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【0秒で婚約破棄】その「ざまぁ」は未払いだが?負債1432万円を第1話から即刻強制執行した結果 | 異世界ハック・レポート  作者: 葛石
Season 1:その「ざまぁ」、未払いだ即刻徴収

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18/21

貴方は私の物

表の世界から連れ出されて数時間。

彼は困惑を隠せぬまま、震える指先で『黒い帳簿』を捲り続けている。


「……信じられません。ですが、ここに記された不条理な既決事項は……これから私に起こる『確定事項』そのものに見えます」


マリアは無表情のまま、静かに表の世界を見つめていた。

空からは、止まない「黒い雨」が降り始めている。


それは、あの女が描いた『下手くそな悲劇』の幕開け――起源プロローグ

漆黒のインクで塗り潰された空の下、街の至る所で「不条理な暴力」が奔流となっていた。


意味もなく消されていく人々。消滅を待つだけの路地裏。


「……マリアさん。世界が、私を拒んでいます。私が『私』でいることを、この世界が許してくれない」


彼の声に、耐えがたい震えが混ざる。

マリアは内側に渦巻く殺意を押し殺し、彼から『黒い帳簿』を受け取った。


今の彼女には視える。この絶望を構成する演算要素も、それを焼き払うための脆弱性も。

全権限を解放すれば、この安っぽい悲劇ごと、作者の遺した負債を無に帰すことさえできるだろう。


だが、彼女はそれを選ばない。


「……大丈夫。貴方は私のものだから」


【改竄:所有権を強奪(Object Hijack)】


マリアは彼の首筋に腕を回し、その耳元で熱病のような吐息を漏らした。

彼女の指先から溢れ出す鮮血が、彼の胸元に「真の名前」を刻印し、物語の深層をどろりとした情念で焼き切っていく。


「あ、が……っ!? 頭が……灼ける……!」


「――貴方は、私が一括で買い取ったの。もう誰にも貸してあげない」


マリアの執着。彼の内側に強制的に植え付けられる「不条理」。

凄まじい共鳴ノイズが、彼という存在を跡形もなく支配していく。


「……はぁ、……はぁ、……マリア……さん……何を? ……があッ?!」


世界が彼の柔らかな「感情」も、ささやかな「未来」も、一文字ずつ冷徹に削り落とし始めた。


「……あ……ぐ……っ、マリア……さん……逃げ……て……!」


彼の絶叫が、次第に無機質なノイズへと変質していく。

マリアはそれを数歩離れた場所で、唇を血が滲むほど噛み締め、凝視していた。


(……ごめんなさい。でも、ここで救ってしまえば……私を助けに来てくれた『徴収官』が消えてしまう)


これは、二人が出会うために支払わなければならない、「過去」という名の負債。


彼がここでもう一度死に、絶望し、心を凍らせて「徴収官」という名の怪物に成り果てなければ、未来の絶望の淵にいた私の元へ、彼は現れない。


彼を救うためには、今、彼を見捨てなければならないのだ。


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