表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/300

第五章46 『最強の二人、過去とのつながり』

おかえり、涼晴。

「まさか……本当にひっぱたいて戻るなんてね」



 居酒屋で八割がた冗談で言ったつもりのことが、まさか現実になるとは。


 ソファに腰掛けて編集者にほほを冷やされている小説家を見ると、苦笑いが止まらない。



 現在の状況を整理する。


 グレモリーと契約したことによって手に入れた《過去》に干渉する力が原因で、涼晴(すずはる)の肉体のもとの持ち主である涼太郎(りょうたろう)が、涼晴(すずはる)を乗っ取ってしまった。反動で気を失ってしまったが、目が覚めても涼太郎(りょうたろう)の性格のまま。


 どうにかしようと『裏社会(バックヤード)』へと足を運んだ時、『(ルーズ)』から襲撃を受けた四人。無事討伐に成功したのだが、ひょんなことから涼太郎(りょうたろう)涼晴(すずはる)と入れ替わったのだ。



 それから夜が明け、もう一度四人が事務所に集結したところ。どうやら、涼晴(すずはる)のままでいられたらしい。



「本当にごめんなさい!! 頭に血が上っちゃって……!!」


「いや、うーん……? 涼太郎(りょうたろう)が何か言ってしまったみたいですけど、私はどうすればいいんでしょう……? あとちょっと強いです余計痛いです……」



 律儀(りちぎ)にぺこりと頭を下げたため、保冷剤を当てている方の手が押し出された。『阿修羅(あしゅら)(かいな)』を装着したまま思いっきりビンタされたというのに、首が吹き飛ばされなかっただけまだいい。最悪死んでいたかもしれない。


 おそらく、阿修羅(あしゅら)がとっさに力を抑えてくれたのだろう。



「ご、ごめんなさい!! 私ほんとドジで……」


「まぁまぁ。それも大切な個性ですからね。あと、謝らなければいけないのは私のほうです。こちらの問題に新人くんを巻き込んでしまって……」


「大丈夫ですよ。……まだ信じられませんが、私と涼太郎(りょうたろう)くんが友達だったとしたら、関係ないわけないですから」



 やっぱり、二人はこうでなくてはいけない。ほんわかとしたなごやかな雰囲気が二人を包んでいる。愛絵(あいえ)はほほえましい気持ちになるのと同時に、依茉(えま)の立ち位置が羨ましくなるのだった。打騎(うつき)は相変わらず、能天気に笑っているようだったが。



 パン、と一つ手をたたき、本題に切り込む。



「はーい、イチャイチャはそこまでにしてちょうだい。今後涼太郎(りょうたろう)が外に出てきたときにどうするのか、決めておいた方がいいんじゃない?」



 涼晴(すずはる)はすぐに表情を真剣なものに切り替えて、会議モード。依茉(えま)愛絵(あいえ)に言われたイチャイチャがずっと気になっているようで、「そんなのじゃないですよぅ」とふくれっ面になっていた。



 さて、愛絵(あいえ)の挙げた議題というのは、たしかに大切なことである。『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』やグレモリーとの契約が奇跡的なバランスでかみ合った結果、浮き彫りになった事実。文月(ふづき) 涼晴(すずはる)という存在は作られただけであり、本来この体は文月(ふづき) 涼太郎(りょうたろう)のものであるということ。



 今こうしているうちにも、また乗っ取られないのかと不安になったが、小説家いわく入れ替わりにはかなりの負担がかかるので、連続で行うことはできないらしい。昨晩彼が気絶したのも、やはり連続的な入れ替わりが原因だったのだと確信する。



「グレモリーの力で涼晴(すずはる)涼太郎(りょうたろう)がつなげられてんなら、いっそのこと契約破棄しちまえばいいんじゃねぇのか?」


打騎(うつき)が言うことも、もちろん分かりますよ。私だって外に出られないとき、そう考えましたから。ですが……私がなぜグレモリーと契約してまで、『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』を手に入れたんだと思います? 須黒(すぐろ) 聖帝(せいてい)……一番重視しなければならないのは、あの男を止めるということです。リスクをおかさなければ、彼には勝てない。ここまできて手放すことはできませんよ」


「でもそれって……」



 少なからず、今後の人類社会に悪影響を与えるとされている存在、須黒(すぐろ) 聖帝(せいてい)。全人類の心から悪意を抽出し、自分の力にしようとしている。悪意を完全に消滅させるのならば話は変わってくるが、彼のもとに全人類分の悪意という強大なエネルギーが集まるのは、あまりにも危険すぎる。



 悪意の集め方というのも、信じられないほど強引で残酷。ヒーローに仕立て上げた涼晴(すずはる)を打ち負かすことで、『絶対に勝てない』という大きすぎる絶望を無理矢理産み付けようとしているのだ。



