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機甲兵団と真紅の歯車 24・戦場に散る

どうもどうも、えんたです。

プライベートが忙しかばってん。

再アップ遅れて本当に申し訳ない(´・ω・`)

 開戦の合図が鳴り響き、蹄鉄が地面を削る。

 嘶く波が地面を濁流のように駆け巡り、緑の平原に焦げ茶色の道を作り出す。


 一個の生き物のように駈けるそれの背には、重く重厚な鎧に身を包んだ男達がいた。

 男達はジンクムの矛とその名を轟かせるディバイン騎兵隊。

 イブリース連合国内でも屈指と噂される、ディバイン戦団の中でも最強と名高い部隊である。


 狂喜とも言えるその群れの先頭を走るプルーノが、叫ぶように声を張り上げる。


「殿より授かりし一番槍の大役、しかと果たして見せようぞ!!目指すは旗印は青旗、龍紋を掲げる"トウゴク"兵!者共ときをあげよ!!戦端を抉じ開け、道を作れっ!!!」


 プルーノは馬の腹を蹴り、さらなる加速を促す。

 腰だめに構えた槍に力を込め、身を屈める。

 そこに迷いはなく、憂いもなく、恐怖もなかった。


 あったのは、歓喜。止めどない歓喜だけ。


 農奴と言う最下層から文字通り力でのしあがってきたプルーノにとって、戦場にて一番槍を授かる事は何よりの喜びだった。力だけを信奉していたプルーノにとって、それは最大の賛辞であったのだ。


「貴様しかおるまい。」そう言った己の主が脳裏に過り、プルーノは抑えられない興奮を無理矢理心の内に閉じ込め走る。


 敵勢の声が拾える距離になり、プルーノの耳にしゃがれた声が響いてきた。


「やぁやぁ我こそは!トウゴク第三師団所属イナ隊ゲンゴウである!命惜しくない者は掛かってこい!!」


 その言葉に、プルーノに追従していた部下が声をあげる。


「隊長!トウゴクのゲンゴウ殿は相当の武人と聞いています!避けて通られては!?」


 焦りの混じった部下に、プルーノは獰猛な笑みを浮かべる。


「いらん!!俺達は槍!!真っ直ぐに伸びたジンクムの最強の槍!!そして俺はその鋭く尖った先の先だ!槍はただ真っ直ぐに進むのみ、避けず防がず、ただ貫き進む物!!駆け抜ける事だけ考えろ!タール!!」

「は、はい!隊長!!」


 部下を叱咤したプルーノは眼前に迫る男を見た。

 膨れ上がった筋肉が服を押し上げ、くっきりとした影が浮かび上がる。並大抵では届かない努力の結晶が、自分を殺そうといきり立っている。

 プルーノは堪らなく興奮した。死ぬ事が怖い訳ではない、痛みに興奮する訳ではない。ただ、ただ、命を賭けたやり取りが、全身がぴりつくような殺気が、生きていると言う感覚をはっきりとさせるその瞬間が堪らなく好きなのだ。


