機甲兵団と真紅の歯車1・襲撃と救済
二章再アップ始めました。
改稿に時間が掛かってしまい申し訳ないです。
少しずつ戻していきますので、気長にお待ち下さいませませ(´・ω・`)スマンナァ
「何処なんだよ。ここはよ。」
目を覚ましてからおおよそ30分程。
宛もなくさ迷い歩いていた俺は、よく分からん森にいた。
何を言ってるか分からないだろうが、それが全てだ。
なんか、森にいたんだってばよ。
ついでに言うなら、何故かシスターコスで、なんか身長とかもでかくなってたりしていた。うむ、分からん。
違和感を感じて胸に手を当てたら、なんか膨らんでいた。
揉んでみたら、もう疑いようもない程におっぱいだった。
元男の子としては、わりとショックだ。いや、わりとどころか、結構ショックだ。泣きそうだ。
あ、いけね、汗が、目から汗が零れちまう。
まぁ、現状から察するに、恐らく数年は経っている。
それが一年か二年かなんてのは分からないが、確実にあの戦いから年単位で時が過ぎている筈だ。
じゃなきゃ、こんなに膨らんでる訳が無い。ちくしょう。
どうやらアルベルトが残した最後っぺは予想以上に強力だったらしい。封印魔法とか言っていたが、今後は何かしら対策しないと不味いかもしれないな。いや、封印魔法だけじゃないな。魔法や魔術に対して、全般的に注意する必要があるな。うん。
━━━それにしても謎だ。
俺は今の今までどうやって生きてこれたのか?
予想としては、意識が途切れる前に呼び掛けてきたアイツが[俺の代わりをしていてくれた]と思っているのだが・・・・。
「まぁ、それは考えても無駄か。はぁ。」
この体にいたもう一つの魂は俺の様子を見る事が出来ていたのだろうが、俺にはそんな事出来なかった。
今もそこに居るのか、はたまた綺麗さっぱり消えてしまっているのか。
それすら俺には分からないのだ。
だが、少なくとも俺が封印される前。
シャリオの言う事が本当であれば、もう一つのあった魂はボロボロで、直ぐにでも消えてしまいそうな程の酷い状態だった筈だ。
それが年単位で体を維持してきたと考えるのであれば、恐らくもう・・・・。
いかんいかん。
なんだか暗くなってしまった。
一旦この話は忘れるとしよう。
「━━━さてと。それよか、シェイリア達は大丈夫か?まぁ、ロイドは小狡い奴だから大丈夫だとは思うけど・・・・。シェイリアは心配だなぁ。可愛いし、おっぱい大きいし。悪い男に引っ掛かってなければ良いけど・・・・。むぅ。」
あの戦いで死ぬとは思えないから生きているのは当然として、その後が非常に心配だ。特にシェイリアは俺になついていたからなぁ。寂しがって無いだろうか。ロイドに八つ当たりして無いだろうか。八つ当たりされたロイドが特殊な性癖に目覚めて無いだろうか。ふぅ、心配だ。
そんなしっつれいな事を考えていると、「俺は変態じゃねぇ!」とロイドにツッコまれた気がするが、きっと気のせいだろう。
変態ロイド、永遠なれ。
「むぅ?」
ポヤポヤしながら歩いていると、見たくない物が目についた。
青空を引き裂くように立登った、黒い一本の煙だ。
ついでに、風に乗って嫌な臭いが鼻についた。
焦げた肉の臭いだ。
「はぁ、まったく。この世界の人間は何かと物騒過ぎるぞ。あっちでボヤボヤ、こっちでボヤボヤ。焼き討ちしないと死ぬ病気かなんかなのか?━━━━んで、どうして俺の目覚めはいつも混沌としてんだよ!!グローリといい、エルキスタといい!もぅ!!」
何だかむかっ腹立ってきた。
どうせ野盗の類いが町だの村だのを襲っているのだろうし、さっさといってチャッチャと片付けてくるか。
ついでに、旅の軍資金として盗人共のお財布を拝借させて貰おう。
盗人の物は俺の物、俺の物は俺の物である理論だ。
取り合えず目的地に向かう為、ガイゼルを喚び出した。
喚び出されたガイゼルは始め目を点にして驚きに身を膠着させていたが、俺の存在に気づくと尻尾を千切れんばかりに振り回して、ガバッと飛び掛かってきた。
