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02 いじめっこに反撃

02 いじめっこに反撃


 わたしの登校発言に、リッパは目をまん丸にして驚いていた。


「ええっ!? 昨日まではあんなに行きたくないと言っていたのに!? もう少し休んでからのほうが……!」


「その必要はありませんわ。病は気から! 病人のように振る舞っていては、いつまでたっても元気になれないのですわ!」


 リッパは病み上がりのわたしを心配してか、かなり必死になって止めてくれたんだけど、休むわけにはいかない。

 だって、『GTHグランド・セフト・ハート』のメインの舞台は『プレダトリー王立学園』。

 なにをするにも学園に行かなければ始まらないんだ。


 わたしはリッパの反対を押し切るようにして制服に着替える。

 乙女ゲーだけあって制服のデザインはとってもかわいいんだけど、ハクメイは15歳なのに140センチに満たない身長なので実にちんちくりんだった。

 こんな吹けば飛ぶような身体でいじめっこ令嬢たちに立ち向かえるとは到底思えないんだけど、引き下がるわけにはいかない。


 だって、ハクメイの記憶があるいまならハッキリとわかるんだ。

 ハクメイはやさしい子だ。そんな子が、いじめを苦に死ぬなんて許せない。

 非業しか待っていない運命だったとしても、せめていじめっこ令嬢たちにひと泡吹かせてから死んでやる。


 わたしは復讐心に燃えながら、馬車に乗って屋敷を出る。

 それで思いだしたんだけど、ハクメイの住んでいる屋敷は王都のはずれにある、緑豊かな丘の上にあった。


 父親のドゥンケルハイドは王都の高級住宅街に屋敷を構えていて、幼い頃から別居状態。

 もう何年も会っていないので、ハクメイはいじめられても父親に相談できず、ずっとひとりで抱え込んできたんだ。


 そう思うと、ハクメイをほったらかしにしているドゥンケルハイドにも腹が立ってくる。

 わたしの余生がまだあるのなら、ドゥンケルハイドもギャフンと言わせてやると誓いながら学園へと向かった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 『GTHグランド・セフト・ハート』は乙女ゲーによくある中世ヨーロッパのような世界観なんだけど、細部については日本的な文化が取り入れられている。

 学園は西洋の城のような造りをしているのに昇降口には靴箱があって、日本の学校のように上履きに履き替えなくてはならない。


「ゲームでは気になりませんでしたけど、リアルで体験すると妙なカンジですわね」


 ひとりごちながら自分の靴箱を開けると、上履きの上には黒いものが蠢いていた。

 その正体がわかった途端、わたしの心は弾む。


「……え……ええっ!? こ……これは、オオクワガタ……!? しかも、3匹も……!」


「あらあら、気に入らなかった? 同じ虫どうし、気が合うかと思ったのに」


 声のしたほうを見ると、そこには取り巻きを引きつれた巻き毛の少女が立っていた。

 彼女はプレッピー・サンケンシップ。

 ハクメイいじめのリーダー格で、荒縄の首飾りをプレゼントした張本人だ。


 さっそく、仕掛けてきたか……!


 わたしは負けてなるものかと、これ見よがしに声を明るくしながら靴箱からオオクワガタを取りだした。


「気に入らないなんてとんでもない! 最高のプレゼントですわ、プレッピーさん!」


 それだけでプレッピーはギョッとなる。彼女は虫が大嫌いなんだ。

 わたしはオオクワガタを両手に乗せてプレッピーに近づく。すると彼女は磁石に反発するように後ずさっていた。


「なっ……!? あ、あなた、虫が怖くないの!? この前なんて見ただけで卒倒してたのに!?」


「よく見たらかわいいってことに気づいたんですの! ほら、プレッピーさんも、もっとよく見てみるとよいですわ!」


 わたしはプレッピーにグイグイ迫って壁際に追いつめると、オオクワガタが乗った手を鼻先に突きつける。

 すると待ってましたとばかりに、オオクワガタはプレッピーの鼻を挟み込んだ。


「いっ……いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 窓ガラスが割れんばかりの悲鳴、鼻先で爆竹が破裂したかのようにのけぞるプレッピー。

 これがもしバラエティ番組だったら、爆笑間違いなしの見事なリアクションだった。

 朝の昇降口は登校してきた生徒たちで賑わっていて、みなプレッピーの鼻クワガタに注目している。


 わたしはここぞとばかりに残り2匹のオオクワガタを掴み、プレッピーの耳元に近づけた。

 オオクワガタはすかさず耳たぶに食らいつき、ピアスのようにぶらさがる。

 プレッピーは「いだっ!?」とのけぞったあと、窓ガラスに映った自分の顔に気づき、気がふれたように絶叫した。


「いっ……いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ちょっと大げさな気もするが無理もない。

 この学園は王族や貴族の子供たちが通う、いわゆるお坊ちゃまお嬢さま学園。

 虫なんて見るのも汚らわしいと躾けられてきた子たちばかりだから、虫に触ることすらできない。

 プレッピーの状況を現代に例えるなら、自分の顔にGが貼り付いてるのを目撃したようなものだろう。


 ちなみにわたしは虫はぜんぜん平気で、むしろ好きなくらい。

 前世で取引先の子供たちの昆虫採集を手伝わされていたから、おのずと慣れてしまった。


 わたしは腕を組み、口に手を当てた上品なポーズでせせら笑う。いつも彼女がわたしにしているように。


「オオクワガタは黒いダイヤモンドと呼ばれておりますの。宝石がお好きなプレッピーさんにお似合いですわね。……オホホホホ!」


 まわりで見ていた生徒は引き気味だったが、わたしの一言に吹き出し笑い出す。

 プレッピーは涙を撒き散らす勢いで暴れていた。


「や……やだ……! やだぁ! と……取って! 誰が取って! 取ってぇぇぇぇ!!」


 しかしプレッピーの取り巻きたちは誰も助けようとはせず、バイキンが来たみたいな顔で避けるばかり。

 誰からも見捨てられ、プレッピーはとうとう泣き崩れてしまう。

 制服が汚れるのも構わず、駄々っ子のように廊下を転げ回りはじめた。


「もういやっ! 誰か! 誰か助けてっ! いやぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」


 やがて泣き叫びすぎて息ができなくなり、ついにショック症状のように引きつけを起こしてしまった。

 周囲は気の毒がっていたが、彼女にされた仕打ちの記憶がありありと残っているわたしとしては、ちっともかわいそうだとは思わなかった。


 それに彼女はきっと、ハクメイにした数々のいじめを覚えていない。いじめっこというのはそういうものだ。


「だけど今日、一生忘れられない思い出ができましたわね」


 わたしはだらしない顔でノビているプレッピーの顔からオオクワガタを外し、ふたたび手のひらに乗せる。

 近くの窓を開け「森へ帰るのですわ」と外に放してやった。

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