「はっ、はっ!!はっ!!!!くそがっ!!たまんねぇよな、おい!!!くそったれが!!いくぞおらぁ!!ディバイン騎兵隊、一番槍プルーノ・アディビィ参る!!」


 掛け声と共に、プルーノは迷う事なくゲンゴウの元へと突撃していった。

 二人の交差は一瞬。

 けたたましい音と共にプルーノの右脇腹から血飛沫が散り、ゲンゴウの首が兜と共に宙を舞った。


「隊長!!」

「心配いらん、皮だけだ!!それより前を向け!!貫くぞ!!」


 プルーノは血の滴る脇腹を物ともせず、槍を突きだし敵勢中央を突破していった。時に突き殺し、時に凪ぎ払い、時に叩き潰し、赤に染まる道が出来上がっていく。


 敵勢の第一陣を抜けた所で、プルーノ達は後方からの後詰め隊に追い付かれた。プルーノはそれを憎々しげに見詰める。


「随分と早い着きだな、ゼァーダ!」


 吐き捨てるように掛けた言葉に、後詰め部隊の先頭に立つ男が笑う。


「はっ!お前がちんたらしてるのが悪い!此処からはオレらが出る!大人しく『枝』になるこったな!!」

「折角俺が抉じ開けてやったんだ、しくじるなよ!!」

「言われるまでもない!主様の前で無様姿など見せられようものか!」


 プルーノ隊と入れ替わりゼァーダ隊が騎兵隊の穂先へと代わり、第二の布陣へと駈ける。下がったプルーノ達は後方へと下がった。今再びの突撃の為に力を温存する為に。








 第一陣を突破し、穂先が無事変わる様子を確認したドーバは一人ほくそ笑んだ。


「ここまでは、良し。━━━━が、次だな。」


 トウゴク兵の強さは他国に比べで特質する物ではない。そう見立てていたドーバにとって、目の前でおきたそれは当然の事であった。ジンクムにまで轟く『将』の二つ名持ちならいざ知らず、普通の兵士程度ではディバイン戦団の兵士には遠く及ばないだろう。それがドーバの考えだった。


 そしてそれは当然、トウゴクの知る所でもあるとも考えていた。

 それが分かっているからこそ、トウゴクはジンクムに対して敵対的な動きは見せる事はなく、長年の間出来るだけ友好的に交流してきた。ジンクムとしても、トウゴクがもたらす鉱物資源は国にとってなくてはならない物であり、出来るだけ友好的に外交をしてきた筈だ。下手にでる事こそ無かったが、決して上から押さえつけるような事もなく、あくまで対等にだ。


 だからこそ、とドーバは思ってしまう。

 何故"今なのか"と。


 今回の敵の手勢がトウゴクだと分かってからずっと、ドーバは不思議でならなかった。もし、トウゴクが強力な後ろ楯を得た事により増長し、愚かにも我国への侵攻を決意したのであっても、やはりその考えは変わらない。

 今回のトウゴクは、あまりにも手順を飛ばし過ぎているのだ。

 宣戦布告も当然だが、それより何より、先に行われるべき外交的な取引が行われていないのだから。


 戦争をすると言っても、戦争はそんな簡単に出来る物ではない。

 戦力を整える費用や時間を捻出する事から始まり、戦争中に横槍を入れられない為の他国への根回し、物資の確保や自国貴族達との調整など。一度事を起こそうとすれば、引き返せない程の"経費"が掛かってくるし、かなりの時間も掛かる。

 だからこそ、ことは慎重に起こす必要があるし、事後に難癖がつくような無茶なプランは立てずに、最低限の犠牲で最高の戦果を得られると判断がついた所で、やっと戦争と言う事象を起こすに到るのだ。


 幾ら戦乱の地イブリースとて、一世紀前ならいざ知らず、この手の手間を考えずに戦争を起こす馬鹿は今はいない。戦争をせずとも外交でそれ以上の利益を得る事が出来るのだから当然だ。交渉のしようによっては、戦争で得られる利益より遥かに大きな利益を獲得する事すら出来るのだから、なおのことである。


 だが、今回トウゴクの出した答えは戦争行動だった。

 ここまで思いきって動いたのであれば、それなりの大義名分がある。それを盾に外交を行えば、血に濡れない利益を得られる可能性は非常に高かった。

 故に、ドーバは考える。


「この程度で、済む訳はない。」


 勝てる手段があるのだ。

 リスクと見会うだけの、有効な戦争手段が。

 失わずに得られる結果が。


「息子よ。」


 考え込んだドーバに、準備運動を済ませ頬を上気させたコーダが話し掛ける。


「なんだ、親父。」

「あまり深く考えるな。相手が何を出してこようと、わしらが出来る事はそう変わらん。眼前に現れた敵を切り捨てるのが関の山じゃてのう。」

「そんだけ頭からっぽでいられるのは親父くらいなもんだ。あんたは考えなし過ぎるんだよ。」

「かかかっ!!こりゃ手厳しいのぅ!顔だけでなく性格まで、お前はレヴェによく似たわい!かかかっ!」

「はぁ、━━━たくよ。」


 ドーバは考えるのを止め頭をかきむしった。

 コーダの言うとおり、この場におけるドーバ達が出来る事はそう多くない。

 精々、目の前出て来た敵を切り飛ばすくらいだ。


 元より考えるよりも先に手が出るタイプの典型である事を自覚しているドーバは、普段この手の事を考えない。一人頭を捻った所で良い解決方法が思い付く訳でもない事を誰よりも知っていたし、悩んだ末に出した答えでさえ碌なものでないのだから致し方ない。


