第五章45 『再会難題、まさかの展開』
ラビットオルフェノク討伐しそう。ではでは。
公園で前方・後方宙返りを何度も繰り返しても、息切れを起こしていなかったことから運動能力の高さはうかがえるものがあった。だがそれは『体育』的な視点であり、『戦闘』で発揮されることはないだろう。
そう思っていた……男が石階段を飛び降りて、『負』を撲殺する光景を見るまでは。
「オイオイどうしたぁ? 張り合いねぇなぁ!!」
注目すべきは、涼太郎の戦闘スタイル。
相手の力を利用したり、隙をついて反撃を狙うような立ち回りの涼晴に対し、涼太郎は非常に荒々しい。『荒』くもあり、『粗』くもあるが。
『負』は人間ではないとはいえ、かかしでもない。当然、縦横無尽に動き回る。『低級』でも、『中級』でも、『上級』でもその事実は変わらない。
ゆえに、両者の攻撃が同時に放たれ、つばぜり合いの要領でかみ合うことがあるのだ。普通相殺が起こる場面ではあるが、涼太郎は違った。
『負』の攻撃にわざとかぶせるように、逆手持ちにした万年筆を振り抜くのだ。『才能』由来の身体能力補正もあいまって、速度は目にもとまらぬほど。ぶつかり合うどころか、万年筆は一方的に『負』の黒い腕を、シュレッダーごとく切り刻んでいく。
なんども切断音が聞こえる中で、時折体内にまで響くような重厚な音が聞こえることがある。
どうやら群れには、『上級』もいたらしい。涼太郎の行動パターンを学習し、攻撃後の隙をついて食らいついた。杭のようにまっすぐ突き出された拳が、華奢な体に食い込む。
そのまま吹き飛ばすつもりでいたのだろう。『負』は汚らしい歯を見せて、あざけるような笑顔を浮かべる。
だが──万年筆を後方に突き立て、突っ張り棒のようにして衝撃を逃がされたとたん、一気に顔が青ざめたようだった。
「効かねぇ……なぁッ!!」
ゴガチャッ!!
後退しようとしても、もう遅い。涼太郎は退こうとする『上級』の肩をわしづかみにし、ヘッドバットをお見舞いした。
第一に、脳震盪。第二に、無慈悲なヤクザ蹴り。『長音記号』が後を追って首元を貫いたことで、抜かりはない。
相手勢力の『烈』を飲み込むほどの、さらなる『剛烈』。自身の負傷をかえりみない、斬新な戦闘スタイル。助力できるかはわからないが、彼だけに任せるわけにはいかない。
性格が涼太郎というだけで、肉体は涼晴も共有して使用する。甚大な怪我でもすれば、これからが困る。
「『阿修羅拳・弐式』!!」
『阿修羅の腕』には、炎の噴射というシンプルかつ使いやすい機能が搭載されている。装着者の『覚悟』を吸い上げて炎に変換するため、実質的な弾切れが発生しないのが大きな利点。
以前までは炎を拳に宿すとことのほか、噴射の勢いを利用して飛翔することしかできなかった。それだけでも大層な力だが、毘沙門天が戦闘に幅を利かせるためにと、修業の中で炎を操れるようにしたのだ。
拳型の炎が、黒き化け物を焼き焦がす。
「なんだ、お前も戦えるんだな」
「私たちの台詞ですよ!! それより、今は戦いに集中しましょう!!」
少し、気がかりなことがある。この程度の群れの襲撃はさほど珍しいことではない。しかし、いつもの群れには『上級』がいないはずだった。最近になって、『上級』の『負』を見ることが増加したように感じる。
おそらく、『禁忌全英書』の騒動の際突如出現した『伊邪那美』によるなんらかの策略なのだろうと、『七福神』は予測を立てているらしい。
『上級』は皆、限りなく人間に近い動作で立ち回るため、相手にしていてかなり厄介。『低級』や『中級』と同じように、上から支配するように攻撃するだけでは通用しないのだ。
とはいえ、何時間も戦闘が拮抗するようなことはない。
依茉は一般人であるがため、人一倍『負』の対策に熱心になっている。修行も、立ち合い相手が毘沙門天という豪華さ。まぁ、未だにかすり傷すらつけられた試しがないが。
それでも震えて涼晴の背を見ているだけのあの頃に比べたら、信じられないほどに強く成長した。魔球と豪快なスイングで『負』を蹴散らす打騎。多種多様な属性の魔法を駆使する愛絵。
『才能人』にはおよばぬ見栄えだが、四人組の中でも重要な戦力であることは間違いないだろう。
──妾も暇じゃない。さっさと決めろ、エマ。
「はい!! すぅ…………ふぅ…………!!」
深呼吸して、全身を駆け巡る血液の流れを把握する。循環し、この身に活力を与えてくれる。『覚悟』を練りこみ、血液をほとばしらせていく。心の内からたぎる炎をすべて吐き出すように、拳をもう一段握りこむと。
爆発したように、腕に炎がともるのだ。熱さは感じない。戦う覚悟は、彼女の背を押す温かさ。
「『炎怒乱神拳』!!」
一体。二体。三体。炎の拳を打ち込んでいくたび、さらに力が沸き上がる。ありあまる炎を噴出させて空をかけ、見事な空中殺法を繰り出す。たちまちあたりは火の海となり、悪しき者すべてを焼き滅ぼしていく。これが、阿修羅の力。
「やるなぁ。そんじゃ、俺も暴れさせてもらうぜ」
グシャアッ……!!
