「無能織姫は追放される」――ですが、私は星を織る者ですの。前世の知識で世界最後の織り機を動かしました
「星織りの才無き無能は、この神殿から追放する」
大神官の言葉が、白い柱の連なる大聖堂に冷たく響いた。
私――ステラ・ヴェルフィードは、床に膝をついたまま、その言葉を静かに受け止めた。
膝が冷たい。大理石はいつだって冷たい。この五年、雑巾がけをしてきたから知っている。
(……とうとう言われましたわね。むしろ清々しいくらいですわ)
心の中の私は、驚くほど落ち着いていた。
「顔を上げなさい、ステラ」
声をかけてきたのは、金髪碧眼の――私の婚約者だったユリウス・グラント。神官長候補にして、神殿一の期待の星。
「僕は君を庇い続けてきた。だが、もう限界だ。一度も星を織れない君を、これ以上婚約者として置いておくのは……正直、恥だ」
(庇ってた? 五年間、一度もそんな記憶ありませんけどねぇ)
心の中で、前世の私――大阪で織物工房を切り盛りしていた頃の私が、盛大に舌打ちをした。
「ユリウス様……」
と、甘ったるい声が割り込んでくる。ユリウスの隣にしなだれかかるのは、薔薇色の髪の聖女候補・リィナ・アーシェント。
「ステラさんも、きっとご自分の限界がお分かりだったのでしょう? わたくし、心を痛めておりますの」
(心を痛めてるって言いながら、思いっきり口角上がってますよ、あなた)
「無能な君との婚約は、これをもって破棄する」
ユリウスが衆目の前で高らかに宣言した。周囲の見習いたちがざわめき、憐れみと嘲りの入り混じった視線が私に突き刺さる。
でも――不思議と、何も感じなかった。
なぜなら、私は気づいていたから。
この神殿の連中は、誰一人として『古の織り機』の本当の動かし方を知らないのだ、と。
(才能がないんじゃないの。あんたたちが、機械の使い方を根本から間違えてるだけ。せいぜい祈っていなさいな)
私は静かに立ち上がり、埃だらけのスカートを払った。
「かしこまりました。では、失礼いたしますわ」
取り乱すことも、涙を流すこともなく。
「……なんだ、その態度は。泣いて縋るとでも思ったが、随分と潔いじゃないか」
ユリウスが、拍子抜けしたように眉をひそめた。
「泣く理由がございませんもの。……さようなら。あなたたちが本当に困るのは、これからですのよ」
私は深々と一礼して、五年間過ごした神殿に背を向けた。
背後で、星辰機を祀る奥殿が――ほんの少しだけ、光を失ったことに。
まだ、誰も気づいていなかった。
◇◆◇
追放されたその日のうちに、私は無一文で辺境の街道を歩いていた。
(さすがに、これは詰みかけてますわね……)
財産らしい財産もなく、行くあてもない。神殿育ちの令嬢もどきに、荒野は容赦がなかった。
日が暮れかけた頃、廃鉱山のふもとにぽつんと灯る宿屋を見つけた。
「宿屋兼道具屋 ホーンウッド」
扉を開けると、褐色の肌に赤茶の髪をひっつめた、そばかすの目立つ女性が、太い腕を組んで私を見た。
「なんだい、あんた。ずいぶん薄着じゃないか。神殿のお仕着せだね?」
「……はい。追放されまして」
私が正直に答えると、彼女は一瞬眉を上げ、それから豪快に笑った。
「はっ! いいねぇ、追放。あたしはミラだ。金がないなら皿洗いでもしな。飯と寝床くらいは出してやるよ」
(……なんて、あったかい人。神殿では誰も私を働きぶりで見てくれなかったのに)
その夜、温かいスープをすすりながら、私はミラに廃鉱山のことを尋ねた。
「ミラさん。あの廃鉱山に、古い機械が眠っているという話は本当ですの?」
「ああ、あるよ。朽ちた織り機みたいなガラクタがね。誰も動かせやしないさ」
スプーンを持つ私の手が、止まった。
(……古の織り機。もう一台、あったんですのね)
