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機甲兵団と真紅の歯車 8・その男、愛に歌う

 ガザールの街。そこは、ファンタジーの街であった。

 東欧風の石造りの街へ一歩その足を踏み出せば、賑わいでいる街並みには見たこともないような姿の人々の姿が行き交っていく。獣人、エルフ、ドワーフ、小人に巨人・・・・あ、やべ、巨人おる。


 巨人とはちょっと苦い思いでがあるので、凄く気まずい。

 いやぁ、なんか、その、ごめんね。殲滅してごめんねぇ。

 あ、見ないで、怪しく無いですから。ワタシ、アヤシクナアデスカラー。


 幾つか街や村を見てきたが、ここまで種族が入り乱れた街は始めてだ。アスラの都市では獣人なんて殆んどいなかったし、他の種族は一人も見ていない。


 ロイドはアスラの人は亜人差別主義者が多くて、そう言った人々にとってアスラ国は住みにくい場所なんだとかなんとか言っていたが・・・・どうやら、あれは本当だったらしい。

 ちょっと隣の国いけば、こうして沢山の亜人が普通に暮らしているのだから。




 それにしてもだ。

 どうして獣人の、特に犬系の人とか、狐系の人とかの尻尾はあんなに魅力的なのか。あ、勿論ふさふさの耳もだ。




 目の前に歩くの犬系獣人のお姉さんの尻尾が、俺を誘うように右へ左へ揺れる。見ているだけで癒されるが、モフれればどんなに幸せか。くぅ。


 俺の邪念を感じだのか、怪訝そうな顔をしたお姉さんがこちらに振り返る。

 だが、キョロキョロして首を傾げてしまった。


「・・・・あれ?何か、変な気配がしたと思ったのに。」


 あれぇ?もしかして、見えてない?


「あっ、そうか。さっきの認識阻害魔術が掛かりっぱなしなのか。」

「ひぃっ!?」


 あ、しもうた。


「何、今の女の子の声が近くで、えっ、何、これ!?」

「・・・・・。」


 ファサー。


「ひいぃ!?な、なんか、なんか触った!?尻尾に何か!?」


 ・・・・モフモフモフモフー!!


「きゃぁぁぁーーーー!!」


 俺にも尻尾をモフられたお姉さんは毛を逆立てて走っていってしまった。もう少しモフりたかったが、いたしかたあるまい。


「良い毛並みだった・・・・。ふふふ。次はどの尻尾を━━」


 スパン、と頭を叩かれた。

 見上げると青のスーツを纏う金髪赤目のイケメンがいた。

 人に化けたロワである。


「・・・・王ヨ。認識阻害ヲ解イテテオイテヤッタゾ。痴漢ハソノ辺リニ留メ置ケ。」

「な、なに!?なんで解いた!?」

「健全ニ生キヨ。」


 そんな・・・・。

 折角、尻尾モフり放題だったのに。


「・・・むぅ、まぁいいか。後でヤヨイのをモフろうっと。」

「始メカラソウスレバ良イノダ。マッタク。」

「そうは言うけどな、尻尾にも個人差と言う物があって、触り心地とか少しずつ違っているからそれぞれの良さが━━」

「アー、良イ良イ。説明不要ゾ。」


 邪険に扱いやがって、むきー!


