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召喚士されし者 10・冒険者の男

「ユーキ様、このまま道なりに進めば暮れにはエバーレントに着きますよ。」


 シェイリアは俺に笑みを浮かべる。


「そっか」


 俺は地図を見つめ歩んだ道を指でなぞる。

 うん、あんまり進んでないな。

 森林を抜け、小高い山を越え、結構頑張った気がするがこんなもんか。足がパンパンだ、もう帰りたい。

 最初は良かった。緑豊かな風景、小鳥達の楽しげな囀ずり、目新しい景色に目を奪われた。自然と足が速くなりスキップしそうな勢いで道を進んだ。

 軽い昼食をとり、午後に差し掛かった今現在。

 俺は歩くことに飽きていた。


 右手をワキワキさせながら毛むくじゃらのアイツを思い浮かべる。


「シェイリア、ガイゼル喚ぶ?」

「ガイゼル?あの大きい魔獣様ですか?」

「アレに様なんてつけなくていい。駄犬で十分。」

「駄犬ですか・・・?」


 シェイリアが苦笑いしながら口元に手を当てる。


「・・・ユーキ様が仰っているのは、ガイゼル様に乗って行こう、って言う事でいいんですよね?」

「ざっつらいと。そゆこと。」

「ざっつらいと?えっと、ガイゼル様に乗って行くのは止めた方がいいかも知れません。」


 困ったような表情をしたシェイリアが俺に言う。

 何でも、この周辺地域にはガイゼルほどの魔物は滅多に居らず、またそれを従える者もいないらしい。ガイゼルほどの魔獣が目撃された場合いらぬ騒ぎを起こす可能性があるそうだ。


「はぁ、しょうがないな。行きますか。」


 俺がため息をつくと、シェイリアがあわあわしながら俺に提案をする。


「いや、でも、ユーキ様程の召喚士様であれば大丈夫かもしれません。なんかこうオーラも有りますし!きっと騒ぎにもなりませんよ!い、行きましょう、ガイゼル様に乗って行きましょう!」

