表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/300

第五章43 『果たされない再会』

伏線回集回ってやつかな。

 暗黒の中、さっそうと現れたもう一人の自分。初雪のように白く、腰に届くほど長い髪。我ながら細すぎる体躯(たいく)。身を包む亜麻色のコート。



 頭のてっぺんからつまさきまで、まるで全身を鏡に映しているかのようだ。同じ容姿の人間というか、あらためて自分を真正面から見ると、これほどおかしな気分になるものだろうか。

 こんな摩訶不思議な体験をしているのも、地球上でごくごく少数だと思う。



涼太郎(りょうたろう)……」


「おっと、皆まで言うな。何を言われても、体を返す気はないからな。つーかよぉ、この体は元々俺のモンなんだけどなぁ」



 手の甲から前腕にかけてさすり、久しぶりの肉体だとでも言わんばかりに喜ばしい表情をしている。彼は皆まで言うなと制止したが、実は涼晴(すずはる)が聞きたかったことは体についての事なのだ。



「それですよ。元々貴方(あなた)のものって……何を言ってるんですか。この体は私のものです」



 なおも現状というか、真実を受け止め切れていない小説家に、涼太郎(りょうたろう)は大きくため息をつく。少しはグレモリーにでも説明をされているものだと思っていたが、予想は大きく的をそれたらしい。



 こんな間抜けな人間が、己に代わって八年も生きていたのだ。考えるだけで虫唾(むしず)が走るようだった。



 涼太郎(りょうたろう)は面倒くさそうに頭をかき、いっそう目つきを鋭くする。



「あれやこれや説明しても長くなるだけだから、単刀直入に言ってやろう。涼晴(すずはる)、お前は俺のことを邪魔者みたいに思ってるんだろうが、本当ならばお前が邪魔者になるはずなんだよ。俺は夏休み最初の一週間の最終日に死んだ。だが……あのクソ野郎が俺とお前の魂を入れ替え、文月(ふづき) 涼晴(すずはる)として蘇生させたんだ。文月(ふづき) 涼晴(すずはる)なんていう人間は存在しない。お前はな、作られた存在なんだよ」




 物音が一切しない魂の空間は、涼太郎(りょうたろう)の言い放った衝撃の事実をあますことなく、呆然と立ち尽くす涼晴(すずはる)の聴覚へと送り込んだ。




 再び、長く重い沈黙が空間を蹂躙(じゅうりん)していく。




 ……視界に移る男の表情は、決してふざけているとは思えない真剣さがにじみ出ている。同時に、自分に敵意由来の嫌悪が向けられていることに気づいた。


 金縛りにあったかのように硬直する涼晴(すずはる)をよそに、涼太郎(りょうたろう)は淡々と話を続けていく。



涼晴(すずはる)よぉ。お前の後ろに立ってる悪魔の力、忘れたわけじゃあねぇよなぁ?」


「…………もちろん、記憶していますよ」



 顔が引きつっても、脳はグレモリーについての情報を必死に抽出している。悪魔の力というのはつまり、グレモリーと契約したことで得られる力のことだろう。






 彼女は確か、『女性運』と『隠れた財宝を見つけ出す力』と──『《過去》と《現在》と《未来》についてのすべてを教え説く』と言われて……






「…………ッ!! まさか……!!」



 悪寒(おかん)が背筋をくまなくなめる。自然と背筋がよくなる一方で、全身は鳥肌を立てていく。


 うそだ。そんなことがあってたまるかと。今すぐにでも狼狽(ろうばい)したくなったのを無理矢理抑え込むように、口に手を当てる。熱い吐息がコウコウと漏れ出し、心臓がうるさいくらいに踊っている。



 それらすべてが、さらに涼晴(すずはる)を焦らせた、極めつけは、涼太郎(りょうたろう)の言葉。



「気づいたみたいだな。お前が『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』を手に入れたのは、グレモリーと契約したのと同じことだ。悪魔は契約者に偉大な力をもたらす……。この前、八年前の俺の記憶を夢として見たんじゃないか? それが予兆(よちょう)だ。《過去》に触れたことこそが、俺とお前をつなぐ糸になったんだ。いやぁ、お前には感謝してるぜ、グレモリー? 俺にもう一度チャンスをくれたんだからなぁ」




 終始、グレモリーは後悔しているかのように下唇を噛み、うつむいていた。いつものセクハラ全開な彼女はどこかへと消えてしまったようで。物悲しいオーラが一粒の涙となって、こぼれ落ちる。