「・・・つーか、もう帰って良いぞ?態々姿まで化けてついて来なくても。━━ん、あれか、なんかやりたい事でもあんのか?」

「ウム。我モ見聞ヲ広メヨウト思ッテナ。近代魔術ハ、我ガ思ッテオルヨリ高度ニ進化シテイルヨウダカラナ。叡智ノ二ツ名ヲ持ツ者トシテハ、知ラヌママデハオレヌノヨ。」

「そっか。魔力はいるか?」

「要ラヌ。持チ前ノ魔力デ賄ウ故、気ニセズトモ良イ。個人的ナ趣味ニ、王ノ手ハ煩ワセンヌヨ。」

「ふぅん。そっか。」




 俺は金策の為に商工ギルドを探して、ロワは魔術書を求めて街に散っていった。

 去り際に「程々ニセヨ!王ヨ!」と声を掛けられたが、何を程々にしろと言うのか。まったく持って謎である。


 暫くメインストリートを歩いていくと、目に見えて立派な煉瓦造りの建物を見つけた。掲げられた看板にも書いてあるが、どうやらギルド連合の支部のようだ。


 正面入り口を抜けて中に入る。

 内装はどこかすっきりした物で、ナダと比べると些かしょぼい。

 だが、受付嬢のレベルはこっちが上だった。獣耳お姉さまとエルフお姉さまが受付にいる姿を見つけた時は、感極まって涙が出た。これや、これが俺の求めていたもんやで。


 俺はいかにも仕事出来そうなエルフのお姉さまがいる受付へと向かう。10人程度の列なので、そう待つ事は無い筈だ。

 来たタイミングがちょうど良かったのか、並んだ人達は早々に用を済ませて去っていく。俺の番になるまで10分も掛からなかった。


「お待たせしました、次の方どうぞ。」


 エルフお姉さまの鈴のような優しい声が耳に響く。

 やはり、本物は違う。


「はい、はい、はい!お待ちしてました!」

「元気が宜しいですね。お嬢さん、今日はどんなご用件でいらっしゃいますか?」

「えーと、糸の買取りと、ギルドカードの再発行をお願いしにきました!」

「承りました。糸の買取りにつきましては、2号受付にて物品の買取りを行っておりますので、再発行手続きが終わり次第ご案内致しますので少々お待ち下さい。━━━では、まずギルドカード再発行につきまして、必要事項のご確認をさせて頂きますが宜しいでしょうか?」

