機甲兵団と真紅の歯車 61・歓楽街の自由人
「━━━━疲れた。」
会合を無事?に終え宿へ帰って来たアルシェは、その一言だけ呟くとベッドへと深く倒れ込んだ。らしくない様子に、控えていたメイドさんが目を丸くする。俺もちょっと驚きだ。
「んんーーお疲れ?そんなにしんどかったのか、会合。見てる感じだと、そんなでも無いような気がしてたんだけど。ちょいちょいこっちに有利じゃなかったか?銃も手に入るし。」
そう首を傾げるとアルシェはヒラヒラと手を振った。
「見掛けはね。けれど、その実はあのうすら寒い笑顔の飼い犬に良いように転がされただけよ。銃の確保は目標の一つではあったけど、それは交渉の末に手に入るシナリオだった。それなのにあまりにも簡単に提案されてしまった。それも、破格の好条件でね。断る理由がない以上、私達は頷くしかないわ。その好条件の代償として何を求められようともね。」
「よく分かんないけど、してやられた感じ?」
「そうね、してやられた感じよ。まさか、あの魔人討伐の手伝いをさせられるとは思わなかったけど。」
アルシェは鉛でも背負っているかの如くゆっくりと起き上がる。
「でもまぁ、ほぼ対等で同盟を組めた事は良かった、と言っておこうかしら。それだって、良いことばかりでは無いでしょうけど・・・最近のイブリース連合の不安定な情勢から考えればデメリットよりはメリットの方が遥かに大きいもの。」
「ふぅん、そっか。」
「ああ、この先の事を考えると頭が痛いわ。黒龍の事も満更嘘でも無いようだから対策を考えて、トウゴクの捕虜解放の準備をして、皇国軍の受け入れ体勢を整えて、ギンに婚約の許しを得ないと・・・・それにしても時期が悪いわね。もう少し早くこう━━━はならないわね。これとユーキちゃんがいて初めて今があるのでしょうし。はぁ。」
凄くお疲れ様のようである。
どうやら会合の結果は諸手をあげて喜ぶ程の結果にはならなかったようだ。
「俺こなくても良かった感じ?」
「それこそまさかだわ。トウゴクに動きは無かったようだけど、皇国の飼い犬は貴女の事ずっと見てたわよ?リスみたいに揚げ芋を頬へパンパンに詰め込んだ貴女を見て、楽しそうに笑ってたじゃない。」
「・・・なんでアルシェも知ってるんだよ。」
話し合いに集中してて、見てない思ってたのに。
「あれだけ自由にしてて、よくバレないと思ったものね。トウゴク連中は顔をしかめていたわよ。注意されなかったのは、私達の顔を立てただけ。━━━ああ、皇国の飼い犬が許していたってのもあるとは思うけど。それ以前に、使用人のンレィだったかしら?あの子が一番気を使っていたのが貴女よ。お茶のおかわりが面白いくらい早くきたでしょ?皇国とアレッサ、もしくは飼い犬とオカマには個人的な繋がりがあって、貴女の情報を共有してる可能性は高いわ。」
「うぇ、ホントかよ」
「はぁ、ごめんなさいね。どこから漏れたか分からないけど、貴女の実力や価値について、よりにもよって皇国に掴まれたかも知れないわ。」
そうアルシェは謝罪してくるが、これに関しては仕方ないと思っている。アルシェ程の立場の人間に関われば恐れかれ早かれこう言うことになる覚悟はしてたし、何よりアルシェはそれまで約束を違えずちゃんと守ってくれていたのだ。責めるのはお門違いと言うものだ。
「いいよ、別に。こうなった以上、どうせ遅かれ早かれだろ。それにちょっかい掛けてきたら自分でどうにかするし。」
「正直、それが一番怖いのだけど。でもまぁ、そうよね。実力行使なんて手で出てくるなら、貴女が直接でた方が話が早く済みそうだものね。でも、十分に気を付けなさい。単純な手に出てくる輩ならそんなに心配してないのだけど、皇国側にいたあの男みたいに得体の知れない連中もいるから。あの手のタイプはどんな手を使ってくるか分からないの。本当に、十分に、いえ十二分に注意して行動してね?」
