ある異世界転生召喚勇者の顛末
お蔵出し第二弾です。
ガチャ(扉を開ける音)
失礼、勇者殿。
お楽しみのところ申し訳ありませんね。
そろそろ恵まれた生活とおさらばの時間ですよ?
ほら、そこのお前も。
早くベッドから降りて服を着て出ていけ。
城付き女中の仕事に勇者の性的奉仕などというものはないぞ?
全く、これだから田舎娘は。
慎みなく無教養で勇者だなんだと肩書にも弱い。
これからは採用するにあたり股の緩さにも気配りをせんといかんな。
ん? おや、どうしました? 勇者殿。
私をそんなに睨みつけて何か気に障る事がありましたかな?
……はぁ、はぁ……なるほどなるほど。俺の機嫌を損ねていいのか、ですか。
ふっ。やれやれ、あなたは。
全く状況が分かってないのですね。
ま、勇者だなんだとちやほやされて、女とみれば手あたり次第に淫蕩三昧の日々を送って来たろくでなしにはわからんでしょう。
では、貴方の頭にも理解できるよう説明して差し上げましょう。
魔大陸にいる騎士団からから報告が届いたのですよ。
魔王を斃した、とね。
今になってようやく言えますが、貴方の様な性欲だけの猿に最早用はありません。
ああ、ああ、怒鳴らなくても聞こえますよ?
落ち着いて下さい。私は落ち着いていますからね。
え? そうです。だから言っているじゃないですか。あなたは用済みだと。
……ほう。勇者殿、何ですその態度は。
我々に対して何か力で害を及ぼそうとでもいうのですかな?
確かに、以前だったら出来たでしょう。
しかし今は不可能ですよ。
そもそもここが単純に物理的な力や魔法だけで十代の青二才である貴方の好き放題できる世界だとでも思っていたのですか?
え? 一体お前達に何があったんだ、ですと?
先程も言ったでしょう? 勿論、これから説明するところですよ。
何も知らないまま放逐されてはそれこそ猿同然ですからなぁ。
あ、いや失敬。つまりですな、話を戻しますと我々は神に祈ったのですよ。
貴方もお会いした神に、ね。
何でも聞いた話では貴方は神に力を与えてもらったとの事ですからね。
え? なぜそんなことを知っているのかって?
ああ、すみません。言ってませんでしたね。
以前この部屋で貴方に夜伽した女官がいたでしょう。
そう、あなたがこの世界に召喚されてから幾日もたたない日の事です。
実はあの時、よく寝ている貴方に自白と催眠の魔法をかけておいたのですよ。
我々と変わらない人間の貴方がどうして人智を超えたレベルの力を持っているか知りたかったのです。
そこで貴方の秘密を他ならぬ貴方自身から聞いたのですよ。
貴方はこの世界と違う別の世界から転生してきた異世界転生人だと、ね。
その世界では貴方は単なる凡人だったそうじゃないですか。
何ら特別な才能も持たない凡百の存在だった、と。
そんな貴方が不慮の事故に会って異世界転生する際に神に絶大な力を与えられたとか。
その他にもいろいろと詳しい事を教えてもらいましたよ。本当に、色々とね。
貴方の正体は世界を背負う器量などある筈もない、身に余る力を与えられただけの愚かな子供だという事を。
ま、貴方自身は夢うつつで何を喋ったかも覚えていない様ですがね。
? そんなに眼を見開く程の事ですか?
だから貴方の本質は愚かな子供だというんです。
私達の国だけでも何億人。この世界全体では数知れず。
それを貴方の様な素性も知れない子供一人に手放しで我らの命運全て託す筈も無いでしょう。
最低限の調査はして然るべきです。
まさか、自分以外の人間に脳みそが無いとでも思っていたのですか?
……まぁともかく、それからです。
真実を知った我々は神に必死に祈りました。
そして、遂に神とコンタクトをとる事に成功したのですよ。
その時に神に訴えたのです。
魔王の軍勢に苦しみ死んでいっているのはこの世界の我々です。
本当に神がこの世界の私達に慈悲を与えて下さるというなら、力を与えるのは異世界人の貴方などではなくこの世界の人々であるべきでしょう。
なぜ普段から神に尽くしている私達ではなく、わざわざ異世界の見ず知らずのあなたの様な若造に力を与えるのか。
それは筋違いでしょう? と。
そうしたら、神は答えてくれたのです。
何と答えたかわかりますよね?
それもそうだな、と仰ってくださいました。
そして先日のあの日。そう、あの皆既日食のあった日です。
この世界の者皆が一斉に貴方と同じ力を持つことになったのです。
剣を扱わない者は気づきにくかったかもしれないですが身体能力や魔力が飛躍的に上がったのくらいは感じたでしょう。
この世界の人間全員が貴方と同じ力を持てば魔王など論ずるに値しません。
我々騎士団は早急に自分達の向上した能力の把握とそれを満足に使いこなす訓練に時間を費やしてきました。
そしてつい先日、魔王を斃してきたという訳です。
え? いつの事ですって?
魔大陸奥からまばゆい光が差した日の事を知っていますか?
そう、あの日ですよ。
はぁ? お気づきでない? ふん、ま、確かにそうかもしれませんな。
貴方は連日この部屋のベッドで誑し込んだ女と乳繰り合っていましたからね。
我々が用意した女と違って先程の田舎娘ではそんな事気づきもしなかったでしょうし。
でも、魔王城近辺の空が急に晴れ渡ったから流石に貴方も分かったんじゃないですか?
