落ちこぼれ精霊魔術師のボヤキ
「こんな風に、魔法が使えたらな……」
呟く俺の目の前で、『アンナ様』の繰り出した大魔法『ギガグラヴィティボム』がモニター画面いっぱいに炸裂する。敵対プレイヤーもろとも巨大モンスターを薙ぎ倒し、俺の評価ポイントがグングン伸びていった。
「『くっそー、またやられたわ。この「日向ボルト」って、スレでもたまに名前が出るSランクだろ?』」
「『そういやそうだわ。てか、「牙岩剣山」からあのタイミングで「ギガグラヴィティボム」ってあり得なくね?』」
「『わっかんねぇけど、硬直キャンセルとかあんじゃねえかな……油断しちゃったよな』」
「『おい、お前らwww回線オンなってんぞwww相手に聞こえてるわwww』」
「『やっべwwwwww』」
「『ごめんなwwwボルトくんwwwまた対戦してくれwwwww』」
対戦を終えて、相手チームのボヤキがスピーカー越しに聞こえてくる。こっちに聞こえてることに気づいたか、慌てて向こうの回線がオフ表示に切り替わった。
こういうことはたまにある。対戦中は味方チームの声しか聞こえないが、対戦が終了すると、プロフカードを抜き取るまではお互いの声が聞こえるように切り替わる仕組みになっているからだ。
そのことをついつい忘れちゃうんだよな。俺は苦笑しながら、手早く勝利ボーナスやレア素材報酬を確認すると、プロフカードを抜いて筐体を離れた。
「いやー、さすが日向だわ」
「ナイスタイミングだったな、ギガグラヴィティボム。ありゃ逃げらんねーよ」
「いやいや、チームワークの勝利だよ。誘ってくれてありがとね」
筐体を離れると、チームを組んでいた二人から声を掛けられる。二人とはこのゲームセンターで面識がある程度の仲だ。
「こちらこそサンキュー」「またよろしく」と声を掛け合うと、その場で別れた。
「あ、ひゅ、日向くん。終わったばかりのとこ申し訳ないんだけど、連戦お願いしていいかな?」
前の二人と別れた瞬間、並んでいた別の二人に声を掛けられた。
「一人足りない?」
「うん、そうなんだ。良かったら、『薄影』で入ってもらいたいんだけど」
「ああ、もしかして飛竜の素材狙い?」
「うんうん、そうなんだ!」
「おっけー、いいよ」
「わー、やった! サンキュー」
「よろしくね」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
このゲームセンターではすっかり、俺の顔と名前が知られている。俺としても、気軽に誘ってもらえて連戦できるからありがたい話だ。……まあその代わり、懐はどんどん寂しくなっていくけど。
これまでの俺の人生の中で、「ゲームが得意だ」と思ったことなど一度もない。この『モンスタースレイヤーGロワイヤル』に出会うまでは。
ピッタリと相性が合ったとでもいうのか、運命的な出会いだとでもいうか……。
このゲームだけは、なぜかやればやるほど上達した。慣れてくると初めて扱うキャラでもそこそこ戦えたし、今では前衛キャラ、後方支援キャラ、工作部隊、なんでもござれだ。
上手くなると自然と他の人の目にも止まって、知らない人からもこうして誘われる機会が増えていった。そんなだから、腕前も加速度的に上達していく。
もちろん、全国には俺より上手いプレイヤーは五万といるだろう。それでもまあ、地元のこのゲーセンで名が知れたというだけでも、俺にとっては満足だ。
このゲームで繰り出すように、精霊魔術を操れたらな……。現実世界でも、もしかしたら俺はヒーローになれたかもしれない。
チラリと、俺の右肩後ろで漂う『精霊プリズム』に視線を向ける。
『霊鉱石』の一種『グラシエリウム』で作られた透明な三角柱のプリズムに、小さな天使の輪のようなモノが浮かぶ量産型汎用精霊だ。『一億総精霊魔術師計画』の名の下に、この量産型汎用精霊『精霊プリズム』は全国民に配布されている。
だが残念なことに、俺に精霊魔術師の才能は皆無だ。
高校に入学した今に至るまで、学校教育に組み込まれた精霊魔術師育成プログラムを受けてきたが、その才能が開花する気配は微塵もない。せっかく精霊プリズムを与えられても、全く無意味。猫に小判、豚に真珠ってやつだ。
大抵の人は意図通りの精霊魔術を使えないまでも、精霊魔術実技授業で精霊プリズムが精霊魔術の徴候を示したりするものだが……。俺にはその兆候すら無い。
「(精霊魔術師になって魔物や悪魔に立ち向かったなら、富や名声も思いのままの世の中なんだけどなぁ……)」
小遣いの電子マネーの残高を気にしながらも、溜め息混じりにメダルを投入する。そしてもう何度目かの呟きが、ゲーセンの騒音の中で虚しく掻き消されていく。
「ゲームみたいに、精霊魔術が使えたらな────」
読了いただきましてありがとうございます! 是非、本編もどうぞ! ゲームがちょっと得意なだけのナツトくんが、ゲームを魔術書にスーパーヒーローに上り詰めるまでをお楽しみ下さい!