翌朝。私は暗い坑道の奥で、それを見つけた。
埃と蔦に覆われた、巨大な織り機。星辰機と同じ構造の――だが、確実に『機械』であるそれを。
私は震える指で、経糸の張力調整弁に触れた。
(緩んでる。経糸の張力、全部。……これじゃ動くわけないわ。祈りで動く? 冗談じゃないの)
前世の記憶が、はっきりと蘇る。糸の張力計算。繊維の走り。緯糸を通す呼吸。
私は、この手が何をすべきか、完璧に知っていた。
「――さあ。動かしてさしあげますわ」
◇◆◇
経糸を張り直す。指で弾いて、音で張力を確かめる。
(高い。あと少し緩めて……そう、この音。均一な張力がなければ、まともな布は織れませんのよ)
繊維工学の基礎だ。神殿の連中はこれを『神への祈りの純度』だと思い込んでいた。馬鹿馬鹿しい。
次に、緯糸。ここに――星の魔力を通す。
私は目を閉じ、夜空の運行を思い描いた。かつて何度も見上げた、辺境の満天の星を。
魔力が、糸に流れ込む。
カタン。
カタン、カタン。
数百年沈黙していた古の織り機が、命を得たように動き出した。
「……嘘だろ。数百年動かなかった代物が……!」
背後で、ついてきていたミラが息を呑む。
織り上がっていく布に、無数の光点が――星が、瞬いていた。
【固有スキル〈星辰機構理解〉を獲得しました】
【固有スキル〈魔導織工〉を獲得しました】
目の前に、半透明の文字が浮かぶ。
(やっぱり。才能じゃなかった。機構を理解する者にだけ、この機は応えるのですわ)
織り上がった一枚の布。淡く輝くそれを手に取ると、周囲の空気がふっと澄んだ。魔物の気配が、遠ざかっていく。
「あんた……これ、魔物避けの結界布じゃないか! それも、あたしが見たこともない上物だ!」
ミラが目を見開いて叫んだ。
「ステラ、あんた才能なんかじゃない。夜通し機と格闘してたのはこの目で見てる。これはあんたが手に入れたもんだ」
(……この人、本当に。胸が、じんと熱くなりますわ)
私は涙を堪えて、にっこり笑った。
「ミラさん。私、冒険者ギルドに登録いたしますわ。――この星糸の護符、売れると思いません?」
ミラはにやりと笑って、私の肩を叩いた。
「飛ぶように売れるさ。任せときな。販路はあたしが繋いでやる」
こうして――無能と蔑まれた織姫の、逆転の織物は始まった。
◇◆◇
星糸の護符は、ミラの言葉通り飛ぶように売れた。
魔物避けの結界布、加護の織物、旅人の護符――辺境中から注文が殺到し、私は瞬く間に『伝説の織工』として名を馳せた。
そんなある日、宿屋の扉が、ドン、と重く叩かれた。
入ってきたのは、身の丈二メートルを超える巨躯の男。首筋と腕を覆う深紅の鱗。金色の縦長の瞳。
(りゅ、竜人……! 空気がびりびり震えてますわ)
「貴様が、星織りの職人か」
地を這うような低い声。
「辺境警備将軍、ガルド・ドラクヴェインだ。用件がある」
『赤竜の壁』。その二つ名は、私も聞いたことがあった。一騎当千の武勇を誇る、辺境の守護神。
「な、何用でしょう……ですの」
ガルドは、ぶっきらぼうにテーブルへ大金を置いた。
「毛布を、織ってほしい。星糸の。……最高級のものを」
「毛布、ですの? 護符ではなく?」
「毛布だ」
(やけに真剣な顔……。承りますけれど)
数日後、織り上げた毛布を渡すと――巨大な竜人将軍は、それをそっと頬に寄せ、金色の瞳をふにゃりと細めた。
「……よい。実によい肌触りだ」
(え? 今、めちゃくちゃ幸せそうな顔しましたよね、この将軍)
そう呟いてから、彼はハッと我に返り、慌てて咳払いをした。頬が、鱗の隙間から赤く染まっている。
「こ、これは……戦略物資だ。防寒は兵站の要である。断じて、寝るとき手放せなくなるとか、そういう軟弱な理由ではない」
