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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第一章】悪魔を狙う天使の使徒
9/155

(二)ゼノリス:目覚めてみたら

 ────深くて冷たい闇の中で横たわっている。


 どうやら夢の中にいるようだ。ぼんやりとした意識の中でなんとなく自覚する。


「(何を、してたんだっけ……?)」


 思い出そうとすると、不意に闇の中から何かが現れた。煌々と光る赤い目に、大きく裂けた口、暗闇の中で怪しく煌めく鋭い牙。


 ……見たことも無いほど大きな蛇だ。


 ギョッとして身をすくめると、大蛇は俺の周囲をグルリと回り始めた。すると、頭の奥から「ゴォーンゴォーン……」と重苦しい鐘の音が鳴り響き始める。

 同時に、軽い目眩とズキリとする頭痛を感じて思わず額に手を当てる。

 大蛇はシュルシュルと音を立てて細くて長い舌を蠢かしながら、俺の周囲をゆっくりと回っては、時折、顔を覗きこんでくる。赤く光る怪しげな視線が俺に注がれているこの状況に、変な動悸を感じずにはいられない。

 今、コイツに襲われでもしたらひとたまりも無いだろう。恐怖に血の気が引く思いだが、蛇に睨まれた蛙の如く、身じろぎひとつできなかった。


 しばらくして、大蛇は俺から視線を逸らせると、音もなく闇へと姿を消した。

 大蛇が去ってほどなく、頭の中で鳴り響いていた重苦しい鐘の音や頭痛も遠のいていった。


「(……なんだったんだ?)」


 ホッと胸を撫で下ろしながらも、湧き上がる疑問が抑えきれない。

 今、自分が置かれている状況がさっぱりわからない。悪い夢ならさっさと覚めてほしい。とにかく俺は急いでここから離れなければ……。


「(ん?……なんで、急いでここから離れる必要が?)」


 なぜそう思ったのかがわからない。だが、確かにそうしなければならない理由があったはずだ。

 ぼんやりする頭を巡らせて、今日の自分の行動を思い起こしてみる。


「(俺は確か、重い荷物を背負って家を出た。まだ昼過ぎのことだ。そして電車に乗り、この町へとやってきて、駅を出て……坂道を、苦しい思いをしながら歩いて……)」


 バス停脇の自販機のことを思い出したその時だった。再び頭の中で、あの重苦しい鐘が響き始めた。


「(……またか!?)」


 大蛇だ。いつの間にか音もなく、あの大蛇が俺のそばにやって来ていた。

 押し寄せる頭痛と目眩に抗い、無理矢理にでも記憶をたぐり寄せる。


「(自販機のところで……! たしか自販機のところで……)」


 ────いったい、何が起こったんだ……?


 全く思い出せない。頭の中を掻き乱す重苦しい鐘の音に邪魔されて、集中の糸がフツリと切れる。


「くそっ! 何でこんな事に……!」


 苦悶する俺を嘲笑うかのように、大蛇がシュルシュルと細長い舌を蠢かす。グルリと俺の周囲を回っては、顔を覗きこんでくる。

 無理にでも思い出そうものなら、今にも噛み付いて飲み込んでやると言わんばかりに大口を開けている。


 まるで、記憶の扉への侵入を強く拒んでいるかのようだ────。



 ◆



「こんなとこで寝てんじゃねーっ、つーの!」


 突然、どこからか男の声がしたかと思うと、横腹あたりに激痛が走った。


「痛ーーーーーーっ!!!」


 文字通り、俺は悲鳴を上げて飛び起きた。一斉に襲いかかってくる太陽光の眩しさと、蹴り上げられた横腹の痛みに混乱して、俺は二転三転と転げ回る。


「おう、生きてやがったか。ハハッ、元気なもんだ」


 蹴り上げられた横腹を抑えながら、痛みを堪えて声のする方を見上げる。と、何かに片目の視界を遮られているのに気づいた。


「……なんだ、これ?」


 視界を遮るそれに手を当てる。紙切れのような手触りだ。「ぺりっ」と剥がして、まじまじと見つめる。

 御札、とでも言うのだろうか? 何か紋様が記されていたようだが、消しゴムで乱暴に消されたかのように、かすれがすれで薄っすらと跡を残しているだけになっている。

 まだ光に馴染めない両目を瞬かせながら、辺りを見渡す。さっきまでの暗闇が支配していた空間じゃない。勾配を巻くように続く坂道の脇に、俺はいた。

 児童公園と土手の上の軒並みが目に映る。


 ここは……? 俺は確か、重い荷物と一緒に自販機の前に……?


「おい、ボロ雑巾。ちょっと聞きてーんだが」


 不意に、俺の鼻先すぐ近くでキラリと光るものがピタリと止まる。それが剣先であることに気づいて、思わず「うわっ」と声をあげて後ずさった。



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