当然の権利
王城の舞踏会場。
第一王子アレクが、あらかじめ決められた台詞通りに、意気揚々と声を張り上げた。
「……コホン。エリザベス・フォン・ローゼンバーグ! 貴様との婚約は、今この時を以て破棄とする!」
(……)
周囲の貴族たちがわざとらしくどよめき、予定された「悲劇」の拍手が湧きあがろうとした――その時。
エリザベスはパチリと扇子を閉じ、嬉しそうにため息をついて微笑んだ。
「……もう、来てるんでしょ? 脚本通りに演じるのは、これが最後よ」
隣にいたアレクも、王子としての仮面を脱ぎ、戦友を待つような穏やかな顔で頷く。
「……来たか。……俺のこの情けない台詞も、これでようやく打ち切りだ」
背後の陰から、クライヴが静かに歩み出た。
「……氷は溶けた。春を阻む壁は、もうどこにもありませんよ。……マリアさん」
マリアは、肩を震わせながら、虚空を見つめる。
そこにはまだ、何もない。
だが、彼女の魂だけは、その『亀裂』が走る予兆を誰よりも早く捉えていた。
【権限掌握:徴収官が帰ってくる】
物語の「表側」を強引に引き裂き、あの男が次元のノイズを撒き散らしながら侵入してくる。
白髪交じりの髪、冷徹な眼鏡、そしてあの懐かしい『黒い帳簿』。
「……ほう? これは何だ。私が存続することは、確率的に不可能なはずだが……」
「うるさい!! この、算数ばかぁあああぁああ……!!」
マリアはドレスの裾を翻し、彼の胸へと弾丸のように飛び込んだ。
その実在を、温もりを、二度と離さないという執念で強く、強く抱きしめる。
徴収官は一瞬、困惑したように宙で手を彷徨わせた。
だが、やがて眼鏡の奥の瞳を和らげ、降参したように深く、深く彼女を抱き返した。
「……不合理だ。計算が合わない。……いや、そういうことか。……あはは、恩に着る」
彼はマリアの髪に顔を埋め、かつての冷徹な「徴収官」ではなく、一人の「男」の声で囁いた。
「……すまない、マリア。待たせたな」
空から、紙が落ちてくる。
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■事案
HAPPY END(お幸せに)
■論理的欠落(ロジカル・デフィシット / 物語への賦課金)
彼が全ての記憶を取り戻して、完全に復活する! 0円 (当然の権利)
物語を一巡した仲間が、私達を祝福してくれる! 0円 (当然の権利)
もう絶対に消えない、ずっと一緒に居てくれる! 0円 (当然の権利)
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