(言い訳が全部ダダ漏れですけど!? 誰も聞いてませんわよ、そこまで)
偉躯の甘えん坊。私は必死に笑いを堪えた。
「ええ、もちろんですわ。……大事になさってくださいね、戦略物資」
ガルドはぎこちなく毛布を抱えて帰っていった。
その背中を見送りながら、私は思った。
(才能でも肩書きでもなく、私の織ったものそのものを大切にしてくれる人……初めてかもしれませんわね)
◇◆◇
――一方、その頃。神殿では。
「なぜだ……なぜ動かん! 祈りが足りぬのだ! もっとだ、もっと熱心に祈れ!」
ユリウス・グラントは、奥殿の星辰機の前で声を荒げていた。
ステラを追放したあの日から、星辰機は完全に沈黙していた。星の加護は国全体から失われ、各地で魔物が溢れ出し始めていた。
リィナが、苛立たしげに扇を握りしめた。
「ユリウス様、これは下位の者たちの信仰が薄いせいですわ。わたくしのような真の聖女がいるのに動かないなんて、おかしいですもの」
「そうだ……そうに違いない。無能どもが」
二人は、決して認めなかった。
ステラを追放した『途端』に機が止まったという、あまりにも明白な事実を。
星辰機は、祈りでは動かない。
正しい機構を理解し、経糸の張力を魔力で均等化し、緯糸に星を通せる者――たった一人にしか、応えない。
その『たった一人』を、彼らは自らの手で追い出したのだ。
「大神官様! 東の村が魔物に襲われました! 加護布の在庫が尽きております!」
「西の街道も封鎖! 交易が止まっております!」
次々と飛び込む凶報。
「落ち着け! 祈れば加護は戻る! 星は必ず我らに応える!」
ユリウスの空虚な叫びが、誰もいなくなった聖堂に虚しく響いた。
星は、もう応えない。この神殿の、誰にも。
◇◆◇
「――ステラ・ヴェルフィード殿。王家より、正式な救国の要請でございます」
宿屋の前に、煌びやかな王家の紋章を掲げた馬車が停まったのは、それから半月後のことだった。
膝をつく王家の使者。差し出される、金の封蝋の書状。
(まあ。ずいぶんと丁重なこと。あの神殿から、ね)
星の加護を失った王国は、いよいよ崩壊寸前。魔物は王都近郊まで迫り、民は飢えと恐怖に喘いでいる。
「あなただけが、この国を救えるのです。どうか、神殿へお戻りを」
私の脳裏に、あの日の光景が蘇る。膝をついた冷たい床。嘲りの視線。『無能』という言葉。
「――ステラ」
低い声。振り返ると、いつの間にかガルドが立っていた。星糸の毛布を、しっかり小脇に抱えて。
「行くのか。あの、貴様を捨てた場所へ」
「ええ。行きますわ。感情的に喚くためではありません。……きちんと、清算をつけに」
ガルドは金色の瞳でじっと私を見つめ、それから静かに頷いた。
「ならば俺も行く。警備上の……必要性だ」
(また出ましたわね、その言い訳)
「護衛のためだ。断じて、貴様が心配だからとか、そういう理由ではない」
「ふふ。心強いですわ、ガルド様」
ミラが、旅支度を整えた私の肩をぽんと叩いた。
「行っといで。あんたはもう、あの頃のあんたじゃない。……たっぷり言い返してやんな」
私は帳簿と契約書の束を、しっかりと胸に抱いた。
(お待たせしましたわ、皆様。――今度は、私が『提示』する番ですのよ)
◇◆◇
神殿の大聖堂は、かつて私を追放したあの場所だった。
だが今、そこにいる者たちの顔は、絶望に塗り替えられていた。
「ステラ! ああ、ステラ、よく戻ってくれた! 頼む、星辰機を動かしてくれ! 君だけが頼りなんだ! ずっと、君を信じていた!」
ユリウスが、みっともなく駆け寄ってくる。
(信じていた? 五年間、一度もそんな素振りありませんでしたけど)
リィナも、薔薇色の髪を振り乱して縋ってきた。
