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機甲兵団と真紅の歯車 36・森は深いよどこまでも

 依頼を受けた翌日。

 俺は簡単に旅支度を済ませ、下僕を連れアジャータの森にやってきていた。


 今回の旅で、俺は従来の服装を一新した。

 白ローブにあんまり良い噂がついてない事を鑑みて━━━━白のコートにしました!勿論フードはついている。これがないとね!

 そして今回はちゃんとインナーも作りました。ちょっと裾の長い黒のタートルネックのノースリーブシャツです。ブラとうっすい肌着だけの痴女ではもうない。元より痴女ではないけどね。

 下もパンツ一丁ではなく、短パンを装備しました。ムゥからスカートの提案も合ったけど、キックした時にパンツが丸見えになる事を危惧して今回はパンツスタイルです。幼女がパンツ丸見えになってるのと、妙齢の女の子のパンツが丸見えになってるのは、意味が違うからね。気をつけねばならんよ。うん。


 他にも銃を納める腰巻きのガンベルトや、おニューの革靴を新調したり、念の為に剣も用意しておいた。

 準備ばっちりである。


 ん?食料とか寝床用のテントは?

 いらんいらん。

 日帰りの予定なので必要ナッシングだ。


 水筒とオヤツくらいは持ってきたが、飲食物なんてそれくらいだ。


 目的地へと送ってくれたラ・ディーンにお別れを告げていると、それまで呆然としているだけだったゲロ子が口を開いた。


「あたしの格好見て、なにか言う事ないですかね?」


 漸く口を開いて何を言うかと思えば・・・・。

 言われた通り、俺はゲロ子の姿を上から下まで見てやった。


 軽さを重視していながらも頑強さも考慮された革鎧一式。

 テントと食料、他にもランプや鍋といった野外で寝泊まりが出来そうな大量の荷物を詰めたリュックサック。


「・・・・・お前、なんでそんなに重装備なの?」

「旅支度ったら、大体こんなもんなんですよぉぉーーー!!」


 俺の当然の疑問に、ゲロ子はキレた。


「それをなんですか!手ぶらかっ!ちょっと小粋なコート羽織って!お散歩気分かっ!!」

「お散歩気分の訳ないだろ。ほら見ろ、ニュー衣装だぞ?勿論、全部ムゥさんブランド。こう見えて並みの刃物じゃ傷すらつかない立派な防具なのだよ。明智くん。」

「誰がアケチくんなんですか!?ムゥサンブランドってのはよく分かりませんが・・・・防具だって言うなら、せめてもっと露出は控えて下さいよぉ!なんですか、その露出の高さ!!生足だしまくりで誰誘惑するつもりですか!長ズボンにするとか、長袖にするとか、どっちかは守りましょうよ!!」


 ゲロ子のこの意見には思う所がある。

 確かに、安全面を考慮すればその方が断然良いだろう。

 だが、俺にも譲れない思いという物があるのだ。


「ゲロ子。ゲロ子には分からないかも知れないんだが・・・・。」

「な、なんですか急に。」

「ローブ生活の悪癖と言うか、なんと言うか。つまりだ、慣れちゃったんだよね。」

「はぁ、何が言いたいんですか?」


 そんなに難しい事ではない。

 ただ、ただ・・・・・そう━━━━


「スースーする感じがないと、なんかヤになっちゃんたんだよね。」

「長袖長ズボンにしやがって下さいよぉ!!」


 俺の返答を受けるなり、怒りの声をあげながら胸元を掴んでシェイクしてくるゲロ子。やんのかコラァと睨み付けようと思ったが、なんか涙目で必死になっているので、甘んじて受けてやった。うん、いいよ、こいよ。よく分からないけど、お前の悲しみを受け止めてやろう。主だもんね。