「ごめんなさい……でも、今回はワタシも想定外の事だったの……。ワタシが『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』と一体化していたからなのか、既に涼晴(すずはる)が『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』の力の一部を宿していたからなのかはわからないけど、『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』の力がなじむのが、あまりにも早すぎた……。同時にワタシの力も無意識のうちに注ぎ込まれて……すべてが涼太郎(りょうたろう)の魂を呼び覚ますことにつながったのよ。ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……っ!!」




 嗚咽(おえつ)を漏らしながら、泣き崩れる。


 グレモリーがここまで気を落とすのも初めての事。指し示すことは一つ、未曽有(みぞう)の事態が、この身に起きているということだ。



 悪魔であり、いつもちょっかいしか出してこないような彼女も、今では相棒の一人。胸に抱きよせて頭をそっとなで、なぐさめる。



「……大体わかりました。それで、涼太郎(りょうたろう)貴方(あなた)……もう一度チャンスをくれたと言いましたよね。何か、生前(せいぜん)やり残したことでもあるんですか。遊びたいというだけなら、力ずくで止めますけど」


「俺がやらなきゃいけねぇことは、たった一つ。()()()。俺を殺した……クソ野郎を地獄に堕とす」



 彼のまなざしは、狩人(かりうど)のよう。すぐにきびすをかえして、みたび外へと出ようとしたため一瞬しか見えなかったが、それでも十分なほどの威圧感。



「待ってください。見当はついているのですか」


「お前の存在自体気に入らねぇんだがよ、そういうおせっかいなところも大っ嫌いなんだよ。いいか、俺は俺の力で奴を叩きのめす。そして……エマの笑顔を取り戻すんだ。お前はグレモリーとイチャイチャしてりゃいいんだよ」


~~~




 二十三時。疲労からだろうか、いつもの二十三時と比べて五割増しでまぶたが重い。蓮司(れんじ)と会話をしていた時は気にならなかったが、彼が去った後から途端に睡魔が襲ってきたのだ。


 それでも、眠るわけにはいかない。涼太郎(りょうたろう)──もしくは涼晴(すずはる)がいつ起きてもいいように、依茉(えま)が見守ってやらなければいけないのだ。



 涼晴(すずはる)は、どれだけ苦しい状況でも、依茉(えま)やみんなを守ってくれた。彼に課せられた試練が多かったのは認めるが、それでも弱音を吐いたところを見たことはあまりない。

 再び彼と共に『楽しさにあふれていて、ちょっと忙しい日々』が送れることに思いをはせていると。



「新人ちゃん!! 涼晴(すずはる)は大丈夫か!!」


「ちょっと、馬鹿!! 病院なんだからボリュームおさえなさい!!」



 タクシーを待っている時間も惜しかったのだろうか、汗を流す打騎(うつき)愛絵(あいえ)が遅れてやってきた。


 個室とはいえ大声で話す打騎(うつき)をしかりつけた愛絵(あいえ)も、声は大きい。彼女は特に冷静なイメージがあるので、依茉(えま)はちょっとびっくりした。おかげで眠気も少し飛んだようだ。



「何があったのよ? まさか……涼太郎(りょうたろう)?」


涼太郎(りょうたろう)……? 誰だ、そいつ」


「信じられないかもしれませんが……先生のもう一つの人格らしい涼太郎(りょうたろう)が出てきてしまって、そのせいで意識を失ったみたいなんです……」


「……い、色々聞きたいことはあるが、今はそれでいいや」




 声量が通常になったとはいえ、三人がこれだけ会話をしているというのに、小説家は起きる気配が全くない。


 白いベッドに横たわる涼晴(すずはる)。それを見守る依茉(えま)。かけつける同胞(どうほう)。現場がまるで人の死に立ち会っているように思えてしまって、不思議と怖くなる。



 もう一度、涼晴(すずはる)の白い手を握り、



「先生……みなさんも来てくださいましたよ? いつでも起きていい……」







 バサッッッ!!!!







 大きな鳥が翼をはためかせるような音とともに、突如としてかけ布団が宙に舞い上がった。突然すぎる出来事に大変驚いた依茉(えま)は椅子から転げ落ち。愛絵(あいえ)打騎(うつき)は跳びあがって空中で衝突してから倒れてしまう。



 ……おそるおそる見上げるように、ベッドを確認すると──。





「先生……先生!!」





 若干猫背気味で、上体を起こしている小説家の姿があったのだ。依茉(すずはる)の涙腺をゆるませるのには、それだけで十分だった。腰が抜けていることなんか忘れたように、思わず抱き着く。



「先生……!!」










「……………………()()涼晴(アイツ)には、もう少し黙っててもらうことにしたよ」

面白かったらブックマーク、高評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!

Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