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2話 夜の訪れを告げる者

「総員、手を止めろ。異常個体の影響を鑑みて帰還する」

『『『了解』』』


 口にした理由も正しいが、実際は遺物をC9地点に隠す為だ。寄り道をする以上、早めに帰還する必要がある。

 幸い鉱脈を発見できた為、成果は上々。夜に放り出される事はないだろう。


「なんとかなったな」

「いやまだだ。ここからも気を抜くなZ」

「わかってる」


 隷属兵の寿命は短い。早ければ初日で死ぬし、半年生き残れる隷属兵は多く見積もっても精々5%。

 そんな中、Z1465はこの分隊の中でも古参だ。かれこれ1年以上共に探索を続けている。

 だから俺が言葉にしなくても彼が油断することはない。


 きっとこの言葉はほかの仲間たちの気を引き締める為だろう。Z1465はそういうところがある。

 

「準備は出来たな? 行くぞ」

『『『了解』』』


 俺たちは魔水晶(クリスタル)でパンパンになったリュックを担ぎ、来た道を引き返す。魔物と遭遇しないことを祈って。




「ふぅ……」


 俺は物陰に身を隠しながら安堵の息を吐いた。

 祈りが通じたのか、終域(エンド)を抜けるまで魔物と遭遇する事は無かった。


 ハンドサインで上に行くことを伝え、一人階段を駆け上がる。


 ……問題は無さそうだな。


 確認したところ、異常個体は居なかった。

 全ての魔物が俺の頭の中の行動パターン通りに徘徊している。


「異常なし。7分28秒後に行動を開始する」


 C9地点に向かわない場合、2分51秒後に行動を開始しなければならないが、行動パターン的にすこし時間に余裕がある。


 ……3分は観察が出来るな。


 念には念を。

 終末では()()()()を怠ったが故に死ぬことなんてのは日常茶飯事だ。

 妥協をして仲間たちを死なせる訳にはいかない。なにせ俺が率いるK5895分隊は皆、楽園を堕とすという目的の為に活動する同志なのだ。

 だから俺は時間が許す限り、ひたすら観察に努めなくてはならない。同志の命を預かっているのだから当然だ。


 1分、2分と時間が経過していく。するとその時、視線を感じた。


「――ッ!?」


 俺は瞬時に周囲へと視線を走らせる。


「……なんだ?」


 しかしそこには誰も居ない。


 ……気のせい……か?


 頭の中に魔物の行動パターンは全て思い浮かべ、次々と処理していく。しかしこの時間、この場所に行動パターンが被っている魔物はいない。

 そもそも魔物や【終末の獣】は高い場所を嫌う。故に、滅多なこと、――つまり獲物を追ってきた時ぐらいにしかビルには登ってこない。

 だからここまで追尾されていたら俺はとっくに死んでいる可能性が高い。

 状況が限りなく100%に近く「気のせいだ」と示している。だけどこれも念の為だ。


「総員、警戒を怠るな。近くに何かいる可能性がある。よって()()()の物質以外は破棄。身軽になれ。最短で帰還する」


 つまりは見つけた遺物を破棄しろという事だ。

 悲願からは遠ざかるが、命を失うよりはマシだ。最悪、後日取りに来ればいい。

 

『『『了解』』』


 異を唱える者はいない。

 皆、俺の慎重すぎる性格をよく分かっている。俺は脳内で魔物の行動パターンをシミュレートし、最短経路を弾き出す。


「訂正。1分43秒後に出発。各自即座に準備せよ」

『『『了解』』』


 俺は仲間たちの返事を聞いて即座に駆け出す。

 なるべく音を殺しながらも全速力で。1分半程で一階まで駆け降り、仲間たちと合流する。

 タイマーを確認し、一言。


「11秒」


 端的にそれだけ告げると、仲間たちが俺に続く。

 ビルの裏口を少し開けて周囲を見回す。


 ……よし。魔物はいない。

 

 脳内のシミュレート通り、敵の姿はない。俺はハンドサインを出すべく右手を挙げる。その時――。

 ゾッと背筋が粟立つような感覚を覚え、背後を振り返った。


 高層ビルのロビー。

 終末以前はきっと豪華なホテルかなにかだったのだろう。しかし今やそんな面影はなく、風化し過去のものとなっている。

 そしてロビーの中央、噴水の亡骸と思われるオブジェクトの上に、いつの間にか黒い人影が立っていた。

 ゆらゆらと揺らめく黒い影。身長はおそろしく高く、優に俺の倍はある。加えて異様に胴体が長く、不気味な姿をしていた。


 ……最悪だ。


 俺はコイツを知っている。

 無論、遭遇したのは初めてだ。だけどかつて遭遇した部隊の記録が頭に入っている。

 

 固有種、|夜の訪れを告げる者《The Night Teller》。約百年前に初めて確認された、昼に活動する唯一の【終末の獣】だ。

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