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機甲兵団と真紅の歯車 15・用心棒ユーキちゃん

 シミ一つもない真っ白なシーツにくるまり、フカフカのベットの上で俺は目を覚ました。穏やかな光が窓から差し込み、部屋を優しく照らしている。

 ベッドのフカフカ具合を堪能しつつ辺りを見渡すと、高級な調度品が至る所に飾られたお高そうな一室である事が分かった。


「っん・・・・・んん?」


 どうしてこんな場所にいるのだったか、と冴えない頭で考えていると、部屋のドアが二つのノック音が鳴った。


「ユーキ様、お早う御座います。朝食の支度が整いました。お部屋の方、入っても宜しいでしょうか?」


 ん?メイドさんか?

 そう思った瞬間、俺は思い出した。


「━━━そういや、ゲヒルトのおっさん家だったな。」





 用心棒歴三日目の朝。

 最終秘密決戦兵器たる用心棒である俺は、未だに秘密のままベッドの住人とかしていたのだった。



 ◇━◇



「ゆーきおねちゃ!」


 メイドさんに促され食堂へと向かう途中、同じく朝食へと向かっていたリビューネは俺を発見し大きな声をあげて突撃してきた。

 子供の体当たり程度でどうとなる体でもないが、いきなりは心臓にも悪いし、「ふごぉっ」とうめいてしまう位に威力があるので止めて貰いたい所だ。


「おはよー。朝から元気だなぁリビューネは。」


 そう言って頭を撫でてやると、ふにゃっと表情を崩しリビューネが笑う。


「うん!ゆーきおねちゃもあさごはん?」

「そだよー。食堂に行くところ。」

「あたしもいくー!ゆーきおねちゃといっしょするーー」


 仕方ないなぁー、と折れてやりたい所だが、リビューネはこの家の御嬢様な訳で、俺が利用している使用人達の食堂へと連れていく訳にはいかない。

 お付きのメイドさんに視線を送る。勿論、「連れてってくれ」と言う意味を込めてだ。


 メイドさんはコクンと一度頷き、リビューネに声を掛けた。


「リビューネ様。ユーキ様は━━━」

「やだ!いっしょがいい!!」


 勘の鋭いリビューネは、メイドさんに最後まで言わせずに拒否の姿勢を見せた。俺の服にしがみついて離そうとしない。可愛い。


「リビューネ様。我が儘はいけません。旦那様と奥様もお待ちして━━━」

「やぁーーーーー!!ゆーきおねちゃといっしょするのー!!」


 拒否されまくるメイドさんが涙目で此方を見てきた。

 また、俺に言えと?まじか。


 聞いた話だと、リビューネは基本的に我が儘を言わない子だったらしく、今までは手を焼く事は無かったらしい。

 だが、俺が来てからと言うもの、こうした年相応の我が儘を言うようになり、ある意味では安心した物の、絶対に折れてくれない為に困っているのだとか。


 因みに、別に俺が余計な事を教えた訳では無い。

 恐らく、身近に年が近く尚且つ遊んでくれる人が出来た事で一時的にはしゃいでるだけなのだろうと思う。決して俺が余計な事を教えた訳では無い。無いのだ。


「ねぇー、ゆーきおねちゃーー。」

「んー?━━━━んーー。ねー。」

「ユーキ様っ!?」


 まぁ、率先して甘やかしている事は認める。

 仕方がないだよ。可愛いんだもん。


「まぁ、ほら、メイドさん━━」

「メイドさんメイドさんと、一体何人のメイドがこの館にいると思っているのですか。皆が皆振り返ってしまいますよ。ルーナとそうお呼び下さいませ、ユーキ様。」


 ああ、確かに。

 と言うか、実際にそうなったしね、昨日。






「えーー、ルーナさん?」

「はい。」

「アルシェさん達には俺のせいにして良いから適当に言っといて。リビューネと食堂いってくるからさ。」

「・・・・分かりました。リビューネ様には、使用人達の生活を見せるのはいい経験になるかも知れませんしね。ユーキ様が無理矢理力ずつくでそうなさった事にしておきます。」


 全責任を押し付ける気まんまんか!

