1話「意地悪な妹が」
意地悪な妹ミリーがある日突然連れてきたのは私の婚約者である彼ガイアだった。
「お姉さま! 今日は大切なお話がありますのよ!」
「ミリー」
「あら? その顔、どういうことですの? 可愛い可愛い妹が幸せになる話を聞けるというのに……もしかして、嬉しくないんですの?」
「いや、そうじゃなくて」
「なら聞いてくださるわね?」
「ええ……」
ミリーが姉である私に笑顔を向けてくるなんて不気味すぎる。
「わたくし、ガイアさまと婚約することになりましたの!」
彼女は両手の手のひらをそれぞれの頬に当てながらそんなことを言ってきた。
その面には信じられないくらいの笑みが浮かんでいる。それもどこまでも真っ直ぐな笑み。常々嫌っている私に対して彼女がそんな表情を向けるのはいつ以来だろうか。もしかしたら幼児時代以来かもしれない。
「ガイア、って……彼は私の婚約者よ」
「そんなことは知っていますわ」
「ならどうして」
「うふふ。お姉さまったら、おバカですわね。ガイアさまが愛しているのはわたくしですの! お姉さまのことなんて、彼は愛していませんわ」
いきなりことに戸惑いながらガイアの方へ視線を向けると、彼は気まずそうに「ごめん、でも、もう決めたことなんだ」と呟くように言ってきた。
「ルイナ、悪いけど、君との婚約は本日をもって破棄とさせてもらうよ」
やがて彼はそんな言葉を発する。
「君とはここまでだよ。永遠にさようなら。……これからは妹さんと仲良くさせてもらうね」
「本気で言っているの?」
「もちろんだよ。僕は決めたんだ、ミリーと生きていくって。これは絶対的な決定、だから君が何を言っても無駄なんだ。君の言葉は僕には届かない、し、そんなものは今の僕には必要ないものだよ」
そこまで一気に言いきってガイアは隣にいるミリーへと視線を向けた。その視線は完全に愛する人への視線といったようなもので。ミリーもそれを理解しているのだろう、だから彼女もまた同じような視線をガイアへと向ける。私たちは両想い、と、言葉を使わず表現しているかのようで。二人は視線の重なり合いだけで互いの胸に宿る熱い炎を他者へ見せていた。そして、その他者というのは、主に私。きっと、私を突き放すために、そういうことをわざわざしてみせていたのだろう。
「じゃ、お姉さまはご自由にっ」
別れしなミリーはそんな風に明るく言って。
「……ま、そーんなダサい女じゃ貰い手もいないでしょうけどね」
付け加えるように小さく毒を吐いた。
私の婚約者を奪えて満足したのではなかったのか。
それでもまだ嫌がらせをしてくるのか。
欲しいものを手に入れてそれでもまだ満足できていないのか。
……なんて、色々思ったけれど、それらを口にすることはできなかった。
ただ、婚約者を奪われたことに関しては、そこまでショックではない。もちろん戸惑いはあるけれど。そういうことをされたことはこれまでにもあった、だから想定外というわけではないのだ。
ガイアはまともな人かと思っていたのだけれど……どうやらそうではなかったようだ、私の勘違いだった。
「はぁ……これからどうしよう」
思わず呟いて。
溜め息をつき。
それから空を見上げる。
こんな時でも空は変わらず綺麗な青をしていた。
いや、でも、本当に……ここからどんな風に動けば良いのだろう?




