第六章:皐月待つ明日(あした)へ(四)
四
「い、いろいろあってついていけないんですけど」
「改造、したい……」
「銅頭鉄額っ、かっこいいぞっ!」
「乗って酔わへんやろかぁ」
「合体ロボで決戦っスか!? ずっきゅんずっきゅん☆」
ヒロインズの関心が、カムナギゴギョウオーに集まった。
「甘味に怯え、わたいらに驚き……忙しないぱいろっとらやのう」
ロボットの額が光り、五人の乙女を吸い上げた。体内に取り込まれ、レッドは胸に、ブルーは左腕、グリーンは右脚、イエローは右腕、ピンクは左脚の操縦席につかされた。
「ちょっ、何なの……!?」
レッドの手前に設置された机が、緋色の気で満たされた。
「皆さんには、私達と息を合わせて『障り』を祓っていただきます」
「ビブーリオ! 勝手が違うよ。いきなりこんなのに乗って戦えって言われても」
サイレンがけたたましく鳴る。机が液晶画面になり、かしわもち怪人の接近を知らせた。
「回避、または、迎え撃ってください」
「操作の仕方がまったく分からないのに? できるわけないでしょうが」
画面を叩いたり、壁の丸い模様にふれてみたりするが、動いていないようだった。サイレンは止まず、かしわもち怪人の顔が迫る。
「前夜に教えてよ、どうして私がこんなことにい!」
機内が揺れる。電車やバスと同じ感覚でいたら大間違いだった。
「攻撃された……!?」
へばりつくようにして机をのぞくと、怪人が仰向けにそり返っていた。
「……緑様が蹴りをお見舞いしてやったんだよっ!」
画面の右上に、四角い枠が現れた。枠の中では、グリーンがかかと落としをやっていたのだった。
「爽快だったッ!!! 筋が良いな、爆発娘!!!」
グリーンの足元に敷いてあった星形のマットから、常盤色の風が吹いた。
「不言実行っ、戦いに待ったはねえっ! あたしが動きゃ、こいつがついてくる!」
マットの上で回し蹴りをすると、カムナギゴギョウオーも同じことをした。
「いまいち調子出ねえな。巧遅拙速っ、てめえら、考えてるひまはねえぞ!」
またサイレンが鳴り、前の壁が透ける。怪人が腕の皮をめくり、笹の葉香る弾丸を発射した。
「みどりんバッかし動かシテ、ズルいっスよー!」
ピンクが膝を突き上げ、飛来する弾丸を割る……はずだったが、カムナギゴギョウオーの左膝に薔薇が一輪咲いた。
「ふしゃ、マジックなンテ求メテまセン!」
「美しさが足りぬだろう? 殺伐とした場に、花を添えるのさ」
餅の弾丸がピンクの機体に命中し、カムナギゴギョウオーが姿勢を崩した。
「なにやってんだよ、桃色っ!」
「ワザとじゃナイっス!」
「喧嘩はやめろ!!! まだ来るぞ!!!」
二度も三度も、攻撃を許すか?
「身を知る雨は ふりぞまされる、とな!」
瑠璃色の拳が、餅の雨を振り払った。
「ろけっとぱんちは、わたいの好みとごっつかけ離れておるわ」
キミックの搭乗者が、三角形のキーボードを叩く。
「操作方法の、簡易化、完了……です」
各機に、メールが送信された。
「ブルー先輩とうちが作ったマニュアルを添付したで。急いで五ページ目を読んでなぁ。矢文のマークを指で二回タップしたら開くわ」
家庭用パソコンや携帯電話と同じ使い方にしてくれた。機械に強い仲間がいて、助かる。
怪人がおなかを下にして、両足に湯気を噴かせて前進する。頭突きだ!
