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機甲兵団と真紅の歯車 25・お前は誰だ

「でんでん虫虫、たかつむりー。お前の目玉はどこにあるー♪」


 ラ・ディーンの背に乗り漆黒の空を駆けていると、不意にそんな歌を歌いたくなった。

 それは、多分、目の前にあるソレが原因だ。


「つの出せやり出せ、あたまー出せー♪━━━ってかぁ?」


 遥か上空から捉えたそれは、でっかい、それはでっかい、鋼鉄の蝸牛だったのだ。


「・・・・・なんだろうか、あれは。」


 敵、なのだろうが、なんか憎みづらい造形をしている。


(主殿)


「おぉう!?」


 久々のラ・ディーンの声に心臓が跳ね上がる。

 この子普段が無口だから、急に話しかけられると心臓に悪い。


「もう、びっくりさせんなよな。で、どうした?」


(いえ、主殿があれが何か気にしていらっしゃるようでしたので、お教えしておいた方が良いかと思いまして・・・・。)


 どうやら、うちの子が知ってるやつらしい。


「ふぅん。なら教えてくれるか?あ、そんなに詳しくじゃなくて良いぞ。」


(はい。簡単に言えば、神の玩具です。)


 ううん。さっぱり分からん。


「すまん、もうちょい詳しく。」


(分かりました。少しだけ詳しくご説明させて頂きますと、魔力を原動力にした魔導兵器、もしくは魔導生物と言った所がでしょうか。私がかつて空を舞っていた時代を考えれば、古代の、と注釈がつく事かと思われますが。)


 魔導兵器?魔導生物?なんだそれ?


「よく分かんないんだけど、取り合えず一つだけはっきりしてくんねぇか。あれは兵器なのか、生物なのか?」


(正確にはどちらでもあります。そう言った曖昧な存在なのです。かつての主も「なんだあれ」と終始頭を捻られておりました。最終的に「もう、いいや。なんか、あれだろ、そういうやつなんだろ」とも仰有られておりました。)


 なんだろう、かつての主の言動、頭悪そう。

 俺とは大分違う人間みたいだな。うん。


 それにしても神の玩具か。言いえて妙だな。確かにそんな中途半端な存在であれば、その言葉以上にしっくりくる物もない。


「むっ?」


 よく目を凝らしてみると、旗印を掲げた一団が視界に入った。

 目を魔力で更に強化してみると、アルシェに教えられた旗印を掲げている所から味方である事が分かった。どうやら絶賛戦闘中みたいだ。


 となると、それに対峙する形になっているあれは━━━


「敵確定かぁ。」


 味方であると助かったのだけど、そう世の中甘くはないか。

 しっかし、あの巨体を倒すのは骨が折れそうだな。どうしたもんか。


 どうやって片付けようか悩んでいると、馬鹿デカい轟音が鳴り響いてきた。

 びっくりしてその音の方向を見ると、蝸牛の口から黒い何かが飛び出していた。黒い何かは地面にぶつかると同時に、轟音と共に弾けジンクム兵を地面ごと吹き飛ばしていく。


 爆弾みたいだ。


「━━━って、呑気に眺めてる場合じゃなかった。ラ・ディーン!」


(はい、主殿。)


 俺は慌ててラ・ディーンを急がせる。

 うっかりスルーしてしまいそうになった。

 すまん、アルシェ。


 大きく羽ばたき始めたラ・ディーンの速度はかなり早いが、どうみても第二射には間に合いそうもない。

 蝸牛の口がもうすでに黒い何かでグジュグジュしてる。

 端的に言って、気持ち悪い。


「ラ・ディーン!なんとか出来ねぇか!?」


 俺の問いにラ・ディーンはこちらに視線を向けてきた。


(魔力を融通して頂ければ、彼等に結界を張る事は可能ではありますが・・・・・。あの攻撃に耐える物になりますと、かなりの魔力を必要とします。宜しいのですか?)