「ステラさん、わたくしたち、お友達でしたでしょう? 昔のことは水に流して――」
「お待ちくださいませ」
私は、静かに手を上げた。それだけで、二人はぴたりと黙った。
(あら。手を上げただけで黙りましたわ。不思議なものですわね、立場というのは)
かつて床に膝をついていた私が、今は立っている。そして彼らが、私を見上げている。
私は懐から、分厚い書類の束を取り出した。
「まず、こちら。私を『無能』と断じた神殿の評価記録。日付と署名入りですわ」
パサリ、と一枚。
「こちらは、公式に発表された婚約破棄の声明文。衆目の前で読み上げられたもの」
パサリ、ともう一枚。
「そして――こちらが最も重要ですの。星辰機が停止した日付の記録。私が追放された、まさにその日から。ぴたりと一致しておりますでしょう?」
大聖堂が、しん、と静まり返った。
「祈りで動くはずの神器が、なぜ一人の『無能』を追放した途端に沈黙したのか。ご説明いただけますかしら、大神官様?」
玉座の奥で、大神官の顔が真っ青になった。
「そ、それは……」
「答えは単純ですわ。星辰機は祈りでは動きません。正しく機構を理解し、糸を操れる者にしか応えない。あなた方は、その唯一の存在を、自らの手で追い出したのですのよ」
感情は、一切込めなかった。ただ、事実を。証拠を。淡々と。
(怒鳴る必要なんてありませんわ。真実の方が、よほど残酷ですもの)
ユリウスが、がくりと膝をついた。
「そんな……では、この国が滅びかけているのは……全部、僕のせいだと……?」
「ええ。ようやくご理解いただけましたのね」
◇◆◇
「ち、違うわ! わたくしは悪くない! 悪いのはこの女よ! ステラが勝手に神殿を出て行ったから――」
沈黙を破ったのは、リィナの金切り声だった。あの甘ったるい猫撫で声はどこへやら。
「あら。私は『追放』されたのですけれど。公式声明にもそう記されておりますわ」
パサリ、と私はもう一枚の書類を示した。
「それに、リィナさん。あなたにこそ、伺いたいことがございますの。あなた、『聖女』を名乗っておられますわね。では――星辰機を、動かしてみせてくださいませ」
リィナの顔が、凍りついた。
「な……」
「真の聖女ならば、造作もないことでしょう? さあ、どうぞ。今すぐこの場で」
「そ、それは……今は星の巡りが悪くて……体調が……」
「おかしいですわね。祈りで動くのでしょう? あなたの信仰は、そんなに脆いものですの?」
(ふふ。逃げ場はありませんわよ)
私は集まった神官たちに向き直った。
「皆様、思い出してくださいませ。リィナさんが星織りを披露した時、いつも派手な演出と、大勢の取り巻きがいらっしゃいませんでした? 一度でも、彼女自身が布を織り上げたところを、ご覧になった方は?」
静寂。誰も、手を挙げなかった。
「……い、いない? まさか、全部演出だったのか……?」
ざわめきが広がる。リィナの『聖女』という虚飾が、音を立てて剥がれ落ちていく。
「ち、違う! わたくしは本物よ! 本物の聖女なのよぉ!」
その時、大聖堂に王家の重臣が入ってきた。
「調査の結果が出ました。リィナ・アーシェントの『聖女認定』は、賄賂と虚偽の証言によるもの。正式に、認定を取り消します」
「そんな……いやよ、いやぁあああ!」
衛兵に引きずられていくリィナの悲鳴が、遠ざかっていった。
(偽物は、いつか必ず露見する。……本物の前では、なおさらですわ)
◇◆◇
「大神官バルトロス、ならびにユリウス・グラント」
王家の重臣が、厳かに宣告した。
「星辰機の機構を長年誤認し、唯一の適格者を不当に追放。国家を崩壊の危機に陥れた責は重大である。大神官は失脚、ユリウス・グラントは神官位を剥奪とする」
