「おい無能! コピー機のトナー交換くらい秒でやんなさいよ! これだから中途採用の底辺は!」
女性社員比率9割、業界最大手『テラ・コーポレーション』の営業部。
お局である部長のヒステリックな声が響き、ハイヒールの爪先が私の脛を蹴り上げた。
周囲の取り巻きたちが「キャハハ、今日もサンドバッグね」「生きてる価値あるのかしら」と嘲笑う。
(……)
(……あら、その程度の陰湿さで『いじめ』のつもり? ちょっとお局様、そんな古臭い……)
(五月蠅い。物語が終わるまでは静観しろと言ったはずだ。……次はないぞ)
私は、汚れたスーツの膝を払いながら、無表情でスマホの画面をタップした。
――『忍耐限界値:99.9%』。
「……部長。一つ確認させてください。私がこの会社で上げた先月の売上20億、全て部長名義で処理されていましたが、それで満足ですか?」
「ああん? 部下の手柄は上司のもの、常識でしょ? 文句があるならパパにでも言いつけなさいよ、孤児の貧乏人が!」
貧乏人。孤児。
そう設定したのは私だ。
世界経済の半分を牛耳る父の会社に、コネなしの実力だけでどこまで通用するか試したかったから。
だが、結論は出た。
この部署は、腐っているどころか、父の庭に湧いた『害虫』だ。
「……分かりました。では、パパに言いつけますね」
「はあ? あんたのパパが何よ、八百屋? それともホームレス?」
(……はい、詰み(チェックメイト)。たった今、あなたの全資産価値が『ゼロ』を下回ったわ)
その時だ。
窓の外から、鼓膜を破るほどの爆音が轟いた。
オフィスの窓ガラスがビリビリと震える。
社員たちが悲鳴を上げて窓に駆け寄ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
空を埋め尽くす、黒塗りの戦闘ヘリ部隊。
その全てに、我が社の社章が刻印されている。
「――通告する。我が愛娘、ミネルヴァを害した愚か者どもへ」
オフィスのスピーカーをハッキングし、地獄の底から響くような父の声が流れた。
「貴様らの退職金は、貴様ら自身への慰謝料(治療費)だ。慈悲はない。……総員、突入開始」
窓が割れ、ラペリング降下してきた特殊部隊(私兵)が、声なき爆笑を肩に刻みながら、人外の速度でフロア中の社員を瞬く間に制圧した。
腰を抜かす部長の前に、私は優雅に立った。
もはや怯える平社員ではない。次期総帥としての冷酷な瞳で。
(……はいはい、ざまぁ完了、お見事ですこと! ……で、そのぶっ壊れた私兵の手数料と……)
(……五月蠅い、限界だ。……口封じがてら、未定義領域の改竄を試してみるか)
【改竄:欠員補充として、未定義オブジェクト(マリア)を「特殊部隊員D」としてアサインする】
「ごめんなさい部長。『言いつける』じゃなくて、『駆除命令』でした」
「ひ、ひぃぃぃぃ!? 許して、あな、あなたが会長の娘だなんて知らなかっ……!」
「知らなくていいですよ。害虫の謝罪なんて聞きませんから」
「……え? ちょっと待って! なんで私、特殊部隊になってるの!? はい?!上官?! え? 降下? ムリムリ!! ……いやあぁあああああああ!!!!」
私は父に抱き上げられながら、崩壊する部署を背に微笑んだ。
さあ、次はどこの部署を掃除しようかしら?
―― 完 ――
私は助手を雇ったことを後悔しながら、物語の「表側」に侵入する。
(最悪だ。この手のご都合主義を地で行かれる世界は、徴収に向いてないというのに、あの女……)
地面には着地に失敗した愚かな隊員、もとい、マリアがいる。
「聞いてないんですけど!! 降下の仕方なんて知らないんですけど!!」
「……五月蠅い。静観しろと言ったはずだ。……始めろ」
マリアはブツブツ言いながら従う。
「……5,000万くらい、かしら?」
マリアが指を絡めて祈ると、虚空から、領収書が舞い降りてきた。
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■事案
国家レベルの脅威対策を私事に投入
■直接損害(経済的損失)
本社ビル窓ガラス(強化・防弾仕様)の破損: 140,000円
営業部業務停止に伴う逸失利益(20億の案件含む): 180,000円
特殊部隊の緊急招集・装備摩耗費: 350,000円
■間接損害(精神的・社会的損失)
なし
■論理的欠落(ロジカル・デフィシット / 物語への賦課金)
「世界経済の半分を牛耳る父」の娘のコネなし入社がバレない確率操作: 400,000円
その他、ギャグ要素による雑多なご都合主義: 50,000円
■必要経費
特殊部隊の装備一式レンタル(マリア/1日) ▲640,000円
■合計
未払い債務 480,000円
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「え、安っ!? あれだけド派手にやって、これだけ!?」
「……当然だ。最初から重力も航空法も機能していない紙芝居のような世界だ。
矛盾を矛盾として認識する『基盤』が脆弱すぎて、徴収のしようがない。
おまけにお前の装備レンタル料が、数少ない負債を相殺してしまった」
「……それは貴方のせいでしょ!?」
(……チッ、五月蠅いな)
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