「はーい。」


 この人、本当に出来る人かも知れない。

 なんか話が早い。


「ギルドカード御本人の御名前。以前カードを発行した支部の提示をお願い致します。」

「それだけで良いのか?」

「いえ。これらの確認が終わり次第、次の確認事項へと移行させて頂きます。」


 ・・・・・なんか、長くなりそうだ。






 それから二時間程、俺はエルフお姉さまの確認作業に時間を取られた。前に登録した時の倍を越える時間が掛かった。

 元々、再登録は時間が掛かる物である事は知っていたが、こんなに疲れる物だったとは思いもしなかった。


 その上、ペナルティーが課せられてしまった。


 ギルドカードの再発行は金が掛かる。

 手続きに対しての手間賃も取られるが、カード自体に対する金銭の要求もされる。これが馬鹿にならない値段なのだ。


 始めての一枚は無料だ。

 受付の手間賃や登録料もろもろ要求されない。

 だがそれらは優しさとか思いやりとかでそうなっている訳ではない。あくまで先行投資なのだ。


 一度ギルドに登録してしまえば、登録者は今後も生きている内は何かしら利用する事になるだろう。

 そうして何気なく生きている内に、大体の登録者がカード現品以上の利益をギルド連合に払う事になるのだ。


 だから、あくまで先行投資なのだ。

 最初の一枚分は。







 今回、俺に提示されたペナルティーの額は金貨10枚。

 おおよそ、百万円くらいの額である。


「高い。高過ぎるよ。ううう。」


 俺は糸を買い取って貰った後、連合前の広場でベンチで項垂れていた。ペナルティーとして売買額の二割を取られたのは痛かったのだ。今後もこうかと思うと先が思いやられる。


 金貨10枚とか、ロイドの年収一年分だよ。

 もう、ロイドなら死んでる額だ。


 あ、いや、あいつは借金踏み倒すな。

 もしくは、愛人のヴァニラに立て替えてもらうか、だろうな。

 どこからともなく、「そんな事ねぇから!」とツッコミされた気がするが、きっと気のせいだろう。


 今度、ロイドに会ったらあの顎髭引き抜いてやろう。

 ん?いや、八つ当たりだけども。


「まさか、こんな子供の内から借金背負う事になるとはなぁ・・・・。」


 本当に参った。


 暫く項垂れていると、俺の隣に人が座ってきた。

 顔は見ていないが体格からして男だろう。

 それも、かなりガタイの良い男だ。


「・・・・なにか?」


 何も言わない男に尋ねてみる。

 本当は声とか掛けたく無かったのだが、黙って座りこまれている方が気まずい。


「良ければ一曲如何か・・・・・。何が貴女の笑顔を曇らせているかは存じあげないが、陽気な唄は心を癒し明日への活力を生む。」


 なんだこいつ。

 思わず顔を上げて隣に座る男の顔見る。


 隣の男は長くない黒髪を後ろに撫で付けた、イケメンとまではいかないがそこそこの顔した糸目の男だった。

 男は俺の視線に気がつかず、手元に添えているギターのような物を鳴らし始めた。


「・・・・おぉぉお!おぉぉおお↑↑!!!」

「えっ!?なに、何が始まったの!?」


 突然奇声をあげ始めた男は、俺の声も周りにいる人達の突き刺さるような視線も気にせず、ばかでかい奇声と共にギター的な何かを一心不乱に掻き鳴らす。


 やめて!俺は部外者だから!

 同じような者を見るめで俺を見ないで!

 こいつと一緒にしないで!!!


「あーーー、あ、ああーあーーーーぁぁぁぁぁぁあああ!!」

「何なんだよ!何を言ってんだよこいつ!?」


 男のギター的な何かを掻き鳴らす速度があがっていく。

 顔とかもヤバイ。あれだいっちゃってる顔だ。スパーキングだ。


「━━━━━い、がぁぁぁぁぁぁぁぁ↑↑↑↑!!」

「やだ、怖い!何!なんだよ!?なんのシャウトなんだよ!?」

「∀∩∧∃⊥≒≡∇⇔!!いぇぇぇぇぇぇぇいぃぃいあひゃあぁああーーー↑↑」

「なにいってんだよ!!言葉を、せめて言葉を喋れ!!」


 男の大熱唱は街の警ら隊に止められるまで続いた。

 歌っていると気がついたのは、男が止められた後、警ら隊に男が事情を説明していた時だ。そう、全てが終わった後である。

 それまでは意味も分からず、何かを叫んでるとしか思っていなかった。


 なんでも男はたまに現れる音痴な吟遊詩人として、一部の界隈では有名らしく何度もブタ箱にぶちこまれている常連なんだとか。


 今日もいつも通り男はブタ箱にぶちこまれた。

 元気に歌っただけ、悲しみにくれる少女を元気づけたかっただけと供述しているが、牢番にはちっとも相手にされない。


 ん?

 どうしてそんな事を知ってるかって?












 そんなもん、俺も記念すべき初ブタ箱を不本意ながら体験している真っ最中だからだよ。糞が。


「ねぇ、ねぇ、少女!そこの美人の少女!聞いてよー!全然信じてくれないんだ!僕は君の為に唄っただけで、ギルドに迷惑を掛けにきた訳じゃないっんだって言ってるのにさぁ!」

「るっせぇ。黙れカス。」

「うっわぁ!辛辣ぅ!でもさでもさ?可笑しくない?僕は愛の唄で有名な『銀羽の妖精』を唄ったのに、迷惑行為とか言うのはどうかと思うんだよねぇ!聞いてたでしょ!僕の唄!良いよねぇ!特に妖精が王子に愛を捧げたくても捧げられない、あのもどかしさに嘆くあの所!良いよねぇ、切ないよねぇ!」


 男の捲し立てる声に牢番が眉を潜める。


「こら、煩いぞ。少し静かにしろ。他の者達もいるのだ。」

「はい、はい、はい。わっかりましたー。でさでさ、あの唄の良いところはさ」


 ぷっつん。

 俺の中で何かが切れた。


「こら、いい加減に━━」

「うっせぇぇぇぇんだよ、ボケこらカス!!」

「うひぃっ!?」


 あ、ごめん牢番さん。

 あんたじゃないから。違うから。

 泣かないで。


「あ、あれれ?悲しみにくれる美人少女?あれ、なんか芸風違くない?猫をかぶり?」

「うっせぇぇぇぇんだよおおおぉぉぉぉ!!猫なんて最初から被ってねぇよ!!お前が、一方的に、訳分かんない叫び声をあげて、訳分かんない楽器を鳴らし始めたんだろうがよ!!なんで俺までブタ箱にぶちこまれなきゃならねんだ!あぁぁん!?」