 そう言ったのは、俺だけどもさ?!


「では、失礼いたします。━━━━リビューネ様、ユーキ様の言う事を良く聞いて下さいませ。」

「はーい!るーな、ばいばいー!」


 リビューネを俺に預けたルーナは軽く会釈をした後、ピンと背筋を伸ばし颯爽と廊下を歩いていった。歩くだけでも絵になる本場のメイドさんは凄い。


 取り残された俺とリビューネは手を繋いで食堂へと向かった。

 他愛もない話をしながら食堂の入り口を抜けると、腑抜けきったメイドさんや油断していた使用人達が悲鳴をあげ大袈裟に歓迎してくれたので、大分賑やかな朝食になった事は言うまでも無い。

 コックのおやっさん曰く、「油断大敵である」だそうだ。







 朝食を取り終えた後、用心棒としての初仕事がいよいよ任される事になった。仕事内容は街へ買い物に出掛けるアルシェとリビューネの護衛である。


 そう遠くない場所にいくと言っていたので徒歩かと思っていたのだが、面子もあるので馬車でいくそうだ。


 今回乗る馬車は以前乗った事のある幌馬車とは全然違い、高級感が溢れると箱馬車と呼ばれるものだ。

 箱馬車自体、安い物でも家が建つ程に高価であり、その上維持費も馬鹿にならない為、貴族や大手の商人でなければ所持する事が出来ない稀少な物らしい。


 貴族の間では箱馬車は一種のステータスにもなっているらしく、上位の貴族はそれに見合った箱馬車をオーダーメイドするんだとか。

 因みに、ゲヒルト家の箱馬車は二つある。一つは街乗り用の艶のある落ち着いた赤の箱馬車で、もう一つは登城用の派手な金細工の装飾が目立つ黒の箱馬車だ。

 今回は勿論街乗り用である。





 支度をさっさと済ませた俺は、一足先に馬車へとやってきた。大きな箱馬車に対して用意された馬は一頭だけなのだが、その一頭の体躯はガイゼル並みに大きく立派だった。

 馬の世話をしていた御者さんに聞けば、グランホースと呼ばれる魔獣だそうで、なんでもゲヒルトのオッサンが領王から賜った物なんだとか。何となく凄いのは分かる。




 暫く馬と戯れていると、他所行き用のドレスに着替えたアルシェとリビューネが、メイドさんと護衛の従者を引き連れてやってきた。他所行き用のドレスは、普段見ていたドレスに比べて少し派手目でヒラヒラとかフワッフワした感じがなんか凄い服だった。


 普通なら服の派手さに着ている人が埋もれてしまいそうな物だが、アルシェはきちんと着こなしている。

 服のセンスとか大概な俺でも、あれを着こなすのは難しいのは分かる。貴族女子すげぇ。


 ある意味で尊敬の眼差しを送っていると、アルシェがくすりと笑った。


「なぁに?貴女もドレスが良かったかしら?」

「ううん。全然。」


 着たくない。端から見てるだけで十分です。

 ドレス一着を着るのがどんな大変なのかは、この数日の間リビューネの様子を見て分かっているつもりだ。子供用でもあれだけ手間が掛かるのに、大人用のとか挑戦する気も起きないわ。

