見つけた
真っ白な荒野が、凄まじい速度で巻き戻されていく。
消えた建物が組み上がり、流れた血が地面に吸い込まれ、時間が「起源」へと収束していく。
「待ってなさい。――アンタの人生に起きた『不備』、今度は私が全部、徴収してあげるから」
眩い光の中、マリアの意識は禁忌の領域――物語の序盤へと「侵入」する。
それは運命を差し押さえ、神の帳簿を奪い返すための、真の『改竄者』としての覚醒。
鼻を突くのは、安っぽい鉄の錆びた匂いと、興奮した群衆の放つ脂ぎった熱気。
(……ここが、始まりね)
群衆の端。まだ人間だった頃。「徴収官」となる前。
地味な灰色の官服を纏い、手垢のついた帳簿を抱え、ただ事務的に「没収資産」のリストをチェックしている一人の青年。
(……見つけた)
若き日の、会計士(彼)がそこにいた。
「ええと……この者の私有財産、および実家の負債総額は……」
彼が眼鏡を押し上げ、独り言を漏らす。
その声は、冷徹な重厚さはなく、どこか生真面目で、若々しい青臭さが残っていた。
ただの「計算が得意な官人」の瞳。
マリアの胸が、締め付けられる。
(……見たことない。……アンタ、こんな顔をして笑うこともできたのね)
マリアは、一直線に「彼」の元へと歩み寄った。
「な、……何ですか、あなたは!? 私は仕事を――」
慌てふためく若き徴収官。
マリアは彼の胸ぐらを乱暴に掴み、その顔を至近距離で覗き込んだ。
「アンタ、名前は?」
「な……名前? 私は、王宮財務局の――」
「役職じゃなくて、名前よ! アンタ自身を呼ぶ、名前はないの!?」
彼は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった。
当然だ。
作者は彼に「徴収官」という役割しか与えていなかったのだから。
マリアは、戸惑う彼の帳簿を奪い取り、ペンで余白に大きく「真の名前」を書き込んだ。
それは、彼が消え際に見せた、あの優しい微笑みにふさわしい名前。
「……今日から、これがアンタの名前よ。わかった?」
「……。……意味がわかりません。不合理です。私はただ、正確に資産を徴収しに来ただけで……」
彼は頬を微かに染め、困惑したように目を逸らした。
冷徹な徴収官になるには、あまりに未熟。
残酷な作者のペンに、まだ染まりきっていない、真っ白なキャンバス。
「いい? これからアンタに起きる理不尽は、全部私が『補完』してあげる」
マリアは、若き彼の手を強く、熱く握った。
「その代わり、一生かけて私を愛しなさい。……いいわね、徴収官?」
【改竄:物語は、完全に『破壊(HACK)』されました】




