第五章29 『いわゆる四角関係ってやつらしいです』
日常回楽しかった。ではでは。
神々の間でしか感染しない特殊なウィルス、『神風邪』。なにやら爆発特攻してきそうな名前だが、実際に引き起こされる被害は、爆発がかわいく思えてしまうほど凶悪だ。
以前『七福神』がそろって『神風邪』に毒され、一斉にくしゃみをしたことで世界の軸がずれてしまったのだ。よって働くという概念がなくなってしまったので、海水浴などで臨時休暇を楽しんだ。
その二日目に、突如依茉たちの前に姿を現したのが、『闇企業』の剣士、『右手の殺意』──天草 刃だった。
……どうして休みたいときに限って、休ませてくれそうもないようなことがやってくるのだろう。紫と水色のベビードールをもって、ゆらゆら揺れているのは、『左手の強欲』──今富 嘉銭。
子猫のような顔つきやしぐさで愛嬌のあるキャラクターだが、れっきとした敵勢力の人間である。
とはいえ、幸いここは現実世界だ。才能と能力をぶつけて火花を散らすなんてことにはならない……と思う。断定できないのが、彼ら『闇企業』の特徴であり、厄介なところ。
「あんた達、一体どんな目的であたし達に接触してくるのよ」
「にゃはっ。やんわり言えば、敵情視察ってやつかにゃ~。今日はただのお買い物のつもりで来たんだけどね~」
そう言うと、足を前後に開いて警戒態勢をとっている愛絵たちには目もくれず、背後に設置されている全身鏡に向き直った。
薄カーテンのような半透明の下着を体に当てては、にゃはは、にゃはははと満足そうに笑っている。もしや、本当に争う気はないのだろうか。
「あの……嘉銭さん? 私達のことはもういいんですか……?」
「うん、大丈夫。須黒様からは様子を見てこいとしか言われてないし~」
「本当かしら……。それと、一つ気になったんだけど……あんた、普通の下着は買わないの?」
「そーだよ~。いつもスケスケ着てる~。かわいいもん」
ベビードールも、一応下着としては最低限の機能は有している。ただ、一般的な下着に比べて、身体の保護や吸汗、湿度・温度の調節などの機能よりも、『見た目のインパクト』に重きを置いているのだ。
ゆえに風俗店でよく見ることがあるかもしれない。そういった声も聞くことがある。
これらのことから、普段使いには向いていない、俗にいう『勝負下着』に区分されるのである。依茉も存在は知っていても買ったことはないし、愛絵すら買おうと思ったことがない。だからこそ──
──見るからに歳下の娘にセクシーさで負けているなんて……ッ!!
という、ちょっとよくわからない屈辱が、二人の中を駆け巡っていた。
青ざめた表情のまま床に這いつくばりたくなったが、次の瞬間に聞こえてきた嘉銭の言葉により、再度足に力が入ることになった。
「オープンブラもオープンクロッチも似合うだろうけど、こういうのもきっと似合うだろうね~、グレモリーちゃん?」
息を詰まらせたのは、前二人だけではない。その名を呼ばれた、姿を消しているはずの悪魔もだ。
そう、彼女は今、他人に見つからないようにと術をかけて、姿を消している。長時間の使用はできないらしく、タイムリミットを過ぎれば浮き出るように姿があらわになってしまう。
まだタイムリミットはきていない。依茉と愛絵には見えているが、他の人間には視認できないはずなのだ。だのに今富 嘉銭は、グレモリーの存在を口にしたのだ。
「み、見えてるんですか!?」
「最初からね~。おっと、メカニズムを訊かれても、あいにくわたしにもわからないんだよね~。でも……これはちょーどいいタイミングかも」
『どういう意味かしら? ワタシに何か用件があったりするのかしら』
今まで行っていた作業は何だったのだろうか、紫も水色も両方かごに投入し、そのままトコトコこちらへかけ寄ってくる。店内で走り回るのも、本当に子供のような印象を受ける。
「須黒様から、文月 涼晴への伝言。……『禁忌全英書』は、力を貸しているようでまだ味方をしていない。完全に力を我が物にしたいのなら、『自分』と向き合え。……だってさ。それじゃあわたしはこの辺で!! じゃーねー!!」
にゃはははは。愉快な笑い声と共に、『左手の強欲』は会計を済ませ、店を後にするのだった。
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「結構いろんなお店回ったわね」
「すいません、プライベートのお時間に……」
「全然いいのよ、気にしないで。それにショッピングは複数人の方が楽しいもの」
ランジェリーショップ、服屋、雑貨店など、最近回れていなかった分をこれでもかと満喫した。その証拠に、女性二人の両手には大小さまざまな戦利品が十袋ほど提げられている。
これ以外にもカフェに寄ったり新しくオープンしたスイーツ店を巡ったりと、半日を充実させた。
それでも一つ、解決できていない問題がある。
『本当、楽しかったわぁ~!! ……あ、でも、ワタシの下着ってどうなるのかしら?』
結局、あのランジェリーショップには、グレモリーの巨大な果実を収めるだけの器は存在しなかった。ショーツならばまだあったのだが、どうしてもブラジャーだけがない。あったとしても過激なものしかなかった。
上下でそろえなければいけないというルールはないが、初めての下着でそれはいくらなんでもかわいそうすぎる。