「あいよ。」
「・・・・心配だわ。」
綺麗な顔に皺を寄せ訝しけな視線を送るアルシェ。
信用してない事がひしひしと伝わってくる。
アルシェめぇ。
「あ、そうだアルシェ。それはそうとさ、会合終わったんだから明日の出発時間まで自由で良いよな?」
「━━━━━ん?ごめんなさい、ユーキちゃん。もう一回言ってくれる?」
俺はアルシェから嫌な気配を感じて、静かに体を魔力で強化した。
「えっと、もう会合終わったし、着替えも済んだし、・・・・外に遊びにいっても良いよな?」
「ユーキちゃん、私の話聞いていたかしら?」
アルシェの圧力が強くなったのを感じ、俺は窓の外へ向かって駆け出した。アルシェの豪腕が俺を捕らえんとばかりに動いたが、魔力強化後の俺には通じない。さっと頭を下げて腕の下を潜り抜けて一気に外へと飛び出す。
「ユーキちゃん!」
アルシェの声を背中に浴びながら一階に降り、先に来ていたゲロ子と合流し街へと走った。
「んじゃ、ちょっと遊んでくるからー!疲れてるみたいだからコハクを俺の部屋に喚んでおいたからマッサージして貰ってな!あとアルシェの護衛にアルディオもおいていくから、今日はゆっくり休んでくれなー!お土産も買ってくるからー!」
「━━━もう、まったく!お願いだから、騒ぎを起こさないで頂戴ね!!それと、知らない人にはついていかないのよ!!」
「俺は子供か!」
「子供でしょ!気を付けなさいねー!!」
些かアルシェの見送りの言葉に引っ掛かる物を覚えるが、追求はしないでおこう。
それより今は街の事である。有名と名高い歓楽街。果たしてどれだけ楽しい所なのだろうか。
「くぅ!ワクワクが止まらないぜぇ!」
「お願いですからユーキ様。程々、程々でお願いしますよ?」
「止まらないぜぇ!ワクワクがぁ!止まらないぜぇ!!」
「息抜きも必要かと思って認めましたけど、早計でしたかねぇ・・・。」
◇━◇
「行かせてしまって良かったのですか、アルシェ様。」
掛けられた声に視線を移すと、メイドのスノーがおずおずといった様子でこちらを見ていた。
スノーはメイドの中でも私の気持ちに一番敏感である。ユーキちゃんがいなくなる事で私が感じでいた、漫然とした不安が伝わったのかも知れない。
私は弱気になっている気持ちに鞭を打つ。いつの間にかこんなに弱くなったのかと。貴族の妻として生きると決めたあの日、その甘さは捨てた筈ではないかと。
安心させる為に笑顔を向ければ、スノーは少し不安気であったものの笑顔を返してくれた。
「良いのよ、あの子にも息抜きは必要でしょう。今日は一日中堅苦しい会合に付き合わせてしまったのだもの、夜くらいは好きにさせてあげないとね?」
「そうは言いますが、ユーキ様はかなり元気そうに見えましたよ?」
「ふふ、そうね。会合から帰って直ぐはシオシオだったのに、着替えを許可した途端、玩具を貰った子供みたいに元気になったものね。でも、あれで結構疲れてるのよ。精神的にね。」
「本当ですか?そんな風には全然見えませんでしたけど。会合中だって、自由そうにしてるイメージしか浮かびませんよ。オヤツ食べたりとか、ジュース飲んだりとか。そんなんじゃないですか?」
中々鋭いわね。当たってるわ。
次期メイド長と噂されるスノーの勘のよさに内心驚きつつ、笑って誤魔化し私は窓の外へと視線を移した。沢山の淡い光に彩られたアレッサの街は、見ているだけで何とも言えない気持ちを懐かせる。綺麗な街だ。見かけだけなら、きっとガザールの街とは比べ物にならないだろう。
「本当、綺麗な街ね。」
その見かけに中身が伴っていれば、尚の事良かったのだけれど。
私はユーキちゃんがこの街の真実を見ない事を祈るしかない。なんのかんのお人好しのユーキちゃんが知れば、黙って見ている事は出来ないと思うから。