金属製の筆先で、『上級』の右目をつぶす。血のかわりにどす黒い粘液が、霧吹きのようにまき散らされる。金切り声で叫ぶ『負』は狂気的だったが、その様子を見て高笑いを上げる涼太郎も恐ろしい。
ぐり、とひねりながら万年筆を抜くと、後方に引き絞る。逆手に持った愛剣に、黒い波動が集中していく。
「『漆黒執筆撃・斬』ッ!!」
『黒い閃光』。彼を表すのに最適な言葉。涼晴とは打って変わって、今の彼は『負』をしのぐ勢いで極悪非道なイメージを放っている。
一体を斬首しただけでは飽き足らず、狂気に爆笑しながら次々と『負』をほうむっていく。その姿はまさしく悪魔のようで、おおかた取り巻きを片付けた三人は表情をこわばらせて彼を見ていた。
「さて、と。フィニッシュといくか」
最後の一体。先程の『漆黒執筆撃・斬』によって、、片腕を欠損させられている。それだけでも大分苦しそうだったが、涼太郎は最後まで戦闘を楽しむつもりのようだ。
軽く万年筆を振ると、二つ並んだ『長音記号』が『負』の腹に突き刺さった。貫通こそしなかったが、むしろそれでいい。というのも、わざと貫通しない程度に威力を抑えたのだ。なぜなら──
「ハッ!!」
短く吠え、斜め四十五度の角度で前方に跳躍する。ジャンプの後自然にたたまれた両脚をピンと伸ばし、ドロップキックをするような体勢になる。
「ディィィヤアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!」
吸い込まれるように、両足が閃光を打ち込む。『長音記号』を押し込むようにして跳び蹴りを放つ、『長音突蹴』。涼晴も愛用していた、まさしく『必殺技』だが、彼は右脚でのスマートなフォームだった。対して涼太郎は威力を高めるために、ドロップキックの両足蹴りを採用。
性格が違えば、戦闘において重視する箇所も異なるらしい。
……『長音突蹴』の余波によって巻き起こった砂ぼこりをかき分けるように、涼太郎が現れる。メモ帳も万年筆も、乱雑にポケットにしまう。
不安になるところがかなり見受けられたが、センスだけでここまで『負』を圧倒できるとは。予想外に涼太郎が強者であったことに固唾を飲んでいると。
当の涼太郎は依茉を一目見たとたん、突拍子もないことを言い始めるのだった。
「エマ。お前スーツの上脱ぐのはいいけど、汗で透けてんぞ? 下着が丸見えだ」
「ふぇ……? …………ッッ!?!? な……なななッ……こ、こんのッ!!!!」
今回に関しては、羞恥だけではない。涼太郎に対しての純粋な怒りも追加され、ゆでだこのごとく顔を真っ赤にした。
汗で透けたワイシャツから見える淡いピンクの下着を隠すようにしながら、敏捷度をフルに活用して接近する。あろうことか『阿修羅の腕』を装着したまま右手を振り上げ。
「バカーッッッッ!!!!」
「やべっ……!!」
見事な平手打ちが、ほほに炸裂する。
威力が高すぎて、バチン!! を通りこしてバゴン!! という音が聞こえた。しかし愛絵と打騎は、涼太郎に同情はしなかった。というか、できない。
「あの野郎……。デリカシーないところは涼晴となんら変わりねぇのな……」
「あんなにストレートに言うなんて信じられないわ……。デリカシーない男は、こうやって制裁を食らわせられて当たり前よ」
綺麗な放物線を描いて飛んで行った涼太郎は、地面に着地しても転がっていくのだった。しだいに勢いが殺されて止まっても、彼が体を起こす気配はなかった。
その代わり、聞き覚えのある『敬語』が飛んでくる。
「いきなり…………なにを…………するんですか……新人…………く……ん……」
ガクッ。仏具のおりんを鳴らすような音が聞こえてくるというような事態に、依茉たちは血相を変えて駆け寄っていくのだった。
面白かったらブックマーク、高評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!
Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin




