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機甲兵団と真紅の歯車 60・締結

 古くはイブリース連合が生まれるもっと以前。

 神歴を越えた人々が新たな時代を築いていたとある時代。

 それは突然、雲を切り裂き現れた。


 天変地異と共に現れたそれは、その巨体で空を覆い太陽を人々から奪い去った。太陽の恵みを失い大地に根付く草木は枯れ、命を潤してきた川は濁った。

 そして稲光を混ぜた風が営みを薙ぎ払っていった。


 人々が恐怖に震える中、とある国の王が立ち上がる。

 王は幾人もの精強な兵を連れ、東方大陸で最も高い山を登った。


 山の頂上へと辿り着いた王は、荒れ狂うそれに尋ねた。

 何故に荒れるのか、何を我等に求めるのか。

 そして、それが己れ達で払える物であるならば、それを捧げる。故に、その嘆きを納めてくれないかと。


 それな王の問いに、嵐たるそれは答える。

 祈りを捧げ、自らを神と崇めよ、と。


 王は答える。

 祈ろう。崇めよう。

 今日より、あなた様が我等の神である。


 王の言葉に満足したそれは嵐を止めた。

 そしてこれからは、神民となった王とその国を守ろうと口にした。恵みを与え、敵を排し、万年の時の繁栄をもたらそうと。

 王は覆いに喜んだが、それが告げた最後の言葉に苦悩する。


 娘を差し出せ、そう言ったのだ。

 忠義の証を示す対価として最も愛する者を差し出し、その意を示せと。


 王にとって、娘は宝であった。己が命以上に大切な宝であった。

 しかし国全てと天秤に掛ければ、統治者として頷く他無かった。


 王は娘をそれに差し出した。

 そしてその無惨な最後を瞳に焼き付けた。

 その後、国は驚く程豊かで平和な国になったが、それと比例するように王は人が変わった様に周囲に厳しく当たるようになった。幸せな世界を、まるで憎んでいるかのように。

 暴虐の限りを尽くすようになった王は、最後自らの息子にその身を刃で貫かれ亡くなる事になる。刃を受け止めた王は、何処となく安堵したように、永遠の眠りについたのだと。

 娘を差し出して手に入れたそこに、王が求めた平穏は無かったかもしれない。けれどそれは王にしか分からない。死んでしまった王にしか。


 以来、その国では最初の贄となった娘と同じような赤の混じった髪の者が現れると、何処とも知れずそれが来て贄を要求するようになった。

 不思議と赤の混じった髪を持つ娘は二代三代の間に現れ、その度に時の王は差し出し続けた。


 何代も、何代も。

 始まりすら忘れてしまうほど、何代も。


 それは今は亡き龍の国の物語。

 悲しい龍の国の物語。


 黒龍と契りをかわした王の物語。



 ◇━◇



 俺は黒龍という言葉に、ゲヒルトのおっさんちで読んだ童話を思い出した。他の面々も覚えあったのか気がついている様子だ。だが、それ故に眉をしかめている。

 まぁ、いきなり童話の登場キャラの名前が出てきても、そんな反応しか出来ないだろうけど。特に、今は国の進退が掛かった会議の最中だ。そんな話をいきなりされれば当然━━━━


「ふざけるな!我等をたばかうにも限度があろうが!!」


 ━━━ま、こうなるよね?うん。


 怒鳴られたダンディ・イサクは狼狽えながらも、両の掌を見せそんなつもりはないとアピールする。

 けれどジンクム陣営は火がついたように怒鳴りあげた。


「何を話すかと思えば、黒龍だと!?」

「童話の、子供騙しの話の龍がなんだというのだ!!」

「なんだ、黒龍に脅かされたとでも言ううもりか!?ふざけふな!」

「・・・・お前らは、おれを怒らせた!!」


 興奮のあまり舌を噛んでたり、最後の台詞に言い知れぬ場違い感はあるが、概ね皆怒ってるようである。因みに最後の台詞を言ったのは安定の閉所のおっさんである。あの人は本当に文官なのだろうか。

 皆がヒートアップする中、アルシェと鬼畜兄貴だけは神妙な顔でその話を聞いていた。限りなく信用はしていないのだろうが、それでもその話がただこちら側をおちょくる話でないと思っているのだろう。

 かくいう俺も話の先が気になってたりする口である。


 ダンっ!