「そう言えば、船から同伴する事になったクロム様は何処に行かれたのでしょうか。街にあがってから姿が見えなくなったそうですけど・・・?」
「ん?ああ、そう言えばいつの間にかいたわね。」
クロム君は夫の命を受けて動いている事は確かなのだが、何分夫はその内容を教えてくれないから詳細は分からない。これから何処にいって、これから何をするつもりなのか。私に言えない時点でクロム君は厄介な頼まれ事をしたのは間違いはないのだけれど、分かるのはその程度。
それよりも気になるのはあの子。
私のいない間にユーキちゃんの下僕になり、カザジャ族の一件に巻き込まれた女の子。元エクスマキア皇国軍人カノン・イヴァシュ。
後から聞いた話だとクロム君と相当物騒なやり取りをしてたって言うし、恐らく皇国に情報を流したのはあの子だと思うのだけど・・・・。
「━━━どうなのかしらね?」
頭ではあの子が裏切り者であると決めているのに、私は感情的にどうもその答えを自信持って言えない。
考えれば考える程、それはないのではないかと思ってしまうのだ。
だってあの子、本当に楽しそうなんだもの。
ユーキちゃんを小馬鹿にしたり蔑ろにしたりするけど、その割りにはちゃんとユーキちゃんの様子を見ているし、無理をして付き合ってる感じもない。表情や態度からは分かりずらいけれど、本当に楽しそうなのだ。
「アルシェ様?」
私の呟きに小首を傾げるスノーに笑いかけ、「なんでもないわ」と適当に誤魔化す。スノーは少し不思議そうにしていたけれど、こんな事を話してしまえば余計に心配をかけてしまうから言わないでおく。
「まったく、難儀な道を選んだ物だわね。私も、あの子も。」
私は立ち上がり、部屋の入り口へと向かった
スノーが「どちらに?」と聞いてくるので笑顔で返す。
「ユーキちゃんの部屋よ。ユーキちゃんが気を利かせて凄い子を喚んでくれたみたいなのよ。」
「凄い子、ですか?」
「ええ、なんでも天下のアンマ師、だったかしら?コハクちゃんっていう獣人の子でね、アンマ・・・マッサージが凄い上手な子なのよ。肩凝りなんてあっと言う間に治しちゃうんだから。貴女も最近疲れが溜まっているでしょ、私がお願いしてあげるからやって貰いなさいよ。」
「え、ええ~~。でもユーキ様はアルシェ様の為にと・・・ほ、本当に良いんですか?」
「勿論よ。貴女には帰りの間も苦労かけるのだもの、ちゃんと休める時に休んでな貰わないとね?」
「うぅ~アルシェ様~!使用人ごときになんたる優しいご配慮!私一生ついていきます~!!」
「もう、現金ねぇ。ほら行くわよ?」
「はい!」
ユーキちゃんの部屋で待っているだろう猫ちゃんのマッサージを楽しみに、私はスノーと共に部屋を出た。一時の安らぎを得る為に。
◇━◇
キラキラのイルミネーションに彩られた街アレッサ。
昼間の印象とはまた違った華やかさに包まれたそこは、歓楽街と言うに相応しい場所だった。
右を見てもおねぇちゃん、左を見てもおねぇちゃん。前も後もおねぇちゃん。
何処を見ても下着みたいなエロい服を着たおねぇちゃんだらけの素晴らしい街だったのだ。
「俺は今、この世界に生まれてきて、心底感謝している。ありがとう、シャリオ。」
「誰に、何を感謝してるんですか。ユーキ様。」
呆れ顔のゲロ子が視界の端に映り、俺の浮かれた気分は水を掛けられたようにシュンとする。
「萎えたわ。」
「どういう意味ですか?人の顔見て萎えたとか、どういう意味ですか、ええ?」
睨んでくるゲロ子を適当にあしらっておねぇちゃん達を見る。
おねぇちゃん達は俺と目が合うとニコニコしながらヒラヒラと手を振ってくれたので、同じように笑顔を浮かべて手を振り返しておく。うへへ。
「楽しいですか、それ?」
「めちゃ楽しい。」
「今更ですけど、ユーキ様って同性愛者なんですか?」
同性愛者か。