「やってくれ!」


(畏まりました。では━━━)


 ラ・ディーンは俺からごそっと魔力を抜き取ると、甲高い声をあげた。すると、遠くに見える兵士達の体が淡く光輝いたように見えた。ほんの一瞬だったので見間違えかもしれないが。


「いまのか?」


 気になって聞いてみると、ラ・ディーンは肯定した。


(はい。護方光陣プロテクションを使わせて頂きました。生憎と、魔力抵抗力が高い騎乗獣にはレジストされてしまいましたが。)


 流石に、全部が全部とはいかないか。

 うむ、仕方なし。


 ラ・ディーンが蝸牛を射程圏に捉えられるまで、幾度なく轟音がなり兵士達が吹き飛んでいく。見掛けは爆死その物だが、怪我は殆んどしてない筈なので、安心して見ていられる。


 ・・・・の筈だったんだけど、何故か蝸牛の吐瀉物に当たった連中が身動きをとろうとしないので、気になって仕方無い。・・・・・あれか、死んだとか思いこんでのか?見た目的に勘違いしても可笑しくは無いけどさ・・・・・。


 はぁ。まったく、どいつもこいつも駄目駄目だな。

 先頭を駆ける爺さんを見習って欲しいとこだ。

 先頭の爺さんなんて、攻撃に当たろうがなんだろうが笑顔で突撃してるんだぞ?


 ━━━まぁ、二度目の蝸牛の攻撃の時に、自分の状態に気がついたのが大きいのだけど。


 そうこうしている内に、ラ・ディーンが蝸牛を射程圏に捉えた。

 グジュグジュと一際大きな吐瀉物を用意している蝸牛の口へ向け、ラ・ディーンの渾身の攻撃を放たせる。


 光の咆哮。

 音もなく放たれたそれは、空気を焼きながら空を駆け、最後には蝸牛の吐瀉物まみれの口へとぶつかった。

 轟音。それまで以上の轟音。


 思わず耳を塞ぎ、煩い蝸牛にガンを飛ばしてしまった。

 かっこ怒りである。


 蝸牛が悲鳴をあげる。金属を擦り合わせたようや甲高い悲鳴だ。

 目と思われる角先に灯る光が、緑から赤に変わる。

 ・・・・怒ったのかもしれない。


 蝸牛が小さいグジュグジュをラ・ディーンに向け飛ばしてきた。細かく小さいそれは、散弾のように激しく飛び散る。

 普通なら簡単に当たってしまうだろうが、家の子は普通ではない。光線で一つ残らず打ち落としていく。丁寧に、正確に。

 以前、巨人に落とされた事がトラウマになってるらしく、かなり神経質に事に当たっていたようである。気のせいかも知れないが、目が鋭くなってる気がする。


 蝸牛の吐瀉物を防ぎきったラ・ディーンは、御返しとばかりに光弾を放った。蝸牛同様に散弾のようにしてである。


 多段ヒットする蝸牛。

 表面的には深いダメージを与えられていないように見えるが、目が真っ赤だ・・・・オコなのかも知れない。


 しかしこのままやりあっていても、埒が明かない気がする。

 となると、ラ・ディーンには一旦下がって貰って火力の高いロアを━━━━━む。


「魔力こみこみの光弾を受けてあれなら、魔術特化のロアじゃきついか。」


 そうだ、ロアはそう言う相手に滅法弱い。今は出したら駄目な時だ。

 あれは有能ではあるけど、相性によっては雑魚に成り下がる。時と場合はちゃんと見極めてやらないと、あの無駄に大きいプライドを傷つけてしまうかも知れない。注意しなくては。

 それに、隣でブツブツいじけられる面倒だし。


「と、なると・・・・ベヘモスか、ステラルギアのどっちかだけど。うむむむ。」


 どちらも攻撃力と言う観点から見れば問題は無いけれど、馬鹿だからあいつら。出来れば味方がいる状況で出したくない。

 いっそ、ヤヨイを呼び戻すのもありかも知れないが、向こうが完全に落ち着いたかどうか判断に迷う。アイツも置いてあるので、余程の事が無ければ大丈夫な筈だけど、万が一の為にもヤヨイにはアルシェ達の警護に回って貰いたいとも思う。


 うーん、困った。

 こんな時、新しい子が都合よく来てくれると助かるんだけど・・・・・流石にそれはないかー?


