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召喚士されし者 15・正真正銘の化け物

 穏やかな丘陵に轟音がなり響く。

 地面が割れんばかりに揺れ、土埃が高く舞う。


「何が起きてんだよ?!」


 サリハンは丘の上に立ち望遠鏡で音の鳴る方向を凝視する。

 方向的には草原竜がいるとされる巣がある場所だ。


「何だ、あの土埃!?ありえねぇ、どんな化け物が暴れたらああなるんだよ?」


 おちびがやったのか?いや、ありえねぇ。

 たしかにガイゼルとか言った召喚獣は強力だ。

 でも、あれほどの土埃を起こすほど力はないはずだ。


 となれば、草原竜か?

 しかし、草原竜にも無理だ。発見されたのは幼生体で、大きさはせいぜいガイゼルとか言う召喚獣より少しデカいくらいのはずだ。

 実際俺が追いかけられたのは幼生体の草原竜だった。


 まさか、いるのか?


 親、つまり成体の草原竜。



「やべぇ・・・。」


 俺は走りだした。町に向かってだ。

 成体に手をだしたとなりゃ、おちびはまず助からねぇ。

 それだけじゃない。ここにいる俺も、近くにある町も無事ではすまねぇ。


 戦士ギルド連中の話を聞いた時、ついていると思った。

 草原竜1匹を狩るだけで10金貨。まともに稼いで一年かかる金がたった1匹狩るだけで手に入るのだ。


 最初は失敗した。幼生体に尻を追いかけ回され、逃げきった先の森ではグラスボアの群れに遭遇してしまった。


 それでも運は俺を見捨てていなかった。

 おちび、ガイゼルを従える召喚士に出会えたのだ。


 おちびの協力がありゃ安全に幼生体を罠にかける事も出来る。

 これで上手く行くと思った。なのに!!


「恨むなよ、おちび!冒険にはよくある犠牲だ!!」


 俺は走る。まだ死ぬわけにいかない。

 俺は冒険者になるまで死ぬ分けにはいかないんだ。







 緑色の尾が地面に叩きつけられる。

 轟音と共に地面に大きなクレーターが生まれる。


「ははは!!まじか!化け物だなコイツは!」


 俺はガイゼルの上で笑う。

 普通なら恐怖するのか、絶望するのか?

 正真正銘の化け物を前にした人は何を思うのが正しいのか?


 こんな事を考えている時点で、俺はもう壊れているのかもしれない。


 まぁいい。今それは余計な事でしかない。


「アルディオ!!」


 緑の尾を駆け上がり背についたアルディオは剣振り下ろす。

「ギィン」と高い金属音を鳴らし剣を弾く。

 草原竜はアルディオを振り払おうと身体を大きく回転させる。


 振り払われた尾が地面を削り破片を周囲に撒き散らす。

 拳大の破片が地面を抉り、草原に小規模のクレーターが生まれる。


 回転により振り払われたアルディオが地面を転がる。


「ちぃっ!ガイゼル、ムゥ頼むぞ!」


 草原竜は地面に転がるアルディオに接近し前足を振り上げる。


「ガァ!」


 吠えたガイゼルに一瞬気をとられた草原竜は動きを止める。

 すぐさま狙いすましたような糸の弾丸が草原竜の片目に直撃し、痛みに怯んだ草原竜は後退りをした。


「アルディオ!」


 声に呼応しアルディオが草原竜の懐に一気に踏み込む。

 全体重、速度を乗せた大剣を振り切る。


「ギュオオオォ!!」


 放たれた斬撃は堅い甲殻を砕き肉を引き裂く。

 すぐさま身体を捻って放たれた尾でアルディオは弾き飛ばされる。

 傷は浅いようだ。


「ムゥ!」


 丘の上で待機していたムゥが傷口めがけ糸を吹き掛ける。


「ガイゼル!」


 草原竜の眼前に移動する。

 俺達を目にした草原竜は荒れくるい牙を剥き出しに食いかかってきた。

 ガイゼルはそれをスレスレの所でかわし、草原竜を翻弄する。


「当たるんじゃねーぞガイゼル!」

「ガァ!!」


 かわし様に草原竜の顔に爪を立てるが薄皮を裂くばかりで決定打にはならない。


 しかし一撃、また一撃とかわすうちに草原竜の動きが繊細をかき始める。


 俺は草原竜の足下を確認する。


「ははっ!!」


 俺は視線をアルディオに向ける。


「ぶちかませアルディオ!!!」


 草原竜の視覚の外から、急速接戦したアルディオの渾身の一撃が、草原竜の横っ面を叩く。

 ぐらりと草原竜の態勢が崩れ片前足が折れる。


 すかさずガイゼルの頭突きが顎を穿ち、顔が跳ね上がる。


 跳ね上げた草原竜の眼に俺が映る。


 俺は右腕に魔力を捩じ込む。


 草原竜の目には怯えの色が見え始めた。

 どうやらやっと気づいたようだ。


「神経毒だよ草原竜。外は堅いけど内側はてんで軟弱だな。」


 右の拳を握りしめる。


「楽しいなぁ草原竜!!」


 眉間に拳を叩きこむ。

 炸裂音と共に草原竜の身体は地面を砕き轟音を辺りに響かせ轟風が巻き起こる。

 巻き上がった血や土埃が辺りに降り注ぎ、大地を赤く染めあげていった。



 赤い雨が降りやんだ頃、一息ついた俺は真っ赤に染まったローブを見つめた。

 

「落ちるかな、これ。」

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