心はまだまだ男の子だと思うけど、最近はそこまででもない気がする。そりゃ男と女どっちと仲良くなりたいかと聞かれれば女と答えるけど、別にエッチな事がしたいとかはない。イチャイチャはしてみたいけど、それ以上の事は全然である。
「同性愛者ではないとは思う、けど━━━」
「けど?」
「どっちかと聞かれれば、女の子の方がいい。」
「世間じゃ、それを同性愛者と呼ぶんですよ。」
そりゃ、そうか。
こんな答え方すれば当然だ。
少し物理的にも精神的にも距離をとってきたゲロ子と共に街を歩く。大人なお店が沢山あったが勿論それだけではなく、カードゲームで遊べる所や、軽い賭事が出来る所、軒を連ねて並ぶ出店などを見て回り楽しんだ。
ナダでもあったアイスのチェーン店を発見し、新作のアイスを購入した俺はペロペロしながら更に街を歩いた。新作は塩っぽい感じの味の変わり種のお団子アイスである。
懐かしの棒キャンディーアイスもあったのだが、それはゲロ子に購入を止められた。ドロコーという赤い黒い果実を使ったアイスで、そそる匂いを醸していたのだが「駄目です」と止められた。
理由を聞いたが、断固として理由を語らず譲らず駄目の一点張りなので、仕方なく諦める事になった。味が気になる。
周りにはドロコーのアイスを美味しそうに食べるおねぇちゃん達がいたので余計である。
食べ方がちょっとエロかったのは目の保養だった。
そんな風に歩いていると、楽しげな雰囲気の中に似つかわしくない剣呑な音が聞こえてきた。
気になってゲロ子の制止を振りきって野次馬しにいく。
人混みを抜けていったそこには、キラキラと艶めく金髪美人と如何にもヤクザみたいな顔つきの男がいた。
二人は睨み合って何か言い合いをしている。
「ちょっと!私の矢はちゃんとあれに当たったわ!凄くちゃんと当てたのよ!それなのに落ちないって可笑しいじゃない!細工してるんでしょ!」
「うるっせぇ嬢ちゃんだなぁ!細工なんざしてねぇってんだろうがよ!落ちなかったのは運が悪かったんだろうよ!!」
「むむむむっ!!何よ!当たった矢がポヨ~ンて跳ね返ったのよ!人形は揺れすらしないで!有り得ないでしょ!」
金髪美人の手元を見ると小さめの弓が握られていた。
近くにある出店を見れば棚に人形が並んでいるので、弓版の射的である事が分かった。話の内容から、金髪美人が矢が当たったにも関わらず景品が落ちなかった事に文句を言っているようである。
言い合いをする二人の間もわざと横切り、俺は射的の出店番をしてる兄ちゃんに声を掛けた。
「一回やらせて!」
ここは出来る限り可愛くあざとくやっておく。
すると出店番の兄ちゃんは「へい、勿論でさぇ」といって笑顔で一本多めに矢をくれた。金髪美人と言い争いをしていたヤクザが出店番を睨んでいるから、きっと後で怒られる事だろう。それは知った事ではないけど。
俺は矢なんて射ったこと無いのでみよう見真似で弦に矢を引っ掻け引っ張る。すると、ブチンと弦が切れた。
「「あっ!」」
出店番の兄ちゃんと俺の声が重なる。
子供の力では足りないと思い強化したのが仇になった。力み過ぎである。
「ごめんな嬢ちゃん。弦が古くなってたみたいだ。怪我ねぇかい?」
勝手に弦が悪い事になったので便乗しておく。
俺は出店番の兄ちゃんの言葉に健気に首を横に振る。
すると申し訳無さそうに「矢もう一本オマケするから堪忍してくれな」といって矢を追加してくれた。
ヤクザが更に目付きを鋭くしたが、俺は気にしない。出店番の兄ちゃんに幸あらん事を。
気を取り直して再度弓を引き絞る。
今度は限界を見極めギリギリまで引く。
そして、狙いを定めて矢を摘まんだ手を離した。
ヒュン、と風を切って飛んだ矢は狙い通り人形を撃ち抜く━━━━が、予想に反して飛ばした矢の破壊力は強かったらしく、バキャッというけたたましい音と共に人形が砕け散ってしまう。バラバラと残骸が地面に落ちていく。
