機甲兵団と真紅の歯車 41・翡翠の園
ブラーブとの話を終えた俺は、そのブラーブに案内されカザジャ族が仮住まいしているという洞窟の奥へと向かった。
洞窟内はある一定距離を置いて光る石が埋め込まれており、地下とは思えない明るさに照らされていた。
ブラーブに光る石をとっても良いかと聞いたが、「とった所で壁から離れた石は光を灯す事はないなら面白い物でもないぞ」との事を言われ、光らないならいらないかと諦めた。
洞窟内を暫く進むと、一際開けた場所に出た。
その場所はどこぞの球団施設もかくもやと言った広いドーム状の空間だった。一番高い所には大きな光る石が太陽のように輝いている。ドームの中心には小さな泉があり、その回りには地上のように草木が生い茂っていた。
地下とは思えないような光景に瞠目である。
てか、地下にこんなのを作るってどれだけの労力が・・・・これ作った奴あほやん!
「ココガ、翡翠ノ園ト呼ブ場所ダ。」
「翡翠の園?」
「ウム。ワシラ『クイープ』ニトッテ先祖ノ魂ガ眠ル聖地ト呼ブベキ場所ダガ、今ハカザジャ族ノ避難所トシテ一時的ニ解放シテオル。」
「聖地なのに、良いのか?」
「子孫タル同胞ノ為ダ。先祖達モ許シテクレヨウ。」
このゴリラはこういう事に躊躇がないな。
かと言って、脈々と受け継がれる物を蔑ろにしている訳でもない。だだ、ゴリラにとって最優先すべきは今ある命で、それを間違えてないだけなのだ。
うむ。嫌いではないぞ。そう言うの。
などと考えながらブラーブに着いていくと、泉周りの茂みから顔を出す猿と子供の姿が目に入ってきた。
こちらを物珍しそうに眺めている。
そのまま無視するのもあれかと思い手を振っておく。
すると猿と子供はぽけーとしたまま石の如く固まり、そのまま動かなくなった。
「・・・・・・なんだ。」
「ドウシタ?」
「ん?いや、なんでも・・・ないかな?」
「?」
ゴリラに不思議そうに首を傾げられたが、傾げたいのは俺も一緒だ。何故に。
「━━━それにしても、人が少ないな。」
辺りを見渡して見ても、さっきの子供以外見当たらない。
木々の所に見張りらしきクイープや、壁沿いに配置された戦士らしき人達は見えるが、それだけだ。
どうしたのか。
疑問に思って首を傾げているとブラーブが答えた。
「男衆ニハクイープ達ト共ニ森ヘ警戒巡回ヤ、出入口ノ見張リ。先程、オ前モ見タヨウナ警備ノ仕事ヲカッテ出テイテクレテイル。」
成る程。それで猿が騒いだ後、直ぐにヒゲモジャが現れたのか。
「危なくないのか?」
「アア。ソウダナ。ダガ、誰カガセネバナラン事ダ。女衆ニハクイープ達ガ集メテキタ食料ノ処理ヲ行ッテ貰ッテオル。日中ハ皆ムコウニ見エル洞穴デ作業シテオル筈ダ。」
「へぇ。そっか。」
それで人がいないのか。納得だ。
「昼間ニココヲ出歩イテイルノハ、手伝イノ邪魔ニナルト放リ出サレタ子供クライナノダ。」
「他にもいるのか?あれ以外に?」
「勿論ダ。トハ言エ、アト十人程度ダガナ。人ガ三、クイープガ7ダ。ドコデ遊ンデイルノヤラ・・・・。」
「ふぅん。」
子供なんて、なんでも遊び場にしちゃうからな。
きっとどこかで元気に遊んでいる事だろう。
「━━━━ん!そうだ、ブラーブ。カザ、カザ、カザザ族って意外とちゃんとした服装してるけど、あれって何処で調達してんだ?自前?」
全員の姿は見ていないが、知っている限りだと割りと良い生地のシャツを着てる。ズボンも態々赤く染め上げた感じの物だし、子供達の着ていたケープみたいな奴もしっかりした感じだ。
如何にも辺境の部族的な葉っぱの服とか、獣皮をそのまま被ったような雑な物ではない全然ない。
「・・・・カザジャ族ダ。ソロソロ覚エロ。服カ・・・・確カ、魔物吐く糸カラ作ラレテイル筈ダ。"キャノー"トカ言ウ虫ノ魔物ダッタカ?ワシハ服ニハ縁ガナイカラ、詳シクハ分カランナァ。マァ、肉ヲ煮込ム鍋ヤ畑ヲ耕ス農具モ、彼等自身ガ必要ニ応ジテ作ッテオルヨ。森ニハ必要ナ物ガ揃ッテオルカラノゥ。」
「へぇ、凄いな。」
文化交流がなくても、なんとかなるもんなんだな。
まぁ、何百年も引き込もったまま生きて入られるんだから、ある程度出来ても可笑しくはないんだけどね。
「マァ、タマニ外カラ来ル者カラ、調達スル事モアルガナ。鉄製ノ物ハ大体ソウダナ。」
「なんて暴力的な調達方法っ!怖い、ここ怖いよー!」
「ワシハオ前ノ強サノ方ガ遥カニ恐ロシクアルガナ。」
なんだとぅ!?俺のどこが辺境部族より怖いってんだ!
