召喚士されし者 12・宿場町のバウンサー
おっちゃんの魔の手から逃れた俺達は、エバーレントの東区宿場通りを訪れた。
幾つもの宿が軒を連ねたそこは、屋台が並び旅人や商人達で賑わいでいた。
「随分、雰囲気が違いますね。」
シェイリアは辺りを見回す。
たしかにシェイリアの言う通り西区とはえらい違いようだ。
どこか牧歌的な雰囲気の町だと思っていたが、認識は間違っていたようだ。
喧騒なりやまぬ道をシェイリアと歩いていると、一際大きな騒ぎ声が俺の耳に届いた。
何やら「肩がぶつかった」だの「腕が折れた」だのと騒ぎたてている。
どうやら、当たり屋のようだ。
見ると一人の商人らしき人を、いかにもな三人の男が囲って脅かしていた。
関わりたくない俺はスルーする事を即座にきめる。
シェイリアに目で合図を送り、彼等と関わらないよう伝える。
分かってくれたのか、シェイリアはコクンと頷いてくれた。
「おい、そこの白いの。さっきから、チラチラ見やがって何か文句でもあんのか?」
野蛮そうな男が俺の後ろに立っていた。
いかにもな男達は四人だったようだ。
三人で脅かし、一人が見張りだったのだろうか。いや、他にもいるかもしれないな。
見張りの男は俺の首根っこを掴むとズルズルと恐喝三人組の元へと引きずっていく。
シェイリアが何か言いそうだったので、口元に人指し指を立てて「しぃぃー」 とお口チャックのジェスチャーをしておく。
何故、俺だけ目をつけられたのか分からないが、二人して絡まれる事はない。絡まれないのが一番だ。
「兄貴、このガキが俺らに文句ありそうなんで連れてきました。」
ないが?
兄貴と呼ばれた柄の悪い男は、臭そうな毛皮のベストをワイルドに着こなす髭面のオッサンだった。兄貴と言うより親父のが似合うだろう。
「ああん?」
そう凄味を利かせ俺の顔を覗き込んでくる。
柑橘系の臭いがする。合わないから止めて欲しい。
「ふん、中々上玉じゃねーか。おい糞野郎、このガキはてめえの連れか?」
「いえ、あの・・・」と口ごもる商人に兄貴は続ける。
「今回の慰謝料はこいつで許してやる。かまわねぇな?」
「!?は、はい。どうぞ!!」
どうぞるな、こら。
こいつ見ず知らずの俺を売りやがった。兄貴の言う通り、ただの糞野郎じゃねぇか。
男気の一つでも見せたら助けてやろうと思ったが。
やめだ、両成敗してやる。
俺は手もとに魔方陣を構築し始める。
喚び出すのはムゥ様だ。
構築された魔方陣が光だしムゥを喚びだす準備が終わった瞬間。
見張りの男は鈍い音と共に宙に舞った。
当然首根っこを押さえられた俺も放り出されるはずだが。
なぜか、たくましい男の腕でお姫様抱っこ状態にされている。
「怪我はないか?」
俺を抱えた男が問いかけてきた。
黒光りする額当てが目立つその男は鋭い眼光を俺に向ける。
呆然としていると「可哀想に」などと言いながら哀しい表情を浮かべる。
俺を優しくおろすと「大丈夫だ」などとほざきながら恐喝三人組へと向き直った。
「てめえ何者だ。部外者は引っ込んでろ!」
兄貴は威圧的な態度を強め吠える。
しかし、態度とは裏腹に手が震えている。
「部外者じゃねぇさ。オレはこの宿場に雇われたバウンサーだからな。店の前で暴れる馬鹿にはお灸据えんのが仕事よ。」
そう言って男は指をゴキゴキ鳴らす。
いいなぁあれ。
「それにだー」
男の周りの空気が一段重くなり、兄貴の顔色が真っ青に変わる。
「どんな理由があろうが、オレの目の前で子供に手を出そうとする奴を俺は許さねぇ。だからてめえらは・・・。」
男は姿勢を低く構える。
まるでクラウチングポーズのような低い前傾姿勢だ。
「全員ぶっ飛ばす」
兄貴の腹に男の左の拳がめり込み体が九の字に折れる。
すかさず右のアッパーが的確に顎を捉え、兄貴の体は崩れ落ちる。
足を滑らせるように男は取り巻きの一人に接近し、簡単に腕を絡めとりへし折るとそのまま投げ飛ばした。
残った取り巻きはオロオロしている所を顔面パンチ一発。
ベキベキと骨が砕けるような嫌な音が鳴る。
あっと言う間の出来事だった。
男が口上を述べてから三人が地面に転がるまで、その間5秒である。
俺はその早業に拍手をおくる。
周囲で傍観していた連中も歓声をあげ、男を称えだす。
・・・現金な奴らである。
「いやー助かったよ、フリーク。いつもすまないねぇ。」
宿の中から小太りの男が出てきた。
「いんや、これがオレの仕事だからな。礼はいらねえさ。」
「そうか・・・、いや実に残念だよ。君のような優秀なバウンサーとの契約も今月いっぱいかと思うとね。どうかね、正式に雇われてみんかね?報酬も弾むぞ。」
「悪りぃな、ミルトのオッサン。その話は後にしてくれ。」
フリークと呼ばれた男は、宿の亭主との会話をやめ俺の方に近づいてきた。
フリークは俺の頭を力強く撫でる。
見上げてみると、眼光は鋭いままだが優しげな表情をしていた。
その様子を見て安心したのか「あ、あの、あの先程助けていただきー」と先程恐喝されていた商人がフリークに近づいてきた。
途端にフリークに表情が強張る。
「まだいたのか、あんた。何か勘違いしてるみてーだから言っとくぜ。ガキを見捨てたあんたもオレの逆鱗踏んでんだよ。ぶっ飛ばされねぇうちに失せな。」
それを聞いた商人は矢のように走り去っていった。
アイツはヘタレかもしれないが、一応被害者なのでちょっぴり同情する。頑張れ。
「もう大丈夫だ、お前行くとこあるか?」
「大丈夫だ、連れもいる。」
騒ぎが一段落ついたのを見計らって、シェイリアが群衆から飛び出し引っ付いてきた。
「ユーキ様!お怪我はありませんか!?」
「おうシェイリア!お前の方こそ大丈夫か?」
「大丈夫です。ユーキ様のおかげで私は何も!」
心配してたのかシェイリアの目には涙が溢れていた。
いざとなれば何とでも出来るのを知っている筈だろうに、シェイリアは心配性だ。
俺はシェイリアの頭を撫でてやる。
「・・・あー、姉ちゃんか?」
「そう見える?」
「見えねーな。まぁ一人じゃねえならいいんだ。さっきの商人がお前の雇い主だとしたら不味いと思ってな。」
「なら、もうちょっとやり方があったと思うけど?」
「ははっ言うじゃねえか。気に入ったぜお前!」
俺は引っ付くシェイリアを引き剥がしフリークに向き直る。
「ユーキだ。一応礼は言っとく、助けてくれてありがとう。」
「フリークだ。今はこの宿場でバウンサーやってる。困った事がありゃオレに言いな。」
そう言ってフリークは笑いながら俺の頭を撫でまわした。
どうせ撫でるなら優しくして欲しいものだ。