「まぁ、今回は頼れる弟殿マデリンもいる事だしなぁ。考えるはあいつに任せて、適当に暴れるとするかぁ。」


 結局の所、直接的な手段を選択したドーバは兜を被り、傍らに置いた矛を手にした。


「かかかっ!そうしておけい!見ろドーバ!あの山と見まごう化け物を!あれと一戦交えることなど、生涯でそうそうある事では無いぞ!誉れよのぉ、かかかっ!!」

「あればっかに気をとられるなよ親父。厄介な武装が他にもあんだ。特に『ジュー』って奴にゃ気をつけろよ。不用意に頭で貰って、碌に使ってねぇ脳髄ばらまいても俺は知らねぇからな。」

「心配いらぬわ!ジューだか、じうだか知らんが、そう易々食らってやるものか!それよりもだな、わしは『あーもど』とか言う魔導鎧の方が気になるのぅ。聞けば相当な怪力を見せるとか言うではないか。わしとどちらが上か比べてみたいわい、かかかっ!!」

「『あーむど』な。たく、行くぞ親父。」

「おう!いかいでか、馬鹿息子!!」


 一抹の不安を抱えつつも、ドーバは自らの馬に乗りコーダと共に敵勢へと駆け出した。ちらりと振り向き、全軍の指揮をとるマデリンを視界に捉えたドーバは心の内でそっと呟く。


(生きろ、義弟マデリン。アルシェを幸せにしてくれ)


 全戦全勝。

 これまでにも戦争と言える規模の物は無かったが、それでも様々な戦を経験してきた。そして、一つとして負けた事は無かった。それは父親であるコーダも同じで、今共に戦うディバイン戦団の皆も同じだった。

 ジンクムの平和を脅かす物達を相手に、勝って、勝って、勝ち続けてきた。


 だからこそか、ドーバは感じていた。

 今回の戦いが、今までのそれとは大きく異なっている事を。

 生きて帰れる保証が、限り無くない事を。


 妹でありディバイン家で頼れる頭脳を持つ二人の内の一人であるアルシェ。ディバイン家にとってもドーバ個人としても、誰にでも誇れる優秀な愛すべき妹。家族を愛し、義弟マデリンを愛し、国を愛する、大切な妹。

 その妹が「国の為に死んで貰いたい」と、そう言った。

 つまりは、そう言う事なのだ。


 勝てる保証は一切無い。寧ろ死んで当たり前。

 アルシェですら掴めない不確定要素が多過ぎたのであろう。あのアルシェが後手に回ったという事実だけで、脅威の大きさは計り知れない物がある。


「はっ、しっかし。実の兄に言うかね。面と向かって死ねなんてよ?」


 呆れるように言ったドーバの口元は笑みを浮かべる。


「ああ、死んでやるとも、死んでやるともよ。アルシェ。どうせ俺らにはそんな事しか出来ないからな。政治だの統治だの、小難しい事に悩ます頭は持っちゃいねぇからよ。国を、妻を子供を、頼むぜ!」


 そう言って矛を振り上げたドーバは、真っ直ぐに駆けていった。








 ◇━◇








 コクリアと呼ばれる巨大魔導兵器の上に、某はいた。

 炎騎将と呼ばれ、一人の武人として誇りを持って槍を振るっていた某の姿はそこになかった。そこにいた某は、ただ、ただ、己の無力を呪うだけの、弱い男にしか過ぎなかった。


 一つ、また一つと、突破されていく同胞の姿に、目頭が熱くなっていく。目を開けている事すら耐えられず、思わず目を瞑りそうになったがそれはしなかった。それで蹂躙が治まるならば、幾らでもそうしたが、そうでなければ自分には彼等を地獄へと送り出した責任があり、それを見届ける義務があると思ったからだ。