プンプンだぞ、こらぁ!!
そんな事を話ながら歩いている内に、入り口の真反対にあった一番遠い洞穴の前に着いた。
「ここに何があんだ?」
「カザジャ族ノ長ガ仮住マイシテイル所ヨ。ナニヲスルニシテモ、挨拶位ハシテオクベキデアロウ。」
「ブラーブより偉い人?」
「少ナクトモ、ワシハ同列ダト思ッテイルガ・・・・・アヤツガドウ思ッテイルカドウカ。気ニナルノデアレバ、直接聞クトヨイ。」
考えてみて、考えてみて、考えてみた結果。
そんなに気にならないので、「まぁ、いっか。」と言って終わらせておく。
ブラーブはそんな俺に「ソウ言ウデアロウト思ッタワ。」と納得した。
「入ルゾ"フレア"。」
洞穴に響き渡るブラーブの声。
返る言葉は無かったが、ブラーブは気にせずに進む。
それに着いて暫く進むと葉っぱで出来た垂れ幕が現れた。
垂れ幕の前にまで立つと、俺達の気配を察知したのか中から「入れ」と声が掛かる。
声に誘われて垂れ幕を潜る。
すると、目の前に広がったのはこじんまりした空間と、壁に取り付けられた色とりどりの仮面達。
それに加えて、中央に置かれたテーブルを囲むように座り込んだ、目力の強いオジサン・オバサン達だった。
「よく来たな、ブラーブ。我々の退去をせっつきにきたのか?」
この場に似つかわぬ、若い女の子声が響く。
少し高圧的だが何処と無く可愛い気のある声だ。
俺はその声のした方向へ視線を向ける。
そこに居たのはオジサンやオバサンの中でどうして気がつかなかったと思う程に異彩を放つ、こちらを睨む切れ長な目をした美人さんだった。他の人と比べて装飾の多い服を着ている所から、偉い人なのだろうと思う。
「━━━━ん?」
美人さんを眺めていると、その面影は何処と無く見覚えがある事に気がついた。
なんだか、スアに似ている気がするのだ。
俺の視線に気がつかない美人さんは、ブラーブを睨み付けたまま話を続ける。
「ブラーブ。何しにきた。」
「ソウ睨ムナ。会ワセタイ者ガイルノダ。」
「会わせたい者だと?まさかそれは、その後ろにいるチンチクリンではないだろうな?」
ビシッと、美人の指が俺へと差し向けられる。
「ソウダ。ユーキ前ヘ。」
促されて前に出ると、刺さるような鋭い視線が集まった。
余所者嫌いなのだろうか、敵意すら感じる視線だ。
普段なら喧嘩を売られてると思い、それ相応の対処をする所だが、今回はブラーブの顔に免じてスルーする事にした。
こいつら、内弁慶ズだからな。勘弁してやるのだ。
「コノ者ハ、ワシノ友人デアル召喚士ノユーキ。今回ノ森ノ異変ノ解決ニ手ヲ、貸シテクレル事ニナッタ者ダ。皆、宜シク頼ム。」
「ユーキだ。宜しく。」
自己紹介を済ませると、美人がテーブルを叩いて立ち上がった。
その顔は御世辞にも友好的にしようとする者の顔ではなく、怒りすら感じる敵意に満ちた顔だった。
「ブラーブ!貴様っ、何を血迷った事をほざくか!!余所者を勝手に招いただけでなく、その余所者に森の異変へ関わらせると言うのか!!」
美人の言葉に、周囲のジジババも続く。
「しかり。森の事は、森の民である我等が解決する事。余所者にやらせる事など、何一つありはしません。」
「左様左様。そもそも、余所者などどれだけ信用出来ると言うのですかな?耄碌されましたな、ブラーブ様。」
「ブラーブ様のお言葉とは言え、認める訳にはいきませんな。それに森の掟にも反しましょう。」
あがる声は、どれもこれと否定的な物ばかり。
そんなに必要ないなら、俺帰るけども?