あまりの早さに俺は全く反応出来ず、なされるがまま組伏せられ顔面を舐め尽くされた。涎でデロンデロンである。
ガイゼル。お前は後で、ぶっ飛ばす。
落ち着きを取り戻したガイゼルに股がり、俺は立登る煙の発生源へと向かった。
辿り着いたそこには俺の予想通り、死臭漂う炎に包まれた小さな集落があった。
「あぁ、またか。」
自然と溢れ落ちた深い溜息と共に、俺の脳裏にあの日見た一人の女の子の姿が浮かんだ。
地獄の釜の底のようなあの場所で、俺に助けを求め瞳を涙に滲ませた、弱くて強い大切な友達の姿を。
◇━◇
それは突然始まった。
村の方角から響いた地を揺るがすような爆発音。
クロエと別れてから村に向かいトボトボ歩いていた俺は、事態の異常性に再び走り出していた。
昨日と言い今日と言い、最近は走ってばかりだ。
そんな事を思いながら駆けつけた村には、成人の男二つ分の大きさを持つ錆び色の巨人がいた。
巨人の周りには十人程の男達がいた。どれも村に視察にくる義仗官と同じような服を着ており、抜き身の長剣や槍を手にしている。
一瞬領王様が視察にでも来ているのかと思ったが、直ぐにそんな考えを振り払う。男達の雰囲気があまりにも可笑しかったからだ。
俺は男達に気づかれないよう物陰に身を隠し様子を伺った。
「村の住民はあれだけか?」
「いえ、未だ六名の行方が知れません。四名は首都へ行商に向かったとの事ですが、残りの二名はまだ村の何処かに潜伏している事かと。しかし、残りの二名は成人前の子供との事ですから、何が出来るとも思えませんが。」
耳を澄ませているとそんな男達の声が聞こえてきた。
どうやら村の皆を何処かへと集めているようだ。
「油断はするな。取り合えず捜索にあたる人数を増やせ。アームドは待機。それ以外の待機要員は全て回せ。行商に向かった連中の事は迫撃殿には報告は済んでいるか?」
「既に。迫撃殿には別の者を行かせております。」
「そうか。では仕事に戻れ。」
「はっ!」
そう言って敬礼した男は、広場のある方向へと駈けていった。
男達の話を聞いて、村の皆を集めているの確定だ。
なら何処へ?
そう思い考えてみれば、そんなに難しくもない事だった。
村はお世辞にも発展している訳ではない。
当然、そこに住む人もそれに比例して数多くは無いのだが、たまにしかいない行商人のロングを合わせても50人はいるのだ。
それだけの人数が一気に集められる場所は、教会か広場くらいな物だ。
見れば男達は統制のとれた集団のようだ。
個々が自由奔放に動いている訳でないとするならば、指揮をとっている存在が必ずいる。
伝令の男が駆けていったのは広場。
そこに皆がいるかは分からないが、少なくとも男の仲間達がいる筈だ。さっきの会話の中で捜索人数を増やすようにと男が命令を受けたのを聞いているのだ。
俺は男に気付かれないように駆ける背を追った。
男の後を追いかけて広場が見える位置まで辿り着いた。
予想通り広場には数人の男達と先程も見た錆び色の巨人が二体見えた。
皆の姿は見えない。
「捜索の増員ですか?」
「あぁ。アームドはこのまま待機。歩兵は全て捜索にあたってくれ。捜索対象は男女の二名。両方年端もいかない子供だ。だが、油断はするな。男の方は何処にでもいる餓鬼だが、女の方は魔力の保有値が高いとされている。魔術や魔法の類いを使用する可能性を念頭に置いておけ。」
「了解しました。我ら五番組五名、直ぐに捜索に当たります。」
広場にいた男達が慌ただしく駆け出していく。
すると、その様子を静観していた巨人が残った伝令の男に近づいていく。
「伝令。迫撃殿は何処にいるのだ。待機にしても長過ぎるぞ。」
「これはルタ将校殿。申し訳ありません。自分では答え兼ねます。」
「ちっ。たく、これだから下っぱは。あーあ。早く暴れさせてくれよ。折角の実戦だってのに、銃の一発も使ってねんだぞ。」
巨人が片腕を上げ、男に何かを訴える。
するともう一人の巨人が腕を振り上げていた巨人を諌めるように動いた。