 騒がしかった部屋が、何かを叩くような音で静寂へと返る。

 ジンクム陣営を黙らせたその音の発信源は、俺の隣で涼しい顔でカップを口にするアルシェだ。空いてる手に握られた畳んだ扇の柄にはヒビが入っていたり、叩いたと思われる場所に跡がついていたりしたが、それは見ない事にした。怖かったから。


 アルシェはカップを優雅にソーサラーに置くと「どうぞ」とイサクに話の先を促した。

 他のジンクム陣営の皆は取り繕うようにカップを手にとって、まるでいままでお茶してましたと言わんばかりにお茶を口にした。安定の閉所の━━━ヘイショっさんは甘ったるい匂いを醸すコーアである。あのヘイショっさんは見てて飽きないな。ほんと。


 そんなアルシェの援護射撃を受けてイサクが続きを口にした。


「荒唐無稽とは、わしらも思っている。信用出来ないのは当然だ。だが、最後まで聞いて欲しいのだ。わしらジンクムは今、あの黒龍の驚異にさらされておるのだ。」

「それは分かりました。私が聞きたいのはその先ですわ、イサク様。その事と、我が国が攻められた事と、一体どんな関係があると言うのか、お答え願えませんでしょうか?」

「そ、そうだな。済まなかった。話すと長くなるのだが━━━」

「簡潔にお願い出来ますか?」

「━━━━す、済まなんだ。出来る限り簡潔にする。」


 アルシェは容赦が無かった。

 優しさ皆無である。

 まぁ、現状敵なんだから仕方ないけど。


 脂汗をしたらせイサクは隣に座る文官らしき男と相談しながら、アルシェの疑問、ひいてはジンクムが求める答えを口にしていく。


 イサク語ったそれは俺をたまらなくわくわくさせる物だった。

 突如としてトウゴクに現れた黒龍は『神罰』と称し町を焦土と化し、これ以上被害を大きくしたくなければ手下になれと言う。その上、手下になるならその証として生け贄に姫を差し出せとまで言ったらしいのだ。

 テンプレか、テンプレ悪役の王様か。おい。


 次はヒーローの登場かなぁ、なんて呑気にンレィ様が本当に用意してくれちゃったアレク芋の薄揚げをパリパリさせていると、イサクの口から出た名前はとてもヒーローとは呼べない存在の名前だった。

 魔人ヴィシャスブェルデス。糞長いので以降はヴぃさんと略す事にしたこいつは、おおよそ二百年前から存在する化物でその圧倒的な戦闘能力を持って度々人の世の戦いにちょっかいを掛けにくる奴らしい。まぁ、好き勝手に暴れる訳ではなく、必ずどちらかの味方になるし騎士道に通ずる矜持を持って戦う事もあって、恐れられていると同時に尊敬もされてるのだとか。


 そんなヴぃさんがトウゴクの生け贄の姫達を拐ったからさぁ大変。

 取り返すにも居場所は分からないし、そもそも見つけたとしても取り返す為の戦力は黒龍の攻撃の後ではボロボロ。新しく揃える事も出来ず途方にくれるしかなかった。


 そんな折、トウゴクに声を掛けたのが同盟国であったエクスマキア皇国。

 エクスマキア皇国は拐われた姫達を探すために四方八方手を尽くし、その拐われた片割れであるユキノメ王子を発見した。ユキノメ王子が発見されたのは勿論ジンクム領土内だ。


 それでジンクムとヴぃさんに何らかの繋がりがあると踏んだ両国は、時期尚早ではあったものの残された猶予を考えると交渉といった時間の掛かる取引を選択する事も出来ず攻めこんできたらしい。


