳ありませんが、この子はまだ仕事が残っていますので、お相手はまたの機会に、という事で宜しいでしょうか」ゴゴゴゴ

ユーキ「お、おう、宜しいです」コクコク

カルデラ「こちらの都合をご配慮頂き、誠にありがとう御座います」アタマペコリー


カルデラ「あ、それと」ソウダッター

ユーキ「む!」ドキリ

カルデラ「メイドにご興味があるようでしたら、"私が"いつでも教えて差し上げますのでお声を掛けて下さいませ。では」エガオデハンニャァ


タタタ バタン シーン


ユーキ「・・・」

ゲロ子「・・・」


ユーキ「メイドには、なーらない」メイドフクポイー

ゲロ子「流石の慧眼ですユーキ様」

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