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召喚士されし者 98・魔導師の答え

どうも、どうも。

ハァイ!バーナビ・・・じゃなくて、えんたです。

読んでくださる皆様に感謝御礼でごぜぇます。


今回はユーキさんだけで突っ走りました。

なんてったってアイド━━、じゃなくて主人公ですからね。

では 注)今回オマケなし

 ステラルギアに保護と言う名の拘束を受けてから暫く。

 白い空間でひたすら文字が羅列されるモニターを眺め、跳んだり跳ねたりするのを感じながら、遠距離攻撃する道具を聞かれたり、訳分からん衝撃にぐわんぐわん揺らされて気持ち悪くなったり、腰とか首とか痛くなったりして大変な思いをした。


 そうして訳分からんまま事は進み、ステラルギアが電池切れで消え去り漸く解き放たれた時には、眼下にボロボロになったアルベルトみたいな奴がいた。


 アルベルト、と断言出来ない理由はその姿に問題があった。

 先程まで赤いローブを纏ったいけすかない眼鏡野郎だったと言うのに、もう、なんて言うか、人には見えなかったのだ。

 手はでかいし、足も変だし、鱗とか翼とか生えちゃってて、一目で人じゃないなって、なったのだ。


 それでも、俺がこの謎生物をアルベルトだと思ったのは、僅かに聞き覚えがあった錆びれて声と、辛うじてその体に張り付いていた赤いローブだった物のきれ端のお陰だ。


 俺はステラルギアに対するぼやきを口にしながら、凝り固まった体を解す。特に首と腰がきつかった。ボキッつった。


 すると、俺に気づいたアルベルトが俺に声を掛けてきた。

 その目に宿っている光は、先程の物とは違っていた。

 なんて言うか、理解出来ない物を見る目だった気がする。


 どうして、邪魔をするのか?


 面白い事を聞いてくる。

 そもそも、最初に手を出してきたのはアルベルトの方だ。

 俺はその喧嘩を買っただけに過ぎない。


 だが、それでも、答える必要があるなら。

 これしか無いだろう。


「ムカッ腹が立ったからだよ、アルベルト。」


 腹がたった。

 それが、俺がここにいる理由だ。


 俺はこの世界に来てから色々な事を考えた。

 どうやって生きるだとか、何をするとか、トイレどうやるのとか、お風呂はどうなのとか、自分の事を俺と言うか私と言うかいっそあちきと言ってしまうかとか。

 まぁ、色々な事を考えた。


 そしてその中には当然、手にした力をどうするのか、と言う事が含まれた。


 俺が手にした力は、間違いなく強大だ。

 それは野盗共を皆殺しにしてしまった事や、この国の騎士と呼ばれる存在と簡単に闘えてしまった事から、普通よりはかなり上に位置する物なのは分かった。


 そんな力どうやって扱えば言いのか。

 とても悩んだ。


 使わない、なんて事は選べない。

 この世界は俺が知っているような平和な所では無い。

 魔物は出るし、野盗は出るし、法整備もまだまだ不十分で悪党にも事欠かない世界だ。


 それに加えて、王政なんて言う情勢下だ。

 一部の貴族やら権力者がやたら滅多ら強い世界で、なんの後ろ楯もない子供が平穏無事に生きられる訳が無い。


 自分で言うのもなんだが、今の俺は可愛い部類に入ってしまう。十人が十人振り返る美人さんだ。

 何処かの心優しいイケメンのボンボンに拾って貰えればいいが、いいとこ油ぎったロリコン趣味のおっさんの妾とか、異常性癖者の玩具にされるのが関の山だ。

 まっぴらごめんである。


 散々悩んだ結果、俺は好き勝手にやる事に決めた。

 なんでも思った通りにやると。


 そう、初めてシェイリアの頼みを引き受けた時の様に。


 この召喚術と言う俺の力は相当に強力だ。

 一度行使してしまえば、俺の気持ちや結果の善し悪しに関わらず、周りに与える影響は決して少なくない。


 そして、そこから生まれる結果は、毎回が毎回納得のいく物にはならないだろう。

 誤って誰かを傷つけるかもしれないし、壊してしまうかもしれない。殺してしまう事だってあるだろう。俺のほんの些細な命令ミスや行動で、それは簡単に起きてしまう。


 だから、決めたのだ。

 誰かを助けるのも、誰かを傷つけるのも、俺の身勝手な理由で自分勝手に行うし決めると。


 その代わり、そこから生まれる結果だけは、俺がちゃんと受け止めようと思ったのだ。後悔するのも一人でするし、誰かに恨まれるのだって感謝されるのだって、俺一人でいいのだ。


 まぁ、だからと言って、やってきた事の全部の責任負うだとか償うだとか、そんな出来もしない事を言うつもりはさらさら無い。人間だもの、失敗は誰にでもある。いちいち全部に付き合っていたらキリが無いし、全部に付き合える程万能な神様でもない。そんなもん投げっぱなしジャーマンだ。


