05 屋敷はテーマパーク
05 屋敷はテーマパーク
それから数日後。
プレッピーは馬車に乗って王都のはずれにある丘を登っていた。
「このあたりにハクメイさんの屋敷があるのよね。幽霊騒ぎがすごいことになってるそうだから、きっと地価も大暴落していることでしょう。ハクメイさんの泣き顔が目に浮かぶようだわ」
プレッピーの予想は半分はずれ、半分的中する。
ハクメイの屋敷はツタの絡まった不気味な佇まいをしていた。
壁にはどす黒い血がべっとりと付き、柱には怨霊の叫びのような模様が浮かび上がっている。
そのおどろおどろしさと反比例するように、まわりの庭は大にぎわい。
多くの若い男女が詰めかけ、まわりには屋台が軒を連ねていた。
「ここが幽霊の出る屋敷なの?」
「そうそう、悲恋の後に自害した女子高生の幽霊が出るらしい!」
「しかもその幽霊を見たカップルは、二度と離れられなくなるんだって!」
「怖いけど、なんだか素敵! 見たい見たい!」
「さあさあ、いらっしゃいいらっしゃい! 怨霊チョコバナナはいかがですか!」
「こっちは怨霊クジだよ! 当たれば怨霊グッズがもらえるよ!」
屋台の食べ物やクジは飛ぶように売れており、しかも賭博の屋台まで出ていた。
「さぁさぁ、今日はどの窓から怨霊が出てくるのか!? 当たれば大儲けだよ、はったはった!」
屋敷の窓には1から12までの番号が血文字で書かれていて、怨霊の出る場所を賭けられるようになっていた。
想像とは真逆の光景が広がっていたので、プレッピーは目をぱちくりさせるばかり。
「な……なんなの……これ……?」
観客たちの悲鳴、プレッピーがつられて見上げると、屋敷の二階にある6番の窓には怨霊が立っていた。
「って……あれ、ハクメイさん!?」
ハクメイは白装束に三角頭巾、両手を前に垂らすという、ノリノリの幽霊スタイルだった。
周囲から、ひゅ~どろどろとBGMが奏でられ、さらに不気味さをもり立る。
カップルたちはきゃあきゃあと抱きあい、ハズレ券が宙を舞う。
プレッピーは紙吹雪の中、呆然と立ち尽くしていた。
「ま……まさか……プレッピーのウワサを利用して、商売するなんて……」
そう。ハクメイが思いついた反撃の一手、それは悪いウワサを利用して、屋敷をテーマパーク化することであった。
自らがメインキャストのネズミ役になることで、夢の国へと昇華させていたのだ。
地価は暴落するどころか、王都の貴族たちが高額で買い上げたいという申し出が殺到する。
「こ……これはウソよ! あの幽霊はニセモノよ! みんな騙されちゃだめ! だから、ウソなんだってばぁ!」
プレッピーは真っ青になり、慌ててウワサの火消しを始めるが、時すでに遅し。
ハクメイの屋敷は王都の人々にとっての新しい娯楽となり、大成功を収めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
プレッピーのウワサのおかげで、わたしの手元にはかなりの額の資金が集まった。
しかしお父様は、投資のために私財を投げ打ったうえに借金までしている。
まだまだ足りないと思ったわたしは、次の一手に出ることにした。
おばけテーマパークのほうは3ヶ月の期間限定ということにして、最終日にはみんなの愛の力でわたしが昇天するというイベントで幕を閉じた。
このまま続けてもよかったんだけど、自宅がテーマパークというのはどうにも落ち着かない。
人気者のマスコットから病弱女子高生に戻ったわたしは、昼休みを利用して学園の裏庭に来ていた。
「たしかここに、あの人がいるはず……」
あの人の名はキッド。『GTH』の恋人役のひとりだ。
なんで探しているかというと、わたしの推しキャラのひとりだから。
よく考えたらわたしは、めちゃくちゃ大好きなゲームの中にいる。