「て言うかですねっ!なんですか、その変態への第一歩を踏み出しそうな発言は!?止めて下さいよ、主が変態とか笑い話にも━━━」

「誰が露出癖のある変態だっ!おらぁ!」

「あだぁっ!?」


 変態発言は許さん。

 デコピンで誅するでごさるの巻、でござる。








 ◇━◇








 ガイゼルに跨がり森を進むこと10分程。

 俺達は一つの看板に突き当たっていた。


「この先、カザジャ族の庭。関係者以外立ち入り禁止。ふむ。」


 俺がそう読みとくと、ガイゼルの隣で大汗をかきながらゼェゼェと苦し気に息をしていたゲロ子が顔をしかめる。


「はぁ、よ、よく読めますね。・・・はぁはぁ・・・ま、まぁ、召喚士である事を考えれば・・・はぁ、はぁ。━━っ、ま、魔法文字くらい読めても可笑しくはありませんけど・・・・。」


 魔法文字・・・・。


 俺はゲロ子の言葉を聞いて、看板に視線を戻す。


「・・・・・。」

「ど、どうか、し、したんですか?はぁ、はぁ・・・。」


 ━━━言えねぇ。

 未だに、なんとなく文字を読んでいる事実を。

 そして、現代語と古代語の一つである魔法文字の区別がついてない事実を。


 魔法文字は一つの文字に複数の意味があり、それを前後の文字の組み合わせで読み方を変える特殊な言語だ。

 何故か分かる俺は兎も角として、こんなの普通の人が読める訳がない。だってあれだ、三文字くらいの文でピカソのフルネームくらいの意味合いを持つ長文が出来上がったりする代物なんだよ?なんであんなに分かりにくい言語にしたのか、まったくの謎である。


 因みに、魔法文字が読めるからと言って魔術への理解力が高い訳ではない。読めるだけ、なのだ。以前、アルベルトが書いたと思われる魔術の研究資料を見たときも、文字は読めるだけで訳わかめちゃんだった。暗号かと思った。ロイドの説明がなければ永遠に資料とにらめっこする羽目になっただろう。

 本当、なんなんだろうか。この中途半端な感じ。


「ユーキ様、それで書いてある事は全部ですか?やけに長い文章なんですけども・・・・。」


 呼吸が整ってきたゲロ子はそんな疑問を口にした。

 魔法文字は読めないくせに、勘が鋭い奴だ。


「それだけじゃないな。」

「それを早く言って下さいよ。それでなんて?」


 そう言って促されたので、"優しさ"で文の後半を読み上げてやる事にした。


「もし、禁を破り侵入し、あまつさえ森を荒らすような事があれば、殺す。」

「こわっ。」

「森の恵みをくすねた者は、生皮を剥ぎ殺す。」

「こわっぁ。」

「無意味に森の友を殺した者は、生きながら臓腑を引きずり出し殺す。」

「こぉっわっ。」

「と言うか、今この文を読んでいる事実すら許さん。目を抉り、耳を引きちぎり、舌を引き抜き、指をもぎ取り、手足を切り落とし、生きたまま心臓を抜き殺す。」

「なんでっ!居るだけが一番キツイ罰なんですけどっ!?」


 どれもキツイだろ。

 結局どれも最後は殺されてるからな。


「・・・今更ではありますけど、この依頼可笑しいですよ。なんでも殺す部族に荷物の配達とか。しかも荷物の大半は手紙ですし。これ、体のいい言い訳で行われる生け贄の儀式なんじゃないですか?」

「うーん。そうなのかなぁ?でもさ、荷物の運搬用にマジックバッグ貸してきたじゃんか。これって高価なもんなんだろ?」

「それを考えると、なんだかなぁって感じですよね・・・・。」


 この依頼の為に、ギルド連合は手紙と物資を詰め込んだマジックバッグを貸してきている。それも重量制限500キロという破格の高級品だ。中古でも、売れば一生遊んで暮らせるだろう。


 そんな物を渡して使い捨てするだろうか?