「「「・・・・・」」」
出店番の兄ちゃん、ヤクザ、金髪美人の視線が集まる。
何故か地面に落ちた人形の残骸ではなく、台に取り付けられた人形を固定するぶっとい釘ではなく、俺に集まる。
おかしい。これじゃ落ちなくない?って格好つけるつもりだったのに、違う意味で注目を浴びてる気がする。
「ユーキ様、なんか違くないですか?」
「黙れぇい、それは俺が一番分かってるぅ。」
「それなら良いんですけど。」
ゲロ子に突っ込まれ恥ずかしい思いをしながらも、勇気を奮い立たせ出店番の兄ちゃんに尋ねる。
「これじゃ、落ち・・・あ、いや、落ちたんだけど。落ちたは落ちたんだけど。その、ゴミになっちゃうんだけども。」
そうモジモジしながら尋ねて見ると、出店番の兄ちゃんとヤクザが地面に両手をついて頭を下げてきた。
「どこのどちら様かは存じ上げておりませんが、さぞ御高名な弓士のお嬢様!この度は私共のケチな商売にお付き合いさせてしまい申し訳御座いませんでした!!」
「御座いませんでした!!」
「え、いや、そう言う感じじゃ・・・。」
「残りの景品を、好きな物を好きなだけ持っていって下さって構いませんので、どうかどうか、命だけは御勘弁下さいませ!!」
「下さいませ!!」
「うえぇ・・・。」
震えながら謝る二人の男に内心びびりながらも、このままだと周りの視線がきつ過ぎるので「許す」と一言掛けて立ち上がって貰う。
「お嬢様!こちらの景品なんかお嬢様くらいの歳の方に人気でして!」
「お嬢ちゃん!これなんてお嬢ちゃんに似合うと思うなぁ!どうでしょうか!!」
必死の形相で景品を押し付けてくる男達にうんざりしながらも、くれるというその心意気を無下にする訳にもいかないと、適当に景品を選んで包んで貰った。ヌイグルミとかちょっとした小物とか安価な物から、ネックレスやピアスなど普通にやったら落ちそうにも無いものまで、幅広くダブらないように適当に。
包んで貰った景品をゲロ子に持たせ、ペコペコと頭を下げる男達に別れを告げてそこを後にした━━━━━
「ねぇねぇ、赤髪の君。凄いね、今の。弓の達人だったりする?ねぇねぇ、聞いてる赤髪の君?」
━━━━後にしたのだが、一連の俺の失態と活躍を見ていた金髪美人がめっちゃ絡んできた。元々金髪美人の前で格好つける為にやったので、この結果は望んでたっちゃ望んでいた物だったのだが、失態の方が恥ずかし過ぎて正直蒸し返して貰いたくないので、もう構わないで帰って貰いたい。景品分けるから帰って貰いたい。
「ゲロ子、景品。」
「どれあげます?」
俺の言いたい事を察してくれたゲロ子が景品を包んだ布を広げる。すると、その行動の意図を読んだ金髪美人が布の中を覗き込んで「これ!」と欲しい物を要求してきた。ちょっと図々しいは、この人。
特に必要な物でも無かったので欲しがっていたヌイグルミをあげると、凄く嬉しそうにそれを抱き締めてクルクル回りだした。ちょっと素直過ぎるわ、この人。
「ありがとねー!これ欲しかったんだよね。なんか知り合いに似ててさ。」
あげたヌイグルミはしかめっ面をしてる狼獣人のミニ人形だ。
これに似てると言われる人が少し可哀想に思う。狼獣人という所が似てるのであればまだマシだと思うが、しかめっ面の方だとしたら切ない。
「このしかめっ面がね、そっくり!私の旅の相棒なんだけど、最初はそんな事無かったのに、旅をしてる内に段々と小言が増えてさ、気がついたら常に眉間に皺が寄るようになっちゃってね。ふふ、やだ、本当にそっくりー!かわいーー!」
まさかの切ない方だった。
苦労してんだろうなぁ、その相棒さん。
「分かるわぁ。」
俺の後ろで同意の声が聞こえた。
ゲロ子も波瀾万丈な人生を送ってるから、そう言う事もあったのだろうな。
任せておけ、俺が一緒にいる間は楽させてやるからなっ!