 コルセットなんてごめんだ。


「ゆーきおねちゃもどれすきよ?」

「ほら、リビューネも言ってる事だし、今からでも私の御下がり着てみちゃう?」

「いらない。俺、今、仕事中。お洒落、必要、無い。」

「あらあら、本当に嫌なのねぇ。」


 嫌である。

 こればっかりは、リビューネのお願いでも嫌なのである。

 俺はドレス着ない、絶対。


「それじゃ仕方がないわね。出発しましょう、ヤード準備して頂戴。」


 俺が拒否の姿勢を示すと、予想に反してあっさりとアルシェは引き下がった。てっきり、何だかんだと理由を付けて着させようとするのかと思っていたので拍子抜けだ。


 従者の人の手を借りてアルシェ、リビューネ、俺、メイドさんの順番で馬車に乗り込む。従者さんは、御者さんと御者台に乗るらしい。


 走り出した馬車に揺られながら窓の外を眺める。

 結局街を見て回れたのは初日、ギルド連合に行くまでの短い時間の間だけだ。流れていく風景はなんとも新鮮な物である。

 何よりサスペンションがしっかりしているのかおしりが痛くない。快適な馬車の移動にちょっち感動だ。


 一人で馬車の移動にほくほくしていると、正面に座っているアルシェが笑みを深めた。

 なんだ、あの顔。ニッコリとしているのに、嫌な予感しかしない笑顔だ。


「どうせ着るなら、ちゃんと誂えた物が良いわよね。ふふふ。」

「・・・・・へ?」


 なんか、今、不吉な事言わなかっただろうか。


「この馬車は何処へ向かっていているの?」

「馬車は私の行きつけの服飾店に向かってるわ。」

「何をしにいくの?」

「衣服を購入しにいくのよ?当然でしょ。」


 よし、ここまでは良い。

 いや、なんか、嫌な予感は、今もヒシヒシ感じるけど。

 ここまでは、有り得そうな話だ。うん。


「・・・・それは当然アルシェさんとリビューネのだよね?」

「それと貴女よ。女神ちゃん。」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 帰るーと、扉に手を掛けたが、アルシェの豪腕に腕を取られ脱出は無惨に失敗した。


くそぅ!なんて馬鹿力だ!結構力入れてんのにビクリともしねぇ!いやっ!ほ、本気を出せば余裕で━━━━あっ、駄目だ。これ、逃げたらもっと面倒な事になる気がする!くそぅ!!


「どうして帰ってしまうの?貴女がいかないと、サイズが分からないじゃない。どうせなら、ちゃんと誂えた物が良いでしょう?」

「いらない!着ない!誂えない!」

「お金の心配してるの?大丈夫よ、私の個人資産からプレゼントしてあげるから、ね?」

「二つの意味でいらない!ただより怖い物なんて無いって、昔の偉い人が言ってたものー!それに、着たくないー!」


 俺の酷く慌てた様子が彼女の何を喜ばせたのか分からない。

 だが、アルシェが凄く、もの凄く嬉しそうに笑っているのは嫌でも分かる。間違いない、あれはいじめっ子の目だ!


「おかあさま、ゆーきおねちゃはいやだって。」


 今までじっと観察していたリビューネが助け船を出してくれた。なんて空気の読める良い子だ。後で、うんと甘やかしてやるんだから!


 だが、そんな子供の助け船は速攻で沈まされる事になった。

 アルシェのたった一言で。


「駄目よ。だって、"お仕事"で使うんだから。」


 仕事、だと!?


「聞いてない!アルシェさん聞いてないぞ、そんなの!」

「言ってなかったものね?用心棒の女神ちゃんには、明日リビューネの護衛として夜会に出て貰いたいの。」


 夜会・・・・?


 夜会ってあれか、ダンパか。ドロドロッとした欲望が渦巻く、貴族の戦場とか言われるあれですか?嫌だ!出たくないそんなの!怖い!なんか怖い!

 くそぅ、どうにか回避出来ないものか。


「━━は!リビューネにはまだ早いんじゃないか?」


 そうだ、夜会はリビューネには早い。だってまだ6歳だ。ダンパは早くても13歳からだって、一応御嬢様ユミスが言ってた気がするもの。これは家でリビューネとお留守番しておくのが吉と見た、うん。


「本来ならそうなのよねぇ。でも、今回は領王様の御子息が社交界デビューされる夜会だから、婚約者候補であるリビューネには参加辞退は難しいのよ。」

「婚約者候補!?」


 俺のリビューネが、婚約者候補だと!?