「カザジャ族とギルド連合に黒い繋がりがあるとか、どうですか?こう言う依頼を受けた人間を、カザジャ族を使って人身売買してるとか。だったら、物資は対価で・・・・。」

「疑い過ぎだろ。なんか理由があるんだろ。」

「ユーキ様が欠片も疑わないから、代わりに疑ってるんですよ。」


 そう言われると、苦い物がある。

 いや、まぁ、なんだ。

 俺が、チョロいとかでは無いんだけどね、うん。


「まぁ、いいや。先に行くぞ。」

「えっ!?行くんですか?!こんな怪しい立看板があるのに!?」


 そうは言っても、受けた依頼は荷物の配達なのだ。

 それも、ちゃんとカザジャ族に渡して、受け取った証も貰わなくてはいけない。


 どんな形であれ、一旦引き受けたのならしっかりと達成せねば、男が廃るってもんよ!・・・・もう、男ではないんだけどもっ!




「ガイゼル!」




 そう言ってガイゼルの腹を蹴れば、「がう」と一鳴きして駆け出した。

 おいてけぼりになったゲロ子も、驚愕の声をあげて走り出す。


「ちょっ!ユーキ様ぁっ!ま、待って下さい!」


 待てと言われてもなぁ。

 早く済ませて帰りたいんだ俺は。


「だったら早くしろー置いてくぞー。なんなら乗るか?」

「乗せて下さい!もう、下僕だからとか、滅相もありませんとか、遠慮一切しませんのでっ!乗せて下さいぃぃぃぃ!」


 うむ。最初からそうすれば良いのだよ。


 泣きながら走ってきたゲロ子を乗せ森を進む。

 人里の正確な位置は不明だが、ガイゼルの鼻なら簡単に見つけられる事だろう。


 俺は案内をガイゼルに任せて、麗らかな風を浴びながらうたた寝するのであった━━━


「ひぃっ!!こわっ、これ乗るの、こんなに怖いもんなんですか!?揺れがっ、おわっ!なんで平気で居られるんですか!?っぷ、てか、別の意味で吐き気が━━━━━って、えっ?!寝てます?!この揺れの中でユーキ様寝てます!?ユーキさ━━━━おろろろろ。」




「うっせぇんだよ!!寝られるか!!」




 ━━━━やっぱり、寝られなかったのであった。




 ◇━◇





 森を更に進み事20~30分程。

 進めば進むほど深くなる森は、もう真っ暗である。

 僅かに洩れる日差しはあるが、基本的に暗闇なので目を魔力で強化しないと何も見えない。


 案の定、俺の後ろで青い顔してるゲロ子はあまりの暗さにしかめっ面で目を凝らしている状態だ。ランプに手を掛けなかった事は褒めてもいい。

 こう言う暗がりに棲む者達にとって、光は恐れる物であるけど、それと同時に目印だったりするからな。無闇やたらに目立つもんじゃない。


「ユーキ様。一旦休みませんか?せめて目が馴れるまで━━」

「俺は見えるからいい。ガイゼルも鼻と耳が聞くから問題ない。」

「いや、あたしが見えないんですよ。」

「良いじゃん別に。どうせ何もしないんだから。何かあったら、俺とガイゼルでどうにかするし。」


 俺がそう言うと、ゲロ子は目に見えて落ち込んだ。


「なんで、しょうかね。この気持ち。いや、別に良いですよ?楽出来るにこした事は無いんですから。いや、でもですよ、一応ですね、私も実績とかある一兵隊だった訳で・・・それがこうも役立たずだって面と向かって言われまくると、こう、くるものがあると言いますか・・・・。」

「?なんかよく分からないけど、元気だせよ。」

「原因に言われても全然立ち直れませんよ。」

「む?」


 なんの事だろうか?原因?あっ、さっきガイゼルに乗せてた時のか?それに関してごめんな気分だ。

 いや、だって、揺らすと気持ちいいくらいにゲロゲロ反応するから、つい面白くってさ。うはは。


「それはそうと、聞いていた話と違って森は静かだなぁーー。」

「なに、サラッと話流してるんですか。はぁ、良いですけどね。まぁ。━━━と言うか、森が静かなのは当たり前ですよ。こんな魔獣が彷徨い歩いているんですから。みーんな影に引っ込んでいる筈ですよぉ。」

「?」


 こんな魔獣・・・・?