 まぁ、つまりだ。

 俺が言いたい事は一つ。


 俺の物で、勝手するな。

 と言う事だけだ。


 俺の意思で俺の力が、誰かを傷つけたのならば納得出来るし、そこから生まれる結果も受け止めよう。

 けれど、俺の力が俺の意思とはまったく違う、欠片すらも通っていない所で、何か傷つけるのも何かを産み出すのも、どうしても納得出来ないし我慢ならないのだ。

 それだけは許容が出来ないのだ。


 だから、今回の件に関して俺が許容出来る落とし所はただ一つ。

 俺の魔力を勝手に使った魔術を止める事、それだけだ。

 後、二三回ぶん殴るかも知れないが・・・・。


 けれど、アルベルトはこの条件を飲み込まない。

 多分、今起きている事は全部こいつが━━━━


「私は」


 眼下に見下ろしていたアルベルトが、掠れるような錆びた声を発した。あまりに急にあげられた声で、思わず変な声は上げそうになったが、なんとか出さずに済んだ。危ない、危ない。


「私は、かつて、過ちを犯した。これは贖罪、なんだ。世界から、彼女を、シースリアを奪ってしまった、私の。誰よりも、英雄に相応しい、女性だったんだ。」

「・・・・む?」


 シースリアって誰よ?

 彼女(ガールフレルド)か、おい?


「誰よりも、優しくて、暖かった。陽だまりのような笑顔が、見るものを、心から癒した。誰よりも正しくて、誰よりも真っ直ぐだった。世界に必要な、世界に愛されるべき、人だったんだ。なのに、死なせてしまった。私が、死なせてしまったんだ。」


 アルベルトの視線は震える自分の掌に向いた。


「━━━側にいたんだ。━━━誰よりも側に。━━━助けられたんだ。━━━私が、手を伸ばしてさえいれば。━━━救われた筈なんだ。━━━今も、きっと、ここで、笑っていてくれた筈なんだ。━━━私が、殺したんだ。━━━死ぬべきは、私だったんだ。」


 歪になった掌が、ギュッと握り込まれた。

 血が滴る程に、強く。


「だから、私は精算しなければいけない。私の命をもって。彼女を、シースリアを、世界に━━━」




「どんだけ好きなんだよ。ちょっときもいわ。」


 アルベルトの動きが止まった。


 ・・・あれ、なんだ、悪い事言ったような気がする。

 謝るつもりはさらさら無いが。


「君は、何を・・・・?」


 なんだ、そのキョトンとした面。

 まじか、まじなのか、こいつ。


「・・・・いや、もう、気持ち悪い程大好きだろ。そのシースリアとかって言う人の事。世界がどうたらって言ってるけど、要はお前が会いたいだけだろ。失恋何時まで引きずってんだよ。いい年こいて。」

「違う。私はただ、生きるべきは、彼女の方が相応しいと━━」

「んな事言っても死んだのはその人で、生き残ったのはお前だろ?なのに、何してんの?頭大丈夫か?」

「何を━━」

「お前、何の為に何をしようとしてるのか、ちゃんと分かってるか?言っとくけどそれな、お前の気持ちしかねぇぞ。お前が会いたくて、お前が寂しいから、彼女に生き返って欲しいんだろ?なんか違うか?」


 今度はウンともスンとも言わなくなったアルベルト。


「彼女がお前に頼んだのか?生き返らせてって。世界に頼まれたのか?必要だって。違うだろ。お前だろ。まぁ、もしかしたら、他にも何人かいるかも知れないけどな?家族とか、友達とか。でもな、その為に人殺しまくって、俺の魔力まで利用して、事をやらかしたのは、見た感じ聞いた感じお前だけだろーが。アルベルト。」


 正直、ここまでされると気持ち悪い事この上無いが、少しだけこいつにこれだけ思われるシースリアって人が羨ましく思う。

 本当に少しだけだが。

 ぼっちだった前世では、泣いてくれる人がいるのかすら怪しかったからな、俺は。


「まぁ、なんだ。月並みだけど、これだけは言っとくぞ。」


 でもそんな俺だから、言える事がある。死んだ事ある俺だからこそ言える事だ。


「そんな事、彼女は望んでない。」


 これは勘になってしまうが、多分そうだろう。

 こんなに思われている奴だ。相当な性悪でもなければ、いい奴に決まってる。お人好しとかの部類の人間だと思う。


「おま、お前に、何が解る!お前なんかに、彼女の、何がっ!!」


 アルベルトは激昂し、瓦礫の山を駆け上がってきた。

 振り上げた右腕に僅かに魔力を纏わせて。


 その姿は、語るよりも何よりもアルベルトの心を物語っていた。

 アルベルトは気づいていた筈だ。望んだ人物が、何を思い何をする人なのかを。

 誰よりも側にいた筈なのだから、アルベルトが知らない訳が無い。だからこれは、アルベルトが望んだ事だ。

 そして、その理由も、今はっきりした。


「彼女の事なんてなんも知らねぇよ、アホが!テキトーだ、テキトー!でも、どうしてロイドが止めてくれって言ったのかは、漸く分かった気がする。こんなの報われねぇよな!犠牲になった連中も、お前が生き返らせたいシースリアって人も!」


