召喚士されし者 9・ユーキ町を立つ
トンカントンカン、小気味よい音がグローリの町に響く。
更地とかしたグローリの町に新居が立ち始めた今日この頃。
俺は町の人に見送られ旅立ちの時を迎えていた。
「ユーキ様!参りましょう!」
そういきり立つシェイリアを供に。
あれから一月がたった。
町の復興は召喚獣達のおかげでかなりのペースで進められた。
町の周囲に柵を作り、最低限の数の家を新設し、自衛の為に武器も用意した。
なかでも武器の製作には一番情熱を注いだ。
ムゥ様のだす特殊糸は効果もさる事ながら、強度も自由自在に変えられる優れ物なのだ。
俺はこの糸を使い、粗悪な槍や剣を特殊効果のある硬質な糸でコーティングしインスタント魔剣魔槍を量産した。マヒや睡魔といった効果を付与した特殊武器だ。
致死性の高い毒魔剣も作ってみたが、威力がヤバかったのでハンブル老の自宅に封印させてもらっている。
武器ではないのだが他にも、マヒ効果をもつ捕獲ネット、硬質な糸で編んだチェインメイル、鋼の強度をもつ糸の荒縄etc
とにかく実験もかねて作りまくった。
町の復興を助けながら、俺は自分のこれからについて考えていた。
町に残り恩人として崇め奉られながら生活するのも悪くない。
召喚獣がいる限り、何をせずとも自堕落に生きられるだろし。
しかし、せっかくの異世界。しかも魔力なんて不可思議な力や魔物なんて化物がいる世界だ。
それを知らずに人生終えるなんて勿体ない。
まぁ俺も、召喚士の才能がなければこんな事は思わなかっただろう。安全に楽に行きられるに越したことはないのだから。
何はともあれ俺はグローリの町を立つことにした。
決めてからは早かった。
町の重鎮たるハンブル老に町を立つことを告げると意外と反対されなかった。むしろ貴重な時間を自分達に割いて尽力してくれたことを深く感謝された。
旅に必要な衣服やバックをムゥの糸で拵え、ハンブル老の協力で簡易な地図を作成した。
最後に、少量の食料を町の人々に譲りうけ、旅支度を済ませた俺は町の出口へと向かった。
町の出口には、忙しい中見送りに来てくれた町の人達がいた。
その中にシェイリアの姿がないことに気づいた。この町に来てから最も関わりのあった彼女の顔がないことに、少しだけ寂しさを感じる。
「ユーキ様、どうかお達者で。」
「町を助けて下さったご恩、忘れません!」
「ユーキ様の御武運をお祈りしております。」
町の人達がそれぞれ別れの言葉を告げる。
一段落したところで俺はハンブル老に問いかける。
「シェイリアは来てないのか?」
「えぇ。朝から姿が見えませんで、どこにいるのやら・・。」
「そうか・・・。」
色々言いたい事もあったんだけどな、仕方ない。
俺は町の外へと足を踏み出す。
「ユーキ様!」
大きな声で呼び止められた俺は足を止めて振り返る。
そこにはよく見知った顔があった。
大きな荷を背負い息を切らせたシェイリアだった。
「シェイリア!」
俺が手を振ると嬉しそうに近づいてきた。
そして、ガッとその手を両手で掴むとズイッと顔寄せてきた。
「ユーキ様!私をお供させて下さい!」
「へ?」
「迷惑はお掛けしません、お願いします!」
そう懇願するシェイリアにハンブル老が重い口を開く。
「シェイリアよ。やはり気持ちは変わらぬか?」
「はい、ハンブル老。私はユーキ様と行きます。」
行きますではない。
「あの日私は死にました。もうこの手に残る物は何一つありません。残りの人生、大恩人たるユーキ様の為に使いたいのです。」
それを聞くと、諦めたように首を横に振るハンブル老。
再びシェイリアの両手に力が込められる。
「ユーキ様!お願いします。旅の供になることお許し下さい!決してご迷惑はお掛けしません!」
ぐいぐい迫るシェイリアに、俺は苦し紛れに言葉を発する。
「だ、だめだ、ダメダメ!そんな理由で供にするかよ。もっとこう、知らない世界が見たい!とか冒険心溢れる感じのプラス思考的な理由でないと」
「知らない世界が見たいです、冒険したいです。はいっ!言いましたよ、思いましたよ、行きましょう!」
「思ってないだろう!」
シェイリアの真剣な目が迫る。少女が迫るにつれ鼻腔をくすぐる女子の臭いが強まる。
ぐはっ。駄目だ鼻血でそうだ。
身体は女そのものだってのに、心が着いてこない今日この頃。
柔らかい手が触れるたび、艶やかな肌を目にするたび、マシュマロのような乳房が揺れるたび、俺の在るはずのないソレは高反応を示し熱いリビドーを発する。
駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ!逃げちゃ駄目だ!
絶ちきるのだ、甘い誘惑を!
つか、危ない旅に女の子同伴とか出来るか!夢だけど、男のロマンだけど!
ファンタジーな世界で女の子同伴で冒険とか夢ですけど、ラブラブしたいですけど!
でも、駄目だ!駄目駄目なんだよ!
危ないしことは可愛い子にはさせちゃいけんとですよ。
ポヨンと揺れる乳房が俺の視線を奪った瞬間、俺の理性は塵になって亜音速で飛び去った。
「しょしょうがないな、勝手にしな。」
「ユーキ様!!」
嬉しそうに俺にしがみつくシェイリア。俺は乳房の柔らかさを顔で堪能しつつ遠い空に思いを馳せる。
「おっぱいっていいなぁ」
小さく呟いたそれは誰の耳にもとまらず空に消えていった。