「どこ?」

「それを本気で言ってるあたり、放って置くわけにもいかないんですよねぇー。これさえなければ、あたしが無力に頭悩ます事もないんですけど・・・・・。」

「むむ?なんの話?」

「こっちの話ですよ。」


 ゲロ子と他愛もない話をしていると、不意にガイゼルが鼻を鳴らした。

 どうしたのかと視線を移せば、何かを言いたげなガイゼルがハッハッハッハッと舌を出している。


「どうかしたんですか?」

「うーん、何か見つけたみたいだ。」

「何かって、何なんです?」

「さぁ、知らん。」


 何を見つけたかは知らないが、ガイゼルがこうして知らせてくる以上、悪い物ではないのだろう。悪い物なら、牙を出して敵意丸出しの顔するもんな。


「よしっ、そこに行くか。」

「えっ、行くんですか!?何があるか分からないんですよね?!」

「大丈夫。ガイゼルが教える気になったんだ、俺が気に入る事だろうさ。行けっ!」

「ちょっ━━━━!?」


 俺の命を聞いたガイゼルは一声鳴くと矢のように走り出した。

 加速する世界の中でゲロ子の悲鳴だけが耳に響いた。






 うるさっ。










 ◇━◇








「ふむ。なんじゃこりゃ?」


 ガイゼルに走らせて辿り着いたそこにあったのは、財宝でもなく、目を見張るようなレアな植物でもなく、大きめの帽子をかぶった被った小汚ない一人の子供の姿だった。

 大樹の幹の隙間に隠れるように背を預け、紫色の包みを大事そうに抱えたたまま気を失っているその子供は、スゥスゥと小さく寝息を吐いている。


「子供、か。」

「子供ですね。・・・・っつーか、小汚ない子供ですねコレ。」


 パチン。

 口の悪いゲロ子はお仕置きあるのみ。

 頬を叩かれたゲロ子は不服そうに顔を歪めた。


「じ、事実じゃないですか。なんで叩きますかね?」

「お前な、事実だからってなんでも言っていい分けじゃないんだからな?俺だって、小汚ないなぁとは思ったけど、黙ってたんだから。」

「ほら、ユーキ様だって。」

「うるさいっ。」


 パチンパチン。

 揚げ足とるような悪い子は往復ビンタである。

 ・・・不服そうに見るな。もっかい叩くぞ。


「いったいな、もう。はいはい、下僕は黙っておきますよ。━━━と言うかどうすんですかコレ。持って帰るんですか?」

「持って、帰るの?」


 そんな物みたいな・・・・。

 当然のように言われたそれに、俺は唖然としゲロ子を見つめた。ゲロ子に悪気がない事は知っているんだけど、どうにも口が悪い。人に聞かれたら誤解を招きそうだから、今後は止めて欲しい所である。


「え?いやいや、好きにして下さいよ。ユーキ様が見つけたんですから━━━ってなんですか、その蔑むような目は・・・・・はっ!」


 俺の視線と、そこに含まれている物に気づいたゲロ子は、顔面を蒼白させ冷や汗を流しまくって捲し立てた。


「ち、違いますよ!!なにも連れ帰って奴隷にしたり、愛玩ペットにしたり、人買いにうっぱらったりしろとか、そういう意味では無いですからね!!」

「うわぁ。お前、また平然とそんな言葉を・・・これはマジデコピンかなぁ。」


 不穏な事を言うゲロ子にすっと右手を構える。

 すると、ゲロ子の焦りは最高潮へと達し、言葉がマシンガンの如く飛び出していく。


「違いますって!!そういうあれでは無いんですって!他意とか無くてですねっ、ユーキ様の性格を考えた上での提案みたいな━━っ、そもそもですねあんな子供一人売り払った所で大した額にはならないんですよ?売るだけ損なのに、捕まえたりする分けないじゃないですか!!って、ああーーーー駄目だ言うほど胡散臭くなるぅ!!ちょっとした失言じゃないですか!勘弁してくださいよー!!」