 俺はなけなしの魔力を右腕に込め、力一杯引き絞った。


「アルベルト!お前もよ!!」


 ガツ、と俺の右腕とアルベルトの右腕が交差する。


 ━━━━拳がめり込んだのはアルベルトだった。


 先に届く筈だったアルベルトの拳は僅かに頭を掠めるだけに終わり、代わりに届いた俺の拳はアルベルトの顔面に深くめり込んだ。


 瓦礫を転げ落ちていくアルベルトを見下ろしてながら、俺は心から溢れるそれを出さずに入られなかった。


「世界だとかなんだとか、贖罪がなんだとか、ごちゃごちゃ煩いんだよ。ここまでやっといて何ほざいてやがる。お前は、その人に許して欲しかっただけだろうが!助けられなかった事をよ!馬鹿が!」


 本当にこいつは馬鹿だ。

 シースリアって人の事が、好きで好きで、どうしようもないくらい好きな癖に。

 生き返らせたい理由が、許して欲しいからだなんて。

 完全にふざけてやがる。


「そこは、お前!会いたいからで良いだろうがよ!!」


 その言葉を吐いた時、頬から何かが流れ落ちた。

 冷たいのにどこか熱い、何かだ。


 別に同情した訳では無いし、感情移入した訳でも無い。

 まして、沢山の無関係な人間を犠牲にたった一人を生き返らせようとする気持ちに同調した訳でも無い。そもそも付き合いなんて、ほんの一時だけの奴だ。思い入れだってそんなに無い。


 けれど、こいつを知って聞いて、どうしようもなく胸が痛くなった。

 零れたそれは、きっと理屈を超えて出たものなんだろう。


 瓦礫の上に倒れ込んだアルベルトは、俺の言葉に頬を吊り上げる。


「━━━それでは、駄目なんだ。彼女は、それを許さない。そう言う、人だったんた。彼女は。でも、そうだな。それだけで、良かったな。私は、もう一度彼女に・・・・・・会いたかったんだ。」


 アルベルトの頬から涙が零れた。

 赤い、血のような涙だ。


「笑っていて欲しかった。私は英雄になんて、成りたくなかった。ただ、彼女の側にいられれば、それで良かった。それだけだったのに。どうして、出来なかったんだろうな・・・・。」

「知るか!・・・時間はあるんだ。これから、しこまたま考えろ。あ、そうだ、言い訳の一つ二つ聞かせろよ。殴ってやる。」

「時間か・・・・・。」


 グラッ。

 俺の視界が急に揺れた。

 そして、それと同時に意識が遠くなり片膝が地面についてしまった。


「おっ!?な、んだ、これ?」


 視界の端に立ち上がるアルベルトの姿が映る。


「生憎、時間は無い。ユーキ。もう、オラトリオが終わってしまうからな。」

「何、を、言ってんだ。まだ、お前!?」


 立ち上がろうと足に力を入れるが、ピクリともしない。

 それどころか、俺の体はどんどん地面に近づいて行ってしまう。


「最後に勝ったのは、私だったな。私はね、魔術師ではなく魔導師なのだよ。」

「━━はぁ?」

「魔導師とは、魔法を極め魔術をも極めた者に与えられる称号なのだ。私の封印魔法は格別だろう?」


 魔法?魔術とは似て非なる物、だなんて聞いた事はあるけど・・・これが。 て言うか、封印って何をしたんだよ。


「魔法は強い意思により発言する物。彼女が死んでから、すっかり扱えない代物になっていたのだがね。それが、今になってか・・・・ふふ。」

「アル、ベルト!」


 アルベルトは動けない俺に背を向け歩き出した。

 その歩みに一切の迷いが見られない。


「後戻りは出来ない。ここまでやったんだ。最後くらい、意地を通して見せるさ、私も男だからね。」

「言った、ろ!それはっ!」



「私が望んでいる。他の誰でもない、私がだ。君の言うとおりなのかも知れない。この感情がそうだと言うならば、私はきっと、彼女を好きだった。そして、それは今も変わらない。もう、会えなくていい。許されなくて構わない。ここからは、私の私だけの我儘だ。犠牲の上に成り立つ生を、彼女は許さないだろう。彼女を思えば止めるべきなのだろう。だが、それでも、私は彼女に━━━」


 アルベルトの足元に魔方陣が現れ、光輝き出す。

 そして、その輝きに呼応するように、アルベルトの体が光に包まれていった。



「━━生きていて欲しいんだ。」



 それは鮮やかな光の羽だった。

 光を纏ったアルベルトは、足元から黄金に光る羽になり、花びらのように散っていった。


 幻想的な光景に包まれながら、アルベルトの表情は穏やかな物には見えた。見た事も無いくらい、優しげで憑き物が落ちたような、そんな顔だ。



 俺は消えいく意識をなんとか繋ぎ止めながら、その光景を目に焼きつけた。



 それは、何処までも優しく、太陽のように暖かで、踊るように光が舞う、奇跡のような最後の魔術だった。


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