 くらっと、よろめきそうになる頭を押さえ、隣に座っているリビューネを見る。リビューネはキョトンとした顔で俺とアルシェを交互に見ては首を傾げている。急に自分の名前が出て来て混乱しているんだろう。可愛い。

 あんまり可愛いので、ぎゅーと抱き締めてておく。


「何処の馬の骨とも知れない奴に、こんな可愛いリビューネは渡さない!」

「だから、領王様の御子息よ、って。」


 領王の御子息がなんぼのもんじゃい。

 こんなに可愛い子が候補止まりとか、目腐ってんじゃねぇの。

 俺なら直ぐに決めるね。婚約しちゃうね。


 あ、ここは目が腐ってる事に感謝するべきか。

 ありがとう腐り目王子。


「兎に角、明日、貴女にも夜会へ出て貰います。これはお願いでは無いわよ?用心棒さん。」


 はい。止めの言葉頂きましたー。

 お仕事ですよ、お仕事。いったん引き受けたんですから、しっかり務めを果たしましょうねー、ってね。

 ・・・・・・くそぅ。


「ゆーきおねちゃ、だいじょうぶ?」


 俺の様子に不安を覚えたリビューネが上目使いで覗き込んでくる。少し潤んだ瞳が可愛いくて仕方がない。


 うん、決めた。

 こうなったら毒を喰らわば皿までだ。夜会に出てリビューネを守るぞ。醜い貴族の大人達から、か弱い少女をたぶらかす糞餓鬼共から、笑顔で罵りあう令嬢達から、物理的にも精神的にもユーキお姉ちゃんが守っちゃうんだから。

 あと、隙があれば領王子息にボディブローかましてやる。


 俺の拳は、決意と共に固く握られた。


「変な事はしないでね。」


 決意を固めた側から釘を刺されてしまった。くそぅ。


「それはそうと、女神ちゃんは━━━」

「えぇい止めろぅ。女神、女神言うなよな。それ聞くたんびに背筋が寒くなるんだから。」

「そ?その美貌を讃えた良い呼び名だと思ったのに。まぁ、いいわ。ユーキちゃん、貴女どんなドレスが好み?」

「着るの目茶苦茶楽で、動くの楽チンなのが良い。」

「希望は、特に無し、と。」

「おい、こら。」


 クスクスと笑うアルシェに一抹の不安を覚えた俺を乗せて、馬車は街を進んでいく。





 ◇━◇





 馬車で走る事10分足らず。

 不意に馬車は留まった。


 気になって窓から首を出して外を見てみる。

 すると、馬車の進行方向に人が倒れているのが見えた。

 はて?何か騒いでるみたいだ。


「ユーキちゃん、何かあったのかしら?」


 アルシェが不思議そうに訪ねてくる。

 答えてあげたいのは山々だが、俺だって状況が分からないのだ。なんとも言えない。


「うーん。ちょっと見てくるよ。」

「そう?じゃぁ、お願いね。」


 リビューネに「いってらしゃぁい」と見送られながら馬車を出ると、直ぐに争うような大声が馬車の前方から聞こえてきた。


「どう落とし前つけてくれるんじゃぁ、このボケぇ!!兄ぃの腕と足が、これ、おまっ、ボキッと、ボキッいってしもうとるやんけぇ!!こらぁ!」

「馬鹿を言うな!貴様らが飛び込んで来たんだろうが!自業自得だ!」


 従者さんと知らないオッサンが怒鳴りあっているようだ。

 隣にいる御者さんが困ったようにオロオロとしている。


 俺は従者さんと知らないオッサンを無視して、御者の人に声を掛けた。


「どしたの?」

「あ、これはユーキ様。お騒がせして申し訳ありません。いや、大した事ではないのですが・・・。」


 御者さんが困ったように下げてた眉尻をさらにさげた。


「路地裏から急に此方の方々が飛び出してきまして、運悪く馬にぶつかってしまったのです。それで倒れ方が悪かったのか骨が折れてしまったとか、そう仰られまして。」

「はぁ?」


 なんだそりゃ。轢かれたって事か?

