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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第一章】悪魔を狙う天使の使徒
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(一)ミストの魔物:うおおおおおおおおお!


「(段差があるなんて聞いてなかったな……)」


 頬に柔らかくて暖かい感触を感じながら、閉じた目を少し見開く。転がり落ちた衝撃で、全身をチリチリとした痛みが包んでいた。どうやら低木の茂みの中にいるようだ。

 茂みの向こう側、すぐ近くで、足音と臭いを嗅ぐような鼻息が行き来している。


「(……頼む……気づかないでくれ……)」


 心の奥でそう念じながら、柔らかな膨らみに顔を埋めてジッと息を潜める。


 ……どれほどの時間が過ぎただろうか。言い様のないくらいの長さに感じた。足音と鼻息は、少しずつ遠ざかって行き、やがてあたりは静寂に包まれた。


 ゆっくりと、頭をもたげてみる。低木の枝に頭が当たり、ガサリと小さく葉音を立ててしまう。ビクッと身をすくめるが、あたりはシーンと静まり返ったままだった。ホッとして溜息をつく。


「もしかして……上手くやり過ごせたか、な?……」

「……わかりません」


 下から声が聞こえたことに驚いて、茂みの陰りで我が目を疑う。どうしてこうなったのかわからないが、俺の身体の下には、少女の身体が横たわっていた。

 薄らと目を開き、俺の方を見ている。薄桃色の形の良い唇がわずかに開いて、荒い吐息を小さく吐き出している。その呼吸に合わせて上下する少女の胸が、思いの外、豊かなボリュームであることに気づく。


 ……どおりで、地面が柔らかいわけだ……。


 しかも、まさか……さっき、俺が顔を埋めていたのは……。ドギマギして、少女の胸をまじまじと見つめてしまう。


「あの……」

「え?」

「少し……重いです」


 と言って、少女は恥ずかしそうに視線を横に逸らせた。


「ご、ごめん!!!!」


 我に返ると同時、思わず大声を上げて身を跳ね上げる。低木の枝が揺れ動いて大きな葉音を掻き鳴らす。言い様のない緊張が二人の間を駆け抜けて、身を固くするしか無かった。


「……大丈夫みたいですね」


 しばらくして、少女が小さく囁いた。立ち込める霧と静寂が、あたりを支配している。我ながら酷いリアクションだったが、幸い、大事には至らなかったようだ。少女の横にゆっくりと身をかがめると、


「どうやらセーフ……やれやれ、だね……」


 と、小声で囁いた。お互い、顔を見合わせてホッと一息つく。その間に、精霊プリズムが2つ、寄り添い合うようにフワフワと漂っていた。


「あの……精霊魔術はお使いになれますか?」

「あ……コイツね、ちょっと気難しいみたいで。キミのは、マスターの言うことをよく聞く良いヤツみたいだね」

「いいえ、わたしの精霊プリズムもかなりの頑固者ですよ」


 思わず、二人でクスクス笑い合う。すぐに二人して「しぃ〜」のポーズを取ると、余計に笑いが込み上げてきた。今のような状況でなければ、この子とは楽しい時間が過ごせそうだ。



「少し移動しましょう」


 少女は身を起こすと、慎重にあたりを見渡し始める。


「どうして? ここにジッとしていれば安全じゃない?」


 ミストが発生してからだいぶ時間が経ったはずだ。そろそろ救援が────『魔術犯罪対策部隊ゼノリス』がやってきてもおかしくない頃だろう。


「この茂みは道路まで続いているので、そこまで出てみる方が状況を把握しやすいと思います。万が一、魔物が近くにいたとしても、茂みから出ないように注意しておけば、先ほどのようにやり過ごせるはずです」


 俺は少し逡巡する。ここまで、彼女に従ったからこそ、今の状況があるわけだから……。


「行こう。キミに任せるよ」


 俺の言葉に、少女は四つん這いで進み始めた。



 ◆



 俺の目の前で形の良いお尻が左右に揺れている。少女の短めのスカートの裾から、チラチラと……その……白い下着が見え隠れする。


「(こ、こんな時に、何考えてんだ!)」


 幾度と無く視線を逸らせて気にすまいとしてみるが、気がつけば視線が少女のお尻を捉えている。思わず、ゴクリと生唾を飲み込む。ホントに、これだけラッキーな……いや、こんなピンチは今までに経験が無い! ちょっと……頭がどうかなりそうだ……。


「……うわっぷ!」


 突然、少女が動きを止める。そのおかげ……いや、そのせいで! 俺は少女のお尻に顔を埋めざるを得なかった! そうだ不可抗力だ、事故なんだ!

 俺の顔が当たった瞬間、ビクンと少女が身体を震わせる。暖かくって張りの良い肌の感触と、洗剤のフワッとした良い匂いと少女の……その……肌の匂いが、俺の鼻孔を心地良くくすぐった。


「(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)」


 心臓がバクバクと音を立てて、全身が総毛立つ。このままでいたい欲求を無理矢理に抑えこみ、わずかに残った理性を全力で引き上げて、少女のお尻からそーっと顔を離す。

 真っ赤に頬を染めた少女の困ったような視線が、俺を見据えていた。


「……気を付けてください」


 と唇が動いた気がしたので、俺は目を閉じ顔の前に手を当てて、「ごめん」とジェスチャーで返した。決して「ありがたい」って拝んだわけじゃない!


 少女は視線を前に戻すと、そのまましばらくジッとして動かない。どうやら低木の間から道路の様子を伺っているようだ。俺も耳をそばだてる。


 すると、俺の耳に男たちの話し声が聞こえてきた────。




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