表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート集

七夕ビール

作者: 四季 華

「今日って何の日か知ってる?」

紗良さらの誕生日」

夜の公園で一組の男女がベンチに座って話をしている。二人ともまだ若く、大学生のカップルと見るのが妥当だろう。が、彼らの間に恋愛感情は存在しない。仲のいい幼馴染。それが二人の間柄だった。

「五十パーセント正解。今日は七夕でもあるんだよ」

「知ってるよ。一応お前の誕生日を優先してやったんじゃないか」

紗良の隣に座るしゅうは笑いながら言った。紗良はベンチから腰を上げ、そのままブランコに飛び乗った。

「懐かしいよね。十五年前は、このブランコにどっちが乗るかで秋と喧嘩してたのに」

「誕生日が来たからって、一気に老け込みすぎじゃないか?」

悪戯っぽく言う秋に、紗良は地面にあった石つぶてを彼に投げた。それは曲線を描いて、秋に当たる前に落ちた。

「私ももう二十歳かぁ。何か、早いような、遅いような。秋は二十歳になった時どんな気持ちだった?」

「俺だって二ヶ月前になったばっかりなんだから、そんな変わらないよ。俺もう成人なんだな、って。酒が飲めるぜって感じ」

「秋、私とお酒飲んでくれる?」

「当たり前だろ。何なら今買ってきてもいいぜ」

「じゃあ、買ってきて」

「マジで?」

「うん。何か、飲みたい気分」

「わかったよ、買ってくる」


秋は紗良を公園に残して、近くのコンビニへ駆け足で出かけた。彼はコンビニで缶ビールを二本買って、それを持って公園に戻った。紗良はブランコから降りて、滑り台の上から秋に手を振っていた。

「秋もおいでよ。ここで一緒に飲もう」

秋は幅の狭い滑り台の階段を上った。十五年前は両手で柵を掴んで落ちないように上っていたのに。そこまで考えて、秋は人しれず笑った。紗良のことを老け込んだなんて言えない。

「お待たせ」

「ありがとう」

紗良がプルトップに指をかけて蓋を開けると、プシュと炭酸が抜ける音がして、ビールが指にかかった。

「わ! 秋、缶振ったでしょ!」

「走って来たからな。よし、俺は慎重に開けよう」

「裏切り者!」

「頭脳プレーと言え」

二人は笑って、蓋の開いた缶を打ち鳴らした。

「乾杯」

「乾杯。誕生日おめでとう、紗良」

「ありがと、秋」

ビールを喉へ流すと、独特の苦味が口の中に広がった。

「苦い」

顔をしかめて紗良が言う。

「まだまだ子供だな。これが美味いと思えたら本当の大人なんだよ」

「何、大人ぶっちゃって」

「俺、大人だもん」

二人はひとしきり笑ってビールを飲んだ。中身が半分くらいになった時、不意に真剣な顔をして紗良が言った。

「私ね、今日告白されたんだ、大学の先輩に」

紗良は下を向いて続ける。

「私も先輩のことは好き。だから、告白オーケーしたの。でも……付き合っちゃったら、秋と今みたいに会うこともできなくなっちゃうのかな、と思って。ごめんね、秋」

「おめでとう」

突然の祝いの言葉に、紗良は顔を上げた。そこには、ずっと見続けてきた幼馴染の顔が変わらずあった。

「お前な、謝るなよ。お前は俺の幼馴染。お前が幸せになれば、俺は嬉しい」

「……ありがとう、秋」

「幸せになれよ。悩んだら、俺に相談すればいいから。男心ってのも、女からすると結構難しいからな。俺なら力になれる」

胸を張る秋に、紗良は笑って再びビールを飲んだ。

「やっぱり苦い」

「今日は付き合うぜ」

今日だけは朝まで付き合って欲しい。そんな紗良の心がわかっているかのように、秋は言った。紗良は力強く頷いて、ビールを天高く掲げた。

「二人の幸せに、乾杯!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり、ショートショートですね。 一話で、何行がベストなんだろうか? [一言] ビールって、どうなんでしょうか? うまいと言える日まで頑張ってみようと思います。
[良い点] 締めがきれい 気持ちのいい若者二人 [気になる点] 単なる誤字ですが「手を降る(振る)」という箇所 [一言] ショートショートらしく一つのテーマを気持ちよく読ませていただきました。最後がす…
[良い点] ほのぼのとしていながら、そこはかとなく切なさの残るドラマですね。 二人の、互いへの想いの秘められた部分、本当に望んでいる関係をついつい知りたくなってしまう。 七夕ビールというタイトルが…
2013/07/07 15:13 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