 簡単に要約するとそういう事らしいのだが、ジンクム陣営の面々の顔色は芳しくない。個人的にはある程度納得出来たのだけど・・・何が駄目なのか。


 そう呑気に考えていると、急に背筋がヒヤリとする感覚に襲われた。驚きを隠しながら、ひりつくような何かを発しているそこへと顔を向ける。━━━━が、そこにあったのは予想に反した物だった。てっきりアルシェが鬼の形相でもしてるかと思ったのだが、意外にもそこに見たのは微笑を浮かべながら怒り狂う鬼畜兄貴の姿だったのである。わぁお。


「成る程、成る程。それがそちらの言い分だと。分かりました、よく分かりました。」


 納得した人の出す気配では、全然ないのだが?

 イサクもそれが分かっているのか顔をひきつらせながら「わ、分かってくれたか」と若干ヤケクソ気味に呟く。イサクからすればこれで話を終わりにしてくれた方がありがたいのだろうが━━━━


「ええ、よく分かりましたよ。私達が侮られている事はね。」


 ━━━まぁ、そんな訳は当然無いのだけども。

 表面上だけ取り繕った鬼畜兄貴は続ける。


「私達が聞きたいのは、そちらが用意した辻褄合わせの仮の事実ではなく、ありのままの事実ですよ。そしてその事実に対するトウゴクとエクスマキア皇国の対応についてです。私達は子供の使いでここに来ている訳では無いのですよ、分かりますよねイサク様?それでもなお、そのような無用な糞を垂れ流すだけの口しか持ち得ていないのでしたら、直ぐ様国に帰り新たな使者を用意して頂きたい物です。」


 刺だらけの言葉にイクサの側に控えていた護衛が腰の剣に手を当てた。


「小僧っ!黙って聞いておればいい気になりおって!!イサク様がこれだけ誠心誠意努めているのいうのに、その態度はなんだ!切って捨ててやろうか!!」


 その言葉で鬼畜兄貴の護衛が得物に手を掛ける、それと同時に部屋の中にいた護衛達全員が不穏な空気に当てられて得物に手を掛けた。

 俺はギトギトの手を拭いてから、腰の銃に手を掛けた。ゲロ子の呆れたような視線が背中に突き刺さってるが気にしない事にする。仕方ないじゃん、こんなに急に来るとは思わないじゃん。


 そんな緊張した空気の中、「は~いは~い、そこまでよん」というおかまの場違いの声が響く。


「喧嘩しにきた訳では無いのだから、護衛ちゃん達は得物から手を放しなさ~い。」


 渋々と得物から手を放していく護衛達の中で、最初の護衛だけは握りしめた剣から手を放さず鬼畜兄貴を睨み付けながら構えたまま固まって動かない。


 あまりにしつこく睨んでいたのでイサクが宥めるように声を掛けるが、意地にでもなっているのか中々止めようとしない。

 すると痺れを切らしたおかまが手を叩いた。


「ンレィ、やっちゃいなさい。」

「はっ、畏まりました。」


 おかまの言葉に優雅にお辞儀したンレィは、一瞬でやんちゃな護衛の懐に潜り込み、あっという間に剣を取り上げて地面に組伏せた。護衛は一瞬の事に反応出来ず、床に顔を擦り付けて目をパチクリしてる。


 おかまはンレィ達から視線を外し、許可を求めるようにイサクを見つめた。イサクが「部下が世話を掛ける」と言って頭を下げるのをおかまが確認すると同時に、やんちゃな護衛はンレィによって部屋の外へと引き摺られていってしまった。

