長女のめざめ
長女(高二)と次女(中三)がゴールデンウィーク中に貯めた小遣いを握り締め『文豪ストレイドッグス』のグッズを買ってくる! と宣言して一緒に町まで行きました。
いやぁ、オタクになったもんだなぁ、と。
俺も似たようなもんだからいいんだけどさ。
それにしてもふたりだけで電車に揺られて買い物に行くなんて大人になったもんだなぁと関心しておりました。
そして帰ってくると買ったグッズを並べて「かわいい」「かわいい」を連呼してたんですが、イラストのイケメン並べてかわいいはないだろう。
「かっこいいのなかにふとみせるかわいらしさがいいんだ、これが!」と娘どもの萌えポイントを語ってくれましたが、よくわからん。
個人的にはアニメをチラ見しましたが『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドバトルをわかりやすくスタイリッシュにしただけなんじゃ……(ファンの方、すみません!)
そんな個人的感想を述べると娘どもは烈火の如く怒るので『萌えのポイントとかアニメの二次元キャラにキャー、キャーいえるなんてオタクだなぁ』と黙ったままキャラグッズを肴に語るオタ話を微笑ましく見守っていました。
そして唐突に次女が「長女がBL同人誌コーナーで延々と物色してた」といいました。
本当に唐突だったので長女は次女を黙らせることができず「次女! それはいうな、と!」と次女を怒り頭を抱えてしまいました。
三女と末っ子長男はなんか長女はエロヤバいものが好きなのか、という侮蔑の視線を送り、妻は「実際のホモは汚い」と単刀直入に個人的感想をいいます。(というかなにげに一番酷いことをいってるな、妻)
そんな修羅場のなかで長女は「はぁぁ」と長いため息なのか、気合いなのか、とりあえず深呼吸をしていいました。
「そもそも少女漫画なんてすべて恋愛もの。それをほとんどすべての女の子は読んでいる。そしてBLはジャンルの名前で、単純に恋愛もの。ただ性が男性と男性というだけで恋愛にはかわりがない。人と人が恋愛するという美しいことに私も興味があるだけ」と周囲から酸素が消え去ってしまったかのような苦しい言い訳をします。
遂に長女もBLに目覚めたか、という事実に俺は昔のことを思い出していました。
あれは俺がまだ二十歳(自称)だった頃、空前のケータイ小説ブームで当時、ブログを書いていた俺は「この程度の文章と文字数でお金になるんだったら俺でもいけるかも!」ととあるケータイ小説のSNSで活動していました。(今と同じで鳴かず飛ばずでしたが)
そんななかBLというジャンルを耳にし、喧嘩越しに「よくわからん!」「それでいいのか!」となにか書き連ねました。
腐女子の書き手さんから苦情もいただきましたが、一部の腐女子から「その意見はわかります」と懇切丁寧な返答がありました。
「なにか誤解がありますし、疑問が多いように感じました。できるだけ解説しますよ」
まるで貴婦(腐)人のような物腰の数名によって専用コミュニティがつくられ、俺の質問を回答してゆくというかたちでBLというものの解説がくり広げられました。
まずなぜ男性×男性なのか?
「これは受け取る人によって多種多様な意見があるとおもいます。ちなみに私は恋愛ものが好きでよく読んでいましたが、結局、男女結ばれた末に結婚というものがあり、出産というものがあり、育児があり、家庭がある。これは私のような年齢の女性には生々しく、現実的すぎて現実逃避としての美しい恋愛から一気に生活感が増し楽しめなくなる。ところがBLは男性と男性なので設定のみですでに恋愛としてハードルが高くなり燃え(萌え)ます。そして結ばれた末にもそこには出産がない。ただふたりが愛し合う。その愛が試されることが続き大変美味しいものなのです」
「私は上の人とは別意見なのですが、恋愛ものはあまり好きではなく、ファンタジーやSFをメインに書いたり読んだりしています。その私からすれば単純に女の私にとって美しいものは男性なのです。だから主人公は男性が望ましい。そしてヒロインに求められるかわいらしさ、健気さなどもまた男性が望ましい。つまり私の目線で美しいものだけで作られたものがBLなのです。美しい花はそれだけで美しい。けれど花束はもっと美しいでしょう?」
男性が萌えやアダルトなジャンルに入り浸り現実と幻想の区別がつかなくなり、犯罪を犯すという話を度々聞きますが、BLというジャンルに対してそういうことは有り得ますか? 実は自分には娘がいます。妻はBLに興味がないようですが、娘がBLを好きになることは有り得ますか?
「第一に創作で現実と幻想の区別がつかなくなるというのは余程特別な人間でしょう。マスコミはそういう切り口で私たちの文化のせいにして普通なら理解できないような凶悪、猟奇的な犯罪に一応の答えを出しているだけのように思えます。BLというジャンルですが、いわゆる恋愛ものです。それは人が人を好きになるという話なので実は恋愛小説や恋愛漫画とさして変わるものではありません。前にいった通り、人それぞれの受けとり方がありますから、一概にはいえませんが、女の人が男の子を拉致すること、監禁することはないと思います。最後にいままであなたの書いたBLに対しての誤解や批判はすべて娘さんへの不安からきているものと思いました。奥様はBLを嗜まれない、とのことですが、娘がどっぷりハマり読むばかりか、書いたり描いたりすることは十分有り得ます。女性のある種の理想郷ですから! ですが、安心してください。BLとは個人的に楽しむ嗜好品です。もし、そのような本やデータを目にしたとしても見なかったことにして黙ってそっとしておいてください」
「BL好きにならない方ももちろんいます。それは性癖や個人的な趣味ですから当たり前です。私の友人の場合は男性同士は気持ち悪いとBLに批判的な方もいます。ですが、私たちは誰の迷惑にもなっていません。私に関しては気持ち悪い趣味、としての自覚をもっています。そこで理解できない人に無理に理解してもらおうとは思っていません。個人的にBLをケータイ小説として書いて、同志と楽しんでいくつもりです」
まだ二十歳(自称)の頃の俺は感銘を受けました。
そのときある程度はBLに関して理解できたと思います。
そのことがあるお陰で月日は経ち、今、俺(現在も自称・二十歳)の娘が高校生になり立派な腐女子になったとしてもそっと見守っていこうと思います。
いつかベッドの下にあるBL本をそっと布団の上に積み上げて置くつもりです。