「ご、ごめ、ごめんなさい。」

「牢番のおっさんに言ってないから!ちょっと黙ってて!!」


 何故か謝ってきた牢番を手で静止し、反対側にいる馬鹿に向けて空になった木製のトレーを投げつける。

 因みに、先程トレーに乗せられて差し入れされたパンは普通に旨かった。後で店を教えて貰おう。


 魔力帯びたトレーは風を切り裂き男に向かう。

 殺さない程度には手加減しているが、それでも当たったら怪我は免れないレベルの一撃だ。


 だが、男にはトレーは当たらなかった。

 狙いが外れた訳ではない。

 避けられたのだ。


「おっと、危ない危ない。怖い攻撃してくるなぁー。もうこれ、女の子がじゃれつくとかのレベルじゃないよ?美人少女何者?僕もちこーーっと悪い事はしたと思ってるけどさ。ビンタとかならまだしも、これは受け止められないよー。」

「━━っ!お前こそ何者だこら!今の普通は避けられないぞ!?つか、当たりにいけ!悪いと思ってるなら、自ら飛び込んでいけ!そんで怪我しろ!」

「あっはははーはー。面白いねぇ美人少女。」

「笑ってんじゃねぇぞこらぁ!おまっ、ぶっ飛ばす!絶対ぶっ飛ばすぅ!!」


 思わず掴んだ独房の檻がミシミシと音を立て、鋼鉄で作られてるであろう檻に手の跡が刻まれる。


 それを見ていた牢番が「ひぃっ」とまた悲鳴をあげた。

 大丈夫だから。例え外に出たとしても、おっさんは襲わないから。目の前の馬鹿は問答無用でぶっ飛ばすけど。


 男に目掛け第二投のコップを構えた所で、牢部屋の扉が開いた。


「そこまでだ。━━━さて、これはなんの騒ぎだ?」


 部屋に入って来たのは立派な髭を蓄えた壮年の男だった。

 かっちりとしたスーツのような服を着込んだ男は、どこか雰囲気が高貴そうな感じがする。


「こ、これは、ゲヒルト閣下!」

「畏まらずとも良い。それより話を聞かせて━━━━」

「閣下?」


 ゲヒルト閣下と呼ばれた男は、俺と向かいあっていた男を見ると固まった。目の前の馬鹿はヘラヘラと笑ったままだが。

 そして暫く固まった後、立派なその髭を撫でながらゲヒルト閣下は、重い、それは重い溜息をついて言った。


「また、君かね。音楽センスが欠片も無い事はいい加減理解しただろうに。そろそろ、家に帰ったらどうかね?クロム君。」


 なんとも残念な物を見る目で閣下は男を見た。

 音楽センスが無いとか、そう言うレベルじゃないけどな。

 あれは一種の災害みたいなもんだ。


 だが、クロムと呼ばれた男はヘラヘラと笑うばかりで真に受ける様子は一切ない。


「センスが無い?そんな事で諦める程、僕の覚悟は軽くはないよ。ゲヒルト閣下。歌は僕の生き甲斐だ。音楽は僕の夢だ。他に得られる全てを犠牲にしても、これだけは捨てないし、諦めない。絶対にね━━━━」


 クロムは言葉を一旦区切りをつけ、右の人指し指を空へ掲げると声高らかに続けた。

 不適な笑みを浮かべ、何処までも真っ直ぐな瞳を輝かせて。






「僕は稀代の音楽家になる男、クロムだよ?」






 微塵も、己れの未来を疑わずに。

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