「止めないか。ルタ少尉。彼にあたっても仕方が無いだろう。」
「はん。良い子ちゃんですな、ガドエル少尉殿。」
「止めないか。ルタ少尉。私は良い子ちゃんなどでは無い。意外と茶目っ気な所もあったりして、行きつけのオカマバー[キャサリンの秘密の花園]では[いけない恋泥棒]などと呼ばれる事もあったりするのだ。」
「どっちでもいいわ、そんな事!つーかお前、そんな所に通ってんのかよ。いい趣味してんな変態野郎。・・・・まったく。俺は暴れてーから"あの"迫撃殿の部隊に入ったってのによ。初っぱなからこの様なんてな。」
「止めないか。ルタ少尉。迫撃殿は君のように野蛮な事を考える人間では無い。命令故にそのような悪名がついてしまっただけだ。因みに、キャサリンでの私のお気に入りはメリコさんだ。こんど一緒にいく時はメリコさん以外を選んでくれ。ルタ少尉。」
「いかねぇーーよっ!!!何ナチュラルにお前と行く事になってんだよ!せめて本物の女がいる所に誘え!!!」
いい加減盗み聴きしているのがアホらしくなってきた。
ここにいる巨人達は酒盛りしている親父達に近い物を感じる。
重要な話が聞けないような気がした俺は、本命である教会へと向け足を踏み出した。
その時だった。
教会方面の空に光が迸ほとばしった。
「何だ、あれ?」
ドン、と俺の背後から爆発音が響いてきた。
覚えがあった、森にいる時に聞こえたあの音だ。
振り返ると、先程くだらない話に花を咲かせていた巨人達が見た事も無いような武器で家々を焼き払っている姿があった。
「はっはー!!漸くだぜ!おせぇってんだよ、迫撃殿よ!!」
歓喜に満ちた声をあげながら巨人はその巨大な腕で構えた筒から炎を吐き出し、目の前に見える全てを焼いていく。
その時になって、俺は勘違いしていた事に気がついた。
男達の落ち着き払った様子から、皆は殺されないと思っていた。
何かしら理由があり、村の人間を人手として見ているのだと。
何処かへ拐おうとしているだと。
だが、違う。
今になってはっきりした。
金が目的じゃない。
人手を探している訳でもない。
アイツらが欲しいのは、もっと別の物だ。
幾つか通り過ぎた家を見たが、荒らされた形跡は無かった。どの家も窓や玄関から覗く中の様子は綺麗な物だった。
食料もそうだが、きっと金目の物だってそのままの筈だ。
人手を欲して拐おうとするならそれなりの準備がいる。
人数に応じた馬車や大量の食料、水だって必要だ。
少しでも備蓄を気にするのであれば、焼き払ってしまうなどあり得ない事だ。
それに何より、あの男達の纏う雰囲気が。
遠目から見ただけで背筋に走った寒気が。
最悪の光景を頭の中に思い浮かばせた。
走った。
見つかるかもしれないと、そんな考えが僅かに浮かんだが、逸る気持ちを、足を止められなかった。
遠くから俺を見つけた男達の声が掛かる。
何を言っているか分からないが、望むような言葉ではない事だけは間違い無いだろう。
脳裏に親父や母さん、妹の顔が浮かぶ。
それだけじゃない。
向かいに済んでいるハンガーさんとその家族、文字を教えてくれたヘイのじいさん、口煩いけれど会うとお菓子をくれるエリ姉さん。
皆の顔が次々に浮かんでくる。
明日も明後日も、同じような日々が続くと思っていた。続いて欲しかった。そこには家族の姿があって、皆の姿があって、アイツの姿があって欲しかった。
自分は特別では無いけれど、それを憂いた事なんて一度も無い。平凡で良かった。何も無くて良かった。
皆と、何でもない明日が来る事が、俺は━━━
「━━━━んで。」
息を切らして駆け込んだ教会は赤い炎に包まれていた。
揺らめく炎の隙間から、教会の中に人の影が見える。
どれもこれも、皆地に伏してピクリともしない。
業火に包まれていると言うのにだ。
目を凝らしていると、教会の奥に探していたものを見つけてしまった。
今朝まで元気に笑っていた、家族の、妹の姿を。
「ミヤっ!!!!」
教会に飛び込もうとした俺の前に一人の巨人が立ち塞がった。