 この後どうなるのか分からないけど、折檻があるのだけは違いないだろう。南無。


「さて、ちょっと空気が悪くなっちゃったわねん?一旦休憩をとるのはどうかしら。お互い一度冷静になって見るのも悪くないと思うのだけど?」


 おかまの提案にトウゴク陣営は頷くが、ジンクム陣営、エクスマキア皇国陣営は首を縦に振らない。


「漸く本題にのった所です。今話を切るのは間が悪いと思いますわ。これはジンクム使節団の総意です。」

「こちらも同じです。漸く本題に入った所なのですから、話を進めましょう。こう言った事は、悪戯に時間を長引かせる物でも無いでしょうし。」


「もうっ!人が折角気を利かせてるって言うのにぃん!いけずねぇ!━━━まぁ、いいわ。両国共、時間は幾らかあっても足りたいでしょうし?トウゴクのお歴々、良いわね?」


 集まった三国の内、二国が再開の意を示している以上、止められる筈もなくトウゴクは渋い顔でこれに頷く。


 こうして再開された会合。

 最初に口を開いたのは皇国陣営のザインからだった。


「さて、トウゴク側の事情をご理解頂いた所で、今回私共が行った結果に伴う非、払うべ賠償の話を進めましょう。まずはこの話を進めなければ、ご納得頂けないでしょうし?」

「賠償、ねぇ。こんな事を言うのは私達の立場からすれば愚かしい話なのだけど、失った命に相応しい対価を用意する事なんて出来るのかしらね?」


 カチャと、護衛の一人が身動ぎした。

 見なくても分かる。アルシェの言葉に反応したのはきっとキーラだろう。


「相応しいだけの物は用意出来たと思いますよ。夫人。さぁ、イサク様、そちらからどうぞ?」

「う、うむ。心得た。セイベイ、頼む。」


 イサクは隣に腰かけたハゲ男に視線を送る。

 ハゲは一つ頷くと立ち上がり手元の羊皮紙に視線を落とした。


「今回の件について、トウゴクは賠償として白金貨五千枚を提示したく思います。なお、国内の状勢が落ち着くまで支払いをお待ち頂く事と、ユキノメ王子の身柄を即刻返上して頂く事を条件とさせて下さいませ。」


 アルシェは味方のおっさんずに一度視線を送ると、イサクに向かい頷いた。


「ユキノメ王子の身柄は近日中にそちらへ返上せて頂きます。それと捕虜に関しても同様に解放します。ですが、支払いに関して無期限で待つことは出来かねます。ですので、支払いが済むまでの補償としてアジャータの森と、その先に存在するイシガミの町の所有権を認めて頂きませんでしょうか?」

「あ、アジャータの森の所有権について、トウゴクはその所有権をジンクムにあると認めます。しかし、イシガミの町については、考えさせて頂きたい。私の一存では頷けぬこと故に━━━」


 断ろうとする言葉を遮ったのは、ハゲの前に翳されたイサクの掌だった。

 イサクは暗い表情のまま首を横に振った。


「よい。イシガミの町はそちらに預ける。無体に扱わぬようお願いしたい。」

「イサク様!ですが!」

「よい。元より陛下にはイシガミの町までの裁量権を与えられておるのだ。それに、エクスマキア皇国の手前これ以上無様はさらせん。」


 イサクはアルシェへと視線を移す。


「イシガミの町までの所有権を、トウゴクは認める。しかし、賠償金の支払いが終え次第、即刻返還して頂く事になるが構わないだろうか?」

「ええ、勿論で御座いますわ。その時がくれば必ず。」


 笑顔のアルシェの隣で鬼畜兄貴が不適に笑う。

 小さい声で「二十・・・いや、三十は固い」という声が聞こえてきた。何が固いのか。なにがそんなに楽しいのか。聞くのが怖いので放っておく事にする。


 そんなトウゴクとジンクムのやり取りが終わるのを見計らい、ザインはそう隣に座る女性から一本のスクロールを受けとる。そして紐の封を解くと中身を見せるように掲げてきた。

 全員の視線がスクロールに集まったのを確認したザインは、その内容を口にした。


「今回の件について、ジンクムとエクスマキア皇国の間に起きた不幸な衝突による被害への補償として、ジンクムに対しエクスマキア皇国は『短銃型ギア二〇式』五十挺の無償譲渡と、その整備技術を持つ魔技工士の派遣を可及的速やかに行うものとする。尚、魔技工士の派遣期間は本人の意思を尊重するものとし最大二年ではあるが、最短でも三月の派遣期間は設けるものとする。」