「いや、いい。言われみりゃそうだよな。ガイゼルみたいなデカい魔獣、俺が従えると思う方がどうかしてる。」


 暮れまで歩いて・・・か。あと4~5時間くらいか、むぅ。


「ぎゃぁぁ!!」


 悲鳴と共に脇の茂みから男が転がり込んできた。

 全身に小さい傷を負った男は、無精髭をたずさえた冴えない顔を俺達に向ける。


「 おぉ!?これはこれは麗しゅうございますお嬢さんがた。こんな山奥で出会うのも何かの縁、干し肉でも一緒にかじりませんか?」

「おら」

「へぶん!?」


 俺の拳を顔面にめり込ませた男は大きく吹き飛ぶ。


「ユーキ様、お怪我はありませんか!?」


 シェイリアが心配そうに聞いてくる。


「大丈夫、あと200発はいける。シェイリアも大丈夫か?」

「はい、私は何も。それよりあの人何ですかね?」


 男は生まれたての小鹿のような足どりで立ち上がる。


「がっ!このガキ何しやがる!俺の運命の邪魔するんじゃねぇよ。いい男の顔は殴っちゃいけないと教わらなかったのか!?」

「いい男なんてどこにいるんだよ。」

「はぁん?ここにいるだろうが。この俺、サリハン・ピッツバーグの事だよ。お・ち・び。」


 そう言って男は俺に指を突きつける。

 カチンときたので、突きつけられた指をグキッとしてやった。


「あぁぁぁぁ!!バカお前、指には曲がる方向があんだぞこら!」


 男がのたうつ姿を横目にシェイリアが話しかけてきた。


「ユーキ様、関わらないほうがいいですよ。変ですこの人。」


 それはおおいに同意する。・・・が。


「おいあんた、何時までも転げまわってんなよ。なんかあったんだろ?」


 シェイリアがポカンするが、男は思い出したのか「はっ!」とした顔をした。


「ああ!そうだお嬢ちゃん達早く逃げろ!グラスボアの群れがそこまで来てんだ。」


 男が言い終わらないうちに茂みから巨大な猪が飛び出してきた。

 俺は目と鼻の先に現れたそれから距離をとり、すぐさまガイゼルを召喚する。


 魔力で展開された魔方陣からガイゼルが現れる。

 すぐさま魔方陣から飛び出したガイゼルは猪に食らいつく。

「ガキィ」と鈍い音を鳴らし猪の頭蓋を噛み砕いた。


「まだいるんだろ?何匹いるんだおっさん?」

「えっ?あ、あの、あと10匹くらい・・・。」

「ガイゼル、行け。」


 俺の一声でガイゼルは口にくわえた猪を放り出し、茂みに飛び込んで行った。

 茂みの奥から「プギィー!?」とか「プゴッ!!」とか断末魔が聞こえてきた。結構近くまで迫っていたようだ。

 猪みたいな危険性の高い害獣生かしてやる理由もないので、こちらに迫ってきた分はきっちり狩っておく。

 それに皮も肉も金になるので金欠の俺にはありがたい。


「ユーキ様、とりあえずあれの解体しちゃいますね?」

「あー・・・、頼んでいいか?悪いな。」

「いいえ。喜んでやらせてもらいます。」


 シェイリアは腕捲りして猪の解体を始める。

 俺はシェイリアの手際のよさに感心しながら断末魔に耳を傾ける。

 ・・・うん、静かになったな。


 ガイゼルを呼ぼうと視線を茂みに移した時、尻餅をついたさっきの男と目があった。


「あ〜・・・あんた、大丈夫か?」


「何者だよ、おちび?」


 腰を抜かした男は呆然と俺を見つめていた。






「召喚士ねぇ?」


 男は無精髭を擦りながらいぶかしげに俺の顔を見る。


「こーんなおちびでもなれんなら、召喚士ってのも大した事ないのかもしれねぇーな。」

「おら」

「ヘルゥ!?」


 不躾な奴のデコに渾身のデコピンを叩きこんでやった。

「ふぬぅおぉぉぉ!?」とか言いながら額を押さえ悶えている。

 こりない奴だ。



 焼きグラスボアを器に盛ったシェイリアがスススっと寄ってきて耳元で囁く。


「ユーキ様、関わらないほうがいいですよ。バカが移ります。」


 そう言ってグラスボア満載の器を手渡してきた。

 盛りすぎだシェイリア。


「お嬢さん俺もお腹ペコペコなんだ、おちびと同じくらい盛ってくれないか?」


 もう生き返ったのか、コイツ。


「はぁ?もうよそったじゃないですか。」


 シェイリアはしれっと返すが、男の器には二切れの薄い肉しかない。

 男は「え?いやでも」などと抗議しようとするが、「よそりましたよ」とシェイリアに冷たくあしらわれ押し黙った。

 シェイリアもうちょい盛ってやれ。



 哀しいことに現在俺達は野営中である。

 12匹のグラスボア解体はやはり無理があったのだろう。

 解体作業に時間をとられた俺達は、やむなく夜空の下で飯を食らう羽目になった。



「そう言えば、ハリソン・フォードはここで何してたんだ?」

「誰だよソレ。サリハン・ピッツバーグだ、おちび。この格好見てわかんねぇか?」


 みすぼらしいマント、ちょっと臭う皮鎧、いかにも安そうなロングソード、冴えない顔に無精髭。


「落人?」

「誰が落人だ。わかんねぇかな~?冒険者だよ冒険者!」

「冒険者・・・冒険者ってあの冒険者か!?」


 俺は興奮からか、器を手に立ち上がっていた。


「アレイストの魔竜を退治した、あの?」

「そうだ。」

「パラディオンオークと一騎打ちした、あの!」

「そーだ。」

「暗黒魔界王ルディオリア攻略作戦で第一軍将軍アフレンデスと死闘を繰り広げた、あの!?」

「そう、・・・いやそれは知らん。」


 町にいた間、俺は情報収集の為、 ハンブル老を始め生き残った町人達に話を聞いて回っていた。

 名目上、他国から来た旅の召喚士となっているので、あまり無知を晒すわけにもいかず、聞き方には注意が必要だったのだが。

 苦労して聞いたこの国の文化や歴史を学んでいた時、俺の興味を引き付けるある物があった。


 それが、冒険者と呼ばれる者達の英雄譚の数々である。

 伝説の剣とか、邪悪な竜王だとか、深淵の魔導師だとか、まさにファンタジーの代名詞みたいな話が、史実として語られるのだ。


 2次元でしか知らないファンタジーが生きている世界。

 これにワクワクせずに何にワクワクすればいいのか。


「お前冒険者だったのか!すげぇな!」

「ん!?あぁ、まぁなそれほどでもある。」


 俺は器の肉をサリハンの器に盛りつけてやる。


「おぉ、悪いなおちび。」

「ユーキ様!!」

「いいからいいから。なぁなぁサリハン、色々話し聞かせてくれよ!」


 すり寄る俺に満更でもないサリハンがにやけ面を晒す。


「そうさな。話してやりたいのは山々だが、俺の物語には守秘義務がつきものでな、残念だが語ってやれねんだ。」

「守秘義務!やっぱ王様からの密命とかか。・・・はっ!だからそんなボロい格好してたんだな、目立たない為に!」

 

 ・・・ん?

 ボロい格好と言った一瞬、サリハンの顔が引くついた気がするが、まぁ気のせいだろう。


「いや、まぁな。本当は格好いい鎧とか神剣とか持ってんだけど、目立つからなぁー。普段は預けてあんだよ!」

「神剣!マジか!そんなんあんのか。」



 感心する俺を見ながら、サリハンは何か考えているようだ。

「なら」と小さく言った後、サリハンは人指し指を立てる。


「おちび、お前冒険者の仕事に興味あるか?」

「ある。超ある。聞かせてくれんのか!?」

「いや、聞かせんのは駄目だ。守秘義務だからな。」

「じゃぁなんだよ?」



 サリハンは無精髭を擦りながら、にやつくような笑みを浮かべる。


「冒険者の仕事、手伝ってみないか?」

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