「机の表面を一回押して、コントローラーモードに切り替え、したい動作が書いてあるレバーを引く!」
レッドは「かわす」を選んだ。カムナギゴギョウオーは体をひねって、難を逃れる。
「あたし、真っ向勝負で頭受け止めて投げ飛ばそうとしたんだけどっ」
口をとがらせるグリーン。座って操作したレッドより早かったのに、どうしていうことを聞かなかったのだろうか。
「次の行動に出る時に、『祓』の割合が多かったやつの案が使われるんだ!!!」
「ってーことは、赤の『祓』がいっぱい流れてたからよけたのかっ」
その通り、と星形のマットが常盤色に光った。
「ナレさん、『祓』が皆一緒の量やったら、どないなるん?」
グリーンとシュトルムの会話を聞いていたイエローが、天井のスピーカーに訊ねる。
「先ほどは『読』のスーパーヒロインが主導権を握りましたが、五人の考えが一致した場合、威力は何倍に増すのでしょうかねえ……」
イエローの垂れ目が上がった。
「『祓』はうち達の心が原動力や、せやったら!」
机に据え置かれたマイクを、唇までの位置へ曲げ、イエローは放送を始めた。
「皆、えぇ? これから毎回三秒おきに、次どないするかアンケートをとります。カウントダウンとるから、1の後に口頭で答えてなぁ」
全席の画面に、円グラフが表示される。
「答えがバラバラやっても、一番『祓』が多かった人のが採用される。失敗しても、皆でカバーしあうんや」
「グラフの、数値が、全て、20%に、なったら……」
キーボードに、露草色の波が立つ。キミックの応答だ。
「ごっつうだいなみっくなわたいらの姿が拝めるで!」
ピンクがハート形の床で、思いきり跳んだ。
「心ヲひとつニっスね☆ トライしマース」
「胸がずきゅきゅんくるわ♡ じゃんじゃんバキバキ成功させるわよ」
撫子色の花びらが、ピンクの操縦席に渦巻いた。
「おっ、化けもんかしわもちが、両腕をくっつけてこっち近づいてくるぞっ!」
「おおきに、グリーン。いくでぇ、3・2・1」
カムナギゴギョウオーが、上昇した。
「あなた達を『引き』結んで、良かった」
司令官・安達太良まゆみが、鯉のぼりに乗って見守っていた。
「もうじき、新たな章が始まるわ……!」
おぼつかなかった動作が、だんだんと機敏になっていく。カムナギゴギョウオーは、学ぶ合体ロボットだ!
「3・2・1!」
《パンチ》《回避》
「追い込みのチャンスだったけど、しゃあねえっ、もっかいだっ!」
「三択が二択に減った!!! その調子だッ!!!」
「ちまきミサイル、来マスよ」
「相手が焦ってきているの♡ ガンガン攻めてー!」
「3・2・1!」
《突き》
「答えが、一致した……です」
「得たり! わたいらの剣を受けてみい!」
左腕に水の剣が湧きだし、ちまきをかいくぐって「障り」の懐へ飛び込む!
「『祓』が直撃しましたね。しかし、筋立てがあまりにも単純です。ナレッジさん達に不利な急展開が起こらないことを祈りますよ」
「私も、めずらしくナレッジと同感なんだよね」
イエローの操縦席に、レッドより通信が入る。
「嫌な予感が、するん?」
「うん……。さっき、ビブーリオのレバーが重くなっていたんだ。最初に引いた時は、なんともなかったんだけれど、ねえビブーリオ」
「はい―。いわゆる老朽化ではないでしょうか。ここまで形を保っていられることが不思議です」
低い音と高い音が交互に流れた。緊急連絡らしい。
《不具合発生、不具合発生。当機体に異物が混入、直ちに異物を除去してください》
グリーンがマットを踏みつけた。
「鈍くて、粘ついてたのは、こいつのせいかっ!」
「うかつだった!!!」
ブルーがキーボードを目にもとまらぬ速さで打つ。
「わたいらが『障り』ごときの策にはまってもろうたやと?」
「『障り』は、私達が、操縦に、慣れていないうちに、排除、しなかった、非効率的……です」
「ムダはトラップ、もちもちボディに突ッ込まセテ、カムナギゴギョウオーを身ジロぎモできナイよウにシタんデスよー!!」
ピンクがいくらあがいても、こびりついた餅は取れなかった。
「␣先の恥辱、晴らさずにおけるか!」
かしわもち怪人が左右の手を頭の上に合わせ、足と足をぴったり付けて回りだした。
「␣邪魔な『祓』よ、五月雨となれ!!」
太き錐に、カムナギゴギョウオーはなす術がないのか。
「甘いわよ、『皐月の障り』」
錐が宙に浮いたまま、止まった。
「␣お前か、苦味の元は」
「あらー、カレー味にしてほしいわ」
カムナギゴギョウオーの肩に、まゆみが降りた。