 もしも彼がそのまま『(ルーズ)』を大量に生み出すようなことに発展すれば……。思考することを辞めたくなるような、まさに地獄絵図が完成してしまう。



 勝てなくても相打ちにはできるかもしれない──。望みの薄い策だが、大前提として須黒(すぐろ)と対等に渡り合って火花を散らすには、『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』が絶対に必要だ。



 涼晴(すずはる)が『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』を捨て、グレモリーとの契約も解除すれば、この事態は収束するかもしれない。ここで捨てないという選択肢を選んだというのはつまり、『涼太郎(りょうたろう)との共存』を選んだのと同義。



涼太郎(りょうたろう)は、言うなればもう一人の私です。元々……文月(ふづき) 涼晴(すずはる)なんていう人間は存在しなかった。何もなければ、きっと彼は涼太郎(りょうたろう)のまま、今も生き続けていたはずなんです。でも……涼太郎(りょうたろう)は不本意に、私へとバトンを渡してしまった。私は彼の分まで生きなければならない。それでも彼の過去に触れ、知ってしまったからには助けたい。あの時、そう──」


「「()()()()()()」」




 隣に座る編集者が、突如言葉をかぶせてきた。これにはさすがに驚き、眉が持ち上がる。そっと彼女のほうを見ると、涼晴(すずはる)よりもずっと深刻な表情でうつむいていた。常温になりつつある保冷剤を、静かにテーブルにおく。



「新人くんも……気づいていたんですね」


「私の記憶には、涼太郎(りょうたろう)くんはいません。でも涼太郎(りょうたろう)くんはひたすらに、『八年前』という言葉を口にしていました。本当に私と涼太郎(りょうたろう)が友達だったとしたら、助けてあげなくちゃいけないんです。それと同時に、私は先生の担当編集ですから。迷わずお助けさせていただきます!!」


「ほんっと、お前らって似てるよなぁ。でも、お人よしだけじゃ今回の件は突破できそうにないぜ?」


「そうよ。無いって信じてるけど、涼晴(すずはる)の存在が消されるようなことがあったら、どうするつもり? 共存なんて言ってる場合じゃなくなるわ」




 ……無理。無謀。不可能。そんな言葉がよく似合う状況を、このコンビは幾度となく乗り越えてきた。未だ全貌が見えてこないような、今回の事案。愛絵(あいえ)が言ったような最悪の未来が、もしかしたら待ち受けているのかもしれない。


 しかし、やってみなければ分からないこともある。





 八年の年月が生んだこの『奇跡』……いや、『軌跡』を無駄にはできない。






涼太郎(りょうたろう)くんは、自分を殺した人物に復讐をしようとしています。あまり乗り気にはなれませんが……少しは力になれるはずです」


「私がこちら側にいては復讐になりませんからね。ここからはまた彼にバトンタッチしようと思うのですが……。その前に、確認しなければならないことがあります」


~~~




「ねぇ、かまってちょうだいよ。手始めに、キスからしてみる?」


「頭沸いてんのかこのクソビッチ」


「そうよ、ワタシはビッチ!! もうなんでもいいから持て余してる欲を満たさせてッ!! 体の奥が熱くてたまらないのよぉー!!」


「だーッ!! べたべたすんな暑苦しい!! あともうこれで三十回目くらいのやり取りだろ、うっとうしいなぁ!! いい加減諦めろよ!!」




 つきはなしてもつきはなしても。まるで磁力が働いているのではないかと思い込んでしまうぐらい、何度もグレモリーは身をすり寄せてくる。少しでも気を抜いたらファーストキスを奪われそうなので、考え事すらできないのがつらい。



 涼晴(すずはる)の存在を認めたわけではないが、よくもまぁこんな痴女(ちじょ)を隣において生活できているなとは思う。好きを見て強制的な入れ替わりをしようとしても、彼女が這い寄ってくるため外にすら出られないのだ。こんなことしている場合じゃないというのに。




 ……八年前のあの日、全てが狂った。文月(ふづき) 涼太郎(りょうたろう)は存在を抹消(まっしょう)され、依茉(えま)も記憶を消し飛ばされた。だというのに、なぜ涼晴(すずはる)依茉(えま)はもう一度、出会うことができたのだろう。神の悪戯(いたずら)とでもいうのだろうか。


 依茉(えま)が初めて『裏社会(バックヤード)』へ足を踏み入れた時、彼らは『初対面であり、初対面ではなかった』。そばで霊体としてやり取りを見守っていた涼太郎(りょうたろう)は、悔しそうにくちびるを噛んでいた。



「どうしたの? 嫌なことでも思い出した?」


「いや……ほっといてくれ。何でもない」


「本当にそうでしょうか? 私と手を組めば、貴方(あなた)の悩みの原因を消せるかもしれませんよ」

面白かったらブックマーク、高評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!

Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