「死して屍、晒すは無様。鳴いたあの子は烏だけって所ですかねぇ~?」


 某の隣から酷く軽い甘ったるい女の声が響く。

 視線を向ければ、金髪を頭の横に二つ縛りにした、やけに色めかしい幼い顔の女がいた。


「彼等の何処が無様か。皆、己が役目をしかと全うした誇り高き兵子達よ。そこに蔑みの目を向ける事、某が断固として許さぬ。」


 きっと睨みつけると、女はおどけた様子でヘラヘラと笑みを浮かべる。


「おお、こわやこわや~。そんな怒らないでくださいよー。よいではないですか~、烏さんにとっては御馳走さんですよ~。可愛いじゃぁないですか、烏ぅ。」

「戦士の御霊が宿った屍を鳥如きにくれやるものか。戦が終われば、一人残らずしかと葬る。それは譲らん。」

「そうですか~そうですか~。まぁ、別にどーーでも良いですけどねぇ~。でも、やることはやっちゃって下さいねぇ~?カノツチさん。」

「・・・・言うに及ばず。」


 この女に良いように扱われている事は百も承知であるが、それでも己の手を止める事は出来ない。いや、する訳にはいかない。

 我が敬愛する主君の為にも、ここで矛を収める事は絶対に出来ないのだ。


「それより、『砲撃』殿━━━━」


 隣の女の名前を呼んだ所で、某は言葉につまった。

 名前を呼んだ瞬間、射殺すような殺気が全身に突き刺さったからだ。濃厚な死の気配に、声どころか息すらまともに出来なくなり、冷や汗が止まらなくなる。


 恐る恐る女の表情を伺えば、先程のヘラヘラした余裕ある態度は綺麗さっぱりかき消えており、代わりに憎悪と憤怒に満ちた歪みきった表情を浮かべる女の姿がそこにあった。


「それで呼ぶんじゃねぇーですよ。ぶっ殺されてえーんですか?したっぱ。」


 某はそれ以上何も言えず、口を真一文字に引き絞ったまま女の様子を伺う。


「ったく。胸糞わりぃったらねえーんですよ。本来なら、このあたしこそ『撃滅』の名を貰う筈だったのに、たかが下階級の『砲撃』ですよ?フザケンナって話なんですよ。あの糞餓鬼さえいなけりゃ、あたしこそが・・・・。」


 苛立った様子の砲撃は地団駄を踏んだ。

 小さくない振動が辺りに広がり足場が軋み、嫌な音が鳴り響く。

 あまりの衝撃に、足場となっているソレが傷物にならないか心配になり、荒れ狂う砲撃に向け頭をこれでもかと下げた。


「御名を間違えた事、この通り平に謝罪いたす"カノン"殿。どうか落ち着いて頂けないか?」


 某の様子に納得したのかどうかは分からなかったが、踏み締める足が止まり小さな舌打ちが出た所で、雰囲気が戻っていった。


「はん。なんですかそれ?全然心が籠ってねぇーですよ。受け狙いですかー?面白くないですよー?ペコペコ、ペッコペコ、頭ばっかり下げちゃって、誇りとかないんですかー?」


 まだ苛立ちは治まってないようだが、怒りの矛先が変わっただけ良しとして置こう。これ以上、借り物のコクリアを傷つけられては、後でどんな代償を課せられるか分かった物ではないからな。


 頭を下げ続ける某に対し、"砲撃"カノンの苛立ち混じりの言葉は続く。


「そもそもですねえー、あたしみたいな一級戦力がこんな前座みてえーな戦に出る事自体おかしーんですよ。こんな小国一つ落とす程度、下階級兵二三人いりゃ事足りるんですから。はぁーーあ、たるぅ、めんどくさーー。」


 下げた頭に砲撃の足が押し付けられた。

 それなりに勢いがついていた為、地面に叩きつけられた額が切れて血が滴っていく。


「ああー本当に良い様ですよねー?何でしたっけ?ああー『炎騎将』でしたね。トウゴクさいきょーの六将様。トウゴクの愚民共がみたら泣くんじゃないですかーー?強さの代名詞でもある炎騎将あんたの、こーんな情けない姿を見たら。ああー、もしかしたら、お姫さんも幻滅かもですねーー?」


 姫の名前が出た事に怒りを覚えたが、溢れでる怒りは身の内に沈め、ただ成されるがまま時を過ぎるのを待つ。


「・・・・つまんな。なんか言ってくださいよー?独り言みたいであたしが馬鹿みたいに見えるじゃないですかー?ねえーーっ!」


 ガン、と頭を踏みつけられた。

 額の傷は益々深くなり、滴る血の量が増え痛みも増していく。

 思わず腰の剣に伸びそうになった腕を押さえつけ、歯を噛み締めた。


 動かない某に興味を失ったのか、砲撃は頭から足をどけた。


「ふぅ、さてと。いつまでそうしてるんですか、カノツチさん~?お仕事の続きいたしましょう?折角あたし達が、あんたらに名分作ってやったんですから、きっちりとぶっ殺してトウゴクに勝利の美酒を飲ませてあげてくださいねえ~。」