巨人は何も言わず腕を振り上げる。
俺は咄嗟に飛び退き、振り落とされる拳を避けた。
「ほぉ?理性は残っているようだ。お前、行方不明になってた片割れの餓鬼だな?はぁ。お前みたいな子供が敵である事が悔やまれるな。」
「そこをどけよ!!邪魔するな!」
「そのまま飛び込んでくれるなら構いやしねぇが。ありゃ、皆死んでるぞ?」
「なっ!?そんな、事━━━」
「死んでるよ。俺達が殺したんだから。嘘じゃねぇさ。皆、皆、殺した。まっ、どいつもこいつも苦しませてねぇから安心しな。」
巨人の声は子供に言い聞かせるように穏やかだった。
地獄のようなこの場所で、まるで教師のように。
「お前も苦しませねぇから安心しろ。サクッと殺してやるから。だから━━━」
「ふざけんなよ!!」
何を安心しろと言うんだ。
今から殺すと言われて。
目の前のこいつは、何を考えているんだ。
「そう言って、ミヤを殺したのか!!母さんを親父を、皆を!!ふざけんなよ!!なんの権利があってこんな事をするんだよ!神様にでもなったつもりか!!」
俺は目の前にいる巨人を睨み付ける。
「苦しませなかったからなんだ!!そんな事で、許されると思ってんのか!!人殺しが!!なんで、お前みたいな、自分でやった事に言い訳するような奴に、なんで殺されなきゃいけないんだ!!」
野盗のがまだマシだ。
奴等は確かにクズだ、どうしようもない程に。
言い訳は息をするように言うし、他人に罪を被せる事も平気でする。
だけれど、こんな事は言わない。
奪っておいて、殺しておいて。
まるで自分達が聖者であるかの物言い。
それが救いであるかのような。
「お前に殺されたミヤは笑ってたのか!!お前みたいなクソ野郎に殺すと言われて、嬉しそうに笑ったのか!!!そんな訳ないだろ!ミヤは我が儘で、短気で、でも甘えん坊で、寂しがり屋で、いつも俺の後ばっかり追いかけてきて!!そんなミヤが笑う訳無いんだよ!死ぬなんて考えるのも怖がったミヤが、笑う訳絶体に無いんだよ!!」
「━━━ちっ。うるせぇ餓鬼だ。もう黙っとけ!!」
巨人の足が俺の腹部にめり込む。
鈍い音が鳴り激痛が襲ってくると同時に体が浮き上がった。
目に映る風景が流れ、背中に衝撃が走る。
蹴られた衝撃から地面を何度も転がり、気を失いかける。
やっとの事で止まり息をつこうとしたが、巨人の豪腕が襲い再び体が吹き飛ばされる。
「餓鬼が!折角、苦しませずに殺してやろうってのに、ゴチャゴチャほざきやがってよ。てめぇは楽には殺さねぇぞ糞餓鬼っ!!」
そう言って、地面に転がる俺に巨人は腕を振り上げた。
薄れいく意識でそれを見上げていた俺は、恐らく最後になるであろう言葉を言ってやった。
「言ってろ。人殺しのクズ野郎。」
「くっそ餓鬼がぁ!!」
あぁ、死んだな。
そう思って、俺は目を閉じた。
司祭様の教えでは、死んだ善人の魂は精霊様に導かれ楽園へと誘われると言う。ミヤは少し我が儘だったが、根は良い子だ。きっと楽園に導かれている筈だ。
俺も何か悪い事をした訳でも無いから、きっとミヤと同じ場所に行けるだろう。
ミヤに会ったら何を言おうか。
きっとまた、我が儘を言うに違いない。
でも怒るのは止めてやろう。
沢山怖い思いをした筈だ。
暫くは沢山我が儘を聞いて甘えさせてやろう。
親父も母さんにも言わなくちゃな。
ミヤを怒らないように━━━━━
ガァン。
大きな音が鳴り響いた。
だが、それは降り下ろされた巨人の拳が俺を捉えた音では無い。
もっと別の何かだ。
重い瞼を開き目の前ある物を確認する。
そこに見えたのは、よく知る少女の姿だった。
「クロエ?」
俺が声を掛けると、少女は不思議そうな表情で一度首を傾げた。
だが、直ぐに表情を柔らかい物に変える。
場違いな程、柔らかい笑顔。
「安心しろ。もう大丈夫だ。」
そう言って俺の頭を撫でると、少女は視線を巨人に向けた。
「このデカブツは、俺がぶっ飛ばしてやる。」
その声を最後に、俺の意識は闇に溶けていった。