てか、困っているから、助けを呼んだんじゃないのか?
疑問に思いブラーブへと視線を送る。
俺の視線に気がついたブラーブは困ったように笑うばかりで、何も言おうとしない。
尚もそこにいた者達の罵倒のような声はあがり続け、仕舞いにはブラーブ共々追い出されてしまった。俺の処分はおって伝えるそうだ。
なんでも重要な会議の続きをするから時間がないのだと。
そこに突っ立ててもあれなので、俺とブラーブは洞穴を抜け泉の所まで戻って来た。
色々と言いたい事はあったが、ブラーブの少し落ち込んだ背中に文句を言うのは気が引けたので黙って置いた。空気を読めない俺でも、それくらいは分かるのだ。褒めてくれてもいい。うん。
「済マナカッタナ。嫌ナ所ヲ、見セテシマッタ。」
泉についてから、ボンヤリと座り込んでいたブラーブがようやく口にした言葉は謝罪だった。
俺はブラーブのモジャつく背を撫でながら、「別に良いけど」とフォローしてやる。
バナナがあればくれてやる所だが、ないからこれで勘弁な。
「アレモ、以前ハアアデハナカッタノダ。常ニ森ノ平和ヲ願イ、森ノ未来ヲ考エル、良イ娘子ダッタノダ。イヤ、今モソレハ変ワランノダガ・・・・立場ノセイカ素直デナクテナ。」
「ふぅん。」
あんまり気にしなくていいと思うけどな。
年頃の女なんて反発してなんぼ、みたいな所があるからなぁ。
「━━━それよか、あの人ってスアの親戚の人?なんか似てたけど。」
「イヤ、母親ダ。」
「へぇ、なんだ母親だったのかー・・・・・って、母親!?」
若っ!!
いや、まぁ、ここの人達平均寿命高いから、見た目とかからじゃ分からないかも知れないけどさ。それにしても、若いな。
「因ミニ、スアハ二人目ノ子供ダ。一人目ハ"キノ"トイウ女ノ子ダ。」
しかも、二女の子持ちだった。
若い御母様だ事で。
「キノっては、スアと似ているのか?」
「良ク似テオル。見レバ直グニ分カルデアロウナ。」
「へぇ。」
そっか。スアは姉ちゃんがいたのか。
そう言えば、魘されてた時におねえちゃんとか言ってたもんな。なるほどなー。
・・・・・話が途切れた。
特に何を言うでもなく、またぼけーと一人と一匹で泉を眺めた。
何時間なの、これ。
そうやってぼけーっとしていると、後ろの方に人の気配が近寄ってくるのが分かった。気になって振り返ると、先程手を振っておいた一人と一匹の子供がいた。
子供達は恐る恐ると言った様子で口を開いた。
「おねえちゃん誰?」
「誰ェ?」
余所者である俺に対して、当たり前過ぎる質問。
そりゃそうか。いきなり知らない人がきたら、そうなるよな。
「俺はな、ユーキって言うんだ。よろし━━━」
「ブラーブ様の恋人?」
「番サン?」
「━━━━━ぶぉっほっ!?」
なんて事を言うんだ、この餓鬼共!!
俺がどうしたら、ゴリラの花嫁に見えるってんだ、おい!!
