お腹空いた
作業の途中、マリアの腹が「ぐう」と、可愛らしくも遠慮のない音を立てた。
「あ……」
彼女は瞬時に顔を真っ赤にし、両手で腹を押さえる。
それは「悲劇のヒロイン」という役職では決して許されなかった、あまりに生々しい生活感に溢れたノイズだった。
「……ほう、想定より早いな」
キッチンから、エプロン姿の男が冷静に指摘する。
かつて徴収官と呼ばれた彼は今、世界で最も解けない難問――「ハンバーグの完璧な焼き加減」に挑んでいた。
「……もう、理屈はいいから! ハンバーグ、まだー? お腹が空きすぎて死んじゃうんですけどー?」
「……私は君の給仕ではないのだが。……まあ、私の手料理は論理的に言って、世界で最も『完璧』に近い味だ。待つだけの価値はある」
私は口角を微かに吊り上げ、盛り付けを最終工程へと進める。
マッシュポテト、アスパラのソテー、ニンジンのグラッセ。
(……フン。彼女は、……野菜は多めを好む)
「ねー? 別の世界の『論理的負債』、多すぎるんですけどー? 私一人じゃ改竄しきれないよー」
リビングから、山積みの資料(あるいは新しい冒険の地図)を前に、マリアが楽しそうに愚痴をこぼす。
季節のサラダを添え、熱々のスープを並べる。
(……やれやれ。私にはもう能力がないと言っているだろう。……来月からは新しい仕事も始まるというのに)
「……マリア。雑談は終わりだ。夕食の時間だぞ」
自信満々の表情を浮かべた一人の男が、世界で最も愛する「元・資産」へ、最高の配膳を差し出した。
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異世界ハック・レポート:Season 01 FIN