魔王の奴め、我々にズタボロにやられて最後は命乞いしたそうですよ。
実に傑作です。
いずれにしろ、この世界から脅威は取り除かれました。
あえて言うとこれからの脅威はお互い自身なのでしょうね。
つまり魔族など最早どうでもよい家畜の様な存在になり、これからは人間同士の戦いになるという事です。
なにせ皆、基本的には勇者の力を持ってしまったのですからね。
最早魔族など恐るるに足りません。
これからはそれぞれが属している国と国、人と人の戦いになるという事でしょうか。
魔王・魔族という脅威が省かれただけで貴方自身が居た世界と何ら変わりません。
繰り返しますが、私を含めてこの世界の全員が勇者の力を持つ者だらけになりました。
同じ力を持った我々にとって、貴方は単なる特徴のない一人の子供にすぎません。
この世界を救う事より女の尻を追い回すことにご執心でハーレムだなんだと浮かれていた貴方は本当に役立たずの厄介者でした。
元の世界に帰る手立てがない今、あなたはこの世界で身寄りのない単なる一人の少年として生きていくしかないでしょう。
貴方がこの世界に導かれたのは我々が神に祈った結果なのでしょうが、まさか神に力をもらった異世界人を呼び寄せていたとはね。
貴方はその事実を隠して元からこの世界の住民だという風に振舞っていたから知りようも無かったですが。
まぁ結局、魔王討伐に何の役にも立たなかったんだからまさに無駄な行為でした。
……いや、我々が以前と比べて大いなる力を得たきっかけにはなりましたかな?
そういう意味ではほんの少しは感謝しますよ。
いずれにしても我が国は今後、貴方を国庫や税金から養ってやるつもりはありません。
ああ、我々を非難するのはお門違いですよ。
なんでも神は自分の手違いから貴方を死なせた責任上、とてつもない力を与えたそうですね。
そしてたまたま都合よく救いを求めていた我々の世界に送り込んだそうじゃないですか。
元々、我々は神に窮状を訴えていたのです。
我々に力をお与えいただければ我々の世界の事は我々自身で片づけます。
神の救いは求めましたが、我々は別に貴方個人を求めた訳ではありませんからね。
貴方がこの世界に導かれたのは、タイミング悪く我々が神様に救いを求めていたからでしょう?
その意味では多少の責任が我々にもあります。
だから、貴方には幾何かの報奨金を出させていただきます。
この世界に召喚されてから充分楽しい夢の様な毎日が送れたでしょう?
残念ながら夢はいつか覚めるものです。
この国を、この世界をどうにかできるなどといった妄想も今日で終わりです。
まだ十七歳という若輩の貴方に一国を治める王者の才があれば別ですがね。
経験・人望・器量・知識などは無く、そもそも優れた人格・知性なども皆無でしょう。
今までの貴方の言動や態度がそれを証明しています。
異世界転生人だか強力な力を持つだか知りませんが、まず年長者達に対して見下した様な口で話すのはやめた方が宜しいですよ?
後学の為に忠告してあげますが、初対面の人間にはちゃんと敬語を使って話された方がよいと思います。
今までどの様な教育をされてきたのか知りませんがお里が知れますから。
急に態度を変えやがって、ですと? それも当然でしょう?
そもそも貴方は私達から受け取るだけでこの世界に来て未だ何も成してないのですから。
ま、とにかく私からは以上です。
何か質問は?
◇
王宮宰相から三行半を突き付けられた後、俺は城から退去させられた。
正確には永久追放されたようなものだ。
やけ酒やけ食いを繰り返すうち、僅かな報奨金も使い果たした。
今の俺は金どころか喰うものも無い。
勇者様、勇者様と俺を散々持ち上げてた女も全員俺の元を去った。
この世界では現代知識で無双しようとも大抵の事は魔法でどうにかなってしまう。
剣と魔法の世界だがこの世界には生活魔法というモノがある。
ある意味俺のいた世界よりよほど進んでいる。
科学の代わりに魔法があるだけだ。
なのに、そもそも俺には特別な知識も技術も無い。
俺が知っているのは全部薄っぺらで表層上の事だけだ。
物を作ったり生み出したりする知識も技術も特にない。
大人と対等に渡り合って金を稼いで社会で生きてゆくのに必要な経験もない。
元々、世間知らずで引き籠りぎみのオタク高校生だったのだ。
魔王という脅威が居なくなった今、確かにこの世界において俺の存在意義は全くない。
雪が降ってきた。今夜はさぞ冷えるだろう。
俺は橋の下で丸まって眠る。そして空腹に耐えて考える。
俺は一体、この世界に何をしに来たのだろう。
この世に楽な生き方なんて無いんだよと言ったお袋の顔が目に浮かぶ。
俺は目をつぶった。お袋の言う通り、俺は甘かった。
神様から唐突に力をもらっただけで浮かれていた。
人生を振り返っても俺は俺自身の努力で身に着けたものは驚くほど何一つなかった。
ただ何も考えず流されるまま小・中・高とただ漫然と進学して来ただけだ。
雪が吹いてきた。強いブリザードだ。
あっという間に雪が積もって俺の体も雪に埋もれていく。
腹が減りすぎて動く気にならない。
多分俺はこのまま二度と目覚める事も無いだろう。
……ああ、体の感覚が無くなってきた。
もはや、思考するのも面倒だ。
俺の意識は眠るように深く沈んでいった。
年若いハーレム系主人公が『なろう』の全盛だった時書いたものです。
社会経験も協調性も無い生意気な陰キャが無双できるってどんなチョロい世界なんだと思ったので。
まぁ、異世界で凡人があっさりのし上がるのが『なろう』の真骨頂なんですが。