「あのな、俺は━━━」
「ちゅうするの?」
「ペロペロスルンダヨネ?」
「━━━しねぇよ!!」
ゴリラとキス・・・・うげぇぇぇぇぇ!
ない、絶対ない!男とするより、ない!
「お前ら、だから俺は━━━」
「もうまぐわった?」
「パンパンシタノ?」
「━━━━まぐわってたまるか!!」
ゴリラとまぐわっ━━━━おげぇぇぇぇぇ!
ない、絶対ない!だったら岩熊野郎とまぐわった方がまだマ━━━━ィおげぇぇぇぇぇ!無理、あれも無理だわ。生理的に、無理だわ!
更なる負の歴史を産み出そうとする餓鬼共から一旦視線を外し、ゴリラへと視線を向ける。
さっさと誤解を解けコラァと言う気持ちを込めに込めた、怒りのアイコンタクトである。
所が視線を向けた先のゴリラは手で口元を覆い顔を伏せるばかりで、目も会わせようとしない。
プルプルと小刻みに震えている所から、笑っているのが嫌と言うほど分かる。
なので、腰辺りを足蹴してやった。
「ウボッ!━━━アア、済マン済マン。悪カッタ。フザケガ過ギタナ。然シ、ワシトオ前ガ恋人ヤ番トハ・・・・ホォホホホ。」
「面白い訳あるか!この!早く誤解を解け!この!」
「ホォホホホ。」
げしげしと打ち込まれる蹴りを、ブラーブが笑って受け入れるせいで、余計に餓鬼共からの視線が痛い事になっていく。
やめろぉ、そんな目で見るなぁ。
「仲ヨシダネ。」
「ね。仲よしだね。」
「いやぁぁぁぁ!!」
泣き崩れる俺に、ブラーブが慰めるように頭を撫でてきた。
「オ前サンガソウ言ウ反応ヲスレバスル程、勘違イガ進ムゾ。」
「お前のそう言う行動も、勘違いされる理由の一つなんだよぉ!!撫でるなぁよぉぉ!」
「オオ。済マン済マン。」
ブラーブとそんなやりとりをしていると、すかさず餓鬼共が側にやってきて指をさし楽しそうに声をあげた。
「イチャイチャしてる!」
「子供産マレル!」
「産まれてたまるか、こらぁ!!」
聞き分けのない餓鬼共へ教育的指導を目的に手を伸ばすが、華麗に避けられた。どちらも猿のような身の軽さだ。
あ、いや、片方は猿だ。まごう事なき、猿だった。
「わぁーー!」
「産マレルーー!」
そう大声をあげて逃げていく餓鬼共。
俺はゆらりと立ち上がり、手加減なしのブラストモードで追いかけた。
ブラーブのちょっと焦った静止を求める声が聞こえたが、知らん!
待て餓鬼共ぉ!!それ以上、その誤解を招きそうな発言を続けながら逃げたら━━━━身体中の毛を毛根ごとむしりとって、ハダカデバネズミみたいにするぞ!こらぁ!!!
そうして始まった餓鬼共との追いかけっこは、中々にエキサイティングな物になった。素早く小回りがきき地の理を最大限駆使して逃げる餓鬼共は、下手な魔物よりよっぽど厄介だった。
結局捕まえたのは、追いかけっこを始して一時間後くらいたってから。餓鬼共が体力切れでヘロヘロになってからであった。
実質の敗北に、俺はハンカチーフ噛み千切ってやった。悔しいぃ!!