「仕方無い、ベヘモス!!」


 俺の喚び声と共に、特大の魔方陣を割ってベヘモスが現れる。

 野太い雄叫びを上げたベヘモスは俺に一瞥すらくれず、真っ直ぐに蝸牛へと突進していった。最低限、俺の意思を理解しているのか、足元にいるジンクム兵を踏まないように気を使っての少し優しい突進だ。


 あっと言う間に蝸牛との距離を詰めると、ベヘモスはその大きな口を限界まで鋼鉄の体へと開き噛みついた。遠くに居ても聞こえる軋む金属音。ひっしゃげる鋼鉄の肌が視界に写る。


 蝸牛は苦し気な悲鳴をあげながら、黒いグジュグジュをベヘモスへと飛ばす。ボボボン、と爆発し肉の焦げる臭いがしてくる。

 今度はベヘモスが悲鳴をあげる。


 痛み分けに終わった最初の邂逅。両者共に距離をとった。

 だが、直ぐに二回目の激突が起きた。


 ベヘモスと蝸牛が、互いの重量を最大限に乗せた体当たりを敢行。地面が割れ、空気が爆発する。

 野太い雄叫びと甲高い声が空気を揺らし、地鳴りがおこる。


 蝸牛の高さはベヘモスの三倍程あるが、全長はそこまで長くないし幅もベヘモスと比べると細い。全体的な質量を考えればほぼ同程度と思われる二体の化物達。

 そんな類いまれな巨体を持つ二体の超級の押しくらまんじゅうは、結局どちらにも軍配は挙がらず見事なまでに拮抗した。蝸牛とベヘモスの足元に刻まれた、深く抉られた地面が途方もない力で押し合っていた事を物語る。


 ・・・・てか、なんだこの戦い。

 あれか大怪映画か?メカデンデンVSカバサイゴン?

 怪獣同士の戦いって、リアルで見るとこんなんなんだな。普通に怖いわ。

 いや、巨人の時も見たけどさ。でもあれは瞬殺も良い所だったし距離もあったから、迫力は今程では無かったんだよなぁ。


「ふむむむ。これは、神殺しで即殺のが良かったか?」


 まぁ、やった所で確実に殺せるかどうか知らないけど。


「それに、あれって結構魔力使うし・・・・出来るならやらない方が━━」


(主殿っ!!)


 のんびり観戦モードになってた俺の耳に、ラ・ディーンの酷く焦った声が響いてきた。感覚を魔力で高めていたお陰で直ぐに反応できた俺は、ラ・ディーンが何に焦ったのかを確認する為に視線をそこに合わせる。


 そこには、此方に向かって飛ぶ特大の魔力の塊があった。大きさこそ違うが、それはあの日見た魔力の弾丸、魔弾そのものだった。

 俺は腰に掛けた銃を抜き、魔力の塊に照準を合わせ引き金を引く。


 ドン。


 俺の放った魔弾と特大の魔弾が衝突し弾け飛ぶ。

 銃の損傷無しで、飛んできた魔弾も綺麗に相殺。

 威力調整の完璧な結果に思わずニンマリである。


(主殿、まだ来ます!)


 ラ・ディーンに注意されて視線を向け直せば、何十発もの特大の魔弾が飛んできていた。


「ちぃっ!面倒くせぇ!ラ・ディーン!!」


 魔力をラ・ディーンに送り込み、光の熱線を放たさせる。

 ラ・ディーンは俺の意思通りに一つ残らず魔弾を焼き払った。

 そして、おまけにと、魔弾を放ってきたであろう人物に向かって威嚇射撃も飛ばして貰う。

 巨大蝸牛の巻き貝の上で、こちらに大砲を構えているその人物に。


「━━━!?」


 威嚇射撃でしかない攻撃は、大砲野郎の足元を焼いた。勿論大砲野郎は無事だ。遠くて聞き取れなかったが、盛大な悪態をつかれた気がするので心配する必要も無いだろう。


「ラ・ディーン。俺はあいつとお話し合いしてくる。下の連中の世話、頼んでいいか?」


 コクりとラ・ディーンが頷いてくれたので、ブラストを発動してから大砲野郎に向け飛び出す。ブラストで落下速度や位置を調整しつつ空中を滑空する。

 途中、魔弾が雨霰と飛んできたが、銃と魔力鎧付きの拳骨で振り払ってやった。魔力鎧は今日も絶好調である。


 着地の衝撃を爆発で緩和して大砲野郎の前に降り立つと、大砲野郎がこれでもかと顔をしかめた。━━━━ん、オコですね。うん。


 ここまで近づいて気づいたのだが、蝸牛の上にいたのは野郎でなく尼だった。緑の瞳はくりくりと大きく、肌は雪のように白い。それに何より、ピョコピョコと跳ねる金髪ツインテールが目に止まる。


