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幻夜祭
夏のおまつり。
月蝕の間の幻夜祭。
夜の闇の屋根の空の
遠くの山のビルのネオンの
飛行場の光の
公園の森の土の
噴水の音の匂いの
ひとりの秘密の場所の空気の
たゆとう夢ノ中。子供の声であふれ。
木のベンチ。
砂場。
鉄のスベリダイ。
人気のない夜の噴水は水鏡。
祭りの夜の神社の稲荷。
灯りの光の屋台の玩具の人形。
二人の人の兄弟の繋ぐ手、歩く足。
光と闇、生と死、人と物、境界のあやふやな内と外の祭の。
それは、現実のものなのか、
人のこころの生み出すの空想の産物なのか、
闇夜に染まる前の、
夕闇のまどろみのように不完全な。
夏の祭り。
相反する闇と光が入り混じる空間は、何もかもを曖昧にしてしまう。
時として闇は光に擬態し、光は闇に転じる。
何が正で、何が偽か、
何もかもが、交じり合い、もはや解らない。
それは、空に浮かぶ、不安定な、不安定な月。
揺れる、揺れる月の静かすぎる色。
夏のおまつり。
おはやしの音が、聞こえてくる。
夏の祭りが、始まる音。
月の欠ける音。
不思議な不思議な月の陰。
はじまる、祭り。
それは、夏の祭り。