「!!」


 命の対価としてザインが口にしたそれは、ジンクム陣営を唖然とさせるには十分過ぎた。それは単純に金を積まれるよりも遥かに高条件。正に破格の補償であったのだ。


 ジンクムは先の戦いで幾つか銃を手に入れている。

 しかし、そのどれも使用できない程に壊れており、残骸でしかないそれがどんな代物でどれだけの威力を誇るのか、戦闘に参加した者の証言しか得られておらず謎だけが残る結果となった。それが、五十挺という纏まった数を一挙に得られるだけでなく、整備技術をもつ魔技工士まで派遣すると言うのだ。皇国大盤振る舞い祭りである。


 一見するとそれだけと思うかも知れないが、その五十挺は運用次第では万人を殺す武器になり得る物だ。それだけを考えても、戦乱のイブリースで生きるジンクムには喉から手が出るほど欲しい物の筈だ。それに加えて技術を盗んで下さいと言わんばかりに、技術者も派遣するという。もう棚からぼた餅どころの騒ぎではない。棚からぼた餅が降ってきたと思ったら美人のメイドさんがお茶を出してくれて、その上マッサジーチェアが地面から生えてきて体を揉みほぐすくらい凄い事だ。・・・・なに言ってるか分からなくなってきた。地面からマッサジーチェアってなんだ。普通に怖いわ。


 そんな訳でジンクムとしての目標であったエクスマキア皇国からの謝罪を引き出し、そこから補償として銃当の武器を得る計画は無事に成功した訳なのだが・・・・ジンクム陣営の顔色は何故だか優れない。何故じゃ?


「どうでしょうか。受け入れて貰えませんか?」


 笑顔で同意を求めるザインに、鬼畜兄貴が少し悩んでから言った。


「受け入れたい・・・所ではあるのですが、被害の程を考えれば銃の数をもう三十挺要求します。如何でしょうか。」

「それは少々欲張り過ぎますね。私共にも非が御座いましたが、そちらにもまったく否が無いわけではありませんでしょう?誤解を懐かれるような状況に陥ったのは、そちら側の国境の管理不足もあったのですから。それに五十挺でさえ相当に無理をしています。我が兵団が保有する短銃の四割と言えば理解頂けますか?」

「四割・・・それが本当であれば、益々分かりかねます。どうして渡す気になったのでしょうか。」


 疑いの眼差しを向ける鬼畜兄貴にザインは答える。


「貴国との誤解をとき、同盟を結びたいと考えているからです。」

「なっ!?」


 思わず鬼畜兄貴から零れた言葉。

 それはジンクム陣営の総意に思えた。

 アルシェですら目を見開いているから間違いないだろう。


「今更何を!!休戦を申し出るならまだしも、同盟だと!?」

「無理だ!まだ民の怒りも冷めやらぬのだぞ!!」

「同盟か・・・ふむぅ。ふふ、ジンクムの戦力に恐れをなしたか。」


 非難轟々の中またヘイショっさんがアホな事をほざいていた。

 ヘイショっさんの言うとおり恐れてそうなったのなら多いに結構だが、そんな訳はないように思える。

 自信満々に語るザインに、そんな陰りは見えないのだから。


 ザインは両手を大きく広げた。


「そう言わずに考えてみて下さい。我々と同盟を組んだ時のメリットを。北方最大の領土をもつ大国の後ろ楯、それは最近周囲を賑わかす諸外国を黙らせるには十分過ぎる物ではありませんか?」


 メリットはあるだろう。

 でも、国としての国力の差がありすぎるから、同盟とは名ばかりの属国になるのが目に見えてしまう。


「属国の、間違いではなくって?」


 アルシェの刺のような言葉がザインへと飛ぶ。

 ザインはそれを笑って返す。


「ええ、そう思われますでしょう。ですから、あくまで対等であるという同盟を組む為に此方も用意があるのです。エクスマキア皇国、皇帝陛下の実子である王位継承権第三位を持つクラーラ・ヴァシュ・アルブハイム殿下を、貴国の王の妃へとする用意がね。」