 ・・・・何故にこれを野郎だと思ったのか、自分。


 思わず頭を抱えそうになった俺に、ツインテールが怒号をあげた。目を釣り上げ、青筋を立て、完全に怒りモードである。


「何なんですかねぇ~ぇえ?何処のどいつか知りやしませんけど、邪魔するなら死んでくれませんかねぇ!!」


 ツインテールが両手に構えた大砲の引き金を引く。

 魔力鎧で受け止めても良いのだが、例外は必ずある。だから避ける事にした。

 当たらずに済むならその方が良いに決まってる。


 さっと避け、ツインテールとの距離を詰める。

 一息で拳の射程圏に入った。


 至近距離でかわされた事に一瞬驚いた様子だったが、直ぐに意識を切り替えたのか、ツインテールは大砲をさっさと手放すと後ろに跳んだ。


「フラーゴル!」


 ツインテールが叫ぶと大砲が光に包まれたと思えば、次の瞬間には爆発した。

 咄嗟に魔力鎧を出して爆発の衝撃を受け止める。

 一瞬でも反応が遅れていたら、髪の毛が焼きそばみたいになっていたかも知れない。危なかった。


 ツインテールは爆発の衝撃でさらに距離をとり、地面を滑りながらどこからか取りだした別の大砲を装備し、こちらに砲口を向けてきた。


「ファイア!!」


 ドン、と腹に響く轟音と共に極大の魔弾が飛ぶ。


「ふぁいあ!」


 俺もマネして銃を放ってみる。

 気の抜けた掛け声と共に放った魔弾は、極大の魔弾に吸い込まれるように飛び、強大に思えたソレを糸も容易く貫いた。ツインテールの魔弾を貫いてなお勢いの落ちない俺の魔弾は、ツインテールの肩をかすり鮮血を飛ばす。


「くっそが!!」


 悪態をついたツインテールは更に大砲を取りだした。

 今度は一つでは無い。大小様々な大砲が何十も、だ。


「ファイアぁっ!!」


 ツインテールの怒号と共に、構えられた全ての大砲が火を噴く。

 視界一杯に広がる魔弾の数々。避ける事が許されないその攻撃に、俺は右腕を振るった。


「おらぁ!」


 ブラストを放ち全ての魔弾を叩潰す。

 魔力の塊であればブラストとの相性は悪くないと思っていたが、ここまで簡単に打ち消せるとは思わなかった。思わぬ誤算だ。


 ほくそ笑みたくなる気持ちを抑えツインテールを見ると、その表情には苛立ち以上に驚愕の色が強くなっていた。


「くそが!どいつもこいつもあたしの邪魔しやがってよ!!簡単に潰れりゃ良いのに━━━誰なんだよてめぇはよ!!」


 誰なんだよと言われてもなぁ。


「どっちかって言うと、それは俺の台詞だと思うんだよな。」

「はぁん!?」


 うげぇ。

 オコだ、これは完全にオコだな。


「はぁ、面倒くさいなぁ。あのな、ここはアルシェが守る国で、ここはキーラの故郷があった場所で、可愛いリビューネが住んでて、ゲヒルトのおっさんがおっさんしてる所なんだよ。俺の知り合いがいる国なの。」

「はぁ?!」

「だからよ、そんな俺の知り合いがいる国に、守る約束をした場所にちょっかい掛けてる━━━━」


 ここで言葉を区切り、魔力を放出して威圧する。

 滞りなくお話合いするには必要な処置だ。特にキャンキャンと煩いワンコとお話合いするには、不可欠と言っていい。


 予想通りにツインテールの顔色が青くなり、お話合いの用意が整う。・・・・おっと、少し怖がらせ過ぎたか。笑顔も足しておこうか。うん。

 準備が整った所で、出来るだけ優しくそれでいて低い声質でツインテールに訪ねた。


「━━━━━お前は誰なんだよ。」


 これで答えてくれたら楽なんだけど、どうだろうか?


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