「そ、そんな……! 私は、私はこの神殿に人生を捧げて――!」
地べたに這いつくばるユリウス。かつて衆目の前で私を見下した、その同じ場所で。
(因果は、巡るものですわね)
「ステラ……! 頼む、僕を助けてくれ! 昔のよしみで――!」
縋りつこうとするユリウスの前に、ぬっと巨大な影が立ちはだかった。ガルドだった。
「触れるな」
たった一言。だが竜人将軍の覇気に、ユリウスは腰を抜かして後ずさった。
「彼女に、二度と近づくな。……次はない」
(まあ。頼もしいこと)
私は改めて、玉座へと向き直った。国王陛下が、自ら立ち上がって私に告げた。
「ステラ・ヴェルフィード。そなたを王家直属の『星織り公』に叙する。古の織り機の、真の管理者として。……この国を、救ってはくれぬか」
かつて『無能』と嘲笑された、辺境の織姫見習いに。大聖堂中の視線が、私に注がれる。
私は、ゆっくりと星辰機へ歩み寄った。
埃をかぶり、沈黙していた神器。その経糸に、私はそっと指を這わせる。
(緩んでますわね。全部、あの頃のまま。……さあ、始めましょう)
張力を、整える。緯糸に、星を通す。
カタン。
カタン、カタン、カタン。
私を追放してからの半年間、沈黙していた星辰機が。再び、命を得て動き出した。
織り上がる布に、星が瞬く。大聖堂の天井から差し込む光の中で、失われていた星の加護が、国全体へと広がっていく。
「加護が……加護が戻った! 魔物が引いていくぞ!」
歓声が上がる。
(才能がないんじゃなかった。あなたたちが、機械の使い方を間違えていただけ。……ほら、言った通りでしょう?)
◇◆◇
それから、ひと月。
王国は加護を取り戻し、魔物の脅威は去った。私は星織り公として、古の織り機の管理と、後進の育成にあたっていた。
(今度こそ、才能という言葉で誰も切り捨てさせませんわ。機構は、学べば誰にでも扱える。……それが、真実ですもの)
ある夜。星辰機の間で一人作業をしていると、機がひとりでに――カタン、と動いた。
「……え?」
私が操ってもいないのに。織り機は、ゆっくりと一枚の布を紡ぎ出していく。
そこに浮かび上がったのは、私の知らない星図だった。
(え……? 私が操ってもいないのに、機がひとりでに動いて……新しい星図? 見たことのない星の並び)
既存のどの海図にも、地図にも存在しない――
(これは……新しい大陸? いえ、まだ生まれていない、これから現れる兆し……?)
星辰機が、私に告げているようだった。世界には、まだ織られていない続きがあるのだ、と。
「――こんな夜更けに、まだ働いているのか」
低い声。振り返ると、ガルドが星糸の毛布を小脇に抱えて立っていた。
(相変わらず、その毛布は手放しませんのね)
「ガルド様。見てくださいまし。星辰機が、こんなものを織り出しましたの」
新しい星図を見せると、ガルドは金色の瞳を細めた。
「……新しい土地の兆し、か」
彼は、しばし沈黙し、それから――らしくもなく、少し照れたように言った。
「次は、どこへ織りに行く?」
(まあ)
その問いに、私はふっと微笑んだ。
かつて、才能がないと追放された無能の織姫は、もういない。
ここにいるのは、星を織る者。世界の続きを紡ぐ者。
「決まっておりますわ」
私は新しい星図を、そっと胸に抱いた。窓の外には、満天の星。
「――世界の続きを、織りに」
ガルドが、ふっと口の端を上げた。毛布を抱えたまま、隣に並ぶ。
「ならば、俺も行こう。……護衛の、必要性だ」
「ふふ。ええ、ぜひ。戦略物資も一緒に、ですわね」
星辰機が、カタン、と最後にひとつ、優しく鳴った。まるで、新しい旅の始まりを祝福するように。
(さあ。まだ見ぬ星の下へ。……私の織物は、ここから世界へと続いていくのですわ)