「王位継承権、第三位の・・・・・!!」


 驚く皆からゲロ子に視線を移し、俺はゲロ子に訪ねてみた。


「有名人?」

「いや、まぁ、有名人でしょうけど、そういう感じで皆さんが驚いてる訳ではありませんからね?王族がその娘を同盟の証として差し出す事に驚いてるんですからね?」

「?せいりゃくけっこんだろ?普通じゃねぇの?」


 そう首を傾げるとゲロ子が溜息をついた。


「普通じゃ無いですよ。エクスマキア皇国はアスラと肩を並べる大国の一つですよ?その大国がイブリース連合国内の、一小国でしかないジンクムと同盟を組むと言ってるんです。それだけだって相当に可笑しいのに、姫までつけると言ってるんですから。」

「??トウゴクも同盟組んだんじゃないのか?」

「トウゴク連中の顔見れば分かりますよ。顰めっ面してるでしょ?同盟は確かに組んでますけど、あれは本当にあくまで形だけの紛い物です。属国と言って差し支えのない糞みたいな条件の元組まれた物です。ですが此方は、対等な同盟関係を求める書状です。」


 ゲロ子はアルシェを横目で見た。


「この同盟を組んだ瞬間、エクスマキア皇国の後ろ楯を得たジンクムは、イブリース連合国内において上位国の仲間入りが決まります。・・・・ジンクム陣営は引き受けるしか出来ないでしょうね。」


 憐れむような視線を送るゲロ子。

 俺は皇帝の出した条件を悪くないように思うのだけど、何かあるのだろうか?

 そんな考える俺をおいて、ザインとジンクム陣営の話は進む。


「しかし、大国の姫を迎えるには、我が国はあまりに不釣り合いでは。戦乱激しいこの地では━━」

「戦力的な意味で不安があるのでしたら、こちらから提供いたします。勿論、兵を維持する物資等は融通頂きますが、それに見あった戦力はお約束いたします。」


「こ、国内に他国の軍が入るなど認められるか!いつ裏切るかも分からんよそ者など━━━」

「そうならない様、兵を動かす裁量権等は両国間で分割いたしましょう。ジンクムの責任者と此方側の責任者の同意を持ってのみ活動するようにするのであれば、ジンクム側に不心得者さえいらっしゃなければそう言った事はないかと思われますが、如何でしょうか?」

「それは・・・そうだが。」


 丸め込まれておる。

 綺麗にまん丸に、丸め込まれておる。


 それからも暫くジンクム陣営と皇国陣営は話し合い続けた。

 その話の大半は同盟の内容についてで、ジンクムは同盟自体を断るつもりは無いようである。

 トウゴクを蚊帳の外においた話し合いは日が沈むまで行われた。


 俺が居眠りから覚めた時には、アルシェとザインが握手で会合を締めている所だったから詳しい内容は不明であったが、ゲロ子曰く同盟は締結したとの事だった。賠償等の話も最初に聞いた奴とそう変わらずに決まったらしい。


 ただ、無事に終わったかと言えば、まったくの無事には終わらなかった。ゲロ子が告げた、皇国側が唯一取り付けたある条件が厄介だったのだ。




「同盟国となったジンクムへ、皇国からの正式な要請。現在トウゴクと合同で執り行われている作戦への協力・・・つまりは━━」




 ジンクムに新たに舞い込んだそれは、新たな火種だった。それも飛びきり過激な、烈火のような火種。


「━━━ハルハ姫奪還に伴う弊害要因の排除、魔人ヴぃさんの討伐か。」








「いや、ユーキ様。ヴぃさんって誰ですか?もしかしなくても、そうですよね?何勝手に略してんですか?」


 長いと覚えられん。

 仕方なし、仕方なし。


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