 最後には土下座である。

 しかもより高度なジャンピング土下座である。


 別にそこまで怒ってるいる分けでもなく、どちらかと言えば戸惑っただけなので、地べたに頭を擦り付けるゲロ子に「許す」と一声かけてやり、なんとか事を納めた。

 下僕って難しいな。うん。


 そうやってゲロ子と騒いでると、ガタッと大きな音と共にくぐもった女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 どうやら、目が覚めたようだ。


 振り替えってみると、そこにはやはり先程の小汚ない子供がいて、妙に震えながらこちらを睨み付けていた。

 子供は俺とゲロ子を交互に見て、最後にガイゼルに気づき腰を抜かして倒れてしまう。ついでにガイゼルの尻尾もシュンと項垂れる。


「だ、だれ、誰なんですか!?森に他所の人がいるなんてっ、それもこんな深い所にっ!!」


 震えた声から緊張が伝わってくる。

 全然、信用されていないのだろう。

 まぁ、俺も自分家に知らない人がいたら、信用とか以前に通報とかするだろうし、当然ちゃ当然の反応ではあるな。うん。


 子供はじりじりと距離を離していく。

 捕まえられるとでも思っているのだろうか?


 正直、関わるつもりもないし、追いかけるつもりもないので、いっその事走り出してってくれないかなぁと、そのまま見守る。

 元気に駆け出せるなら放って置く大義名分が出来て、放置するこちらの気持ち的にも楽だからな。面倒事は避けたい所なのである。


 だが、じりじりと距離を離していく子供に、いらぬお節介が焼かれた。それは意外にも俺の隣にいた、口の悪い女からだった。


「逃げて構わないですけど、そっちにいったら直ぐに死にますよ?」

「━━━━っえ?」


 ゲロ子の言葉に、子供の足が止まる。


「何に追われているのか知りませんけど、そっちにいったら間違いなく死にます。聞こえないんですかね?この獣達の息づかい。」


 そう言ってゲロ子は耳に手を当て、音を聞くような仕草をする。


「一匹や二匹なんてもんじゃないですよ?それこそ、数百匹。辺りを囲むように魔物が犇めいています。」

「う、嘘っ!!聞こえないもん!そんな音!それに囲まれてるなら、とっくに襲われている筈だもん!そんな訳━━━」

「あるんですよぉ。そんな訳。だって、こっちに近づきたくても、近づけない理由がちゃんとあるんですから。」


 そう言って、ゲロ子はガイゼルに視線を向け━━━━たかと思えば、何故か俺にも視線を向けてきた。


「なんたって、こっちは災害級すら捩じ伏せるおっかない化物がいますからねぇ。」


 ニタっとゲロ子は笑う。

 何故か、華奢で可愛い女の子である俺を見て。


「獣っては敏感ですから、本能で理解して避けているんでしょう。そうじゃなければ、あたしだって今こうしてノンビリくっちゃべっていられる分け無いんですよ。ランクC~Bの魔物群れの相手じゃ、流石に無傷ってのはキツいですから。」


 そう良いながら俺を見ているゲロ子。

 おい、なんだ、さっきから突き刺さるその視線は。

 何が言いたい、誰が化物だ、おい。


「お引き取り、大いに結構。どうぞご自由に。ですが、生きて何かを成したいのであれば、貴女がここでするべきは警戒する事でも、逃げ出す事でもありませんよ。たった一言、言えば良いんですよ。頭を地面にすりつけながら、泣きべそかきながら、ゲロを吐きながら━━━」


