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0時20分の僕から

作者: 虚

 初めから分かっていた。0%だ。勝てる見込みのない戦。

 でも「飲みに行こう」って誘われたときはやっぱり嬉しかったんだ。

「好きになった方が負け」なんてそんな月並みな言葉も,信じちゃいなかった。


 中2の時,3ヵ月だけ付き合ったことあったよね。もう7年経つかな。デートは一度きり,冬,地元のイルミネーション一緒に見に行ったよね。誰かを好きになったのも,手を繋いだのも,キスをしたのも,正真正銘君が初めてだった。

 でもお酒をあおりながら19時00分の君は「中学の恋愛なんて遊びみたいなもんじゃん?よく覚えてないし,今も昔も良い友達でそれでいいじゃん?」なんて,あまりにも屈託のない笑顔で僕に聞くから,だから僕も笑って応えるんだ。「そうだね,もうずっと前だし忘れちゃうよね。今も昔もずっと良い友達だよ」って。


 君が嬉しそうにする君の好きだった人の話。全部知ってるよ。よく電話で聞かせてくれたよね。

高校の時からずっと好きだった高校の先生の話。君の大好きな塩顔で年上の余裕ある男。

3年片思いしてたんだもんね。高校卒業した後2回彼の家に行った話。そこで好きでもないホラー映画を見せられた話,静岡までイルミネーションを見に行った話。彼との関係が近づくに連れて,電話越しの君の声が,どんどん嬉しそうに楽しそうに変わっていくのを感じたよ。

でも彼にとって君はただの浮気相手で,「わたしはただの都合良い女だった」って君は怒り口調なのに,涙声で話すんだ。そんな君に僕は言うんだ。「君に相応しい男がいつか必ず現れるよ。自信もって。」って。


 中学の時の元カレとよりを戻したんだよね。彼はバーテンダーで多忙な人。週1休みでなかなか会えなかったんだよね。もちろん塩顔。でも彼と一緒に飲むお酒はいつも美味しくて,そこでする彼の話が面白くて,可笑しくて。そんな彼との時間が大好きだったんだよね。京都に旅行に行った話,そこでおそろいの香水を買った話。週1休みの彼は時間がなくて,旅行はいつも日帰りだったんだよね。でも君は,彼のことが好きすぎて,もっと彼に会いたくなって,そんな君に応えようと彼は無理して,お互い好きなのにうまくいかなくなったんだよね。20時00分の君はお酒を片手に,「好き同士ってだけじゃうまくいかないんだ,大人になったんだよね私達。」って少し寂しそうな眼をしながら僕に話すんだ。だから僕はまた言うんだよ「君に相応しい男がいつか必ず現れるよ。自信もって。」って。


 お酒が進んだ君とカラオケに行った。君が歌うのは思い出の歌。高校教師との,バーテンダーとの思い出の歌。涙を目にいっぱいに浮かべながら君は歌う。僕が君を見ると22時の君は,「飲みすぎたかな。」といたずらっぽく微笑むんだ。


 酔っぱらった君とカラオケを出る。泥酔した君を支える名目で僕は君の手をとり歩く。君は,「目が見えない,膝に力が入らない。」と僕の肩に体を寄せ歩く。

そして僕の肩に寄り掛かった22時30分の君は,元カレのバーテンダーの話を,3年片思いした高校教師の話を,愛おしそうに話すんだ。


 君のこと,僕はいろいろ知ってるんだよ。付き合うなら楽しい人。結婚するなら年上の余裕がある人。好きなタイプは塩顔。好きになるまでのハードルが高くて,好きになったら一途で盲目。一生で本気で好きになった人は2人だけ。結婚願望が高くて占い師に25歳で結婚できると聞いて喜んでたっけな。そんな22時45分の君が僕に言うんだ。「ねぇ,どんな人がタイプ?」って。だから僕は,だから僕は言うんだ。言うんだ。


 気づいてるんだ。君が僕を頑なに元カレと呼ばないこと。本気で好きになった2人は高校教師とバーテンダー。僕が好きな君の笑顔は,君が好きな誰かを思い浮かべるその笑顔で,僕の好きな君の声は,君が好きな誰かを思い浮かべて話すその声なんだ。

 気づいてるんだ。僕が握る君の手が僕の手を握り返すことはないし,23時00分の君を抱きしめる権利は僕に未来永劫訪れないことを。


でも,言うんだ。言うんだ23時00分の君に。

「もう少し一緒にいたい。引き止めたら怒りますか?」


23時00分の君はいたずらっぽく笑って僕の手を振りほどいて,「酔いすぎたね。帰ろ。」ってそう言ったんだ。


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