「そうねぇ……。このままじゃ本当にサラシになるわよ? かと言って隣町まで行くと遅くなっちゃうし……。依茉、何かいい案はない?」
「まぁ……うーん……? ないことにはないんですけど……その、引き受けてくださるかどうか……」
と、いうわけで……。
「ウチに下着を作ってほしい?」
『宝船』内の一室、寿老人と福禄寿の部屋だ。一度も入室したことがなかったので、二人がルームシェアをしているなんて知らなかった。それはさておき、以前依茉が福禄寿に出会ったとき、強引に下着のコーディネートをされそうになったのだ。
もしかしたらと思い、彼女のもとを訪ねたというわけだ。
「ええでええで、大歓迎や!! ほな、さっそく脱いでもらおかな」
「それが……私じゃなくて、グレモリーなんです」
呼ばれた悪魔は術を解除し、二メートルもある長身を出現させた。にんまりとした笑みを見て、福禄寿は岩のように動きを硬直させてしまった。
三人を取り巻いて、緊張感が突き抜ける。ここでもし、「悪魔のデカ乳なんか測りたくないわ!! おととい来やがれ!!」などと断られてしまったら、グレモリーはもうしばらくノーブラでいることになってしまう。恐ろしく大きい彼女の乳房には、絶対に下着は必要だ。それはおそらく、福禄寿もわかっているだろう。
「だ、大丈夫ですよ。いざとなったら先生が止めますから、グレモリーは何も」
「グレちゃん……アンタ、なかなかえぇもんぶら下げとるやないかぁ!! なんも着けてへんでもそないにデカいんか。でも、ほーちゃんよりかはないな。よし、いけるで!!」
どうやら、彼女らの心配は杞憂に終わったらしい。というか、それより気になったことがある。
「ほ、布袋尊さんってそんなに……大きいんですか?」
「めっちゃデカいで……!! あれでサラシまいてるんやさかい、信じられへんわ。素なら確か……『I』とか『J』とかやった気がするわ。そんなことより、はよう始めよか!! 久しぶりに腕が鳴るわぁ!!」
「あのなぁ!! 俺もいることを忘れてはいないか、ふく!? やるなら別室でやってくれ!! 頼むから!!」
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黒を主体に、白を差し色に取り入れた、上品なロングワンピース。最終的にグレモリーが選んだ、彼女の私服となるものだ。
時刻は午後七時二十三分。グレモリー用特注の下着を作ってもらっていたら、かなり時間がかかってしまった。とはいえ、福禄寿の腕は口だけではなかった。
サイズが大きくなるにつれてかわいいデザインが減る傾向にある女性用下着だが、彼女は自分の作ったものを子供のように扱うので、装飾をこだわって作るのが好みらしい。
ゆえにグレモリーのHカップもきちんとフィットして、かつかわいらしい上下黒の下着が三セット完成した。完成度と着心地は言葉にできないほどいいらしく、グレモリーはとにかく満足していた。
今度また機会があったら、オーダーメイドしてもらおうかと思う依茉と愛絵なのだった。
「これで少しは周りの目も誤魔化せるようになったかしら? 涼晴もきっと振り向いてくれるわよね!!」
「「それはないです/わよ!! ……え?」」
この時、依茉と愛絵は悟った、この三人が、この先文月 涼晴を取り合う──つまりは『四角関係』になるのではないかと。四角関係なんてワードは初めて聞いたし、昼ドラよりもドロドロしていそうでなんか嫌だ。
せっかくなので愛絵も事務所に顔を出していくことになり、長いようで短かった楽しい時間もここで終わりを迎えることになった。……二つの意味で。
玄関のドアノブに手をかけようとしたとき。まるで三人が帰ってくるのを先読みしていたかのように、扉が開いた。
その先で、天使のごとき笑顔を浮かべるのは──事務所の長、文月 涼晴。
その時、依茉は思い出した──『仕事をそのままにして遊びに行ってしまっていたことを』!!!!
空気が読めないグレモリーは、ガタガタ震える二人を置いて、新しい服を自慢するのだった。それがさらなる燃料投下になるとも知らずに。
「涼晴、見てちょうだい!! アナタのためにかわいくなったのよ? ねぇ、今夜はワタシを受け入れてくれるわよね? 一緒に朝まで一つになりましょぶへあああああああああああっっ!?!?」
見事なアッパーカット。彼に新品の服だろうがオシャレだろうが、関係ないのだ。ひどいとか思ってる時間はない。早く逃げなければ何をされるか分かったものじゃない。特に涼晴は。
「もう……なんでもいいからとにかく許しませんッッッ!!!! 逃げ、るなあああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 待ちなさああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいッッッッ!!!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「あたしは関係ないでしょオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」
……四角関係というより、三人がただ一人を愛しているだけの茶番なのかもしれない。
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