「・・・・ああ、勿論だ。」


 漸く立ち上がれた某は額から流れる血を拭い、眼下に迫るジンクム兵達を見た。


「『大樹』、か。」


 そこにあったのは、ディバイン戦団の戦勝の代名詞となった陣形を組み、勇猛果敢に先陣をきる老兵の姿があった。

 イブリース連合中にその名を轟かす傑物『コーダ・ディバイン』の姿だ。


 国は違ったが、ずっと憧れていた戦士。

 その勇猛果敢さに追い付きたくて、ひたすらに槍を振るった日々。

 六将と言う位に名を連ねる事が出来、ようやく対等に戦えるとそう思っていた。

 この日が来るまでは。


「叶う事なら、この手で一戦交えたかった。」


 もはや其れは叶わない。

 もう、その手段を選ぶ事を許されていない。


 某は用意していたソレを吹いた。

 全てを終わらせる、終演の笛を。






 ◇━◇






『大樹』。

 ディバイン戦団には、そう呼ばれる陣形がある。


 大樹は簡単に言えば点としての突破力と、面としての殲滅力を掛け合わせた特殊な陣形である。


 本来、群体とは『集まれば強く、散ずれば弱く、動けば強化し、静ずれば弱化する』ものであるのだが、大樹という陣形は集まり、動き、そして散ずる事を主としている。


 幹と呼ばれる本隊が、穂と呼ばれる部隊が抉じ開けた敵勢の壁を更に穿ち、広く打ち崩す。幹は穂に追従するように敵勢を進み道を作り出し、その後に続く『枝』『葉』と呼ばれる部隊を呼び込む。枝部隊は穂と呼ばれる部隊と同じく敵勢を突き破る役目を担っており、その名の如く枝のように幹から分かれ混乱する敵勢を横から貫いていく。葉部隊は枝が作り上げあげた道を進みながら通り過ぎ様に敵を攻撃、被害を更に増やしていく。


 普通の兵であれば、この陣形は命取りに成りかねない危うさがある。敵勢の中で部隊を分けて攻め立てる事もそうだが、そもそも敵勢を抉じ開ける突撃が非常に危険な行為なのだから。

 ひとえに、ディバイン戦団が持つ並々ならぬ戦闘能力があってこそ出来る、特殊な陣形なのだ。


 この陣形が作られた当時は『三又槍』と名付けられていたが、軍勢が通った後まるで大樹のような血の大地が広がる様子から、いつしか『大樹』と呼ばれるようになり、ディバイン戦団がこの陣形により勝利を納めていく内に、いつしかディバイン戦団の代名詞へと変わっていった。

 それが大樹と呼ばれる陣形の全てだ。




 そのディバイン戦団の大樹が、トウゴク兵を蹂躙していく。

 トウゴクの第一陣、第二陣を草原の赤い染みに変えて、全てを滅する為に突き進む。


 だが、圧倒的な大樹の陣形で迫るディバイン戦団を前に、第三陣のトウゴク兵は動かなかった。傍らに控えたアームド兵のせいか、それとも後方に控える巨大な化け物のせいか。

 ディバイン戦団を率いるコーダが怪訝な表情を浮かべたその瞬間。




「━━━━━━━━━ィィイ。」




 耳鳴りとも思える笛の音が、戦場に響いた。

 直後、戦場が揺れた。




 耳が張り裂けんばかりの轟音。

 ディバイン戦団の大樹が、大きく削りとられた。




 ざわめくトウゴク兵。

 嘲笑を浮かべるアームド兵。




 ディバイン戦団は僅かな混乱こそあったが、直ぐに体勢を整え再びの突撃を慣行する。




 だが、それを嘲笑うように轟音が鳴り響く。




 轟音。




 轟音。




 轟音。




 繰り返される轟音。

 その度にディバイン戦団は草原の青と共に削られていく。



 最強と謳われ、畏怖され、崇められてきたディバイン戦団は、ものの数分で数える程度の僅かな手勢へと変わり果てる。

 だが、それでもディバイン戦団は攻め続けた。先頭をコーダに、陣形がその力を発揮せずとも、満身創痍になろうとも、眼前に控える敵目掛けて。








 そして━━━━━━━━━━━最後の轟音が、鳴った。

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