 いや、ゲロは吐くな。ゲロは。

 なに、ちゃっかり仲間増やそうとしてんだよ、こいつは。


「━━━━たった一言、助けて下さいってねぇ。」


 ゲロ子の言葉に、子供の喉がごくりと鳴った。

 そして何かを悩んでいる仕草を見せたが、悩んだのは一瞬。

 直ぐに口元を引き締め顔をあげた。


「ふざけないでっ!誰があんた達みたいな余所者に!!」


 そう捨て台詞を吐き、子供は俺達に背を向け駆け出した。

 森の闇へと消えていく子供を見つめていると、隣で同じように眺めていたゲロ子がつまらなそうな顔になっていた。

 先程までヘラヘラ笑っていたと言うのに、凄い変わりようだ。


「随分と柄じゃない事言ったな?」

「・・・そうですかねぇ。あたし、別にそんな酷い女じゃないですよ?少し自分を大切にする傾向があるくらいで。」

「ふぅん。」

「ちょっ、全然信じてないですよね?もう。」


 そこで小さく溜息をついたゲロ子は続ける。


「まぁ、でもそうですよね。柄じゃないかも知れないですね。ただ、少し気になったんですよ。」

「ほぅ?」

「あたしも、昔はあんな感じだったんで。同族のよしみっつーか、後輩へのエールつーか・・・・そんなんですよ。まぁ、つまらない結果になりましたけど━━━━━」


 ゲロ子が言葉を言い終わる寸前、先程、子供が駆けていった方向から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。


「だから言ったじゃないですか。直ぐに死にますよって。」


 冷静に傍観を決め込むゲロ子。

 俺はそれに何かを言うつもりはない。考え方なんて人それぞれだ。皆が皆、それぞれ譲れない物があって、曲げられない自分の流儀で日々を過ごしている。


 だからさっきの小汚ない子供の選択も、ゲロ子の辛辣な言葉も、わりかしどうとも思っていない。

 皆、好きにしたら良いと思う。



 だけど━━━━



「ゲロ子、ちょっと行ってくる。」



 ━━━それは俺も同じだ。



 求められて無いかもしれないし、迷惑かもしれない。

 でもそんな事、知った事では無い。


 面倒臭いと思っていたし、関わりたくないなとも思っていた。

 でもそんな事、もうどうでも良い。


 もう決めたのだから。

 勝手に身勝手に。

 何をするべきかを、何をしたいかを。


 小汚ない子供が消えた先、悲鳴が上がったその方向に向けて、俺は駆け出した。闇を切り裂き真っ直ぐに。

 余計なお節介を焼くために。



おまけー。

小汚ない子供の疑念


「━━━━助けて下さいってねぇ。」


助けてくれるの?

脳裏に過ったその言葉に、私は目を見開いて彼女達を見た。


声をかけてきた女は戦士風の女。筋肉多め。可愛くないわけでも無いけど、色気はない。雇われ戦士の可能性大。きっともてない。性格悪い。


もうひとりは傍らにいた生足が厭らしい女の子。

その女の子の顔は美しい。美人と評判のお姉ちゃんに匹敵するものがある。柔らかそうな陶磁器のような白い肌。風になびく艶やかな赤い髪。


唇は少し薄い気もするが、桃色のそれはどことなくエロスを感じる物だった。

きっともてる。絶対性格悪い。


だからか、そういう結論に至った。


(嘘だ!絶対この人達、普通の人達じゃない!お姉ちゃんが教えてくれた、厭らしいお店の人達で、なんばーワンとかいう人と、その護衛の人だ!私を捕まえて男の人の相手をさせるつもりだ!!絶対そうだ!!)


「ふざけないでっ!誰があんた達みたいな余所者に!!」


この言葉の裏に、誤解が生まれていた事をユーキ達が知るのは、もう暫く後である。

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