なんやかんやすっかり親睦を深めてしまった餓鬼共と、上下関係を叩き込みながら遊んでいると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ちょっ、勘弁してくださいよー。あたしはただ、ここに仕事で来ただけでー。あっ、いたっ、つ突くな!つ突くんじゃないっての!痛ってぇっつんですよ!!こらぁ!!!」
ん?これは・・・・。
その声の発生源へと視線を向けると、カザジャ族と思われる人間とクイープに囲まれた檻の中で、怒号を発する見馴れた女がいた。
「っあ。」
すっかり忘れてた。
「どうしたのあねさん?」
「アレサン産マレル?」
「産まれてたまるか。ちょっと待ってろ。」
少し離れた所で生暖かい目でこちらを眺めているブラーブの元へと向かう。
向かって来る俺にブラーブは不思議そうな顔である。
「ブラーブ。あそこで騒いでる奴なんだけど。」
「ン?アレカ?」
ブラーブによって指さされた"アレ"に、俺は頷く。
「そうそう。あれな、俺の下僕。悪いんだけど、助けてやってくれないか?」
「マァ、ソレハ構ワンガ・・・・ナンダ、モウ少シ親身ニナッテヤッテハドウダ。扱イ雑過ギナイダロウカ。」
「これでも親身になってるつもりなんだけど。」
「ソレデカ。ウウン、マァ、良カロウ。」
「つ、つ突くんじゃねぇーんですよ!!こらぁ!!!」
◇━◇
無事に?ゲロ子と合流した俺は、スアの元へと向かった。
なんでか?それは夕御飯にお呼ばれしたからだ。
ゲロ子と合流した後、ゲロ子も交えて三人と一匹で遊んでいると、スアが"バーバラ"と呼んだ魔物が現れた。バーバラは俺を一瞥すると、ブラーブの耳元で何かを呟き颯爽と去っていった。
どうしたのかとブラーブに尋ねると、なんでもスア達が俺に助けてくれたお礼としてご飯をご馳走したいそうなのだ。
最初は母親の事もあって断ろうかなぁとも思ってたのだが、凄く楽しみに準備をしているらしく、断るのも可哀想と思ったのでこうしてお呼ばれする事にしたのである。
「いやぁ、良かったですよー。ユーキ様が無事で。はぐれた時はどうなるかと思って心配しまくりだったんですよー。」
「本当かぁ?」
「本当ですよー。ですけど、ユーキ様の身の安全と言うよりは、周囲へ与える被害の心配の方が大きかったですけどねぇ。」
「お前っ、俺をなんだと思ってるんだよ。おい。」
俺がぶすっとすると、ゲロ子が酷く焦った顔をした。
「い、嫌だなぁ、ユーキ様ぁ!そんな怖い顔しないで下さいよぉ!ちょっとした、冗談じゃぁないですかぁー。」
「━━━━お前な、からかうなら最後までからかえよな。調子狂うんだよな、そう言うの。」
「からかうのは許してくれるんですね・・・・。」
そんな話をしながら歩いていると、教えて貰った洞穴へと辿り着いた。
「ここかな?」
「確か、洞穴脇にある赤い垂れ旗が目印でしたよね?間違いないんじゃないですかね。他の所は緑だの青だのですし。」
「だよな。」
ゲロ子からの同意を受けた俺は、垂れ幕に向かって声を掛けた。
「おーい。スアー来たぞー。」
「はーい!」
直ぐに返ってきた返事と共に、垂れ幕を押し退け笑顔のスアがやって来た。
「ユーキおねえさん!お待ちしてました!いらっしゃいませ!」
「おう、お待たせ。でも、本当にいいのか?」
「はい、勿論です!おねえちゃんと一緒に準備したんですよ。今夜はご馳走です!!」
「へ、へぇ。それは凄いなー。アッハハハー。」
ご馳走と聞いてもあんまり期待する気になれない。
だってここ、辺境も辺境のど田舎だもの。地球でいったら、アマゾンの奥地とか、アフリカの草原とか、極地とかだもの。
ご馳走とか言って虫とか生肉出されても、なんら可笑しい所じゃ無いんだよなぁ。うぬぬー。
不安を抱きながらスアに案内され洞穴の中に入ると、壁に掛かった色とりどりの仮面と、思っていた以上に香る良い匂いが鼻をついた。
仮面は兎も角として、ご馳走は期待出来るのか?
「おねえちゃん!!ユーキおねえさんが、英雄様が来たよ!」
喜色満面であげたスアの声に「はぁい」と軟らかな返事が返る。
声の主は髪を結い上げたポニーテール美人だった。
「いらっしゃいませ。えっーと、英雄様ですよね?ようこそおいで下さいました。その節は妹を助けて頂きありがとう御座いました。」
丁寧なお辞儀と、たわわに揺れる胸部装甲。
柔和な笑顔に加え、華やかな香りを漂わせる金髪。
小麦色の肌を持つ太陽のような彼女に、俺は一撃で心をノックダウンされた。
か、か、かか、可愛い!なにこの人!!