 その割りにはやんわりと馬車止まったみたいだけど・・・・。


 俺は轢かれたと言い張っている男を見てみる。


「兄貴ぃぃぃぃぃぃ!!しっかししてくだせぇ!!」

「ぐぅ!いてぇ!いてぇぜぇ!こりゃぁ、骨が20本くらい折れてやがるぜぇ!」

「兄貴ぃぃぃぃぃぃ!あ、これ、頭の骨もぽっきりいってますわ!どないすんねんこらぁ!」


 頭の骨がぽっきりいかれてたら、まず死んでるわ。

 なんだ、頭の骨がぽっきりって。どんな折れ方だよ。怖いわー。


「大丈夫そうだな。」

「えぇ。大丈夫そうなんですよ。ですが、中々引き下がって貰えずに。」


 当たり屋、か・・・・・・どの世界にもいるもんだなぁ。


「ふむ。俺、お話し合いしてくるわ。」

「ユーキ様っ!?いけません、何をされるか━━━」

「あー、大丈夫大丈夫。俺これでも強いから。」


 御者さんの制止を流し、倒れている男達の元へと向かう。

 苦しんでる割りには随分と余裕があるようで、俺が近づいていくのに直ぐ気がついたみたいだ。視線で、隣で喚く男に俺の事を伝えている。


「骨が折れてるって聞いたんだけど、大丈夫か?」


 俺がそう言うと、喚いていた男が眉を吊り上げた。


「あぁん?!なんじゃ小娘ぇ!お前がこの馬車に乗った奴か?どないしてくれるんじゃ、兄貴ぃの腕やら足やらがこれ、ボキッといってしもうとるんやで!?」

「どんな倒れ方したんだよ・・・・。」


 腕やら足やらとか、その上頭の骨もいかれてるんだろ。

 よく生きていられるな。


「まぁ、まぁ、ハチ、その辺にしとき。」

「兄貴ぃ!!せやかて!」


 なんか始まった。


「この御嬢様も、おれに怪我をさせたのは本意でないやろ。」

「せやかて、兄貴ぃ!こんなにぽっきりですやん!」

「せやな。せやから、ちゃんと御詫びをしてくれさえすりゃ、おれは許そう思うねん。幸いにして、まだ取り返しのつく状況や。なぁ、御嬢様?」


 そう言って嫌な笑顔を向けてくる骨折れ男。

 いや、お前、さっきまでの苦しそうな演技はどうした。

 やるならちゃんと最後までやれぃ。


「・・・・で?何を御詫びにするんだ?」

「ふん。話の分かる御嬢様やないか。せやな、ちいとばかしの慰謝料と治療費はろうてくれたら、それでええで。せやな、金貨百枚でどうや?」


 金貨百枚か・・・・。

 俺にとっちゃ大金だけど、アルシェからしたら端金なんだろうな。断って後々に妙な難癖つけられるくらいなら、払うのも手なんだろうが・・・・。


「━━━良いぞ。それで。」


「「ひょー!」」

「おお!分かる御嬢様や!」

「「ユーキ様!?」」


 骨折れとその愉快な仲間達が歓喜の、御者さんと従者さんが驚愕の声をあげる。不服そうな表情を浮かべる従者は何か言いたげにしていたが、俺に一瞥されると何かを察したのかコクリと頷いてくれた。察しのよさは、流石貴族の従者と言った所だろう。


 余計な事を言われる心配が無くなった俺は、骨折れ一味に視線を戻す。


「ただし、本当に折れてたらな。」

「「「はっ!?」」」


 一瞬、ポカンとあほみたいに口を開き呆然としていた骨折れ一味だったが、俺が骨折れ兄貴に近づくとその表情を変えた。


「なっ、お前!近づくな!兄貴は今、凄く、その!骨が折れてんだぞ!」

「そうだ!兄貴に近づくな小娘!あ、安静にしないと駄目なんじゃぁ!」


 酷く焦ったら声をあげ、男達は俺の兄貴の間に立ち塞がる。

 骨折れ兄貴は・・・・冷や汗をかいてじっと此方を眺めているだけだ。ん?でも、なんか逃げようとしてないか?