「␣そこを通せ。お前では祓えない」
「ふふっ、どうかしらね?」
まゆみは弓のペンダントを外し、前髪に当てた。
「まゆみ、心を決めたんですね」
「もしかして、先生は」
ビブーリオは黙って、レッドに最後まで言ってはならないと諭した。
「な、は、は……憎らしい、憎らしいて、かなわんわい」
「……………………」
ブルーは、キミックに呼応してゆらめくキーボードに手を添えた。
「爆発娘、追いすがるなよ」
「……おうよ、見奉ってやる」
シュトルムが、グリーンにまゆみの背中を大きく映してやった。
「この儀に立ち会えたことを、どなたに感謝致しましょうか」
「安達太良先生、うちがしっかり覚えておきますからね」
ナレッジは口をつぐみ、イエローは姿勢を直して経過に注意した。
「この瞬間のみは、君を最も美しいと認めよう」
「センセ、辿リ着イタんデスね、ホントウノワタシに」
ローザヸタが操縦席の照明を撫子色にし、ピンクはメルヘンな杖を抱いて応援した。
「ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおゑ にさりへて のますあせえほれけ」
祝詞を唱えたまゆみは、続いて次の和歌を朗詠した。先祖・アヅサユミに教えてもらった、一度きりの歌であった。
アヅサユミ 引く縁より 出でし色
束ねて行かむ よろづよの路
「␣お前は、何者だ」
藤色に灯った瞳が、「皐月の障り」を射留める。
「人はかく呼ぶでしょうね。空満大学文学部日本文学国語学科准教授、学科公認サークル『スーパーヒロインズ!』司令官、真弓春彦の妻、無類のカレー好き、アンダンテまゆみ、そして、二代目アヅサユミ」
白いスーツと白いハイヒールに、幾枚もの領巾がかかる。
「けれど、私はいつだってかく名乗るのよ」
切り揃えられた短髪に、弓矢を象った銀のチャームが輝く。
「私の名前は、安達太良まゆみ!」
人と人ならざるものとの間におかれていた存在が、神を継いだ。
「あなた達に、神威をあげるわ」
藤色の気流が、カムナギゴギョウオーを清める。体の至る所に詰まっていた餅が、煮られたように柔らかくなり、すべり落ちていった。
「よっしゃ、反撃できるっ!」
「次ニ懸けマスよ☆」
空をスキップするカムナギゴギョウオーに、まゆみは太陽のごとく笑った。
「結末へ、私もお供して良いかしら」
まゆみが藤色の光と化し、縦に伸びて内側に曲がり、名を表す武器となった。
「弓……ですか」
「せや、弓と文学を司る神様やもんね」
銀の弓が、カムナギゴギョウオーの左手に収まる。右手には、藤色の輝く矢が持たされた。
「あなた達、この一本によろづの『祓』を注いで! 皐月待つ明日に届けましょ!」
『ラジャー!』
けり、つけさせていただきます。レッドは熱き心に任せてレバーを引いた。
『わだかまりを読もう! いさかいを和らげる技を! おびえを速く過ぎて! 世のみだれに知を! むなしさをも愛でよう! ふみか・ビブーリオ・いおん・キミック・はなび・シュトルム・ゆうひ・ナレッジ・あきこ・ローザヸタ―あめつちコロフォン!!』
緋色の土器と真砂が、露草色の清流と潮が、常盤色の篝火と嵐が、蒲公英色の天秤と釵が、撫子色の光芒と薔薇が、藤色の矢に結びつき、「皐月の障り」を穿つ!
「␣意気を、意志を、削いでやるつもりが……こちらが、削がれていた…………!」
結末を書かれた「皐月の障り」は、菓子の身を爆散させ、その物語を閉じたのであった。
「祓エタんデスよネ……?」
あきこピンクが、目をこすって床にへたり込んだ。緊張の糸が解けたのだろう。あくびを三回した。
「なんでやろぉ、世界が、クリアに見えてくるわぁ」
柔和な顔をしてゆうひイエローは、操縦席から間を眺めた。鯉のぼりが消えて、空がすっきりしている。
「保養鬱散っ、明日は昼寝すっかなっ!」
はなびグリーンは椅子に深く座り、上半身をひねった。教職課程の小レポートは、明後日に取り組もう。
「来週分の食料品、買い出し当番……です」
買うべき物を、暗唱しはじめるいおんブルー。共同生活している親友は、優しい夢の中にいるだろうか。
「また一日が、始まるんだね」
明日が当たり前に来ることを、今回も守り抜いた。ふみかレッドは、ゆっくり息をついた。連休は書店アルバイトと図書館で本漬けだ。
間が、静かに割れてゆく。文字をひとつしか置けないほどの小さな正方形の破片を、次から次へとこぼす。未明の空が、ヒロインズと神代の戦士、まゆみ達日本文学国語学科教員を迎えた。