ハクメイになったばかりの頃は非業の死から逃れることばかり考えてたんだけど、せっかくだから推しキャラに会っておきたいと思ったんだよね。
キッドは漁師の息子で、学園のワルどもを束ねている不良少年。
いつもしかめっ面をしていて、粗暴で女の子に興味無いように見えるんだけど、いちど好きになったら一途になるタイプ。
そしてなによりも魅力的なのは……あ、いた。
キッドは崩れた旧校舎、落書きだらけのレンガ塀に囲まれ、瓦礫の上に立てヒザで座っていた。
その姿は遠目でしかないのに、わたしは思わず溜息を漏らしてしまう。
「か……かっこいいですわ……! 画面ごしに見るより、数倍……!」
無造作に伸ばした髪はワイルド、かつ色がシルバーなせいかゴージャスさがある。
ツリ目がちで燃えるような真っ赤な瞳。
海の男だけあって日焼けした肌、ワイシャツのボタンを外して着崩した襟からはたくましい胸板がチラ見え。
まわりには仲間がたむろしてるんだけど、同じ不良でも容姿や身体つき、まとうオーラがキッドだけは別格だった。
わたしの存在に気づくと、ワルたちのガラの悪い視線が全身に絡みついてくる。
いまのわたしは傍目から見たら、オオカミの群れに迷いこんだ子羊のようだろう。
なんて思っていたら、
「ああん、なんだテメェは? 死んでない幽霊みたいなツラしやがって」
「お前、知らないのかよ。コイツは幽霊だよ」
「幽霊ってしゃべれたのかよ」
「ってかマジで幽霊みたいだな」
「おいおい、コイツ幽霊のクセしてビビッてやがるぜ」
「ここはキッドさんのナワバリだ、女子供が来ていい場所じゃねんだよ。たとえ幽霊であってもな」
ワルたちは誰も、わたしを子羊扱いしてくれなかった。
投げかけられた言葉のすべて幽霊という単語が入ってしまうほどに、わたしの幽霊っぷりは磨きが掛かってしまったらしい。
そのリクエストに応えるように、わたしはゆらりと動く。
「ごきげんよう、キッドさん」
カーテンのように長い制服のスカートをつまんで名指しで挨拶。しかしキッドは答えてくれない。
蔑むような視線を向けてくるばかりであった。
キッドは親しくない人間をゴミのような目で見るクセがある。権力者や金持ちに対してその傾向が強い。
そのため彼に仲良くなるためには鋼のメンタルか、どMの気質がないと厳しいんだ。
最初はロクに口も聞いてもらえないのはわかっていたので、わたしは自分の要件だけをさっさと伝えた。
「わたしのパートナーになってくださいませんか? ビジネス・パートナーに」
思いも寄らぬ話だったのだろう、キッドの眉が寄るのがわかった。
しかし彼はけだるそうな溜息を吐くと、「バカかお前」と冷や水のような言葉をわたしに浴びせる。
つられて仲間たちもバカ笑いをはじめた。
「ぎゃははは! バカだコイツ! 幽霊とビジネスするヤツがいるかよ!」
「キッドさんはな、ハートのねぇヤツは相手にしないんだよ!」
予想どおり、まったく相手にされない。でも、あきらめるもんか。
キッドは誰に対しても反抗的で斜に構えているように見えるけど、実は情熱的なんだ。
仲間たちが言っているように、ハート……つまりいかに熱心であるかを伝えればきっと振り向いてくれる。
しかし具体的なことはなにも考えてこなかったわたしは、言葉に詰まってしまった。
「……えーっと……」
どうやってハートを示そうか迷っていると、キッドはわたしから興味を失い視線をそらしてしまう。
ポケットから取りだしたものを口に咥えようとしていた。
その瞬間、わたしの全身の血液が沸騰する。
恨みの主を見つけた怨霊のように、無意識のうちにキッドに飛びかかり、それをひったくっていた。
その姿が余程恐ろしかったのだろう、仲間たちは「うおっ!?」と腰を抜かして後ずさる。
わたしが奪い取ったタバコをギュッと握りしめると、キッドは鬼のような形相でわたしを睨み上げていた。