 まぁ、どっちでも良いけどさ。


「心配すんなよ。怪我人の扱いは多少心得てるし、少し治癒魔術が使える奴もいるからさ。あんまり酷いようなら応急処置する必要もあるだろ?」


 怪我人の扱いは拳刀門下生達のお蔭で大分馴れている。

 毎日のように出る怪我人を、毎日のように運び、毎日のようにムゥ先生で治療してたからな。本当に馴れまくっているのだ。


「ほれ。取り合えず、そこをどけお前ら。」


 退く様子の無い二人の男を腕力で押し退け、倒れている男の横へと腰かける。「っ!」と小さく骨折れ兄貴が声を漏らすが、知った事では無い。問答無用で骨折れ男の体に手伸ばす。


「止めろ!」


 今まで余裕を見せていた骨折れ兄貴が怒号を発して抵抗しようとするが、俺は振り回そうとする無事?な腕を抑え、折れているとされる腕に手を掛けた。

 当然手触りからは折れている様子は無い。まぁ、これは予想通りなのでなんでも無い。


「折れてるようには思えないな。今まで何人もそう言う奴は見てきたけど?」

「はぁっ?!そ、そんな事ねぇ!そこは確かに折れて━━」


 ボキャ。


 鈍い音が鳴り、骨折れ兄貴の右腕がおかしな方向へと垂れる。

 どうやら"ちゃんと折れていたらしい"。


「あっぎゃぁぁぁぁぁ!?う、腕がぁ!?」

「あ、ごめんな。折れてるわ。これは。━━━後は、確か足だったのよな?」


 そう言って骨折れ兄貴の足を擦る。

 骨折れ兄貴が息を飲む音が聞こえてきた。


「右?左?」

「いや、あ、あの!?」


 どちら共答えない骨折れ兄貴。

 仕方がないので、擦っていた足を少しだけ力を込めて掴む。


「右?左?」

「ひぃっ!!!」


 結局どちらとも教えてくれないので擦って確かめる。

 そして、やっぱり、俺には分からなかった。

 どっちが折れていて、何処が折れているのか。


「やっぱり分からないなぁ。本当に折れてる?」

「そ、それはっ、左足が、その折れてるような気がしてた・・・んだけど、今は━━━」


 ボキャ。


 また鈍い音が鳴った。

 どうやら俺が見落としていただけでしっかり折れていたようだ。左足の膝から先があらぬ方向へと曲がっている。


「ひぃぎやぁぁぁぁぁ!?あ、足がっ!おれのあ、あしっ!!」

「ごめんなぁ。やっぱりちゃんと折れてわ。疑って本当にごめんな。」


 これはまた派手に折れたもんだ。

 さっきより力を抜い・・・・げふんげふん。

 ん、不幸な出来事だな。可哀想に。


「さて、後は━━━頭がぽっきり、だったか?」

「っえ!?」


 骨折れ兄貴がダラダラと汗を流し、顔を真っ青に染める。

 身に覚えがあったのだろう。

 骨の折れた痛みにのたうち回っていたあの極限状況で、仲間の言った言葉ちゃんと覚えているとか、偉いなぁ本当に偉いなぁ。


 俺は顔を真っ青にした骨折れ兄貴の頭を出来るだけ優しく撫で、折れている場所を探す。うん、やっぱり分からない。


「何処が、痛い?」


 頭の骨がどう折れているかは知らないが、折れているのだとすれば死んでしまう。それは避けなければ。

 別に博愛主義者でも平和を愛する正義の使者でもないが、目の前で命の危機に瀕している人がいたら、助けたくなるのが人情と言うものだ。俺は、あくまで、善意で、この男を助けてやりたいと、そう思っているのだ。