そう思ってゲロ子に親指を立てて見せてやる。
大丈夫だぞと、言い聞かせるように。
けれどゲロ子は眉間に皺を寄せ「今度は何企んでるんですか」と疑いの言葉を掛けてきた。こいつ、失礼にも程がある。下僕なんだよ、こいつ。しかも自主的に下僕になったんだよ、こいつ。なのにこれだよ?はぁん?だよ。もう!
「あ、そうだ。赤髪の君!もし暇だったら、この後も一緒に回らない?私、相棒とはぐれて暇だったんだよねぇ!」
「えぇ・・・。いやそれは━━━まぁいっか。断る理由もないし。ん、てか俺は別に良いけど、金髪は相棒探した方が良いんじゃないか?」
「それは、だいじょうびっ!!遊んでたら、その内あっちから見つけてくれると思うからさ~。」
自由かっ。
この人の相棒がどんな人が知らないけど、良い人なのは分かる。この自由を絵にかいたような人と旅していけるんだもん。絶対に気つかいーの頭のキレる金持ちの優しい人だよ。
相棒さんの苦労を思い涙が溢れてくる。ええ、話やで。
━━━ん?なに、ゲロ子。その目は。おい。なんだ、その目はっていってんだよぉ。文句があるなら言ってみろぃ、おいこらぁ!
お仕置きのデコピンを甘んじて受けたゲロ子が悶え苦しむ中、俺は金髪美人と熱い握手を交わした。
「赤髪の君、私はシーリス・アルブ。今夜は遊び尽くしてやろう!」
「おう、望むところだ!俺はユーキだ、よろしくな。」
「ユーキ、ね。覚えたわ、よろしく!」
シーリスの相棒には悪いが、シーリスには少し俺の楽しみに付き合って貰う事にする。ゲロ子は一緒にいてくれるけど遊び相手にはなってくれないので、同年代とのこういった機会は何気に貴重なのである。逃さずいこうと思う。
まぁ、同年代と言ってもシーリスは確実に俺より歳上だと分かるくらいに成熟した女の子なのだけども。まぁ良いよね。うん。
「それじゃ早速何処にいきますか、ユーキ親びん!」
お、そういうノリか。うむうむ、任せろ。そう言うの大得意だ。
「おうよ!そりゃ勿論、エロっちい格好したおねぇちゃんが一杯居るところよ!」
「そりゃまた楽しそうな所でゲスね!」
「あったりしゃりきよぉ!!楽しいに決まってらぁ!」
行きたい所はここへ来るまでの間にマークしてきた。
後は帰り際に突撃するだけだ。
俺は頭二つ分大きいシーリスと無理矢理肩を組み、適当に歌を歌いながら夜の道を進んだ。楽しい所であることを願って。
「酔っぱらいだって、もっとマシでしょうに。」
歌を貶してきたゲロ子には、二人でデコピンのお仕置きをした。止めない!君が本気で謝るまで、君のデコをピンするのを俺達は止めない!