感激した俺は思わず彼女キノの手を掴み、その瞳をまじまじと覗き込んだ。キノの瞳が動揺から揺れる。ついでに胸部装甲も揺れる。
「あ、あの、英雄様?なにか?」
「端的に言って好きです。付き合って下さい。」
「ええぇぇ!?英雄様っ!?」
またしても思わず溢れた言葉に、キノは動揺しまくる。オロオロしっぱなしである。
だが、キノは動揺しながらも考えてくれているようだった。それから暫くして考えがまとまったのか、眉をさげながら答えを返してくれた。
「あの、ごめんなさい。私、普通に男の子の方が好きなので!」
「くはっ!!・・・・・・く、くそぅ!なんで俺は、男じゃないんだっ!!」
慟哭する俺に、ゲロ子が呟く。
「そりゃ、あんたが女の子だからでしょうよ。」
知ってんだよ、こらぁ!
分かりきった事を、言うんじゃぁないよぉ!
くそぅ、今だけかつての肉体が恋しいぜぇ!
落ち込む俺にスアが背中をポンポンしてきた。
「ユーキおねえさん。あたしで良かったら、その、付き合うよ?」
子供に気遣われるとは・・・。
なんとも、情けないでござるぅ。
いつまでも落ち込んでいる訳にもいかない為さっさと立ち上がった俺は、ポンポンしてくれたそのちっちゃい手を優しく両手で包み、笑顔で語り掛けた。
「ううん、大丈夫だ。心配してくれて、ありがとな。でも、さっきの言葉は簡単に言って良いことじゃないんだぞ?いつか本当に好きになった人が出来た時までとっておくんだ。」
「う、うん。分かった。ごめんなさい。」
「いや、良いんだ。気持ちは嬉しかった。ありがとな。」
そう言って頭を撫でてやれば、スアは途端に笑顔になる。
今だけはチョロいとか考えず、素直に良かったと思える。
子供は笑顔が一番。助けて良かった。うん。
「レズるのは勝手ですけど、その、餓鬼んちょは流石にアレだと思うんですけど・・・・。あ、あたしは勘弁して下さいね。普通に男の方が好きなんでぇ。」
俺は静かにゲロ子の額に手を構え、そっと魔力を込める。
何をされるか察知したゲロ子は、諦めたような、悟ったような顔をして目を瞑った。
「━━━おらぁ。」
「っぁでぃっしゅ!!」
今日もデコピンの威力は絶好調だ。
おまけーー( *・ω・)ノ
餓鬼共の過ちへの物語
餓鬼「うわぁ!ブラーブ様が女の人といるぅ!」
餓鬼猿「本当ダ!メスノ人ト一緒ダ!」
餓鬼「綺麗な人だね」
餓鬼猿「ネェ。誰ダロ。」
餓鬼「ブラーブ様のこどもさん?」
餓鬼猿「違ウヨ!モット大キカッタモン!」
餓鬼「お孫様、じゃないよね?」
餓鬼猿「ウン。違ウヨ。皆金金シテルモン。」
餓鬼「じゃぁ、お嫁さん?」
餓鬼猿「オ嫁サン?アッ!!」
ユーキ
笑顔でバイバイー
餓鬼「ふぁ・・・」
餓鬼猿「アワワァ・・・」
餓鬼「綺麗だったねぇ」
餓鬼猿「ウン。」
餓鬼「やっぱりお嫁さんかなぁ。」
餓鬼猿「ソウダヨ。ブラーブ様ハ一番格好イインダカラ、一番綺麗ナ人ガオ嫁サンニナルダヨ。」
餓鬼「お嫁さんになったら、遊んでくれるかなぁ?」
餓鬼猿「遊ンデクレルヨ。━━ソウダ、聞イテコヨウ!」
餓鬼「あ、うん、そうしよう!お嫁さんになってくれるように言おう!」
餓鬼猿「イコウ、イコウ!」
こうして絡みにいった子供達。
後に本気で追い回され、子分にされる事は、まだ知らない。