 決して、夜会から逃げ出せないストレスをぶつけている訳ではない。優しさだけで触れあっているのだ。


 撫でる頭にそれらしい箇所はやっぱり見当たらない。

 どうも、俺は触診と言う物が出来ないようだ。残念である。

 ならば、訊くしかないだろう。何処が折れているのか、何処が痛いのか。


「なぁ、頭の何処が、ぽっきりいかれてるんだ?」

「あ、あた、あま、あたまっ、はっ!!」


 要領を得ない骨折れ兄貴の頭を掴み、目を合わせてもう一度尋ねてみる。


「何処が、折れているんだ?なぁ、教えてくれよ。なぁ?」

「ひぃっ!!!!!!!」


 骨折れ兄貴は失禁しながら転がるように俺から距離をとった。

 そしてそのまま、頭を地面に擦り付けた。


「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!」


 どうやら土下座と言う物も、何処にでもあるようである。

 いや、厳密には土下座とは違うのかも知れないんだけど。


 骨折れ兄貴の仲間達が、頭を地面に擦り付けて許しを請う男に慌てて近付いていく。口々に骨折れ兄貴を責めているようだが、必死の形相をした骨折れ兄貴に制され、頭を力づくで無理やり下げさせられる。


「あ、兄貴ぃっ、いきなり何すんだよ━━」

「そうっすよ!もう少しでっ━━━」

「馬鹿野郎共が!!さっさと謝れ!!」


 文句を重ねる二人の男を地面に叩きつけ、その勢いと同等レベルの速度で自分自身も地面に突っ伏していく。

 頼んだら靴とかも舐めてきそうだ。


「何処のどなたかは存じ上げませんが、この度、御迷惑をお掛け誠に申し訳ございませんでした!!どうか、命だけは!命だけはご勘弁を!!」


 平身低頭。

 もはや、最初の自信満々のその姿は何処にも無い。いるのは、怯えるだけの小汚ない男一人だけだ。


「命?意味が分からないなぁ。俺はただ、何処が折れてるのか聞いてるだけなんだけどな?」

「何処も!何処も折れてません!!」

「腕とか足とか、エライ方向に曲がってるけど?」

「元からです!!」


 追い詰められた男は、折れていると言う事実からも逃げた。

 少しやり過ぎたかもしれん。


 仕方がないのでムゥを呼び出し治癒魔術をかけてやる。

 ムゥを出した時と魔術を使った時にやたらとデカい反応をしてきたが、全部スルーしてやった。面倒くさい。


 手足がきちんとした状態になった男に、俺は優しく肩に手をおき最後のお話しをする。


「"一応"治癒魔術を掛けておいたから大丈夫だと思うけど、他に何かあるか?」


 骨折れ兄貴は首を横に激しく振った。

 もう、とれてしまうんじゃないかって位に振った。

 取り巻きの二人も同じように横に振っている。


「それじゃ、今度は慰謝料の話だな?」

「ひっ!?い、い、いえ!その怪我は気のせいだったみたいなのでっ!それに、治癒魔術も頂きましたので━━━」


 俺はポケットから取り出した銅貨を、骨折れ兄貴の目の前で螺切り、そっと持たせてやった。


「足りるかな?」

「「「はいっ!!!!!!!」」」


 三人の元気な声が反ってきた。

 どうやら納得の額だったらしい。

 完全なポケットマネーなので、納得してくれなかったらどうしようかと思っていたが、納得してくれて本当に良かった。


 逃げるように去っていく当たり屋達にバイバイしていると、青い顔をした従者さんが恐る恐ると言った様子で近付いてくる。


「その、結構なお手前で。」


 ここは茶室か。

 なんだそれ、誉めてんのか?


「・・・・うーん。どういたしまして?」

「何処でそのような拷も・・・げふんげふん。説得の術を?」

「説得の術?そんな良いもんじゃない。これは━━━」


 そっと思い浮かべた狐耳のあの子。

 拳刀の門下生を鍛える時に発せられた上部だけは優しい言動や、容赦のない扱き。俺は、あれをお手本に、ちょっとやってみただけだ。


「鬼教官のマネしただけだけら。」

「そうですか。随分と手厳しい先生がいたのですね。」


 どこか遠い目をした従者さんが空を仰いだ。

 あれ、なんか、涙溢れてない?なんの涙?ねぇ、なんの涙?


 ━━━まぁ、何はともあれ、初めての用心棒としてのお仕事は大成功といえるだろう。 この調子で夜会も上手くいくと良いんだけど・・・・無理かなぁ。

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